暗殺するため敵国に来たが愚王というのは嘘で溺愛され妃に迎え入れられました

雨宮里玖

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別れ

2.

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 すべての支度を終えたユリスが馬車へ向かうと、カイルは既に準備を終え、待っていた。

「ユリス!」

 ユリスの姿を見つけるなり、カイルが駆け寄ってきた。晴天の日の光でカイルのシルバーブロンドの髪がキラリと輝き、その姿を綺麗だと思った。

「カイル様!」

 ユリスもカイルに駆け寄る。

「遅くなりました」
「いや俺が早すぎた。ユリスとの旅が楽しみで気がはやってしまったのだ」
「私もすごく楽しみにしていました。カイル様と一緒に海が見られるなんて夢のようです」

 いつかカイルがユリスの望みを叶えると約束してくれたその日がついに訪れた。きっとこの旅は最高の三日間になる。

「ユリスが喜んでくれるなら俺も嬉しい」

 カイルはユリスの顔を見て微笑む。その笑顔につられてユリスも微笑んだ。





「カイル様! すごく広いです!」

 思わず馬車から身を乗り出してしまいそうになる。どこまで行っても広がる空と海。感じる風も匂いが違う。潮混じりの独特の匂いがする。
 港町マールの建物は太陽光を反射するための白の漆喰の壁の建物で、空と海の青、四角い建物の白のコントラストが綺麗だ。

「カイル様もご覧になってください!」

 カイルを振り返るとカイルはやけに嬉しそうだ。

「ユリスがこんなにはしゃいでいる姿を初めて見たな。そんなに楽しいか?」
「えっ……」

 そうだったのか。たしかにユリスは感情を表に出すのは得意なほうではない。

「いいことだ。着いたら荷物は従者に任せ、早速ふたりで海に行こう」
「はいっ」

 笑顔で答えるとカイルに「可愛い」と言われて抱き寄せられた。

「久しぶりだ……」

 カイルがユリスを抱き締める手にぎゅっと力を込めてきた。

「ユリス、すまぬな。俺が北に行っている間、お前をひとりにした……」
「いいえ、カイル様こそお疲れなのに、私をマールに連れてきてくださりありがとうございます」

 ユリスはカイルに抱きついて、その首筋に顔を埋める。数日ぶりのカイルの匂いだ。ふわっと香るカイルのフェロモンにたまらない気持ちになる。

「ユリスの匂いだ……。お前のフェロモンは最高の気分になる……」

 カイルも同様に感じてくれているのか。お互いのフェロモンを感じて、目の前の相手こそ運命の相手だと本能的に伝えてくるみたいだ。
 こんなに惹かれ合うのだから、ずっとそばにいられたら幸せだったのに。



「カイル様、好きです」

 ユリスはカイルの唇を求める。カイルは喜んでそれを迎え入れてくれた。

「……ぅんっ……んッ……」

 数日ぶりのカイルとのキスだ。最近は頻繁にキスを交わしていたからひどく懐かしく感じる。
 もっと深く味わいたいとユリスはカイルと舌を絡め合う。

 散々交わしたカイルとのキスもあとどのくらいできるだろうか。残りは数えるほどだろう。

「……はぁっ……ぁ……ん……」

 カイルとのキスの感触を一生忘れたくない。いつまでも思い出せるように記憶に焼き付けておきたい。



「久しぶりだとあの、あれだな……少し熱が入るな」

 キスを終えたあと、カイルが視線を逸らし、頬を赤らめながら言った。

「ユリスもいつもより積極的だったな」
「えっ……」

 たしかにそのとおりだ。カイルとの触れ合いもこの三日間で最後だと思うといつも以上に気持ちが入ってしまった。

「ユリスに求められるとこんなにも嬉しくなるものなのだな」
「あまり喜ばないでくださいっ……」

 カイルに言われて恥ずかしくなる。積極的だと気づいても黙っていてくれればいいのにと思う。

 馬車が止まった。

「陛下、到着いたしました!」

 外から従者の声が聞こえ、馬車の扉が開かれた。

「ユリス。行こう」

 馬車を降りたカイルは振り返り、ユリスに手を差し伸べてきた。

「はいっ」

 カイルと過ごす最高の時間の始まりだ。マールでの時間は何もかもを忘れて楽しみたい。
 ユリスは精一杯の笑顔をカイルに返した。
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