好きだから傍に居たい

麻沙綺

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義両親…遥

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 翌朝。
 無意識に隣にある温もりを引き寄せようとして手探りで探る。
 …が、そこにあるのは冷えたシーツで、焦って掛布団をめくる。

「あ~、今、入院中だっけ……。」

 口から出た言葉を静かな室内に飲み込まれる。
 俺は、手を額にやり。
「寝起きに彼女の姿が見れないのは、やっぱり寂しいものだなぁ。」
 一緒に暮らし始めて一ヶ月経たない内に、そんな事を思ってしまう。
 彼女が居る事が、当たり前過ぎて今の状況はかなり堪える。

 こんなにも余裕がなくなるとはな……。

 昨日も会っているのにも関わらず、無償に彼女に会いたくなって、身支度を済ますと彼女のご所望の本と必要最低限の物を手にして家を出た。


 小雨の降る中、車を走らせて近くのコンビニへ朝食&亜耶の好きなミルクティーを手にしてレジで支払いを済ませ、車に戻り買った物を口にする。
 別に無理して食べる必要はないんだが、亜耶が心配するからな。

 フロントの向こう側に目を向けながら、本当に俺は亜耶だけなんだなと改めて思う。
 彼女がどれだけ俺の癒しになってるのか、二日間で思い知らされた。
 まぁ、今日も一日亜耶と居られる(病院内だが)のは嬉しいのだがな。

 そんな時だった。
 プルルル……。
 携帯が鳴り出した。

 こんな朝から誰だ?

 画面を確認すると "河合龍哉" と表示されていた。
 何か、緊急な用か?
 訝しげに思いながら。
「どうした、龍哉?」
 と電話に出る。
『遥さん。亜耶ちゃんの容態はどう?』 
 心配気な声。
 そういや、龍哉こいつには、何も話してなかったな。
 そう思いながらも、相沢が気にし過ぎるから連絡してきたんだろうけど……。
「脳内、体内の異常は無いんだがな、利き腕を骨折してるから……。」
 俺がそう言うとホッとしたような雰囲気が伝わってくる。
 大分心配させてしまっていたのだろう。
『そうですか……。あの…、お見舞いに伺いたいのですが、ダメでしょうか?』
 遠慮がちに言う龍哉。
 俺は、少し考えた後に。
「来るのはいいが、少し手続きが必要になるが……。龍哉一人で来るのか?」
 まぁ、受付での署名と本人確認だが……。
『あの、梨花…相沢が物凄く心配してて、亜耶ちゃんの顔を見れば落ち着くかと……』
 龍哉の言葉にやはりと思いながら、亜耶も会いたいだろうと。
「わかった。病院は、藤原総合病院だ。一様、身分証明出来る物を持って来いよ。病院に着いたら連絡くれ。」
 俺は、必要事項だけを告げた。
『わかりました。午後に伺います。』
 龍哉が言うと、通話がプツリと切れた。

 龍哉達あいつらが、本当に亜耶の事を心配してくれていたのが、嬉しく思え自然と笑みがこぼれた。

 さて、俺も病院に行くか……。


 病院の駐車場に車を止め、ロビーに向かう途中で義両親に会った。
 こんな時間から何故居るんだろう?
 疑問に思いながら。
「おはようございます。お義父さん、お義母さん。」
 俺はそう口にする。
「おはよう、遥くん。」
「おはよう、遥さん。」
 二人は、少し曇ったような顔をしながら言う。
「亜耶に会いに来たのですか?」
 それしかないのだが。
「えぇ。思ったよりも元気で良かった。」
 ホッとした顔で言う。
「明日からよろしくお願いします。」
「あぁ、此方こそ宜しく頼むよ。って言っても、僕は殆ど家に居ないがな。」
 お義父さんが寂しそうにそう口にした。
 ん?
 出張が続くのか?
 俺のせいで、お義父さんが体調崩さなければいいのだが……。
 そんな心配をして居ると。
「仕方ないでしょ。お仕事が立て込んでしまったんですから……。」
 お義母さんも苦笑しながら言う。
 俺が居ない分のフォローがきついのだろう。
 そう思ったら。
「私のせいで、申し訳ありません。」
 自然と口から言葉が出てきた。
「遥くんのせいではないよ。ただ……。」
 言いにくそうにするお義父さん。
「あなた、時間は大丈夫なの?」
 お義母さんの声がかかる。
 お義父さんは腕時計に目を遣る。
「すまない。話しは明日家に来てからにしよう。」
 お義父さんに言われて。
「わかりました。」
 その一言を返す。
「それじゃあ、また明日。待ってるから。」
 二人は足早に駐車場に向かっていった。






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