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友達とお兄ちゃん…亜耶
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ドアのノックオンの後に三人が入って来た。
そして。
「亜耶、大丈夫?」
梨花ちゃんが心配そうに此方に近付いて来る。
私は、近くに有る椅子を進めて。
「うん、大丈夫だよ。頭を打ってるかもしれないからって、念の為の入院だし、重症なのは右腕の骨折だからね。」
明るい声でそう答えれば。
「それでも心配だった。階段の踊り場で倒れていた亜耶を見たときは、生きた心地しなかったんだよ。何で、亜耶ばかり次々と事件が起きるかって、亜耶の元気な姿を見るまでは、ずっとグルグルと考え込んじゃったじゃんか。」
目に涙を溜めて言い出す梨花ちゃん。
あぁ、本当に心配してくれたんだと思った。
「ごめんね。相当心配させちゃったね。」
自由の聞く左手で梨花ちゃんの手を握る。
「亜耶ちゃん。これお見舞いね。」
って龍哉くんが箱を掲げる。
「そうそう、これ私たち六人からね。四人も心配してるよ。特にユキは目の前で目撃してるから余計にね。大勢で来ても迷惑だと思ったから二人で来たの。」
梨花ちゃんの気遣いにも感謝しないといけないね。
その箱は、龍哉くんから梨花ちゃんに渡って、私の手元に来た。
そういや、あの日はユキちゃんと一緒だったっけ……。ユキちゃんには感謝だな。教室で別れたのに私の事を気に掛けてくれて後を追ってきてくれたんだろう。だから、人気の無い階段での事故でも、直ぐに対応して貰えたんだろう。
「ユキちゃんには、悪いことしたな……。」
って口にしたら。
「そんな風に思うなら、早く学校に出て四人を安心させることだよ。」
龍哉くんが私の呟きを拾ってそう返してきた。
確かにそうだね。
「退院は明日なんだが、利き手を負傷してるからな。」
遥さんが言えば。
「あぁ、ノートは私たちが録るから良いよ。亜耶は、元気な姿で学校に来てくれればさ。」
梨花ちゃんが、提案してくれた。
「これ以上は迷惑掛けれないよ。」
慌てて言えば。
「迷惑なんて思ってないよ。友達なら当然でしょ。それとも亜耶は、私たちの事友達と思ってないの?」
悲しげに訴えてくる梨花ちゃん。
「……、良いの? こんな私が友達で……。」
最近よく口にする言葉を発する。
「良いも何も、こうやって心配してここに来てるのに、亜耶には迷惑だった?」
さっきと違って、怒った風に言う梨花ちゃん。
「迷惑だなんて思ってない。嬉しかったの。……ただ、梨花ちゃんにとったら迷惑じゃないの?」
思ったことを口に問い質しながら、梨花ちゃんを見ることが出来ずに目を伏せた。
「迷惑だなんて思ってないし……。何をもって迷惑だと思ったの?」
梨花ちゃんが私の顔を覗き込みながら不思議そうな顔をして聞いてくる。
私は、少し考えてから。
「……突然、頼られたりしたら嫌じゃない?」
って、口にしたら。
「じゃあ、亜耶に聞くけど、亜耶だったらどう?」
梨花ちゃんがそのまま返してきた。
私?
「……私は嫌じゃないよ。…って言うか、今まで頼られて断ったこと無いかな。」
私は今までの事を思い返しなが答えた。
「嫌いな人からでも? 嫌な事も?」
と聞かれても。
「うん。嫌いな人居ないから。それに嫌な事も無いよ。」
私の解答に梨花ちゃんと龍哉くんが顔を見合わせてから、遥さんを見る。
遥さんもちょっと戸惑いながら。
「亜耶が本心をさらけ出せる学校での同年代は、お前らがへ初めてだ。今まで、一線を引いていたからそういう感情を表に出せなかった分淡々とこなしていたと言えるかな。」
と思い出すように言う。
その話を聞いた二人は、驚いた顔をしている。
「まぁ、頼られることは好きみたいで、直ぐに引き受けていたのは確かだな。このままではダメだと思い俺の亜耶と同い年の従妹と会わせたら、やっと本心から話せる親友が出来たんだからな。」
遥さんが真由ちゃんの事を口にする。
そうだね。
あの時は、同年代の友達とどう接すれば良いのか分からなかったから……。
同年代の子達が、余りにも幼く思えて一人達観してた時期で、そんな時に遥さんに出会って、真由ちゃんと言う親友が出来た。
「亜耶、それ寂しくなかったの?」
梨花ちゃんが聞いてきた。
「全然、寂しいなんて思わなかったよ。あの時は、お兄ちゃんと一緒に居る事が多くて、色々と教わっていたから、友達と遊ぶよりも学ぶ事の方が楽しかった。」
思い返せば、友達と遊ぶよりも年上の人と一緒に学ぶ事の方が楽しかったんだよね。
思い付いた事を口にして、それをヒントに想像して楽しかった。
「まぁ、亜耶の育った環境が特殊だったことは間違いないだろう。鞠山財閥の唯一の孫娘だから、隠されるように育てられたようなものだし……。」
遥さんが考え深げに言い出し、二人は複雑そうな顔をする。
私の環境ってそんなに特殊なの?
疑問符が頭に浮かぶ。
まぁ、梨花ちゃんも疑問符を浮かべてると思う。
一般には知られてない上流界のルールがあるから。
「今まで公に出ていないんだよ、亜耶ちゃんは。何かあったら大変だからね。その代わりにお兄さんの雅斗さんが一身に請け負ってるんだ。」
と得意気に言い出す龍哉くん。
大企業のご令嬢となると、顔を知られれば何かしらの事件に巻き込まれやすい。だから、今まで公に出なかったのはある(噂は出てたけど)。
「龍哉、それは違うぞ。元々幼い時から雅斗は社交場に出ていた。次期会社を継ぐものとして顔を出していた。その後も兄弟が出きる兆候も無かったんだが、小学三年の冬休み明けに両親から兄弟が出きることを聞かされて、弟だったらどうしようと戸惑っていたからな。」
遥さんの口からお兄ちゃんの話を初めて聞いた。
そうだったんだ。お兄ちゃんも戸惑ったんだ。
興味が沸いてきた。
「でも、蓋を開ければ生まれてきたのは女の子で、小さな妹を自分が護るんだって、豪語していたそうだよ。妹に頼られるように運動も勉強にも一段と力を入れ出したのもこの頃だって。それまでは、何もしなくても大抵の事は出来ていたらしい。」
"らしい" ってことは、誰かに聞いたのかな?
そんな事を思っていたんだけど。
真顔で語る遥さんの後ろから。
「こらっ、遥。何人の事暴露してるんだよ。」
鬼の形相で立っていたお兄ちゃん。
「あっ、いや。ちょっと流れで……。」
遥さんが、モゴモゴと言い訳をし出す。
あぁ、過保護の二人が揃っちゃったよ。
どうしたものか……。
「雅斗さん、お久し振りです。」
そこに、龍哉くんが挨拶し出す。
「おっ、龍哉。久し振りだな。隣に居る子は龍哉の彼女か?」
ん?
やけに親しそうな話し振り。
お兄ちゃんと龍哉くんって、知り合いだったの。
二人のやり取りを見ていたら。
「はい、相沢梨花と言います。」
緊張気味の梨花ちゃんが、立ち上がって自己紹介し出す。
「亜耶の兄の雅斗です、よろしくな。今日は、亜耶のお見舞いに来てくれてありがとな。」
お兄ちゃんがニコニコしながら言う。
そういや、クラスメートがお見舞いに来たのって初ではないかな。だからお兄ちゃんが嬉しそうなんだ。
「クラスの代表できました。」
って、梨花ちゃん緊張しすぎでクラスの代表って言ってる。親友代表だよね。
「ありがとうな、お転婆な亜耶の友達になってくれて。」
お兄ちゃんが私の頭をポンポンと叩く。
私はその手を掴んで。
「お兄ちゃん、言い過ぎ!」
目を吊り上げて睨み付ける。
「え、昔からそうだったじゃん。俺の後について同じことをしないと気が済まなかっただろうが……。」
苦笑してながら黒歴史を暴露してくれるお兄ちゃん。
そうですよ、お兄ちゃんの真似っこして、ジャングルジムに上って天辺から飛び降りようとしたらり、ブランコで座って漕ぎながらそこから飛び降りようとしたことありますよ(全てお兄ちゃんに止められて、説教されました)。お兄ちゃんは良くて、何で私は駄目なの、ってよく抗議したものです。
「お兄ちゃん! それ以上言わないで。それより、何か用事があったんじゃないの?」
これ以上の暴露は勘弁願いたいので、話しを逸らした。
「あっ、そうだ。遥、お前らの結婚報告パーティーだが、家の嫁の懐妊報告も一緒にしても良いか?」
お兄ちゃんが嬉しそうに言う。
あっ、お義姉ちゃん、お兄ちゃんに言ったんだ。
「えっ、亜耶次第じゃないか。亜耶が良いと言えば俺は別に構わないけど。」
遥さんが答える。
その答えにお兄ちゃんが私を見てくる。
「私も構わないよ。おめでとう、お兄ちゃん。」
淡々とした口調で私が言ったので、お兄ちゃんが怪しんで。
「なぁ、亜耶。余り嬉しそうじゃないな。もしかして。」
聞いて来るから。
「うん。お義姉さんからこの間来た時に聞いたよ。お兄ちゃんには内緒にしておいてって言われてた。」
私は、正直に話した。
本当は、遥さんにも内緒だったんだけど、その日にバレたんだよね。
「やっぱり。俺は、昨日知った。ってことは遥も?」
お兄ちゃんが、遥さんに話を振る。
「あ~、俺は、亜耶がやたらと浮かれてたから、問い詰めたら素直に言ったな。」
素直ではないけど、まぁ似たようなものかな。
遥さんは、バツの悪そうな顔をして居る。
お兄ちゃんが落胆し出す。
「だけど、俺は直接本人から聞いた訳じゃないからな。」
フォローのつもりかそう口にしているが、聞く耳持たずのお兄ちゃんが悔しそうにしている。
そこに。
「えっ、雅斗さん。由華さんおめでたなんですか?」
龍哉くんが驚いた声で言う。
おぉ、このタイミング絶妙だよ。
「おう。だが、公表するまで、ここだけの話しにしてくれよ。」
お兄ちゃんが嬉しそうに言う。
相当嬉しいんだな。
顔がにやけてるよ。
ふと遥さんを見れば、遥さんも嬉しそうにしている。
あっ、そんな顔も出来るんだ。
お兄ちゃんは親友だからかな。心から嬉しそうだ。
「亜耶、どうしたの?」
梨花ちゃんが小声で聞いてきた。
けど私の視線を追って。
「あっ……。」
って小さな声を上げて赤面し出す。
「駄目だよ。私の旦那さまなんだからね。」
って、釘を刺すような事を言ってから、恥ずかしくなった。
「親友の旦那を盗るわけ無いでしょ。それよりそんな怖い顔をして、嫉妬でもした?」
梨花ちゃんが揶揄って来る。
「普通にしたよ。親友だからって、大好きな遥さんを盗られるのは嫌なんだもん。」
素直に自分の口から出る言葉に、驚く。
普段こんなこと言わないのに……。
「……。そう。なら、退院したら女子会しようね。その時に根掘り葉掘り聞いて上げるから。」
梨花ちゃんの黒い笑みが浮かぶ。
何か、企んでいそうで怖い。
「なら、私の大親友も呼んで良い? 彼女、湯川くんの婚約者だから色々聞けるよ。」
提案するも。
「ん、呼ぶのは良いけど、彼女が良いと言ったらね。」
って、目が据わってる。
梨花ちゃん、どうしちゃったの。
「う、うん……。」
これ、本当にやりそうだな。
何て思っていたら。
「梨花、そろそろお暇するぞ。」
龍哉くんがこっちを振り返って言う。
「ん、そうだね。亜耶、月曜日学校で待ってるからね。」
梨花ちゃんは手を振りつつ、釘を刺してくる。
あっ、これ逃げれないやつだ。
「うん、迷惑掛けると思うけど、よろしくお願いします。」
笑顔で返した。
「うん、お願いされます。じゃあ、ね。失礼します。」
梨花ちゃんがニコヤカに部屋を出て行った。
「雅斗さん。それでは失礼します。」
龍哉くんがお兄ちゃんに向かって頭を下げる。
「あぁ、気を付けて帰れよ。」
お兄ちゃんは機嫌が良くなったのか、笑顔で見送ってる。
「あ、俺、そこまで送ってくるよ。」
遥さんが言い出した。
「えっ、良いですよここで。」
龍哉くんが遠慮がちに言う。
「俺も用事があるんだよ。」
と言って出て行った。
お兄ちゃんと二人取り残された。
応援ありがとうございます!
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