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9.敵役Bと友人A、一緒に帰る

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流れで九頭谷くずだに先輩と帰ることになってしまった。まあ、私が先輩を引っ張ってきたのだから、文句は言えない。というか、先輩って意外と従順だ・・・。ヤンキーってもっと扱いにくいものかと思っていたのだけれど。

「先輩は、敵役って、嫌になったりしません?」
「ん?」
両腕を上げて伸びをしながら横を歩いていた先輩がちらりと私の方を見た。

「ま、慣れたよな。こんな見た目だからか、とりあえず怖がられるし。何かあったら一番に疑われるし。タイミングはいつだって最悪だ。それで慌てて変に取り繕ったら余計に面倒になっていくんだよな。流れに身を任せていれば一番手っ取り早いことに、ある日気づく。」

「・・・でも、主人公に憧れませんか。」

「どうだろうなぁ・・・。俺はなぁ、実際つまらない人間だよ。才能とか運とかやる気までも神様が与えたものはお粗末なものだと思う」
パーカーのポケットに手を突っんで九頭谷先輩は空を仰ぐ。夕暮れの風に先輩の明るい髪の毛が揺れる。
「でも。なぜだが、俺のこの人生が俺以外の誰のものでもなく、俺の物であって良かったと思っている。別に誰かになりたいとは思わない。」

そうやって強い覚悟とか、慰めとか、強がりとかそんなもの一切なく、ただ何でもないように言い切る先輩に、私は少し救われたような気がした。

「何?友子ちゃんは誰かになりたいの?」

と聞かれて、私は静かに首を振った。
「いえ、私も・・。自分の人生がすごく恵まれたものだとか思わないけれど、今更手放したくはない。」
顔を上げると低くなったオレンジ色のの夕日が目に入ってくる。
「本当は、ちょっと自分ってかわいそうなのかなと思っていました。でも、別に誰かに認められて、好かれて、目立って、キラキラして、美しく生きることが、何よりも素晴らしいなんて決めつけちゃもったいないですよね」

先輩は、何も言わずに二カっと笑った。





今日も友人Aはせっせ主人公たちの脇でウロウロしている。

こんな平凡で、誰かの物語の端っこの、取るに足らないサイドストーリー。


放課後、先生に頼まれた宿題のノートを運んでいると、足がひっかかって思いっきり派手にすっころんだ。ノートが散らばる。出たよ、無気力系無敵主人公。不二ふじ君は今日も廊下の壁を背もたれに足を伸ばして寝ていたのだろう。
がバッと起きて「不二君っ!!」と、不満をあらわにしながら声を上げる。
「・・・今日はピンク色か・・・。王道だね・・」
気だるげな声がする。下着の話題を最後まで言わせまいと「こらっ!さっさと拾う!!!」と一緒にノートを拾わせる。
「えー・・・」
と言いながら不二君はのっそりと散らばったノートを手元に近い所から拾い始める。

「おっ友子ちゃん」
「あ、九頭谷先輩」
ヤンキー先輩が廊下に現れた。ほっぺが赤く手形に腫れている。
「・・・また、なんかあったんですか・・」
そう聞いても先輩はへらっと笑うだけだ。どうせ、この人は誤解を甘んじて受け入れてしまう。
「相変わらず、ドMですよね。」
「あ゛?」
等と話していると、軽く膝裏への刺激がありバランスを崩して視界が下がった。と同時に両脇から腕が伸びて私を抱える。不二君が高校生にもなってあろうことか所謂いわゆる”ひざカックン”をしてきたのだ。

「んんん???不二君??!なにすんのっ??!」

慌てて、私を支えていた不二君の胸から離れて振り返る。
「暇だったから・・・」
「はあ!暇だからって膝カックン!!なにそれ、小学生かっ!」
「あ、じゃあ、この前は変態じじいだったから、随分若返ったみたいだね・・・よかった」
「年相応の言動をしてないことを自覚してね?」


不二君のペースはいつも変わらない。
先輩はひゅうっと口笛を吹いてにやりと口角を上げた。

同じような毎日もなんだか楽しめている。









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