友人Aの思い込み～どうせ脇役なので脇役らしく過ごしていたらBLのキャラが絡んでくる～

44.かったいバックハグ

「影山かげやまさん」
と呼ばれて振り返る。不二ふじ君の聞き覚えのある声。にこーっと笑って、いつも通り、なんでもない笑顔で対応する。
「あ、おつかれ――」

どんと背中に衝撃あり、体を完全に声のする方向へ向ける前に抱きしめられた。へっバックハグ？！
片腕で首回りと、もう片腕で腹部あたりを後ろから不二君の腕に包囲されて動けない。

「もう、傷つけたりしないから、そばにいさせて欲しい」

と不二君が言った。そば、にいてくれるなら、どれだけ頼もしいか。

でも、広瀬ひろせ君がっ！そう、広瀬君っ！キョロキョロと首を左右に振って広瀬君の姿を探した。こんな格好を広瀬君に見つかったら怒られる！！完全に！おこだよっ！言い訳もできないよっ！

「・・・・・・」

私が、キョロキョロとして何も返事をできずにいると
「・・・・・良いっていうまで、離さない」
ぎゅう・・と不二君の腕の力が強まる。
「あ、ぜひとも、お願いしまーす・・・」
と思わず答えてしまった。ごめんなさい、広瀬君。だって・・・。
これは、あの。不二君が言うから、仕方なく！とか言い訳はできるけれど、正直、不二君が仲良くしたいと思ってくれたことが私は何よりもうれしかったから。拒否なんてできない。

「っていうか、かたっ！なんかつけてる？！！」
先ほどから感じていた違和感を口にしてしまった。抱きしめられていたが、まったく不二君のぬくもりを背中から感じなかったのだ。ただ、ひたすら背中は硬かった。
不二君は私から離れて、自分のシャツのボタンを開いて、中を見せてくれた。胸部から腹部にかけて２０kgと書かれたチョッキ型の重りを身に着けている。
「ああ、ちょっと、十字架を・・・」と不二君はよくわからないことを言う。
十字架？・・・これ以上鍛えてどうすんだ。神にでもなるつもりか？

「影山さん、僕、化け物・・かもしれないけど、影山さんのことを傷つけたいとは思っていないから」
と不二君が言った。化け物、という表現が、不二君の怪力のことを指しているのか、えーっと、その、性欲の化け物という比喩なのか、はたまたどちらも含めてのことなのかわからなかったけど不二君があまり自分から言いそうにない表現に思わず笑ってしまった。
「化け物って！何？ロン毛先輩に言われたの？」
「・・・・・・。どうせ、気にしてるのは僕だけだよ・・・。」と不貞腐ふてくされた顔をした。え、私？そんなこと言った？正直まったく記憶にない。


こうして、無事（？）私は不二君との仲直りを果たしたのであった。



その日の放課後、そうじで残っていると広瀬君が教室に来た。

「いやー、蒼と関わるなとか言っちゃてごめんな。俺過保護でつい・・・。蒼に怒られたわ～」
「あ、いえいえ！」
「これからも蒼と仲良くしてやって。変なことに巻き込まないでほしいっていうのは変わんないけど」
と言った。晴れて、広瀬君公認のお友達になれたわけだ。
「もちろん、広瀬君と不二君の仲を引き裂くようなことはございませんので！ぜひ仲良くさせてください！」と伝える。
なぜか同級生なのに敬語になってしまう。広瀬君とは友達の保護者と会話する感じの緊張感さえある。広瀬君の保護者感がどうにも強いので、本当に不二君のことを愛していることは間違いないなと思う。尊いことだ。

そうだ、九頭谷くずたに先輩にも不二君との接触が解禁されたことを伝えにいかないと、と思った。

足早に２年３組へと向かう。今日ももしかすると早めに帰ってしまっているかもしれない。

２年３組に行くと、先輩はいなかった。城之内じょうのうち先輩もいない。けれど数人が残っていた。
「あ、あの時の下級生？」という声も少し聞こえてきた。いろいろとご迷惑をおかけしている心当たりがあるのでドキッとする。
「さっきは男子の方が来てたよな。２人でどっか行ったよね」
「屋上じゃない？九頭谷、よく屋上いるし。」

と、聞いてもいないのに教えてくれた。案外、いいクラスなのかもしれない。不二君も来てたのか。じゃあ、屋上行こうかな。

心のモヤモヤの種であったことが解決して、軽やかな足どりで屋上へと向かった。