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 領境の街・リッカー=ポルカ

84話 なにそれこわい

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 みんなで朝ごはんを食べました。食堂で。お互い、いい大人なので三区間さんともちゃんとあいさつできました。それどころか「気持ちを押し付けるようなことをして、すまんかったです」と早口で言われました。びっくりしすぎて、とっさになにもお返事できなかったです。
 外はびゅうびゅう吹雪いています。今日から平日なんですけど。みなさん「家帰ったらまず雪っかきかあ」「いやんなるねえ」「しかたないわー」とおっしゃっています。ノエミさんにすすすっと近づいて、「交通局、雪かきですか?」とお尋ねしました。「そうねえ。いい運動になるわよ!」と、あんまり慰めにならないことを言われました。
 丸二日お世話になったので、メゾン・デ・デュのお掃除、お片付け、お洗濯、雪かき。みんなで手分けしてしました。わたしはお洗濯のところへ行ったんですけど、さすがに水が冷たかったですね。でもここでもスーパー流れ作業です。指先は冷たいですけど、ときどきお湯も使って、そんでめっちゃ体動かすので汗だくです。シーツたくさんだからね! これはベリテさんひとりには任せられないわ!
 なんでこんなことしているかって言うと、わたしたち、今回の合宿は、飲食物代の頭割り分しか請求されていないんです。はい、宿泊費はベリテさん側負担。そのかわり、お片付け手伝ってね! というお約束でのハルハル大会だったのです。お家に帰るまでが遠足っていう、あれですね! お片付けだいじ!

「ありがとう、みんな! 本当に助かるわ!」
「なんもさー、あたしらさんざんたのしませてもらったんだもん。これっくらい当然だわー」
「そう言ってくれるとありがたいわー!」

 なんかいいですよね。リッカー=ポルカの、こういうところ好きです。
 だいたいの方はこの吹雪だとお仕事もお休みって感じみたいです。なのでみんなでお昼近くまでお片付けして、それで解散になりました。その際に第二回リッカー=ポルカ杯開催へ向けてのプロジェクトが発足するのを目撃しました。はい。
 蒸気バスに乗ってみんなで帰宅です。四十人近い方をいっぺんに乗せることはできないので、二回に分けて。午後の早い段階でみなさんお家へ帰れました。レアさんはそのままベリテさんと旅籠に。
 サルちゃんは……なぜか自分の家の最寄りバス停を通過して……最終、交通局事務所まで来ました。「ふたりで交通局の雪かきたいへんでしょ?」とのこと。なにそれこわい。その笑顔こわい。いえ、見張っていたいので助かるんですけど。
 外は、朝とは比べられないくらいの猛吹雪になりました。こんな天候に遭遇するのが人生で初めてのわたしは軽くびびっています。「さすがに、ここまで真っ白なのはあんまりないわねえ」とノエミさんがおっしゃいました。交通局の中は冷え切っていて、事務所内のストーブが健気に暖気を作り始めます。軽く三人でお昼を食べて、それから雪かきです。雪がおさまってからかこうとしたらたいへんなことになるので、とりあえず人が通れるくらいはかいておかなくちゃ、ということで。男手はとっても助かるので、ノエミさんはサルちゃんに感謝を述べていました。

「いやー、閉じ込められちゃったね。帰れないなー」

 とりあえずの歩行路を三人で確保してから、事務所に戻ったらとっても白々しくサルちゃんがおっしゃいました。「あら、なんにもないけどゆっくりしてってよ! 本当に助かったわ」とノエミさんがお茶を用意し始めます。吹雪の中単身で領境乗り込もうとする人が同じ市内で遭難するとは思えないんですが。なんでしょう、この。すっごく微妙な気持ち。
 結局なにをするでもなく窓の外がホワイトアウトの中時間がすぎて行きます。途中でノエミさんがサルちゃんにわたしのコメントの新聞記事スクラップを読ませてぎゃーってなりました。サルちゃんはなんだか訳知り顔になってにこっとしました。なにそれこわい。
 夕方くらいです。どんどん、と音がしたのでなんだろう、と三人で一瞬止まりました。もう一度どんどん。事務所のドアが叩かれていました。わたしが応じます。

「はいー、どちらさまでしょうー」

 くぐもった声で「領境警備隊です。ラ・サル将軍を探しています。こちらにみえてはいませんか」とのこと。サルちゃんを振り返ると、もう真後ろにいてびびりました。「はいー、いまーす」とドアを開けずにサルちゃんがわたしの頭上で答えます。「ああ、よかった! お捜ししました! 今すぐ出頭願いたい」とあきらかにほっとした声がします。

「ノエミさーん、ソナコかりていくねー」

 さくっと上着を羽織りながらサルちゃんが言いました。「は⁉ どこ連れて行くの、この雪の中!」とノエミさんがおっしゃいます。というか雪かきスコップかりるみたいなノリでわたしを貸し借りしないでいただきたい。と思っていたらわたしもコートを着せられました。腕を袖に通さないままボタンを止められるところでした。いやいやいやいや。

「んー。たぶんねー『シキイ』様が怒ってる。止められるのソナコくらいじゃないかなって」

 その言葉に、わたしもノエミさんも絶句しました。いち早くノエミさんが「待って、それはリッカー=ポルカ交通局が動くべき事態なの?」と鋭く質問します。サルちゃんは「んー、そうならなきゃいいねえ」と窓際係長を着込んで言いました。

「……蒸気バスを出すわ」
「こんな天候だけどだいじょうぶ?」
「なめないでよ、こちとら蒸気自動車が開発段階から試乗してた運転手よ」
「そりゃすごい。ありがたいよ」

 ノエミさんも外套を着込みます。わたしはボタンを一度はずして袖に腕を通しました。なにやら、シナリオ外のことが起きていそうです。わかってはいました。ズレが生じていることは。
 わたしが覚悟を決めたことを見て取ったのか、サルちゃんがにこっと笑いました。「そんなソナコが大好きだよ」なにそれこわい。
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