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ユリシーズ様は部屋に入るや否や、全く躊躇う様子もなくアルフレッド様に飛びかかって顔を思いきり殴りつけました。
アルフレッド様は吹っ飛んで床に転がりました。殴られた場所を押さえながら何か呻いています。
私はあまりのことに入り口から一歩も動けません。
ユリシーズ様は羽織っていたマントでローザリア様を包み、身体を起こしました。その優しげな様子に、本当に彼女を好きなのだと感じさせられます。
なんだか少し応援したくなりますね。
「ユリシーズ様、ご無事で良かったです。私が攫われた時に抵抗してくださっていたので、ずっと気になっていたんです。ごめんなさい。私、あんなに酷いことを言ったのに……」
ローザリア様が泣きながらユリシーズ様に身体を預けています。ユリシーズ様は少し躊躇ったあとローザリア様の肩から手を離しました。
「俺は気にしていない。すぐに終わらせるから少し待っていてくれ」
ユリシーズ様はアルフレッド様に近づいて行きます。
「兄上、自分が何をしたか分かっているのか」
アルフレッド様はゆっくり起き上がりました。
何か様子がおかしいです。随分派手に殴られたはずなのに何事もなかったかのようにしています。
「全く、人の恋路を邪魔するなんて馬に蹴られても文句は言えないぞ」
「どこが恋路だ。破廉恥な犯罪者め!」
冗談のようにして取り合わないアルフレッド様にユリシーズ様がますます苛々しています。
「酷い言い草だね。兄であり国王である私にそのような言葉使いをするなんて、君が品性を疑われるよ」
「例えローザリアでなくても大聖女に対して手を上げるだけでなくこのような仕打ち、ラピス教会から異端者として認定されるだろう。そのような国賊が国王などと片腹痛い」
ユリシーズ様は当然のように言いますが、アルフレッド様は顔色一つ変えません。何を考えているのかわからないのが気持ち悪いです。
「ベルンハルトから、ローザリアを連れ出したら魔族に追われたと聞いたのだけど、君はローザリアと一緒にいたらしいから知っているはずだよね。魔族が国内にいることを疑問に思わないのかい?」
「どういうことだ?」
「我が弟ながら君は本当に頭が悪いね。ローザリアは大聖女としての力を失い、結界が消失しているということさ」
アルフレッド様は、やれやれという仕草をしました。
実際にローザリア様は聖女としての力を喪失していますが、結界については魔法を使えなくなる効果しかないので、魔族が侵入しているから結界が機能していないとはいえません。
どうやら、結界の解釈はともかくローザリア様は未だに力を取り戻していないようです。なぜ魔族は魔法を使えないのでしょうか。
「ただの市井の女に王宮で贅沢な暮らしをさせていたんだ。本人は言わないのだから王国も教会も騙されていたようなものだよ」
自分達が勝手に持ち上げておいて酷い言い草です。
しかしローザリア様は色々なパターンで力を失われていましたが、いったい何がトリガーだったのでしょう。こればかりはさっぱりわかりません。
「ローザリア、力を失っているのは本当なのか?」
ユリシーズ様が確認すると、ローザリア様は怯えきった表情で青ざめています。
ユリシーズ様もアルフレッド様のように豹変してしまうのではないかと考えているのでしょう。
「ちゃんと試させたよ。大怪我して教会に運び込まれた市井の子供を前に回復魔法を使えなかったからね。可哀想に、その子供は亡くなってしまったけど」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ローザリア様は泣き出してしまいました。勘違いとはいえ力を失っている確証があったでしょうに、なんと酷いことをするのでしょうか。
ユリシーズ様はローザリア様に近寄ると、ローザリア様を抱きしめました。ローザリア様は肩をビクッと震わせて身体を強張らせました。
さっきまで男性に乱暴されていたのに、少し強引ではないかと私は思います。
「君が悪いわけじゃない。君は突然招聘されたのに今まで立派に勤めを果たしてくれたじゃないか」
「ユリシーズ様は何も思われないのですか?」
「大聖女の立場だけが君の全てじゃないんだよ。君はただのローザリアとして生きる権利があるんだ」
ユリシーズ様が優しくそう語りかけると、ローザリア様はユリシーズ様に身体を預けて嗚咽を漏らし始めました。ずっと溜まっていたものを吐き出すように。
私も少し涙ぐんで、ユリシーズ様を見直してしまいました。
アルフレッド様は吹っ飛んで床に転がりました。殴られた場所を押さえながら何か呻いています。
私はあまりのことに入り口から一歩も動けません。
ユリシーズ様は羽織っていたマントでローザリア様を包み、身体を起こしました。その優しげな様子に、本当に彼女を好きなのだと感じさせられます。
なんだか少し応援したくなりますね。
「ユリシーズ様、ご無事で良かったです。私が攫われた時に抵抗してくださっていたので、ずっと気になっていたんです。ごめんなさい。私、あんなに酷いことを言ったのに……」
ローザリア様が泣きながらユリシーズ様に身体を預けています。ユリシーズ様は少し躊躇ったあとローザリア様の肩から手を離しました。
「俺は気にしていない。すぐに終わらせるから少し待っていてくれ」
ユリシーズ様はアルフレッド様に近づいて行きます。
「兄上、自分が何をしたか分かっているのか」
アルフレッド様はゆっくり起き上がりました。
何か様子がおかしいです。随分派手に殴られたはずなのに何事もなかったかのようにしています。
「全く、人の恋路を邪魔するなんて馬に蹴られても文句は言えないぞ」
「どこが恋路だ。破廉恥な犯罪者め!」
冗談のようにして取り合わないアルフレッド様にユリシーズ様がますます苛々しています。
「酷い言い草だね。兄であり国王である私にそのような言葉使いをするなんて、君が品性を疑われるよ」
「例えローザリアでなくても大聖女に対して手を上げるだけでなくこのような仕打ち、ラピス教会から異端者として認定されるだろう。そのような国賊が国王などと片腹痛い」
ユリシーズ様は当然のように言いますが、アルフレッド様は顔色一つ変えません。何を考えているのかわからないのが気持ち悪いです。
「ベルンハルトから、ローザリアを連れ出したら魔族に追われたと聞いたのだけど、君はローザリアと一緒にいたらしいから知っているはずだよね。魔族が国内にいることを疑問に思わないのかい?」
「どういうことだ?」
「我が弟ながら君は本当に頭が悪いね。ローザリアは大聖女としての力を失い、結界が消失しているということさ」
アルフレッド様は、やれやれという仕草をしました。
実際にローザリア様は聖女としての力を喪失していますが、結界については魔法を使えなくなる効果しかないので、魔族が侵入しているから結界が機能していないとはいえません。
どうやら、結界の解釈はともかくローザリア様は未だに力を取り戻していないようです。なぜ魔族は魔法を使えないのでしょうか。
「ただの市井の女に王宮で贅沢な暮らしをさせていたんだ。本人は言わないのだから王国も教会も騙されていたようなものだよ」
自分達が勝手に持ち上げておいて酷い言い草です。
しかしローザリア様は色々なパターンで力を失われていましたが、いったい何がトリガーだったのでしょう。こればかりはさっぱりわかりません。
「ローザリア、力を失っているのは本当なのか?」
ユリシーズ様が確認すると、ローザリア様は怯えきった表情で青ざめています。
ユリシーズ様もアルフレッド様のように豹変してしまうのではないかと考えているのでしょう。
「ちゃんと試させたよ。大怪我して教会に運び込まれた市井の子供を前に回復魔法を使えなかったからね。可哀想に、その子供は亡くなってしまったけど」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ローザリア様は泣き出してしまいました。勘違いとはいえ力を失っている確証があったでしょうに、なんと酷いことをするのでしょうか。
ユリシーズ様はローザリア様に近寄ると、ローザリア様を抱きしめました。ローザリア様は肩をビクッと震わせて身体を強張らせました。
さっきまで男性に乱暴されていたのに、少し強引ではないかと私は思います。
「君が悪いわけじゃない。君は突然招聘されたのに今まで立派に勤めを果たしてくれたじゃないか」
「ユリシーズ様は何も思われないのですか?」
「大聖女の立場だけが君の全てじゃないんだよ。君はただのローザリアとして生きる権利があるんだ」
ユリシーズ様が優しくそう語りかけると、ローザリア様はユリシーズ様に身体を預けて嗚咽を漏らし始めました。ずっと溜まっていたものを吐き出すように。
私も少し涙ぐんで、ユリシーズ様を見直してしまいました。
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