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41:甘やかしてくる人

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今日はカールとシェリーは休日である。
2人で出勤するセガールを玄関先で見送ると、朝の家事を2人で済ませ、庭の草むしりを始めた。
セガールの家の庭は広いので、2人で手分けしてやっていく。初夏になり、雑草がどんどん元気になって、庭がもっさりしてしまっている。
カールは黙々と雑草を引き抜きながら、ここ最近、頭を悩ませていることを考えた。

ここ数日、セガールの甘やかしっぷりが増しているような気がする。
風呂で頭を洗う時以外でも、何気なく頭を撫でられるようになったし、料理の最中に味見だと言って、あーんして食べさせてもらったりしている。今朝は、剃り残しがあると言って、髭を剃ってもらった。全く不快ではないし、むしろ嬉しいと感じるのだが、それが不思議でならない。
普通、大人の男がこんなに甘やかされる事なんてない。このままだと、本当にセガールがいないと駄目になってしまいそうな気がする。風呂やオナニーの事を考えれば、もう既になってしまっている気もするが。

カールは雑草を引き抜きながら、小さく溜め息を吐いた。少し前にセガールと酒を飲んだ時に、またキスをしてしまった。セガールのキスは気持ちよくて、酒が入っていたこともあり、大変盛り上がった。乳首を弄られるのも気持ちよかったし、セガールの乳首を弄るのも楽しかった。しかし、抜きっこにキスは必要ないだろう。だが、セガールのキスが忘れられない。できたら、またしたいと思ってしまう。乳首もまた弄ってほしい。もっとセガールに触れてもらいたいと思ってしまう。セガールがテクニシャンなのがいけない。
カールは完全に責任転嫁な事を考えながら、何気なく自分の手を見た。爪が少し伸びて、爪の間に土が詰まっている。セガールに削ってもらわなきゃなぁと思って、その後、ハッとなって、がっくり項垂れた。
ごくごく自然にセガールに爪を削ってもらおうと思ってしまった。右腕が完治したのだから、自分でも普通でできる。それなのに、セガールにやってもらおうと思ってしまったあたりが、もう完全に駄目人間である。セガールがカールを甘やかすからいけない。甘やかされるのに慣れてしまったではないか。

カールは小さな溜め息を連発しながら、ぶちぶちっと雑草を引き抜いた。

昼前にはなんとか草むしりが終わった。
カールはシェリーと順番にシャワーを浴びてから、2人でお揃いの猫のエプロンを着けて、昼食を作った。
昼食を食べ、後片付けをしたら、お出かけの準備をする。図書館に行って、今夜の夕食の買い物をする予定である。
カールはシェリーと一緒に家を出ると、街を目指して、丘を駆け下り始めた。

図書館に行くと、リールがいた。シェリーが嬉しそうに顔を輝かせて話しかけに行くのを微笑ましく見守り、カールも本を選びに2人の側から離れた。
航海術や戦術の専門書があるコーナーに行くと、セガールが好きそうな本を見つけた。最新刊のようなので、セガールはまだ読んでいないだろう。カールもセガールと一緒に読もうと思って、カールはその本を手に取った。
そして、ふと思った。またセガールのことを考えていた。なんだか今日は特にセガールのことばかり考えている気がする。
カールは、ちょっとだけ眉間に皺を寄せた。頭の中がセガールでいっぱいになっている。まるで恋でもしてるようではないか。
カールは自分の発想に、思わず本棚に頭をぶつけた。
いやいやいやいや、ないないないない、と思いながらも、顔がじんわりと熱くなっていく。

カールもセガールも男は無理だ。確かに、うっかりキスをしちゃったし、抜きっこもしてるし、それが全然嫌でもないが、だからといってセガールに恋をしているとか、話が飛躍し過ぎである。男に恋なんてありえない。しかも相手はおっさんだ。めちゃくちゃ格好いいが、中年の男である。絶対に恋なんてありえない。
きっとセガールに甘やかされまくっているから、セガールに触れられるのに慣れきってしまっているのだろう。そういう事にしておこう。そうじゃないと、なんかヤバい事になりそうな気がする。

カールは熱くなった頬をゴシゴシ手で擦ってから、シェリー達の方へと向かった。

夕方になり、洗濯物をシェリーと一緒に取り込んで畳んでいると、セガールが帰ってきた。
3人お揃いのカモメのエプロンを着けて、わいわいお喋りをしながら夕食を作る。今夜のメニューは、白身魚の香草焼きだ。温野菜サラダと野菜スープも作った。デザートには、李を買ってきてある。
軽めの白ワインを出して、晩酌をしながら夕食を食べる。
セガールが美味しそうに香草焼きを食べ、咀嚼してちゃんと口の中のものを飲み込んでから、口を開いた。


「明後日の休みに眼鏡屋に行っていいか?最近、細かい字が見えにくくてな」

「え?パパ。もしかして老眼?」

「……かもしれない」

「ありゃま。早めに眼鏡を作った方がいいですね。毎日、書類仕事ばっかりでしょう」

「あぁ。歳はとりたくないな」

「あはー。まぁ、しょうがないですよ。誰もが等しく歳をとっていくものですし」

「まぁなぁ」


セガールが小さく溜め息を吐いた。次の休みは、カールも合わせて休みを取っている。シェリーもその日は家庭教師をお休みして、3人で眼鏡屋にお出かけすることになった。
セガールが眼鏡をかけたら、どんな感じになるのだろうか。セガールは格好いいから、眼鏡も似合いそうな気がする。どんな眼鏡を選ぶか、ちょっと楽しみだ。

カールは2人と眼鏡の話をしながら、のんびり夕食を楽しんだ。

夕食の後片付けを3人でして、シェリーが風呂に入ったら、セガールと一緒に風呂に入る。
カールの頭や身体を洗ってくれるセガールのゴツい手は、今日も優しい。セガールの身体を洗うのにも慣れてきた。地味に楽しい。

カールがセガールと一緒にお湯に浸かると、セガールが手を伸ばして、カールの右手を握った。すりっと親指の腹で爪先をなぞられる。


「爪が伸びてるな。風呂から出たら削るか」

「えーと……お願いします」

「あぁ」


カールは一瞬躊躇った後で、セガールの申し出に頷いた。やっぱりセガールはカールを甘やかしている。気恥ずかしい気もするが、全然嫌じゃない。むしろ、嬉しいと感じてしまう。本当に何なのか。

カールは風呂から出ると、居間でセガールに爪をヤスリで削ってもらった。温かいセガールの手に手を握られた状態で、爪を削ってもらう。しょり、しょり、と小さな音がする。
セガールは真剣な顔で、でもどこか楽しそうに、カールの爪をヤスリで削っている。沈黙は気まずくない。逆に、なんだか落ち着く空気が流れている。
両手が終わったら、今度は足の爪だ。
カールはセガールに足の爪を削ってもらいながら、なんだか胸の奥がむずむずして、セガールに小さな声で話しかけた。


「今夜、いいですか?」

「あぁ」


セガールから短い返事が返ってきた。シェリーがまだ側にいるので、抜きっこしましょうとは言えない。だが、察してくれたのだろう。セガールがカールの足の爪を削りながら、小さく笑った。

セガールがカールの爪を削り終えると、今度は自分の爪を削り始めた。カールは、駄目元でセガールに提案してみた。


「セガールさん。セガールさんの爪、俺がやってもいいですか?」

「肉は削らないでくれよ」

「頑張ります」


セガールがはにかむように笑って、ヤスリをカールに手渡してきた。セガールの温かいゴツい手を握って、少し伸びている爪をヤスリで削っていく。誰かの爪を削るのは初めてだ。セガールに怪我をさせないように、カールは慎重に丁寧にヤスリを動かして、セガールの爪を削った。ちょっと緊張するが、地味に楽しい。
両手の爪をちゃんとキレイに削れると、カールはセガールの両手を握って、小さく笑った。

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