婚活男の理想の結婚

丸井まー(旧:まー)

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49:見送りと将来の話

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セガールは朝早くにシェリーと2人で玄関先に立っていた。今日からカールは約4ヶ月の航海に出る。4ヶ月の不在は長過ぎて、早くも寂しい気持ちになるが、まずは笑顔でカールを見送ってやらねば。

シェリーがカールに抱きついて、『いってらっしゃい』と言った後、セガールも思い切って、カールに抱きついた。カールの頬にキスをして、少しだけ身体を離し、真っ直ぐに深い青色の瞳を見つめ、セガールは微笑んだ。


「無事の航海と武運を祈る」

「ありがとうございます。セガールさん」


カールが嬉しそうに笑って、セガールの唇に、一瞬触れるだけのキスをした。
『いってきまーす!』と笑顔で手を振って丘を下りていくカールの姿が見えなくなると、シェリーがニヤニヤしながら、セガールの脇腹をつんつんと突いた。


「熱々じゃない」

「ま、まぁな」

「ふふっ。本当の家族になれる日も近いわね!」

「あぁ。男同士の結婚だと、養子を育てることが条件なんだ。簡単に調べただけなんだが、実子がいても、養子をとらなくてはいけないらしい」

「私はいいわよ。弟でも妹でも。家族が増えるだけでしょ」

「あぁ。カールが帰ってきたら、3人で孤児院に行こう。相性がよさそうな子を探したい」

「本が好きな子だと嬉しいわ。一緒に本を読んだりしたい。あっ。でも走るのが好きな子もいいわね。一緒に走ったら楽しそう。うーん。できたら弟の方がいいかなぁ」

「ははっ!そういう子がいるといいな。俺達と家族になってくれるのなら、どんな子でも俺は構わない。とりあえずシェリーと相性がいい子を探してみよう」

「うん」


カールに告白どころかプロポーズをされた。嬉しくて堪らず、セガールの頭の中は3日前の夜から常春状態である。
今日はセガールもシェリーも休みの日だ。2人で朝の家事を終わらせると、ちょうど午前のお茶の時間になった。
セガールは自分用に珈琲を淹れ、シェリーにはホットミルクを作った。おやつはカールが買ってきたチョコレート菓子である。小さなチョコチップが入ったカップケーキだ。

シェリーが幸せそうにカップケーキを食べ、ホットミルクを飲んで、ほぅと満足気な溜め息を吐いた。


「美味しすぎるわ。なんて罪な食べ物なのかしら。チョコレート」

「ははっ!カールが帰ってきたら、また『至福亭』に行こう。今度はケーキを頼まずに、チョコレートを頼もうか」

「やったわ!!」

「あっ。そうだ。シェリー」

「なに?パパ」

「まだ先の話なんだが、中等学校はどうする?マルク先生は初等学校の先生だったから、中等学校の内容までは教えられないだろう?」

「あー。そう言われればそうね。ずっとマルク先生に教えてもらいたいんだけど、それは無理よね」

「あぁ」

「中等学校には行きたくないわ。初等学校の猿共がうじゃうじゃいるもの。ウザ過ぎて勉強に集中できないのが目に見えてるし。それにリールも卒業していないし」

「来年の終わり頃に、中等学校の勉強を教えられる先生を探すか。高等学校への進学は考えているのか?」

「んー。リールはね、高等学校に行くんですって。学校の先生になりたいから。私も一瞬だけ学校の先生になるのもいいかなって思ったけど、ギャーギャー騒ぐガキンチョ共の相手をするのが心底嫌だから、高等学校には行かずに、図書館に就職しようかなって考えてるとこ」

「あぁ。それはいいな。引き続き家庭教師に来てもらって、成人する歳に就職すればいい。シェリーの人生はシェリーだけのものだ。俺はそれを応援するだけだ」

「ありがと。マルク先生の知り合いとかに、家庭教師をしてくれる先生はいないかしら」

「今度会った時に、駄目元で聞いてみよう」

「うん。本当は学校に行って、色んな人と関わった方がいいんだろうけど、心底めんどくさいから嫌だわ」

「働き出したら、嫌なことをしなくちゃいけない時もある。だが、それが原因で身体を壊すようではいけない。自分が心から嫌だと思うことからは、逃げてもいい。逃げることは恥じゃない。むしろ、逆に勇気がいることだ。シェリーには、その勇気があるよ」

「そうかしら」

「そうとも」

「ふふっ。そうだといいわ。あ、ねぇ。話は変わるんだけど、次の休みにリールとマルク先生を家に呼んでいい?レポートがそろそろ完成しそうなの」

「あぁ。いいよ。……その、なんだ。あれだ」

「どれよ」

「リール君とは、その、恋人になったとかじゃないよな?」

「残念。まだよ」

「そうか!ならいいぞ!」

「嬉しそうな顔をしないでくれますぅ?こっちは頑張ってアプローチしてるんですけどぉ」

「やっぱりリール君のことが好きなのか!?」

「好きよ。優しくて、穏やかで、一緒にいてすごく楽しいもの」

「嫁にはまだやらんぞ!」

「成人するまで、あと何年あると思ってんのよ。それに、私は図書館で働きたいし、リールも高等学校を卒業したら学校に就職するだろうし、仮に結婚するとしても、お互い、仕事に慣れてからの方がいいわ」

「……一理ある」

「司書の資格って、働きながら勉強して資格試験を受けることができるんですって。せめて、司書の資格を取ってからじゃないと結婚はしたくないわ」

「そうか。シェリー」

「なに?」

「リール君と結婚まで考えているのなら、全力で口説いてお婿さんにきてもらえ。それが俺が結婚を許す条件だ」

「え、マジで?」

「マジだ。シェリーがお嫁にいっちゃったら寂しいだろうが」

「いや、真顔で言い切られても」

「お婿さんにきてくれるんなら、妥協して結婚を認めよう。それにほら。もし子供ができても、皆で助け合って子育てができるぞ?」

「確かに?じゃあ、頑張って口説くわ。ところで、パパ達の結婚式はいつやるの?」

「この歳で結婚式は恥ずかしいんだが」

「パパは再婚でも、カールは初めての結婚じゃない。結婚式はちゃんとやらなきゃ」

「いや、確かにそうなんだが……」

「どーんと構えてなさいよ。海軍には男同士で結婚してる人もいるんでしょ?」

「まぁ、いるな」

「じゃあ、いいじゃない」

「結婚式か……服は貸衣装で十分だな。いや、軍服の礼装の方がいいか。リカルドの時は、確か軍服の礼装だったし」

「軍服の礼装って、あの白いやつ?着てるところ見たことないけど」

「あぁ。本当に特別な時にしか着ないものだからな」

「ふーん。私はどうするの?」

「可愛いドレスを買おう。俺が見たい」

「あっそ。あんまりフリフリひらひらじゃないやつにしてよね」

「カールと2人で全力でシェリーを可愛くする」

「なんの宣言?」


のんびり将来の話しをしていると、昼食の時間が近づいてきた。
セガールはシェリーと一緒にカモメのエプロンを着けて、台所に向かった。
今日からカールがいないのが寂しくて堪らないが、仕方がないことだと諦めるしかない。愛する男の帰りを待つ立場になってしまったのだ。セガールがするべきことは、普段通りの生活をしつつ、シェリーのことを全力で応援して、カールの無事を祈ることだけだ。

セガールはシェリーとお喋りをしながら、昼食を作り、2人で食べて後片付けをした後、街へと出かけた。
図書館と買い物に行く。リールがいるかもしれないからと、セガールはシェリーにせがまれて、可愛らしい三つ編みを結ってやった。動きやすいズボンを穿いていても、白いリボンをつけた三つ編みのシェリーはいつもより可愛らしい。

セガールはカールが不在の間の寂しさを慰めてくれるような本を探そうと決め、シェリーと共に家を出て、丘を駆け下り始めた。


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