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52:ただいま!
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秋も深まり、少しずつ冬の足音が聞こえ始めた頃。
カールは無事に帰還し、軽やかな足取りで丘の上の家を目指していた。今回の航海も何度か海賊船とやり合った。重傷者は出たが、幸いにも死者はおらず、皆で生きて帰ってこれた。
海軍の建物で帰還の報告をして、現在帰宅中である。帰る前に会計課を覗いてみたが、セガールは会議中で不在だった。
シェリーと一緒に夕食を作ってセガールの帰りを待つのもありだな、と思い、カールは市場に寄り道してから、丘の上の家へと帰った。
一応玄関の呼び鈴を押してから中に入ると、居間にシェリーとマルクの姿があった。
シェリーがカールの顔を見ると、パァッと顔を輝かせた。カールは満面の笑みを浮かべて、片手を挙げた。
「ただいま!」
「おかえり!」
シェリーが勢いよく椅子から立ち上がり、カールに抱きついてきた。そして、即座に離れた。
「くっさ!目に沁みる臭さ!くっさいわ!」
「はっはっは!暫く風呂に入ってねぇもん」
「今すぐお風呂!出たら私達とお茶!」
「はいよー。マルク先生もお久しぶりです。お元気そうで、何よりです」
「お久しぶりです。カールさん。無事のご帰還、おめでとうございます」
「ありがとうございます。じゃあ、俺はシャワーを浴びてきますねー」
カールはわしゃわしゃとシェリーの頭を撫で回してから、着替えを取りに2階に上がり、1階の風呂場に向かった。
頭と身体を2回洗い、熱いシャワーを浴びる。セガールと風呂に入る気満々なので、今は湯船には浸からない。
サッパリした状態で居間に行けば、シェリーが珈琲とホットミルクを用意してくれていた。
「おー。いい匂い」
「ふふん。マルク先生に珈琲の美味しい淹れ方を習ったのよ。パパにも褒められたんだから」
「すげぇじゃん。どんどん出来ることが増えてくなぁ」
「ふふっ!まぁね!」
得意げに笑うシェリーの顔は、初対面の時とは比べ物にならないくらい明るい。少し背が伸びたようで、前はカールの胸の下くらいだった頭が、胸の中頃にある。
「ちょっと見ない間に、かなり背が伸びたなぁ」
「うん。ズボンが短くなったから、こないだパパと服を買いに行ってきたわ」
「うん。成長期すげぇな。珈琲をもらうよ。折角だから冷めないうちにね」
「うん。今日のお菓子はマルク先生の手作りなの」
「おや。そうなんですか?」
「えぇ。孫と一緒にクッキー作りに挑戦してみたら、存外楽しくて。今、ハマっているんです」
「いいですねー。ありがたくいただきます」
カールは椅子に座り、少し早めのお茶の時間ということで、2人と珈琲片手にクッキーを食べ始めた。クッキーは素朴な感じで、温かみのある手作り感があって、素直に美味しい。程よい甘さで珈琲にもよく合う。
カールは素直にマルクを褒めた。
「美味しいです。ナッツの風味がいいですね。珈琲にも合うー」
「ね?マルク先生のクッキー、美味しいでしょ」
「ありがとうございます。いやはや。少々照れますな」
照れくさそうに笑うマルクも生き生きとした顔をしている。マルクも初対面の時よりも、随分といい顔で笑うようになった。孫達のお陰もあるのだろうが、シェリーの家庭教師をしているのも生活に張り合いができてよいのだろう。素敵な出会いに感謝である。
今日はちょうど切りがいいところまで終わっていたので、そのまま3人でのんびりクッキーと珈琲を片手にお喋りを楽しみ、いつもの時間にマルクは帰っていった。
後片付けをささっと終わらせて、カールはシェリーと洗濯物を取り込み始めた。
秋の豊穣祭はもう終わっている。シェリーがどう過ごしていたのか気になっていたので、カールは早速聞いてみることにした。
「シェリー。秋の豊穣祭はどうしてた?」
「それが聞いてくださいよ」
「あ、はい」
「リールとデートしちゃった!」
「マジか!?よくセガールさんが許したな!」
「夕方までに帰ることと、手を繋がないことを条件に、リールと一緒に行っていいって。まぁ、しれっと手は繋いだけどね!」
「おー!いいじゃん。いいじゃん。順調じゃなーい」
「2人でお揃いの万年筆を買ったの。あと、色んな屋台を回って、中央広場でやってた楽団の演奏会を聴いたわ」
「いいねぇ。楽しかった?」
「すっごく!リールったら音楽にも詳しくて、弦楽器を弾けるんですって!今度、リールと2人でピクニックに行って、弦楽器を弾いてもらうの!」
「やー。いいなぁ。青春だなぁ。じゃあ、飛び切り可愛い服を買いに行かなきゃな。デートだし。ピクニックならズボンだろ?裾が少し短めのワンピースの下にピッタリしたズボンとブーツを履いても可愛いんじゃない?」
「そうかしら。お洒落はよく分かんないから任せるわ。デートは次の休みなの」
「お。じゃあ、明後日、一緒に服を買いに行こうか」
「うん。よろしく」
若い2人の関係は順調のようで、実に微笑ましい。
シェリーとそのままお喋りをしながら取り込んだ洗濯物を畳み、カールのものの洗濯が終わると、2人で干した。
家の周りを何周か走り回ってから、お揃いのエプロンを着けて、夕食の支度を始める。
「パパが今日は少し遅くなるかもって言ってたから、カールが帰ってきてちょうどよかったわ」
「うん。じゃあ、始めますか!魚の塩焼きと野菜スープと……あと何にする?」
「たっぷりチーズのパンがいいわ!チーズはまだ残ってるし」
「いいねいいね。デザートに葡萄買ってきてるよ。ギリギリまだ売ってた」
「やったわ!葡萄大好き!」
「俺も好きー。じゃあ、早速始めようか」
「うん。カール、魚の捌き方教えてよ。やってみたい」
「いいぞー。一緒にやろう」
「うん」
カールは先に野菜スープを仕込んでから、シェリーに魚の捌き方を教えた。シェリーも中々に手先が器用で、1匹目は少し切り口がガタガタになったが、2匹目はキレイに捌けた。
内臓をとった魚に塩を振って、魔導グリルで焼いていく。その間に、煮込んでいた野菜スープの味付けをして、チーズをのせたパンを焼く。
台所が美味しそうな匂いでいっぱいになった頃に、セガールが帰ってきた。
軍服姿のセガールが台所に顔を覗かせたので、カールは満面の笑みを浮かべて、セガールに抱きついた。
「ただいまでーす」
セガールの頬にキスをすると、セガールがカールの唇に触れるだけのキスをして、明るい笑みを浮かべた。
「おかえり。怪我は?」
「かすり傷くらいです」
「そうか。美味そうな匂いがする」
「もうすぐ出来るわ。パパは着替えて手を洗ってきて」
「あぁ。2人ともありがとう。カール。軽めのワインを飲むか?」
「いいですねー。飲みます!」
「ははっ!じゃあ、着替えてくる」
「はい」
セガールがもう一度、カールの唇に触れるだけのキスをして、身体を離して2階へと移動していった。
カールはヘラッと笑って、ニヤニヤしているシェリーに抱きついた。
「やばーい。てーれるー」
「熱々じゃない」
「でっしょー。うへへへへ」
「笑い方がちょっとキモいわ」
「ひでぇ」
カールはシェリーと顔を見合わせて笑い、出来上がった夕食を皿に盛り、居間のテーブルへと運んだ。
楽な格好をしたセガールもやって来たので、楽しい夕食の始まりである。
白ワイン片手に上手く出来た夕食を食べる。
「今度はどれくらい陸にいるんだ?」
「年明け半月までですね。その後は、ざっくり半年の航海に出ます」
「半年!?半年は長いわ」
「長いねー。まぁ、1年じゃないだけマシかなぁ」
「それなら、今年の年越しは一緒だな。意地でも休みを取ってくる」
「今年も年越しパーティーですね」
「今年みたいな爽やかじゃない新年の始まりはやめてよね。2人とも」
「「ははっ」」
「ちょっと。2人とも目を逸らさないでよ」
「いやほら。年越しの日くらいはっちゃけたいじゃない」
「そうそう。朝まで酒を飲むなんて、中々出来ないし」
「うわぁ。飲んだくれ親父共め」
「あ、そうだ。今年は朝日を見に行かないか?山の上に行って」
「いいですね!あそこ、キレイに見えますもんね」
「行きたいわ!絶対起こしてよね」
「水筒に温かい飲み物と軽く摘めるものを用意してから行こう」
「新年早々ピクニックね!楽しそう!」
「あ、シェリー。冬季休みに入ったら、マルク先生にクッキーの作り方習いに行かない?今日、食べさせてもらったクッキー、マジで美味かったし」
「いいわね。今年もアンナちゃんに新年の祝い菓子の作り方を習わなきゃ」
「年越し1週間前から俺は休みだから、今年も色々やろうぜ」
「やったわ!また計画表を作らなきゃ!」
「ははっ!今年も楽しい年越しになりそうだな」
セガールもシェリーも楽しそうに笑っている。カールは、あぁ帰ってきたんだなぁと、胸の奥がじんわりと温かくなった。
カールは無事に帰還し、軽やかな足取りで丘の上の家を目指していた。今回の航海も何度か海賊船とやり合った。重傷者は出たが、幸いにも死者はおらず、皆で生きて帰ってこれた。
海軍の建物で帰還の報告をして、現在帰宅中である。帰る前に会計課を覗いてみたが、セガールは会議中で不在だった。
シェリーと一緒に夕食を作ってセガールの帰りを待つのもありだな、と思い、カールは市場に寄り道してから、丘の上の家へと帰った。
一応玄関の呼び鈴を押してから中に入ると、居間にシェリーとマルクの姿があった。
シェリーがカールの顔を見ると、パァッと顔を輝かせた。カールは満面の笑みを浮かべて、片手を挙げた。
「ただいま!」
「おかえり!」
シェリーが勢いよく椅子から立ち上がり、カールに抱きついてきた。そして、即座に離れた。
「くっさ!目に沁みる臭さ!くっさいわ!」
「はっはっは!暫く風呂に入ってねぇもん」
「今すぐお風呂!出たら私達とお茶!」
「はいよー。マルク先生もお久しぶりです。お元気そうで、何よりです」
「お久しぶりです。カールさん。無事のご帰還、おめでとうございます」
「ありがとうございます。じゃあ、俺はシャワーを浴びてきますねー」
カールはわしゃわしゃとシェリーの頭を撫で回してから、着替えを取りに2階に上がり、1階の風呂場に向かった。
頭と身体を2回洗い、熱いシャワーを浴びる。セガールと風呂に入る気満々なので、今は湯船には浸からない。
サッパリした状態で居間に行けば、シェリーが珈琲とホットミルクを用意してくれていた。
「おー。いい匂い」
「ふふん。マルク先生に珈琲の美味しい淹れ方を習ったのよ。パパにも褒められたんだから」
「すげぇじゃん。どんどん出来ることが増えてくなぁ」
「ふふっ!まぁね!」
得意げに笑うシェリーの顔は、初対面の時とは比べ物にならないくらい明るい。少し背が伸びたようで、前はカールの胸の下くらいだった頭が、胸の中頃にある。
「ちょっと見ない間に、かなり背が伸びたなぁ」
「うん。ズボンが短くなったから、こないだパパと服を買いに行ってきたわ」
「うん。成長期すげぇな。珈琲をもらうよ。折角だから冷めないうちにね」
「うん。今日のお菓子はマルク先生の手作りなの」
「おや。そうなんですか?」
「えぇ。孫と一緒にクッキー作りに挑戦してみたら、存外楽しくて。今、ハマっているんです」
「いいですねー。ありがたくいただきます」
カールは椅子に座り、少し早めのお茶の時間ということで、2人と珈琲片手にクッキーを食べ始めた。クッキーは素朴な感じで、温かみのある手作り感があって、素直に美味しい。程よい甘さで珈琲にもよく合う。
カールは素直にマルクを褒めた。
「美味しいです。ナッツの風味がいいですね。珈琲にも合うー」
「ね?マルク先生のクッキー、美味しいでしょ」
「ありがとうございます。いやはや。少々照れますな」
照れくさそうに笑うマルクも生き生きとした顔をしている。マルクも初対面の時よりも、随分といい顔で笑うようになった。孫達のお陰もあるのだろうが、シェリーの家庭教師をしているのも生活に張り合いができてよいのだろう。素敵な出会いに感謝である。
今日はちょうど切りがいいところまで終わっていたので、そのまま3人でのんびりクッキーと珈琲を片手にお喋りを楽しみ、いつもの時間にマルクは帰っていった。
後片付けをささっと終わらせて、カールはシェリーと洗濯物を取り込み始めた。
秋の豊穣祭はもう終わっている。シェリーがどう過ごしていたのか気になっていたので、カールは早速聞いてみることにした。
「シェリー。秋の豊穣祭はどうしてた?」
「それが聞いてくださいよ」
「あ、はい」
「リールとデートしちゃった!」
「マジか!?よくセガールさんが許したな!」
「夕方までに帰ることと、手を繋がないことを条件に、リールと一緒に行っていいって。まぁ、しれっと手は繋いだけどね!」
「おー!いいじゃん。いいじゃん。順調じゃなーい」
「2人でお揃いの万年筆を買ったの。あと、色んな屋台を回って、中央広場でやってた楽団の演奏会を聴いたわ」
「いいねぇ。楽しかった?」
「すっごく!リールったら音楽にも詳しくて、弦楽器を弾けるんですって!今度、リールと2人でピクニックに行って、弦楽器を弾いてもらうの!」
「やー。いいなぁ。青春だなぁ。じゃあ、飛び切り可愛い服を買いに行かなきゃな。デートだし。ピクニックならズボンだろ?裾が少し短めのワンピースの下にピッタリしたズボンとブーツを履いても可愛いんじゃない?」
「そうかしら。お洒落はよく分かんないから任せるわ。デートは次の休みなの」
「お。じゃあ、明後日、一緒に服を買いに行こうか」
「うん。よろしく」
若い2人の関係は順調のようで、実に微笑ましい。
シェリーとそのままお喋りをしながら取り込んだ洗濯物を畳み、カールのものの洗濯が終わると、2人で干した。
家の周りを何周か走り回ってから、お揃いのエプロンを着けて、夕食の支度を始める。
「パパが今日は少し遅くなるかもって言ってたから、カールが帰ってきてちょうどよかったわ」
「うん。じゃあ、始めますか!魚の塩焼きと野菜スープと……あと何にする?」
「たっぷりチーズのパンがいいわ!チーズはまだ残ってるし」
「いいねいいね。デザートに葡萄買ってきてるよ。ギリギリまだ売ってた」
「やったわ!葡萄大好き!」
「俺も好きー。じゃあ、早速始めようか」
「うん。カール、魚の捌き方教えてよ。やってみたい」
「いいぞー。一緒にやろう」
「うん」
カールは先に野菜スープを仕込んでから、シェリーに魚の捌き方を教えた。シェリーも中々に手先が器用で、1匹目は少し切り口がガタガタになったが、2匹目はキレイに捌けた。
内臓をとった魚に塩を振って、魔導グリルで焼いていく。その間に、煮込んでいた野菜スープの味付けをして、チーズをのせたパンを焼く。
台所が美味しそうな匂いでいっぱいになった頃に、セガールが帰ってきた。
軍服姿のセガールが台所に顔を覗かせたので、カールは満面の笑みを浮かべて、セガールに抱きついた。
「ただいまでーす」
セガールの頬にキスをすると、セガールがカールの唇に触れるだけのキスをして、明るい笑みを浮かべた。
「おかえり。怪我は?」
「かすり傷くらいです」
「そうか。美味そうな匂いがする」
「もうすぐ出来るわ。パパは着替えて手を洗ってきて」
「あぁ。2人ともありがとう。カール。軽めのワインを飲むか?」
「いいですねー。飲みます!」
「ははっ!じゃあ、着替えてくる」
「はい」
セガールがもう一度、カールの唇に触れるだけのキスをして、身体を離して2階へと移動していった。
カールはヘラッと笑って、ニヤニヤしているシェリーに抱きついた。
「やばーい。てーれるー」
「熱々じゃない」
「でっしょー。うへへへへ」
「笑い方がちょっとキモいわ」
「ひでぇ」
カールはシェリーと顔を見合わせて笑い、出来上がった夕食を皿に盛り、居間のテーブルへと運んだ。
楽な格好をしたセガールもやって来たので、楽しい夕食の始まりである。
白ワイン片手に上手く出来た夕食を食べる。
「今度はどれくらい陸にいるんだ?」
「年明け半月までですね。その後は、ざっくり半年の航海に出ます」
「半年!?半年は長いわ」
「長いねー。まぁ、1年じゃないだけマシかなぁ」
「それなら、今年の年越しは一緒だな。意地でも休みを取ってくる」
「今年も年越しパーティーですね」
「今年みたいな爽やかじゃない新年の始まりはやめてよね。2人とも」
「「ははっ」」
「ちょっと。2人とも目を逸らさないでよ」
「いやほら。年越しの日くらいはっちゃけたいじゃない」
「そうそう。朝まで酒を飲むなんて、中々出来ないし」
「うわぁ。飲んだくれ親父共め」
「あ、そうだ。今年は朝日を見に行かないか?山の上に行って」
「いいですね!あそこ、キレイに見えますもんね」
「行きたいわ!絶対起こしてよね」
「水筒に温かい飲み物と軽く摘めるものを用意してから行こう」
「新年早々ピクニックね!楽しそう!」
「あ、シェリー。冬季休みに入ったら、マルク先生にクッキーの作り方習いに行かない?今日、食べさせてもらったクッキー、マジで美味かったし」
「いいわね。今年もアンナちゃんに新年の祝い菓子の作り方を習わなきゃ」
「年越し1週間前から俺は休みだから、今年も色々やろうぜ」
「やったわ!また計画表を作らなきゃ!」
「ははっ!今年も楽しい年越しになりそうだな」
セガールもシェリーも楽しそうに笑っている。カールは、あぁ帰ってきたんだなぁと、胸の奥がじんわりと温かくなった。
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