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第3章:歯車は動き出す
60話
しおりを挟む龍司はシンクの中に置いた食器を洗いながら、キッチン越しに2人の夫婦を見つめた。
楽しそうに微笑む百合亜を優しく見つめてから、その視線は静かに隣の朋也へと移動する。
朋也の笑顔をみた瞬間、心の中から温度が覚めていくのが分かった。
(そんな顔で笑っていられるのもあと少しだ…月嶋朋也…ッ)
あの人当たりの良い笑顔の奥に隠された異常な嗜好を知ってしまった以上、朋也に対する嫌いの感情はより大きいものへと変わっていっていた。
自然と表情も、険しいものになっていくのが自分でも分かる。
冷ややかな視線で朋也を睨む。
―――お前は百合亜ねえさんと一緒にいる資格なんてない。
―――お前に百合亜ねえさんの大事な湊は渡さない。
――おれが、
お前の夢とやらをぶち壊してやる。
みんなの幸せのために。
だってこの男は、俺の大切な百合亜ねえさんと湊を自分だけの人形として、
地下室に囚われた人達と同じような人形にする計画を企てている事を知ってしまったのだから。
確信となる証拠を見つけてしまった以上、見て見ぬふりはしない。
龍司は、洗い終わった食器をトレイに置くとタオルで手を拭き、ポケットへと手を伸ばした。
手には、少しだけよれよれになった四つ折りの紙が握られている。
紙を広げれば、その中にはとある写真が写っていた。
普通の写真じゃない。
人形として飾りつけをされた百合亜の姿と、事細かく手書きで書かれた朋也の字であろう文字。
使う薬品名。
人形として飾り付ける時期などの詳細。
そして、下の方には湊をいつから人形として飾り付けるか。
母親である百合亜の存在をどうやって説明するか。
どの薬品を調合し、どの薬を使うか。
紙の余白がない程の文字が、びっちりと記載されてあったのだ。
「…チッ。虫唾がはしる」
何度見ても腸が煮えくり返るような怒りが込上げてくる。
愛する自分の妻と、その子供に対してこんな非道的な事をしたいと思うその神経が分からない。
険しい表情のまま思わず出てしまった舌打ちと共に、ぐしゃりと紙を握りつぶしてしまった。
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