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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
142話
しおりを挟む「あいつは、俺の性格も社長の性格も知っている。俺達が戯言のような言葉を鵜呑みにするとは思ってないはずだ…。―でも、もし本当に誰かが社長を狙ってるとしたら、一体誰が―――?」
歩いていた足を止める。
考えても、龍司を狙う相手が誰なのか見当もつかない。
龍司ほど大きい会社のトップに立つ人間にもなれば、レベル的に素人では無理だ。
そうなると、その筋のプロの可能性が高いという事になる。
会社ではスパイや護衛の仕事を多くこなしている為、裏の世界でも顔を知らない者はいないと言われている。
いつ誰が狙ってきてもおかしくない状況で、龍司は常に生活をしている…狙ってくる人間が多すぎて、逆に誰が相手か洗い出す事の方が難しい。
「――…念のため、社長に報告しておくか。」
ゼロはコートの胸ポケットから携帯を取り出すと耳にあて、止めていた足を再び動かしながら最奥にある仕事部屋へと歩いていった。
―――・・・
「どうしよ…。読み終わっちゃった…」
時刻は午後17時30分をまわった所だ。
医務室のベッドに座りながら、龍司から借りた小説を読み終えた湊が本を閉じると、嘆く様に呟いた。
オムライスを食べ終わって話していた時、龍司の携帯が再び振動と共に音を鳴らした。
そしてその電話の直後、神妙そうな表情を浮かべたまま、「用事が出来たからちょっと出かけてくる」と言ってルカと一緒に部屋から出ていってしまったのである。
どうしたの?
何かあった?
そう聞きたかったのに、とてもじゃないがそんな事を言える雰囲気ではなかった。
だから、あまりいい内容の電話ではなかったんだろう。
龍司の表情と雰囲気ですぐに分かってしまった。
閉じたままの本の表紙をじっと見つめ、湊はため息をつく。
持っていた本をサイドテーブルにそっと置いた。
「龍司もいつ帰ってくるか分からないし、本も読み終わっちゃったし…どうしようかなぁ…」
ベッドから離れ、窓から外を見れば、薄暗くなった自然の景色が見える。
自宅であるマンションから見る景色は、木々や花などの自然が多くみられるが、龍司の会社から見る景色はどちらかと言うと、建物が少しばかり多い気がした。
しかし、規模が大きい会社だけあって敷地を高い壁で囲っており、内側の敷地内には壁と並んでいくつもの木々や沢山の花が植えられている。
どちらかと言うと、田舎の自然溢れる場所の方が好きな湊は、敷地内の自然を見ると気持ちが落ち着く気がした。
窓を開ければ、清々しい風が体をすり抜けて、大きめの深呼吸をする。
そんな時、部屋の扉をノックする音が聞こえて振り返った。
「はい!どうぞっ!」
龍司が帰ってきたのかと思い、扉の向こうにいるだろう人に返事をすれば、暫くの沈黙のあとに聞こえたのは、龍司の声でもルカの声でもない知らない女性の声だった。
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