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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
163話
しおりを挟む「…ッ!」
鈍い痛みに、ゼロは反射的に振り返る。
「―――いつまでルカに触ってんだよ。いい加減その手を放せ」
怒りを含んだ低い声がエントランスに響き、その場が静まり返る。
「セリ!」
滅多に聞かないセリの低音に、焦ったようにルカが声を上げた。
いつもの優しい表情と声はどこに行ったのか、恐ろしい程の形相で睨んだままゼロの手を握るセリにゼロの口端が上がる。
「ふっ…相変わらずルカの事になると人格変わるなぁ。セリ、男に戻ってるぞ?」
「聞こえなかったのか?放せって言ってんだよ」
「…へいへい。わかったよ」
降参だと言わんばかりに両手をあげたゼロが、ルカから静かに離れる。
その瞬間、ゼロを睨みつけていた鋭いセリの視線が柔らかいものへと変わった。
別人のように違うセリの雰囲気に、エントランスのエレベーターから数メートル離れた受付にいた男性社員二人が、ちらちらとセリの方を見ていた。
セリの豹変した声は、どうやら受付の方まで聞こえていたらしい。
「…ゼロ。わざと私を怒らせるの、やめてくれるかしら?」
ゼロの胸倉を掴んで引き寄せたセリが、これまでにない恐ろしい笑顔を浮かべながら言った。
パッと見は笑顔だが、目は確実に笑っていない。
「セリ、落ち着けって!…全く、こんな所で言い合っている時間は俺達にないんだぞ!?」
「そうですよ!ゼロ、あなたもあなたです!!あなたと言う人はどうしてそうやっていつもセリを怒らせるんですか!」
「だって仕方ねぇだろ?こいつが…」
同時に、ゼロとセリの間に入ったアキとルカがそれぞれを押さえながら叱る。
そんな時だった。
4人に流れる空気を変えるように、か細い声が聞こえた。
「――あの…。セリさん、…ルカ?」
騒がしかった空気が一瞬にして変わった。
4人の視線が一気に声のする方へと向けられる。
「み、湊様!?」
「湊様っ…!?なぜここに?」
まさかの湊の登場に、ルカが慌てて近づきセリも後を追うように湊の元に近づいた。
困惑したように立っていた湊が、顔見知りのセリとルカが傍に来たことで安堵したように微笑んだ。
「すみません…!ちょっと龍司に話したいことがあったから部屋に行ったんだけど、出かけちゃっているのかどこにもいなくて…。ルカ、龍司はどこにいるか知ってる?仕事中かな?」
「あ……。えっと…申し訳ありません湊様…。社長は緊急で入った仕事で外出していて…本日一日戻らないんです…」
「え…、あっ…そうなんだ…」
しゅんとして俯いた湊に、セリが優しく背中を撫でる。
色気を感じさせる大人っぽい香りがふわりと漂い、顔を見上げれば笑顔のセリと目が合った。
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