水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~

楪 彩郁

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『睡蓮』と幸せのピエロ

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「それは初耳です。でも、碧さんがピエロって、ちょっと意外な気がします」
「お前……ピエロが地味だと思ってるだろ?」
「い、いえいえ! そんなことはないですよ? ただ、どういうことをするのかなって……」
「手品とか、玉乗りとかパントマイムとか、ジャグリングとか、いろいろだ。何も喋らずに、一つの物語を身体の動きで表す。たまには、観客席に行って客を笑わせることもあるけどな」
「へえ……! 楽しそうですね」

 あれほど不遜な態度をとる人でも、客と楽しく交流することがあるのだ。どんな光景なのか。その場面をぜひ見てみたい、と波音は思った。

「今日、練習を見学してみるか?」
「いいんですか?」
「どっちにしても、お前にはいずれ裏方に入ってもらうんだ。職場の内部は知っておいた方がいいだろう」
「はい。ぜひ!」

 波音は笑った。練習を見られるのが楽しみだからだ。サーカスは、幼少期に両親と見に行って以来になる。国内外で人気の曲芸団を間近でサポートできる波音は、もしかしたら多方面から羨ましがられる対象なのかもしれないのだ。

「……お前」
「はい?」
「そういうふうに笑うんだな」
「え?」

 碧はぽつりと呟いて、彼自身もまた微笑んだ。確かに、昨日ここにやって来てから、碧の前で笑ったのは初めてかもしれない。この非常事態に暢気のんきなものだが、自然に出た笑みだ。碧はそれを見て、きっと安堵したのだろう。

(昨夜のこと、まだ気にしてるのかな)

 また襲われたらたまったものではないが、波音は碧のことをとっくに許したのだ。これから二人は、雇い主と雇用者の関係になる。良い関係を築いていきたいと思うのは自然なことだった。

 市場を抜けて二つ目の通りを曲がると、両側にアクセサリーショップやブティックが並んでいた。こんな朝から開店しているだろうかと疑問に思っていたが、どの店も既に『営業中』の札が掛かっている。

 市場ほどの賑やかさはなくとも、ちらほらと客の出入りもあるようだ。南国らしい明るく色鮮やかな服飾を眺めて、波音は感嘆の息をもらした。

「洗い替えも考えて、必要な分を買ってこい」
「いいんですか?」
「もちろん、使った金は、後でお前の給料から天引きするけどな?」
「……できるだけ節約します」
「それでも、下着くらいは色気のあるものにしろよ」
「そ、それは私の好きにさせてください!」

 からかう碧から財布を手渡され、波音は事前に断ってから中身を確認した。価格相場がまだ分からないが、零の四つついた紙幣が十枚以上は軽く入っている。もし日本円と同価値だと考えれば、十万円以上だということだ。波音の目玉が飛び出そうになった。
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