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学園1年生編
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しおりを挟む呆然とする僕達の目の前に…蒼い顔で小さいバケツを持つ女生徒が。
「あ…!ご、ご、ごめんなさい!!!手が、て、が…滑って…!」
いや滑るってレベルじゃないよ、明らかにわざとだよね?だって隣のロッティは無事だし。
ただ僕は困惑の感情が大きすぎて、全然怒りは湧いてこなかった。
僕はね。
「手が滑ったですって…?ではそのバケツ、どこに持って行こうとしてたのかしら…?」
ロッティが般若通り越して鬼そのものになりつつある。この世界だと誰にも伝わらないのが悲しい。しかも…
「貴女…クライ子爵令嬢ね。一部始終、見させていただきましたわ。
どういう事か…説明してくださる?」
なんとまあ、後ろからルネ参戦。あっれー、何この状況?
クライ子爵令嬢?んー、どこかで聞いた事あるような…?
しかし僕、我ながら他人事だなあ。とにかく今は…2人(1人は半分人間やめてる)の美少女に凄まれて失神寸前のクライ嬢をどうにかするか。
今のうちにバジルにタオルと体操着を持ってきてもらうようにお願いし、僕はロッティ達とクライ嬢の間に立つ。
「あー、落ち着いて?ほら、手が滑ったって言ってるし。
僕は大丈夫。上だけ着替えればいいしさ」
「お兄様!!駄目よ、だって明らかに故意に…!」
「落ち着いて。彼女、誰かの指示でやらされてる。
今回だけ見逃すけど…次は無いからさ」
なおも怒りが収まらないロッティの肩をポンと叩き、小声で言った。
彼女もクライ嬢が嫌々行動したと気付いているだろう、なんとか引き下がってくれる。
ルネも被害者の貴方がそう言うなら、と引いてくれた。
「………次は…容赦しませんわよ…?」
ロッティにそう言われた令嬢は、最後にもう一度謝罪して走って行った。
しかしコレどうしよう?暖炉に乾かしてもらうのが一番なんだけど…。
学園は、精霊禁止なのだ。召喚の授業のみ可で、それ以外では契約していても学園に連れて来てはいけない。
理由としては、魔術の授業で有利すぎるから。スポーツでも、他の授業でも。なので今は皆、寮の部屋か教会にいる。
この時間に寮に戻るには先生に報告しないといけないし…説明が面倒だからヤダな。
肝心の暖炉は今確か教会だし、「服乾かして!」なんて理由で呼ぶのも申し訳ない。
バジルが着替えを持って来てくれたので、僕は医務室に向かう事に。
なんせ…下半身は濡れてないけど、上はサラシまでびっしょりなんだよ!医務室の包帯貰おうっと。ゲルシェ先生はカーテンを開けるような真似はしないしね。
「という訳で僕は医務室行ってくるね。次の授業は遅れると思うから…先生に具合が悪くて休んでるって言ってもらえる?」
ついて来るというロッティ達をなんとか教室に向かわせ、僕も移動する。
そんな僕の背中を…ルネが見ていた事には気付かないまま。
※※※
「失礼しまーす。…あれ、いない?」
医務室は無人だった。さて、今日のメモは…っと。
『父危篤の報が届いたので確認してきます』か。…先生のお父さんは何回危篤になってるんだろうね?
しかし好都合。今のうちに!
まず誰もいない事を念入りに確認する。4つあるベッドは…全部空!って窓開いてる。不用心だなあ、もう!
窓の鍵も確認し、カーテンも閉める。そして扉にも鍵を掛けて、棚から包帯を拝借して…準備完了!!
先生は鍵持ってるだろうから、念の為ベッドの上に移動して仕切りのカーテンも閉める。
「ひー…びしょびしょ。参ったなこりゃ」
服を脱ぎながら先程の出来事を振り返る。
しかしクライ子爵令嬢か。思い出したぞ。
この漫画には、セレスタンの他にも悪役が存在する。ほのぼの日常系でもなければ、どんな作品にも何人か悪役はいるよね。
それはゼルマ・サルミン侯爵令嬢…だったかな?サマリナだっけ?
まあ名前は置いといて。彼女はパスカルに一方的に想いを寄せており、彼がロッティと親しくなると嫌がらせをするようになる。
ただし自分ではやらずに誰かを使う。さっきのクライ令嬢はその1人。漫画でもゼルマの命で、ロッティに水を掛けたり持ち物を隠したりする。
自分が嫌がらせしてるっていう自覚があるんだよね。パスカルにはいい子だと思われたいから、表立って行動しない。
まあ最初こそパスカルが原因だったが、いずれロッティが気に食わないという理由だけで害そうとしてくる。
パスカルを始め、ルシアン、エリゼ、ジスラン…将来有望な美男子を侍らせている、という勘違いで。常に側にいるバジルも割と美形なのがとどめかも。
最終的にゼルマがどうなったのか…僕は知らない。
なにせ彼女が本格的に動くのは17歳になってからのはず。パスカルがロッティに友人以上の感情を抱くのが、その頃からだから。
なんと言うか、セレスタンが消えたからこれでラストまで一直線かな?と思っていたところに登場したんだよね。漫画とかでよくある、引き伸ばし展開ってやつ?
きっとロッティはゼルマという障害を排除して、今度こそ本命の誰かと結ばれるんだろうけど…。
さっきのクライ令嬢も、ゼルマに指示されたと考えて間違いないだろう。
しかし…なんで僕が?いやロッティが水を被るより全然いいんだけどね。…さっきの授業でパスカルに向日葵を貰ったから?
僕男なのに?すでに見境無いな…はあ。
「あーあ…。しかしベスト着てて良かった。水に濡れて透けてバレちゃった!な展開は防いだぞ!流石僕」
んふふーと自画自賛。夏期休暇は終わってもまだまだ暑い、上はシャツだけという男子生徒も多いのだ。
ジャケットは暑いから無理だけど、僕はベストをちゃーんと着ている。
さて…後はこのサラシを…
「ふふふ…甘い、甘すぎるわセレスタン・ラサーニュ。最後の詰めを誤ったわね?」
「は!!!!??」
サラシの結び目を解いた瞬間…どこからともなく声が!!?
でも確かに誰もいない事を確認したし!!なのにふふふふふという声が部屋中に響く。
いや怖い怖い、怖いよ!!どこ!廊下!?屋根裏!!?床下!!!??
「ふふふふふ…」
ひいいいいいいいい!!!!
パニックになりつつある僕は、なんとかシーツを手繰り寄せて体に巻き付ける。シーツが濡れるなんて気にしてる場合じゃないわ!!
「ふっふっふっ…私はここですわっっ!!!」
「きゃああああぁあーーー!!!?」
ドガッシャアアン!!!と大きな音を立てて…隣のベッドを下から持ち上げて華麗に登場したのは…ル、ルネ!!!??
「な、なん、な、は…!!」
「ふふふ…言葉も無いようね。さあ…覚悟なさいませ!!」
ぎゃあああああ!!!!
彼女は、更にパニックになる僕からシーツを剥ぎ取った!!
今僕はサラシのみというセクスィ~な姿…とか言ってる場合じゃないいい!!!
なんとか腕で胸を隠そうとするが…か、壁際に追い込まれた……!!
「ふふふ…安心なさい…酷くは致しませんわ…」
「ひ、ひいいいい…!!」
あかん、もう泣かないと決めたのに…僕の涙腺は決壊寸前だよう!!
絵面がすでに酷いんだよ!!これ、ルネが男だったらただの強姦魔だからね!?
「そのサラシの下の膨らみは何かしら?
そして殿方にはありえないそのくびれ…ねえ、ラサーニュ様…?」
彼女は舌舐めずりをしながら、サラシに指を掛ける。そのままつつー…と僕の腹部を指でなぞり…ゾクゾクするううう!!!
「あ、ああのあの、僕…きょ胸筋が異常に、発達し、てて、ね?」
「ふふ…ならば…
その胸筋をお見せなさいませっっっ!!!」
「んぎゃあああああ!!!!」
その瞬間、医務室は地獄と化す。
僕のサラシを狙うルネ。護身術も嗜んでいる僕ですが…女性にかけてはいけないという理性が働き、医務室中をひたすら逃げる事に。
もう仕切り用カーテンは破けるわレールがぶっ壊れるわ、書類はぶち撒けるわ埃は立つわ。
「きゃあああっっ!!」
「んもう、すばしっこい…!キャッチ!!」
きゃーーー!!!サラシの端っこを掴まれ…あれあれ、あ~れ~!ってやつ!!くるくる回され…てたまるか!!
僕は最早胸に僅かに引っかかっているだけのサラシをがっちり抑え、なんとか抵抗する!
「待って待って、これ以上はホント無理だから!!」
「なら大人しく白状なさい!!別に言いふらそうとしている訳ではありませんわ!!」
そそ、そんな事言われても……!
その時。
「おい、さっきの悲鳴と物音はなんだ!?誰かいるのか、なんで鍵が掛かってるんだ!!」
ドンドンドンドン!!と扉を乱暴に叩く音と、誰かの声が!!
ま、まずい!!
「ルネ待って!ほら、誰か来たよ!!こんなん見られたら君もマズいでしょ!!?」
「問題ありませんわ。貴方さっき鍵掛けたで」
カチカチ、ガチャッ!!
「おい!!大丈、夫…か………」
「「……………………」」
「……………………………」
鍵を外から開けたのは………ゲルシェ先生。
先生の目の前には……床に押さえ込まれて涙を流す半裸の僕、と…。
僕の上に馬乗りになっているルネ。
「「「…………………」」」
「「……きゃああああぁぁーーー!!!??」」
「あ"あ"あ"ああぁぁぁーーー!!!??」
これぞまさに阿鼻叫喚。
のちにオーバン・ゲルシェ(34)は語る。
「あれほど大声を上げたのは、幼い頃兄に飼い犬の命名権を奪われた時以来です」と。
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