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学園4年生編
◼️彼女が家族と袂を分かつと決めた日
しおりを挟むとある年の春。
セレスタン・ラサーニュは…新聞を握り締め、目を見開いていた。
その一面は…女性に爵位継承権が与えられる法律が可決された、というものだった。
発案者として、セレスタンの数少ない友人であるルネ・ヴィヴィエの写真も掲載されている。
平民にとっては、領主が男だろうと女だろうと関係無いだろうが…貴族にとっては一大事。今後、社交界は大きく変化することだろう。
そしてこの少女も例外では無い。何故なら…自分は爵位を継ぐ為だけに、女の身でありながら男装を強要されてきた。
しかし女でも継げるのならば…もう、自分を偽らなくていいのでは…!?と、喜びに震えているのだ。
「(やった…これなら、僕は女の子に戻れるんじゃ…!?それに…ロッティに後継を任せる事も出来る。やっぱ僕より相応しいし…)」
そんな事を考えながら、新聞を持って屋敷の廊下を走る。向かった先は、当然父親の執務室。
扉をノックし中に入り、伯爵以外誰もいないのを確認して…笑顔で父親に声を掛けた。
「父上!今日の新聞はご覧になりましたか?僕も、女性の身で伯爵になれるんです!
今までは届出の記入ミスで仕方なく男装していた事にでもして、これからは僕も令嬢として…」
「ああ、今までご苦労だった。お前はもう用済みだ」
「……………え?」
意気揚々と乗り込んできたセレスタンは、何を言われたのか理解出来なかった。
「聞こえなかったのか?もうお前に継がせる必要が無くなったんだ。
優秀で可愛らしいロッティのほうが後継に相応しい。お前に与える物は何も無い、親の情けで成人までは面倒を見てやるが…学園を卒業したら、速やかにこの家を出ろ。
お前がいつまでもこの家にしがみ付いていては、優しいあの子は遠慮してしまうだろう。
ああ、もちろん世間に己が女だなどと戯れ言を広めぬように。分かっているな?
他に用が無ければ出て行きなさい」
伯爵は一度も彼女に目を向ける事なく、淡々と告げた。
「……………は…い」
彼女はその言葉に逆らえず…ふらふらと執務室から出る。
「……ふう…賢いあの子では気付かれてしまうな…そろそろ、足を洗うか…。しかしまだ物足りない…」
伯爵の呟きは、誰にも届かない。
サロンへと戻って来たセレスタンは、新聞をテーブルに放り投げた。
「………………」
その顔は長い前髪で隠されていて…今、彼女がどんな表情をしているのか読めない。
だが…その場から動く事が出来ず、ただただ立ち尽くしていた。
暫くそうしていたが、セレスタンの妹シャルロットが、執事のバジル・リオを連れて姿を現す。
「あら、お兄様おはよう。…どうかした?元気無さそうだけど…」
「おはようございます、セレス様」
「…………おはよ……2人とも…」
なんとか声を絞り出すセレスタン。その様子がおかしいと思いつつも…シャルロットも新聞に手を伸ばした。
その瞬間、セレスタンの体が僅かに震えたのを…バジルは見逃さなかった。
「セレス様…?お加減でも悪いのでしょうか?」
「………ううん、だいじょぶ…」
明らかに大丈夫ではないのだが…本人がそう言う以上、彼も何も言えなかった。
同時に、新聞の一面を読み終えたシャルロットが声を上げた。
「まあ…ルネったら、凄いじゃない!(これなら…私が伯爵になれるわ!お兄様には負担みたいだし…これからはお兄様には、好きな事をして生きて欲しいわ…。
うーん、ルネが女公爵になるって新聞で宣言してるし。お兄様がヴィヴィエ家に婿入り…とか考えてるのかしら?妹の目から見ても、2人は仲睦まじいもの!
それなら、今までルネに婚約者がいなかったのにも説明がつくわ。それって素敵!)」
シャルロットは本当に兄を…セレスタンの事を誰よりも想っていた。もちろん恋愛感情では無いが、兄の幸せを心から願っている。
そんな兄が伯爵になるのを、重責に思っている事も知っている。
だからこれは、本当に。本当に…彼女を案じての言葉だったのだ。
「ね、お兄様。もしも爵位を負担に思うなら…私に、背負わせてくれない?後継、嫌なんでしょう?私なら……お兄様?」
だがその言葉は…
「………ああ、やっぱり君も…僕ごときじゃ伯爵には相応しくないって、思ってたんだね…」
セレスタンがこれまで、生まれてから15年。ずっとずっと溜めてきた感情を決壊させる…最後の引き金となってしまった…。
「……え?ち、違うわお兄様!相応しくない訳無いじゃない!!私は今まで、お兄様がどれだけ努力をしてきたか…一番近くで見て来たのだから!」
「そう。死に物狂いで努力して…ようやく君の足元に及ぶくらい。そんな姿を、心の底で嘲笑っていたんでしょう?」
「お兄様…!?なんで、どうしちゃったの…!?」
「セレス様…?」
もうセレスタンには、妹の言葉は全て湾曲して届いてしまう。
シャルロットが爵位を継ぐというのは、彼女にも願ったりの筈なのに。
自分から譲るのと、奪われるのでは…意味が違う。セレスタンは、シャルロットが「無能な兄に代わって、私が仕方ないから伯爵になってあげる」という風に言ってるとしか感じられないのだ。
彼女の中には、妹に対する愛情と憎悪が表裏一体で存在している。今までは愛情が表に出ていたのだが…
この日を境に反転し、憎悪が彼女を支配するようになる。
「ねえお兄様…!」
「うるさい!!!!」
「「!?」」
彼女が声を荒げるなど…シャルロットもバジルもかつて見た事が無かった。その為動揺して次の言葉を発せず…サロンに沈黙が落ちる。
その静寂を破るのはセレスタンだった。
「…僕は、僕は…!!僕は君の兄なんかじゃないっ!!!」
「………え、え?お兄様…」
シャルロットは混乱した。兄ではない…?そんな筈があるものか、こんなにも似ているのに。もしかして、本当は兄妹でなく姉弟だった?などと考えるほどに。
だがバジルは、セレスタンの言葉の意味を理解していた。
自分は兄ではなく…姉なのだ、と…。
「(しかし、どうして急に…?この記事と何か関係があるのだろうか…?)」
彼はセレスタンと伯爵の会話を知らないので、原因までは辿り着かなかったが。
「今後一切…金輪際、二度と!僕の事をお兄様などと呼ぶな!!」
「………っ」
セレスタンは肩で息をし、拳を握り締め…その頬を、涙で濡らしていた…。
シャルロットとバジルには、その涙の意味が解らなかった。
もしもここでセレスタンが、己の秘密を全て打ち明けてしまえば…この先の未来は、また変わったに違いない。
だが彼女は、最後まで…己の中に押し留める道を選んだ。
前髪で隠されているけれど、大粒の涙を流しながら…セレスタンはシャルロットに背を向けた。
そのまま大股でサロンを出る。シャルロットはこのままではいけない…と思い、彼女の後を付いて行こうとした。
「おに…セ、セレス!待って、話をし」
「話す事なんて無い!!ついて来るなっ!!」
「え…」
彼女らはずっと仲良しの双子だった。たまに喧嘩する事があっても…ここまで拒絶された事は無い。
セレスタンは、シャルロットの傷付いた顔を見て心を痛めたが…口を結び、廊下の向こうへ走り去って行った。
残されたシャルロットとバジルは…今何が起きたのか、理解出来なかった。
昨日までは、いつも通りだったのだ。兄妹仲良く、笑い合っていたのだ。
「なんで…お兄様…」
「…!お、お嬢様…」
バジルはセレスタンを追いかけようか迷ったが…シャルロットが一筋の涙を流していたので、放っておく事が出来なかった。
セレスタンは廊下を走り、自室まで戻る。音を立てて扉を閉め、ベッドに直行し倒れ込んだ。
「シャーリィ…?どうかしたのか?なんで泣いている?泣かないで…」
部屋には彼女が契約している光の最上級精霊・フェンリル、セレネがいた。セレネは普段ここか、セレスタンの寮の部屋で過ごしている。
自分が凄い存在で、セレスタンが目立ちたく無いと知っているから。普段人に見つかっても子犬の振りをして、静かに彼女を守ってきた。
そんなセレネは部屋に戻って来たセレスタンが泣いている事に気付き、彼女の側に寄り涙を舌で拭う。
「泣かないで…セレネは、シャーリィの笑顔が見たいんだぞ」
「う…うう…!ああぁーーー…うああああぁぁぁん…ああああ…!」
どんどん溢れてくるものだから、セレネは本来の巨大な狼の姿になった。セレスタンはそんなセレネの柔らかい毛皮に顔を埋め…幼児のように泣きじゃくる。
セレネは受け止め、尻尾で彼女の体を優しく包んだ。
「ああぁぁ…ぐす、ひっく……う、わああああああん!!」
「どうしたんだ?誰かに虐められたのか?大丈夫、セレネが始末してあげるぞ。誰がシャーリィを泣かせているんだ…?」
「……ぼく、ね……ずっと……頑張ってきた、つもりだった…の…」
セレスタンはしゃくりあげながらも、なんとか言葉を紡ぐ。
「…セレス様?おはようございます。どうしたんですか?」
「ミコト…!!」
その時現れたのは…今やセレスタンの付き人のポジションに収まっているグラスだった。
彼は本名をミコトと言い、2人きりの時だけ…セレスタンは彼をそう呼ぶ。セレネはノーカン。
グラスは拾われてからこれまでの間に、喋りも流暢になり敬語も使えるようになっていた。
「どうしたんですか、ノックをしても無反応で…っ、泣いているのか…?」
「あの、ね…僕ね…」
ベッドの上で狼の姿になり横たわるセレネ。そんなセレネに身を預けるセレスタン。彼もベッドの上に乗り…セレスタンの髪を撫でた。
「どうした、また伯爵に何か言われたのか?それともブラジリエ様か。それか…」
「ちが、違うの…ぼく…!!」
セレスタンは震える手を伸ばし…グラスの服を掴む。そしてセレネの上に押し倒した。
されるがままのグラスもそっと手を伸ばし…彼女の前髪をかき上げる。その金色の目には…憎悪の光が灯っていた。
「ねえ…なんで…?僕、ずっと頑張って来たのに…!!嫌だったけど、逃げたかったけど…頑張って、来たつもりだったのに…!!なんで……何が駄目だったの!?」
「セレス様…?」
グラスの顔の上に、セレスタンの涙が伝い落ちる。
「…父上は…女性が爵位継承出来るとなった途端に、僕を捨てた…!!僕に継がせる理由が無くなったって!!!ロッティに、全部譲るって…!
僕に与える物は何も無い…ロッティに速やかに継承権を移行させる為に…僕に、成人したら早くこの家から出て行けって…言ったんだよ……!!!
なんで…?なんで、なんで!!?僕は今まで、なんのために頑張って来たの!!?
全部無駄だった、何もかも犠牲にして…なのに!!!!
許せない…父上…それに、僕から全部奪うロッティも……!!!」
セレスタンは、今度こそ胸の内を全てぶち撒けた。
伯爵はともかく、シャルロットにこのような感情をぶつける事は間違っている。そう頭では理解しているけれど。
どうしても、世界一可愛くて大好きな妹が…誰よりも憎くて仕方がないのだ…。
「もう、やだあ…!!僕なんて、生まれて来なければ良かった!!!
そうすれば、そ、う……消えたい……死に、たい……!!」
「……!ふざけるな!!」
彼女の言葉を聞いたグラスは、体を起こして今度は彼女を押し倒した。顔を強張らせて声を荒げる姿は…まるで、初めてセレスタンと出会った時のようだった。
「お前がいなければ、おれとバジルはとっくに死んでいた!それだけじゃない、今教会を根城にしている連中もだ!!お前はおれ達も死ねば良かったと言いたいのか!!違うだろう!!!
お前が死ぬのならおれも死ぬ!!原因の伯爵とシャルロット様を殺してからな!!!」
「…!!だ、駄目…それは駄目!」
「どれだ!?おれが死ぬ事か、伯爵とシャルロット様を殺すというところか!!?」
「伯爵はいいけど、君とロッティが死ぬのは嫌…!」
「なら……おれと生きろ!!!」
「……へ…」
グラスはセレスタンの目を真っ直ぐに見てそう言った。セレスタンは何を言われたのか理解出来ず…目を丸くしていた。
「伯爵が、この家がお前を捨てると言うのなら…おれが貰う!!お前に救われたこの命、お前の為に使う!!」
「へ、はえ?」
「おれ、もっと治癒の練習するから…そうすれば、首都で神殿に入って治癒師として働けるんだろう?おれ頑張るから!だから…おれの為に生きろ!!
おれと一緒にこの家を出て、一緒に暮らして…おれの、こっ子供を産んで!!
その…あの…要するに、あのね……おれと結婚してくださあい!!」
グラスは顔を真っ赤にして呼吸を荒くし、精一杯の告白をした。彼はずっと、初めて会ったあの日から…自分の全てを受け入れてくれたセレスタンに恋をしていた。
身分の差など分かりきっている。それでも…彼は必ず、セレスタンを手に入れると心に決めていた。
そして一世一代の告白をされたセレスタンは。
「……………」
目を見開いたまま、徐々に顔を赤く染め…自分に覆い被さるグラスを凝視していた。あまりの衝撃に、涙は止まっていた。
だが中々返事が無い様子に痺れを切らしたグラスは…セレスタンの顎に手を添え、口付けを交わす。
「……!?んな、何すんのお!?」
「なんだよ…初めてでもあるまいし」
「そっ、そうだけど!!」
ようやく反応したセレスタンの上に倒れ込み、彼女の体を優しく抱き締める。
「…返事は?」
「う……」
「おれと、この先の人生…一緒に歩んでくれるのか?」
…彼女は今、人恋しかったのかもしれない。
父親に裏切られ、愛する妹とも決裂し。その時に都合良く自分に愛を囁いてくれるグラスしか、見えていないだけかもしれない。
それでも…彼と過ごした2年間は…とても、心安まる日々だった。だから…
「……はい。これからもずっと、側にいて…!」
と、両腕を伸ばしグラスを抱き締めた。グラスも、より一層力を込めた。
「(ああ…温かいなあ…。僕はずっと、この温もりが欲しかったのかな…背中も………背中?)」
おかしい。彼は自分の正面から抱いているはずなのに…何故背中が温かい。
「そりゃ温かいだろう…2人共、セレネの腹の上だという自覚はあるのか?」
「「……………」」
2人は途中から、完全にセレネの存在を忘れていた。こんなにもデカいのに…いや、デカすぎて逆に見えていなかった。
彼女達は顔を合わせて…ぷっ、と小さく吹き出したのであった。
※※※
この日からセレスタンは、徹底して家族と距離を置くようになった。
食事もダイニングに顔を出す事は無く。移動も馬車でなく、全てセレネにお願いした。
自分を愛してくれない家族なんてもういらない。シャルロットはなんとか仲直りしようと声を掛けて来るが…それも拒んだ。
可愛い妹なのは変わらないけれど、どうしても今まで通りに振る舞えないのだ。
心苦しいけれど…もうこの家に、自分の居場所は無い。
…いつかシャルロットは、真実を知る日が来るかもしれない。その時に優しい妹は、傷付き自分を責めるかもしれない。
だから…「あのクソ姉貴、いなくて清々するわ」くらいに嫌われておこうと、セレスタンは決めた。
新学期が始まり、セレスタン達は4年生になった。
教室に入れば、ルネが生徒達に囲まれている。皆話を聞きたいのだろう。
そんなルネはセレスタンの姿を確認し、生徒達に断りを入れてから彼女に駆け寄って来た。
「おはようございます、セレスさん!新聞、ご覧になりまして?」
「…おはよ、ルネさん。うん…見たよ」
「………?」
ルネは、別にセレスタンの為にあの法案を出した訳では無い。だがセレスタンと知り合い友人になって、彼女の境遇を知って…「これは、彼女の為にもなるのでは…!?」と感じていた。
ずっと男装を強要されて苦しんでいるのを見てきたから。今後は…女性に戻って、堂々と女伯爵として生きていけるはず。
だから…今日だって、顔を合わせれば…きっと明るい笑顔で声を掛けてくれる、と疑っていなかった…。
「…ルネさん、あのね…。
僕、捨てられちゃった」
「……捨て、られた…?」
セレスタンは、他の生徒に聞かれぬよう…小声でそう言った。
「うん…。爵位はロッティに譲るから、お前は成人したら出て行けって。
でももういいの。そんな家族、いらない。だから僕、今まで通りロッティと一緒にいられないから…これから先、妹をよろしくね。
どんなになっても、僕の可愛い妹だから…」
セレスタンはそれだけ言うと…ルネに背を向け、自分の席に座る。
「え…そん、な…。だって、私。セレスさんも…喜んでくれると、思って…」
ルネはセレスタンの言葉が信じられなかった。だが嘘を言っているとも思えない、そもそも彼女はそんな嘘をつく人じゃない。
ならば…真実なのだろう、と…。彼女もなんとか自分の席に座るが…その目には、涙が浮かんでいるのであった。
セレスタンはシャルロットだけでなく、バジル、ジスラン、ルネとも距離を置くようになった。
バジルとルネとは少し会話をしてはいるが…やはり壁はある。この2人は彼女の秘密を知っているので、迂闊に踏み込めず今の関係を保つのに精一杯だった。
だが…どうしても納得出来ない男が1人。
「何故だ…何故俺達を避ける!こうなったら…!」
「なんでボクを巻き込むんだよ。関係無いだろうが、離せ!」
「いいから付き合え!!」
それが先程名前の上がったジスラン・ブラジリエ。彼は友人であるエリゼ・ラブレーを連れセレスタンの部屋に向かっていた。
学園では話し掛けても逃げられる。ならばもう、逃げ場のない寮で決着をつける!!と意気込んでいるのだ。
この2人は元々、シャルロットという共通の友人がいる程度の間柄だったが…正反対の性格をしている2人は馬が合い、行動を共にする事が多くなっていた。
ただしエリゼはセレスタンとは親しくない。今でも「妹の腰巾着」だと思っているし…口数の少ない彼女の事を不気味にすら思っている。
「どうせ妹に爵位を奪われたから、逆恨みしてるんだろうよ。そういう噂ばっかりじゃないか」
「あいつはそんな男じゃない!!」
その噂は半分正解とも言えるが。エリゼを引き摺りずんずん進む。何故ジスランは彼を巻き込んでいるのかというと……。
ジスランは未だ、セレスタンに未練がある。かつて一目惚れした少年に、無自覚ながら好意を寄せているのだ。
つまり…「好きな子の部屋に行くの、1人じゃ恥ずかしいからついて来て」状態なのであった。
そうして2人は、セレスタンの部屋の前までやって来た。
「はあ…出て来るとは思えないんだけど。あいつが開けるまで粘るつもりか?」
「いや、セレスタンはあれで結構抜けていてな。しょっ中鍵を閉め忘れるんだ。…やっぱり掛かっていない」
ノブを回し確認するジスラン。不用心すぎる…と思うエリゼ。
「行くぞ…!」
「え、ノックは?いくらなんでもそれは」
「そんな事したら逃げられるだろうが!
せーの…セレスタン!!!話が、あ………」
ジスランはエリゼの制止も聞かず、バターーーン!!とドアを開けた。
だが、そのまま…固まってしまったのだ。
「…………」
「なんだ?どうし…………」
エリゼは背の高いジスランの陰になっていて、部屋の様子が見えない。急に固まった彼を不審に思い、ひょいっと中を覗き込んでみれば…
「「「…………………」」」
そこには、目を極限まで見開くセレスタンがいた。足元には白い毛玉が転がっているが、そっちは目に入らなかった。
風呂上がりだろうか、髪は濡れて邪魔な前髪は全て上げ、眼鏡もしていない。
右手には水の入ったグラスを、左手にはタオルを持ってソファーに座ろうとしていたようだ。
ただ、その服装が……薄手のタンクトップに短パン姿、しかもサラシはしていないという…年頃の男子には目の毒な格好をしていた…。
彼女は15歳になり、胸部も成長していた。サラシでも隠しきれず、夏でもダボダボの服を着るくらいには。
それが今は、身体の線に沿った服を着て惜しみなく主張されている。男子2人の視線は、そこに固定されていた。
「………間違えました~……」
「…ああ…はい……お気になさらず…」
どれほどそうしていたのだろうか。エリゼが声を出し、ゆっくりとドアを閉めた。
「「??????」」
廊下で2人は顔を見合わせた。そして部屋番号を確認…503、間違いなくセレスタンの部屋だ。
そしてもう一度、ゆっくりとドアを開ける。そこには…寸分違わず立ち尽くすセレスタンの姿が……
「「「う…うわあああああああぁぁぁーーーっっっ!!!?」」」
この日から完全に、セレスタンはこの2人を避けるようになったのだった…。
応援ありがとうございます!
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