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学園4年生編

sideジェルマン

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 お嬢様が変な子を拾った。

 名前はファイ、スカイブルーの髪の女の子。今年15歳という事はお嬢様達の1つ下か。はあ…シャルティエラお嬢様じゃ、放っておけないよな…。


 ファイを拾った日の夜、公爵閣下からシャルロットお嬢様に手紙が届いたらしい。

『今バティストにその子供の調査をさせている。何か情報があったらくれ。
 シャーリィは警戒もしないだろうから…ロッティ、頼むぞ』

 流石、分かっていらっしゃる。
 セレス…おっといかん。昔から弟みたいに可愛がっていたもんだから…油断すると敬称をつけ忘れてしまう。まあ、心の中でくらい許して欲しい。
 とにかく、セレスは抜けているところがあるからな…精霊殿の護衛もたまに用を成さないし。周りのオレ達がしっかりせねば!

 本来ならば寝ていようが、武器等持っていないか身体検査をするべきなんだが…セレスはさせなかった。甘すぎる…。



 結局この日、ファイは目覚めなかった。なので話が出来たのは次の日だ。


「お坊ちゃん、お嬢様。拾っていただきどうもありがとうございました!!」

「うん、元気になってよかったね。どこか怪我とかしてない?」

「はい!」

 彼女はセレス達の姿を確認すると、スライディング土下座をかましてきた。ふむ、自分の立場は把握しているようだな。
 セレスは優しく手を差し伸べて彼女を立ち上がらせ、一緒に朝食にしようと提案していた。

「あ、いえ!ボクは平民なので、ご一緒する資格はありません!」

「まあまあ、今はお客さんだし。さあ食べよっか」



「なるほど…親しくして油断させて、情報を引き出す作戦ね!」

 とシャルロットは感心しているが…違うと思う。多分そこまで考えてないぞ、あの顔。
 元々セレスは使用人とかと一緒にお茶をしたい性分だし、その延長じゃないかな。



「ボクはファイと言います」

 セレス、シャルロット、ファイの3人で食事をしながら会話をしているのを、オレ達が見守る。
 彼女はファーストネームを名乗らない…偽名か、もしくは…

「もしかして君、外国から来た?」

 だよな。発音も少し違うし。
 
「はい…テノーから来ました」

 ほう…。この近隣諸国はグランツ語を義務教育で習っているはずだから、話せても不思議じゃない。
 しかしテノーか。閣下や皇室、ナハトが警戒している教師もテノー出身だったな。そしてルシファー皇女殿下が嫁がれた国。

 殿下の事もあって、皇国としてはテノーとの関係を悪くさせたくない。
 向こうも同じ筈だから、タオフィ先生とやらをスパイとして堂々と送ってくるだろうか…オレには分からないな。
 

「テノーか。僕の知り合いにもテノーの人いてね、面白い人なんだよ~。
 僕はセレスタン・ラウルスペード。この子は僕の妹シャルロット。さあ、冷めないうちに食べちゃおうか」

「はい!」

 彼女らは他愛もない会話をしつつ、食事を進める。
 それにしてもファイ、よく食うな…すでにスープを5杯飲んでいる。この子は遠慮という言葉を知らないのだろうか。
 シャルロットはドン引きだし、セレスは「いい食べっぷりだね~」と笑っている。
 笑ってる場合か、食費請求してもいいと思うぞ。



 食事も終わり、いよいよセレスがファイに事情を聞こうとしている。
 警戒心を与えない為に、まだ子供のセレス本人が直々に相手をすると言う。同席者はシャルロットのみ、オレはいざという時の為の護衛として扉の横に控えている。

「でもオレよりデニスのほうが背も低いし、威圧感を与えないのでは?」

「いや、ジェイルは存在感無いから適任だよ!未だに同じ部屋にいても見えない時あるからね!」

 それ褒めてる?オレは複雑な心境に陥った。
 


「………さて」

 お茶にして少し和んだ後…セレスはテーブルに肘を突き、両手を口元に当てた。そして眼鏡を光らせ…本気モードだな…!!


「……ファイ、聞きたい事がある。いいね?」

「…………は、い…」

 ファイはごくりと喉を鳴らし、居住まいを正した。思わずオレとシャルロットも息を呑んでしまう。さあ、セレスのお手並み拝見といこうか…!



「………ファイ。ご趣味は……?」


「「「…………………」」」


 何言ってるんだろう、コイツ……。

 

「(……ハッ!!!成程…まずは遠い話題から、徐々に核心に迫る作戦ね…!!流石お姉様、人心掌握もお手の物ね!)」

 シャルロットはハッとした表情をしているが、多分違うと思う…。
 だって今のセレス、超汗かいて…「やっちまった!!!」って表情してるから…。

 はあ…こんなんじゃファイも口なんて割らねえって…


「趣味…ですか…!?ボクは…オシャレが好きです…!」

 真面目に答えやがった…。

「そう…じゃあ、今度僕のコーディネートお願いしてもいいかな…?」

「は、い…!磨き甲斐がありそうです…!」

 おお、少し距離が縮んだ!まさか、本当に作戦だったのか…!?
 とはいえダイニングを重苦しい空気が支配しているのは変わりない。次はどんな質問をする気だ!?


「…ふう。じゃあ好きな色は…?」


 …………それで何が分かるというのだろう。流石にシャルロットも訝しげな目をしている。

「(き、きっと共通の話題がないか探っているのねお姉様!遠すぎる気もするけど!!)」

「色…。青、いえ…うぅん、悩みますね…。服だったら白とか緑、オレンジも捨て難い…アクセサリーなら赤。うーん……白です!」

「そう…白、いいよね。じゃあ、休日の過ごし方は?」

「自分磨き、家事。それと買い物ですね」

「そっか。僕は剣振ったり勉強したり、お父様の仕事を手伝ったりだなー」


 なんでコイツらお見合いしてるんだろう…。その時扉がノックされ、バジルが顔を出した。
 

「あの…登校のお時間ですが…」

「わ、もうそんな時間!?じゃあ行ってくるねー!」

「行ってらっしゃいませ!」



 モニク、グラス、カスリ卿、そしてファイに見送られオレ達は家を出た。
 歩きながらセレスは拳を握りドヤ顔をする。
 
「よし。まずは一歩前進したね!この調子で話を聞き出そう!」

 ゴールは何百歩先なんだろう。まあ最悪…週末一緒に本邸に帰って、ファロ殿に尋問してもらうか…。






「…………バティスト、ロッティから情報が来たぞ」

「おっ。見せてみ!」

 シャルロットが始業前に送った手紙の内容とは…
 

『名前はファイ。偽名の可能性あり。
 テノー出身。真偽はともかく、グランツ人ではない。
 14歳。外見年齢もそのくらい。
 髪は水色、目は黒。貧乳。自称平民。
 趣味はオシャレをする事、好きな色は白。
 休日の過ごし方は家事、買い物、自分磨き。
 また何か判明したら報告します』


「「………………」」


 
「…参考になるか?」

「後半は…無いよりはマシ…かな?」


 頑張れ便利屋さん。




 ※※※




 それから2日経った。セレスは肝心の「どうして倒れる程衰弱していたか。何故テノーからこの国に来たのか、家族が心配していないのか。公爵家に用があるのか」…という話を出来ていない。
 聞き出そうとしているのに、切り出せないのだろう。毎回どうでもいい話題を提供している…。


 ただしその甲斐あってか、なんか普通に仲良くなってる。セレスとファイは最早友人レベルである。


「いや、坊ちゃんはこっちのほうが似合いますって!」

「えー、でも僕こっちの青がいい…」

「坊ちゃんの髪色には合いません!そうだな…このライムグリーンとかがいいです。青を入れたければ、サイドにブローチを付けましょう」

 と、一緒に帽子を選んでるし。いやなんで?

 それとファイは、お世話になっているのだからと仕事をしたがった。もしかしたら仕事の振りをして、盗みをするのかもしれない…だが断るのも不自然だ。
 という訳で、必ず誰かが側にいるようにして彼女にも仕事を与えた。ただしモニクに渡されたメイド服を見て…渋い顔をした。なんで?


「…………まあ、いいか…」

 少し不満げだが観念して着た。セレスは「もっと可愛いメイド服にするべきか…!?ミニ丈とか、フリル増やすとか…」と呟いていた。ちょっと興味あるなそれ…。

 普段から家事をしているからか、結構手際がいい。レベッカもモニクも褒めていたし…金銭や宝石類をくすねる様子も無い。
 そうなると、ますます何が目的なのか…見えないなあ…。
 オレらのほうで犯罪者名簿とかに載ってないか調べたが、顔も名前も全然ヒットしなかった。一体何者なんだ…?




「……どうして坊ちゃんは、何も聞かないんですか?」

「…………………」


 更に2日後。寝る時間も迫るがまったりお茶会中。この時はオレ含む使用人達もご一緒する。もちろんカスリ卿もな。
 事情聴取も出来ないまま明日は本邸に帰るんだが…なんとファイのほうから痺れを切らしてぶっ込んできた。

 セレスは何も答えない。まあ単に言い出せなかっただけなんだけど。


「…………君が言いたくなったら…聞くよ」

「そうですか……後で、2人になれませんか…?」

「………いいよ。先にお風呂入ってきちゃいな」

「では、失礼します」


 と…ファイは風呂に向かった。なんか押して駄目なら引いてみろ状態になってる!?
 無理に聞き出そうとするシャルロットやモニクには一切心を開かず、セレスには懐いてるし!!まさに北風と太陽。



「もしかして、生活に困窮していて…普通に保護を求めていたんじゃないかしら?」

「なんでうちに?」

「前フェイテが言ってたんですが…お嬢様を見かけた瞬間「優しそう、この人は信用出来る」って感じたらしいです。それと同じかもしれませんよ?」

 姉妹とグラスでコソコソと話している。もう遅いので、高齢のオランジュ夫妻は休み…オレらは談話室で会議中。
 ちなみにバジルとモニクは今日は非番で、2人で外食をしている。オレもそろそろ嫁探ししないと…はあ。


「でも確かに…シャルティエラお嬢様には明らかに態度違うよな…」

「好意…親愛?慕情?」

 子供組とオレら騎士組に分かれて論じ合う。無意味だけど。
 本人がこの後セレスには打ち明けるつもりみたいだし…それ待てばよくない?


「あっ」

 その時グラスが声を上げた。何事かと思えば…

「さっきおれが風呂に入って、石鹸使い切っちゃったんでした…補充忘れてた!」

 え。それじゃあファイが使えないじゃないか。しかし相手は女の子、グラスやオレらが持って行く訳にもいかず。
 モニクは外出中、レベッカは就寝。となると…


「いいよ、僕が持って行くね」

「すみません、お願いします」

 残されたのはセレスとシャルロット。ファイが慕っているセレスが石鹸を持って行く事に。
 部屋を出るセレスの背中を見送りながら…何かが頭をよぎる。



 ………なんか、忘れているような?

 それはオレだけではないようで、この場の5人全員が変な顔をして唸っている…。


「………あ!!!」

 っ!?ビックリした…!カスリ卿が珍しく大声を出して、立ち上がりテンパっている。どうした?


「えと、えと…こ、公女!!今、公子!!ファイ、女性!ビックリ!!」


 えーと…セレスは女性だけど、今は男装中。そしてファイは女性。
 つまり男のセレスが、女の子の入浴中に突撃…………


「「「あああーーーーー!!!?」」」

 マズい、間に合え…っ!!




「…みぎゃああああああああっっっ!!!??」



「「「「…………………」」」」

「手遅れだったな…」

 談話室の扉を開けた瞬間…使用人専用風呂場のほうから絶叫が…なんでデニスは他人事なの?
 しかし、こうなったらファイにもセレスの正体を明かす必要があるな…とか考えていたら、シャルロットがボソッと呟いた。


「今の…お姉様の声じゃなかった…?」

 その発言に、全員が固まった。言われてみれば…?
 オレ達はダッシュで風呂場に向かった。すると…闇の精霊殿が、セレスを横抱きにしながら廊下を歩いて来る…?

「いやー、ぼくも騙されたよ。ヘルクリスは?」

「私にとっては些事だ。気にしてもいなかったな」

 風の精霊殿も…一体なんの話をしているんだ?セレスはというと、真っ赤な顔で半分意識飛んでるし。何があった…お湯でもぶっかけられた?


「お姉様、何があったの!?」

「ろ、ろってぃ…」

 彼女は駆け寄るシャルロットの顔を見て…両手で顔を覆った。そして声を絞り出す。



「ファイ………ボクっ娘じゃ、なくて………


 男の娘……だっ、た………」


 がくり…と脱力するセレス。


 え…おとこの、こ?男…?

 オレ達は誰も状況を理解出来ず…その場に佇むのみ。
 その時、ふよふよとセレスの腹の上に紙が降ってきた。それをオレが無意識に拾い、読み上げた。


「『子供の身辺調査完了。詳しくは明日話すが、その子は男だ。世話はバジルかグラスに任せるように!!』って…。
 3分遅いです…団長……」


 このセレスの様子を見れば分かる。見て、しまったんだな…アレを…。
 オレ以外も悟ったようで、シャルロットも顔を赤くし…男連中はどっちに同情すればいいのか分からずにいる。



 結局誰も口を開く事なく…静かに談話室に戻るのであった。

 
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