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学園4年生編

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 いよっし、準備万端!わたしは首都にあるタウンハウス、自室の姿見に向かいポーズを取る。
 今日は皇宮にお出掛けだが…男装姿ではなく、お洒落な膝丈ワンピースを着ているのだ!くるっと回ればふわっと広がる、可愛い!

 少那はどんな反応をするのかな?わたしと手を繋げるのだろうか…逃げられはしないかな?そんな事を考えていたら…パスカルが迎えに来たらしい。
 スクナ殿下と会う時は必ず俺も同行する!!と言って聞かなかった。もうちょい信用してよ、と思う反面。……なんとなく、大事にされているみたいで…嬉しい。言わないけど。


 
 さてさて、玄関に向かうとパスカルが。わたしの姿を見て、蕩ける笑顔で褒めちぎってくれやがった…。心臓が保たないから、やめてーや。
 そんで今日のお供はフェイテだよーと紹介し、馬車に乗り込む。セレネで良くない?とも思うけど。やはり彼も、精霊を便利な乗り物として使いたくないようだ。ただ…


「…………(以前より胸が萎んでいる。つまり…今日は余計な詰め物をしていないのか…?)」

 隣に座るパスカルが…わたしの胸元を凝視している。なんか前にもこんな事あったな…?じゃあ…次の彼の行動は……っ!
 彼はむにっと、遠慮がちに…確かに胸を揉んだ!!?


「あにすんじゃいっ!!!」

「…今度はズレなかっぼぉい!!!」

 わたしはパスカルの顔面に拳を叩き込んだ。何してくれやがるんだこの変態野郎は…!



「(パスカル様…今まで挨拶くらいしかした事ねえけど…こういう人だったのか…。見た目は気難しそうだが男前なのに…なんて残念な人なんだ。
 いつも穏やかで、のんびり屋なシャルティエラお嬢様ですらこの勢い。でも…普段彼の話をするお嬢様は、本当に幸せそうに笑うんだよなあ…)」


 フェイテが憂いを帯びた表情でハンカチを差し出して来た。それを受け取り手を拭き…ふう、落ち着いた。




 馬車が皇宮に着く頃にはパスカルも復活していた。そんで…めっちゃ自然に、わたしの肩を抱いて歩きやがる…。わたしがスカート姿だからって、女性だって勘違いしてない?
 距離が近過ぎて緊張するし、恥ずかしいんですけど!?と訴えるも、逆に更に密着してきたので…諦めた。


「お、来た来た。似合っているな」

「…!セ、セレス…やっぱり可愛い、ね!」

「あり、ありがとう…」

 少那の部屋に通されると、そこにはルシアンもいた。そんで2人も褒めてくれたのだが…少那の不器用な褒め言葉は…本心だという事が伝わるので、こっちも本気で照れるな…。
 ひとまず座ってお茶にするも、この後どうすんの?遊ぶ?勉強する?外行く?


「そうだね、私はまだ自分の足で街を歩いていないんだ。よかったら、首都を案内してくれる?」

「いーよ!でもその前に…」

 温泉のお土産を渡すと…少那が首を傾げる。

「あれ?セレス、服脱いで良かったの…?」

「……!あの、ね。グランツの温泉ってのは……」
 

 ヤバい、しかし引き返す事は出来ない。仕方なく「専用の湯浴み着があるから、火傷も隠せるの」と言い訳をする。そしたら…!


「へえ…!じゃあ、今度一緒に行きたい!冬だったら予定を合わせられるかな?皆で旅行しようよ!」

「「「うぐっ…!!」」」

 少那が輝く笑顔で言い放つ。あまりに眩しくて…わたし達は目を覆った。
 まあ…あれだな。冬までに少那の女性恐怖症をなんとかして、全ての事情を打ち明ければいいさ!出来なかったら…

 そん時は冬のわたしに任せる。頑張れ!



「あまり大人数になっても、護衛の仕事が増えるだけだし…私は行かない事にするよ。セレス、マクロン。スクナを頼んだぞ」

 そうなの?ルシアンがそう言うので、わたし、パスカル、少那、フェイテ、咫岐。そして護衛さん達で行く事に。護衛は離れてついて来るようだが…ジェイルはくっ付いて歩くだろうな。
 にしても首都を案内するのはいいが…闇雲に歩き回るのも疲れる。何か見たいものは?欲しいもの、食べたいものはある?


「うーん…そうだなあ…少しお茶にしてみたいかな」

「よし。じゃあ…僕がたまにラディ兄様と一緒に行くカフェはどうかな?」

「行ってみたい!」

 よしよし、では早速出発しますか~。よっこらせと立ち上がり、外に向かった。



 皇宮は街から離れているので、少しだけ馬車で移動。フェイテは御者の隣に乗り、ジェイル達護衛は馬。で…ここで…ハプニング発生。


 パスカルがわたしをエスコートしようとしてくれたのだが…それこそ少那の特訓の為、彼にやってもらうべきだ。パスカルは渋い顔をするが、納得して大人しく先に乗り込んだ。

「私が…?」

「そうだよ!まあ練習だし、よろしく!」

 
 わたしは上半身だけ後ろを向き、笑顔で少那に手を差し出した。彼は少し戸惑い…頬を染め、こっちに向かって歩き出す。



 その瞬間…ビュゴオォッ!!…と、突風が吹き荒んだ。



 今日は風が少なく、蒸し暑くて汗が気になる…という気候。だというのに…本当に、この瞬間だけ風が吹いたのだ。
 台風が近付いている訳でもなし。春一番には季節が合わず。どう説明する事も出来ない…奇跡的な突風。

 その突風は……


「「あっ」」


 ふわ~お…わたしのスカートを…芸術のように捲り上げた。気分はマリ◯ン・モン◯ー。


「うぎゃっあああお!!!?」


 咄嗟の事で、色気も何も無い悲鳴を上げてしまった!バババッ!!と両手を使いスカートを押さえる。だがそのイタズラな風は本当に一瞬で終わったので……すでに意味は無い…。

 恐る恐る顔を上げると…馬車の中には、目をまん丸にするパスカルが。今捲れたのは…後ろ側だから……ゆっくりと後ろを…向く…と……


「………………………っ」


 首まで真っ赤に染めた少那が……わたしを凝視して…い、た…。


 見…見られた……!!!!その事実に…こっちまでカァ~…っと顔を赤くしてしまう。
 だ、大丈夫。お尻のほうなら…バレていない、と思う!!ただ…純粋に、恥ずかしい……!!!
 
 さり気なく周囲を見渡すが、角度的に咫岐は…平気。フェイテも、見ていない。他の皆さんも遠かったりそもそもこっちを見ていなかったり。
 じゃあ…本当に奇跡的に少那だけ…特等席で、わたしのセクシーショットを見てしまったと言う事か…!!なんだそのラッキースケベ!!?
 前から思ってたけど、少那ってラブコメ主人公っぽいとこあるよね!?その場合、ヒロインに該当する人物がわたししかいないのが困りものだけどさ!!


「(し…白…の、花柄!!なななんで、下着まで…女性用なの…!?そ、そこまで徹底してくれなくても、いいのに…!!)」

 右手で顔を覆い、わなわなと震える少那。バレてない、よね…?


「おっわ!?」

 わたしはスカートを押さえるポーズで固まり、少那も立ち尽くしたまま。動けずにいたら…腕を強く掴まれて、凄い力で馬車に連れ込まれた!?

 いてて…座席の上に座らされて…目の前には。

「………………………」

 ちょ~うイイ笑顔のパスカルが。あの…額に青筋立ってますよ?彼はわたしの上に覆い被さり…


「っぎゃあああーーー!!?何、何すんのっ!!?」

「俺にもっ、見ーせーてー!!殿下ずるい、悔しいいいい!!」

「だああーーー!!やめんか変態紳士!性欲魔人!!どすけべ大明神!!!」


 いぎゃあっああああーーー!!!パスカルが、スカートを捲ろうとしているうう!!
 馬車を揺らしながらドタバタと暴れまくる2人。誰かこの暴走精霊王止めてえええーーー!!!


「はーい。全く…パスカル、余裕の無い男は嫌われるよ」

 はあ、はあ…!その時ヨミが姿を現し、パスカルを引き離してくれた。助かった…!!セレネは残念そうな顔をしているが。君もかい!!!

 わたしは肩で息をして、なんとかパスカルから距離を取る。すでに乗ってしまったし、最早エスコートもクソも無いので…とっとと少那と咫岐にも乗るよう促す。
 だが…少那はまだポーッと動かない。咫岐が肩を掴み揺らすも、魂は抜けたまま。もう無理やり乗っけるか…とか考えていたら。


「ちなみにパスカル…今日のシャーリィの下着は…白の」

「なんで知ってんだーーー!!!また着替えを覗いたのか君はっっっ!!!?」

「いや…ぼくは君の影に入れるんだよ?スカートとか穿いてたら…下から見えるに決まってるじゃん」

「そういやそうだったね!!!?」

 ああもう…!ヨミは影禁止にするかな?常に外に出ているように…でも…いざという時、困るかも。うーん…。
 ひとまず今日は呼ぶまで影から顔を出さないように!とお願いし…目的を果たしますか。


 少那を3人掛かりで運び、馬車に押し込む。で、わたしの隣に座、座り…

「狭い!!パスカルは向かい側の予定でしょうが!」

「断る。狭ければ、君が俺の膝の上に座ればいい」

「断る!!!」

 2人掛けの座席に、咫岐以外の3人が詰め込まれている。デカいパスカルが真ん中に居座るから…ああもう!!!
 結局わたしが抜け出し、咫岐の隣に座る。パスカルは寂しそうな顔で見つめてくるが…ま、負けてたまるか!!!まあ…2人きりだったら…膝の上でも…いい、けど。


「白…白かった…花柄…うぅ…し、し…ろ…」

「セレスタン。次からスカートの時は必ず下に短パンを穿くように!まあ、俺と2人の時は要らないけど。それから…」

 何やらブツブツ呟く少那。ぐちぐち喧しいパスカル。咫岐は無言で座るばかりだが…ああ、早くも帰りてえ…。




 ※※※




 馬車が止まる頃には、なんとか少那も正常に戻っていた。なので今度こそエスコートをしてもらう。彼はゆっくりと手を差し出し、わたしも静かに手を重ねて降りる。よし、出来た!!
 なのだが。わたしが降りる時…パスカルが手でスカートを押さえていて、非常に歩きづらかった…。なんて酷い絵面、そんなに何度もサービスしてたまるか!!!


「じゃあ行こっか。あっちだよ!」

「う…うん!」

 そのまま少那と腕を組んで歩き出す。彼は少し恥ずかしそうにしていたが…抵抗は無さそうだった。多分まだわたしの事を男性だと認識しているお陰だろうが…こう、胸を押し付けて「当ててんのよ」とかやってみる?
 いや…偽乳だと思われるだけか。普通に恥ずかしいし、やっぱやーめた。


「(スクナ殿下あぁ…!!今すぐ彼を突き飛ばして、俺が彼女の隣に立ちたい…!いや、今は我慢だ。後でたっぷりシャーリィを堪能してやる…!!!2人っきりになったらあんな事やこんな事、そんな事までして…あ、いや…嫌われたくないや…とにかく羨ましい!!!)」

「(なんか……パスカル様すんげー黒いオーラ出てる。やべーなコレ…お嬢様も変なのに好かれちゃったなあ…哀れ。でも本人が幸せならいいのか…?
 いやでも…もしもネイがこんな彼氏を連れて来たら…複雑だなあ…)」

「(少那…あんなに楽しそうにして…ふふっ。これでお相手が女性だったら言う事は無いのだが…と、失礼な事を考えては駄目だな。今は少那の為に身を挺して練習台になってくださっているセレスタン様に感謝せねば)」



「(………幸せそうにはにかむ2人。の後ろを憤怒の表情で睨み付けるマクロン。その後ろを憐憫と慈愛の目をする従者2人。なんだこの一行は…)」



 わたし達の後ろが大層面白い事になっているようだったが…全く気付かなかった。
 

 お店に着き、ここはカウンターか4人掛けのボックス席しか無い。全員は一緒に座れないので…従者コンビとジェイルは隣のボックスに座る。で、こっちはわたしとパスカルで並び、少那が向かい側。パスカルの無言の訴えに負けた結果さ。
 しかし女性店員さんとか、拒否反応出ない?と訊ねてみたが…少那は席の端っこギリギリに座れば大丈夫そうだった。でも本当、すごい進歩だよ!!


「これ美味しそう~。でも大きいな…」

「俺が半分食べようか?」

「いいの?じゃあ僕このフルーツパフェ!少那はどうする?」

「う~ん…このコーヒーセットで」

 
 それぞれ注文し、まず一息。折角なので、夏期休暇の予定について聞いてみた。


「来週は皆でヴィヴィエ家の別荘にお邪魔するだろう?その後は…まあ課題とかこなして。今年もラウルスペード家に遊びに行っていいか?」

「いいよー!少那もどう?でも護衛とかいっぱい必要になるかな」

「大丈夫、行けるよ!何日前に連絡すればいいかな?」

「ああ、直前でもいいよ。パスカルとかエリゼとか、アポ無し訪問しょっ中だし。それでたまに、僕が不在だったりするんだけど…そん時はバジルとか使用人達にちょっかい出してるし」

「す、すごいね…?」

 本当にね。流石に勝手に部屋に入ったりはしないが…フリーダムすぎるんだわ。むしろジスランのほうが、いつ行くってちゃんと連絡寄越すよ。


 しかしルネちゃんちの別荘か~。楽しみだなあ、漫画でも、5年生になったシャルロット達がお邪魔してたんだよね~。
 そんで海でちょこっと遊んだり、屋敷の探検をしたり。山に入ったり家探ししたり。………ん?なんで人んちの別荘荒らしてんの、ヒロイン一行?そういや…バカンスは二の次って感じだったな?
 じゃあ、何しに別荘行ったのシャルロット達は?なんかヴィヴィエ家に残る伝説でも解明しに行ったの?

 いや待てよ…確か優花はその辺までしか読んでいない…。えーと…?5年生の夏期休暇が終わって、学園に戻って来て。その時セレスタンはすでにいない。
 で…今までちょくちょく嫌がらせを受けていたシャルロットだが、その黒幕がゼルマだと判明して。その後を…知らない。えぇ~…?


 とまあ、わたしが1人頭を悩ませている間。


「スクナ殿下…貴方は本当にセレスタンを愛していると言えるのですか?」

「正直、分からない…。ただ彼と腕を組んで歩いて…一緒にお茶をして。この時間が幸福なものだというのは断言出来る。
 それが…友愛なのか恋愛なのか、判別がつかないだけかもしれない。セレスと一緒にいると胸が高鳴るし、その笑顔をずっと見ていたい…とは思うけれど。
 むしろ私は、貴方の話を聞きたいな」

「俺の…?」

「うん。貴方がいつセレスを友人としてではなく、愛しい人と認識するようになったのか。参考になるかもしれないし…単純な好奇心でもあるけどね」

「…構いませんよ。始まりはもう10年以上前の——」

「思ったより昔だね!?」
 

 と、2人はパスカルとわたしのラヴ・ストーリーで盛り上がっていたらしい。
 その時わたしは「えっと…確かバカンスメンバーは…あれ、ルシアンがいなかった…?」と、一生懸命前世の記憶を探っているのであった。



「……なんだか隣は盛り上がってますね…」

「そうだな。まあ坊ちゃんは自分の世界に没頭して、2人で話が弾んでいるんだけど」

「恋愛ねー…ああ、いつになったら俺の元に巨乳のお姉さんが来てくれんのかなー…」

「んっふ…!!フェ、フェイテさんは、そういうご趣味でしたか…」

「そういうご趣味です。俺としては、咫岐さんの好みとか超気になりますけど?例えば…木華殿下の侍女の薪名さん?あの人とかどうなんです???」

「……あれは、双子の姉です」

「「うっそお!?」」

「よく言われます…。とにかく!私は…好みとか、別に…」

「そうなん…だ…。ちなみにオレは断然年下派。気の強い男勝りな子が時折見せる儚さとか…めっちゃ突き刺さる。後は~…手作りお菓子をくれる、とか」

「具体的ですねジェルマン卿!それなら俺だって…普段は一切隙の無い女性が、酔っ払ってる時とか弱っている時なんかに、無言でぽすっともたれ掛かって来たりしたら…最高!」

「貴方もやたら具体的ですね…(私の好きなタイプ…か。今までそういうのとは無縁だったし。でもそろそろ…考えてもいいかもしれない。この2人やパスカル様の話が参考にならないかな…)」


 という感じに…隣も恋愛トークで盛り上がっていたらしい。いや、わたしだけ除け者にしないでよ寂しいじゃん!!
 結局薄暗くなるまでカフェに居座り。少那の女性に慣れよう!な特訓記念すべき1回目は恋バナで終わったのでしたとさ。


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