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学園4年生編
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しおりを挟む肝試しはサクサク進む。
「うおっとお!?」
「きゃああっ!!」
エリゼ&ルネペアが林に入り5分程経った頃。
最初は何が起こるのかと腰の引けていたルネに対し「とっとと終わらせる」とエリゼが彼女の手を引っ張って、ズンズン歩いて行った。
ルネは憤っていたが、林は真っ暗でたまに風の音が響くくらいで…特に脅威は感じなかった。
これなら大丈夫、とルネが油断した瞬間……彼女の眼前に、逆さまの落武者が降って来たのであった。
「安心してるところを脅かすの効果的だよー!」と入れ知恵したのは誰でしょう?
「ひっきゃああああーーーっ!!!?」
「なんだコイツ!!?見た事無い装束に…うわっ!!」
「きゃあ!ぎゃああ!!いーやーーー!!!」
それを皮切りに、次々精霊トラップが炸裂する。暖炉が人魂を作ったり、トッピーやノモさんが土人形の形を変えて髑髏兵を生み出したり。セレネが光を操り、白いワンピース姿の女幽霊の幻覚を見せたり。
ちょくちょくお化けが和風なのは…考えたのがセレスタンだからである。こちらの人には通じないかもしれないが…恐怖心を煽るシチュエーションで得体の知れない物が現れたら、それだけで充分恐ろしいのだ。
「うーん、上手くいったね」
「ヨミよ。お前のその格好はなんなのだ?」
「シャーリィがね、オチムシャだよ!って言ってた。この禿げ具合と刺さっている矢がポイントだって。彼女の話から再現するのは中々骨が折れたよ」
「分からん…」
パニックに陥るルネが、エリゼの腕を引っ張り走り回る。「待てっつーの!一旦冷静に…!」「きゃあああ~!!!」「聞け!!!」と…セレスタン好みの展開になっていたのであった。
※※※
「エリゼ様。貴方は親同士が決めた婚約について…どうお考えですの?私は両親に「好きな相手と結ばれたらいい」と言われてはおりますが…それはそれで大変なのですよ。
以前お会いしたフルーラちゃんは、貴方の事を本当に慕っていらっしゃるようですし…貴方も彼女を愛しく思っているのでしょう?」
「………うーん…まあ、な。オレのほうに不満は無い。
ただフルーラのあの感情が…異性に対するものなのか、オレを兄のように考えているだけなのか…」
「まあ…」
「…7歳にゃ、分からんだろうよ。恋愛なんて、オレだって未だに理解していないし。フルーラの事は…可愛いとは思うけど。パスカルみたいな欲も無いし…」
「7歳相手にアレしてたら、私縁切りますわよ?」
「しねえわ!!いやあいつだって、セレスが子供だったら手ぇ出さねえだろっ!?多分…」
「多分なのですね…でもエリゼ様、1つだけ。
あまりフルーラちゃんを、お子様扱いしない事ですわ。7歳なんて…立派なレディですもの」
「…へーへー、肝に銘じておきますよ。
それよりルネ嬢…いい加減歩けないのか?」
「……………」
なんとか道の先、大岩の上に置かれていたコインを回収した2人。だが…ルネが腰を抜かしてしまって、現在エリゼがおんぶしているのである。
「コインを取ったらもう脅かしちゃ駄目」「本気で泣き出したり倒れたりしたら助ける事!」と言われていた精霊達は…「やれやれ仕事は終わったぜ」と言わんばかりにだらける。
ただしそれを知らない2人は…無駄に警戒しながら歩を進めるのであった。
結局最後までおんぶされ…皆の所に戻った時。ルネは顔を真っ赤にして俯いてしまったのでした。
「よっしゃー!次は僕と少那だね、張り切って行こうか!!」
「ちょっと待て!!この仕掛け、お前がやってんだろ?ならお前有利すぎだろうが!!」
「いやいやいや、タイミングとかは全部精霊にお任せだし。僕だっていつ何が飛び出してくるのかよく分かんないよ」
「ひ…ひいぇ…ややややっぱ私、棄権を…!」
「レッツゴーだよ!!」
帰って来たエリゼは抗議した。
だがジスランペアもエリゼペアも、かなり脅かす事が出来てご満悦なセレスタンは流す。謎に腕をぐるぐる回し準備運動。待ってました自分の番…真っ青な顔の少那の腕を掴み、足取り軽く歩き出す。
「……こんな暗い夜の林で…男女2人…何も起きない訳がない!!?あばばばば…!!」
今にも2人の後を追いそうなパスカルをジェルマンとフェイテが抑えつける。さて、意気揚々と出発したセレスタンは、と。
「う、うわーーー!!?ぎゃああっ!何あれえ!!?」
「わー!!?待って落ち着いて少那!アレはただの…」
「あ゛ああああああっっっ!!!」
怖がりなのか、少那は些細な仕掛けにも盛大に驚いた。耳を生温い風が通れば飛び上がり、ただ躓いただけで防御姿勢を取り転がり、手に何か掠っただけでランプを放り投げてしまった。
セレスタンはむしろ…そのリアクションに驚く羽目になった。
「灯りがーーー!!?暗い、暗いよセレス!!」
「そこそこ、そこにあるよランプ!!っきゃあああーーー!!?」
「わーーー!!!置いていかないでっ!!!」
終いには…少那は正面からセレスタンに抱き着き離れなくなった。彼女は今男装姿ではあるものの、流石にこの密着具合はまずい、と焦る。
「ま、待って離れて!一々お約束しなくていいっつーの!!」
「無理無理無理無理!!っわ゛ああーーー!!?何今のっ!?」
「ただの虫の声だけどっ!?」
セレスタンが何を言っても少那には届かず。なんとか少那を落ち着かせようと、ゆっくり彼の背に手を回すも…その手にすら驚き、益々彼女を抱く腕に力を込めてしまった。
「うっきゃああああーーー!!?」
「ひぎゃああっ!!ああ、ぁ…………きゅぅ」
最終的に耐え切れなくなった少那は気絶し…
「………トッピー、お願い」
「はいはい」
トッピーの上に少那を乗せて。セレスタンは1人でコインを回収するのであった。
ただ1人でいる時も散々驚かされ、大岩の直前で腰が抜けてしまったので…大岩まで匍匐前進で進み。帰りは少那と重なるようにトッピーに乗せられて、スタート地点に戻るのであった。
「ただ…い、ま……」
「………………」(気絶している)
トッピーは2人をその場に転がし、ドスドスと林の中に戻って行く。
仕掛け人であるはずのセレスタンですら、腰を抜かしてしまう程の恐怖。更にジスラン、シャルロット、少那もダウン…残りの3人は全身を震わせるのであった。
「次は…私達か…」
「正直、嫌な予感しかしないのだけれど」
次に出発するルシアン&木華ペア。2人は入り口に立ち…そろっと後ろを向く。
そこには…魘されている少那と、穏やかに眠るジスランが並べられている。復活したシャルロットとルネは顔を覆ったまま座り込み、エリゼは顰めっ面。
そして身動きの取れないセレスタンと…そんな彼女を膝に乗せて上機嫌のパスカルの姿があったのだった。
自分達もあの中に…最悪の場合、少那の隣に並ぶ事になる。
2人は気を引き締めて真剣な表情になり、互いに頷き合った。そしてガシッと手を握り…
「「おりゃあーーー!!!!」」
初っ端から全力疾走する事にしたのである。
だだだだだだだだ!!!!と、暗い道をひた走る!足下が見えなくて恐怖ではあるが、いくらなんでも山道のようなルートを採用しないだろう!とセレスタンを信じる事にした。
一応申し訳程度に灯りもあり、特に分岐点などはきちんと「順路☞」と夜光塗料で書かれた看板もある。
結果的に少々ボコボコした道にさえ我慢すれば、木にぶち当たる事もなく進めるのだった。
「なんだアイツら速いぞ!不味い、ドワーフ達の仕掛けが間に合わん!!」
「ム…!セレネが先回りするぞ、なんとかビックリさせてやる!」
と、悉くトラップを潜り抜けて走る2人に対して、段々と精霊達もヒートアップしてきてしまった。
「こうなったら…!トッピー、アレだよ!シャーリィの言っていたやつ!」
「お任せ、お任せ。ノーム、やるよ。ウンディーネ、手伝って」
先に大岩に着いてしまったら、もう手出し出来なくなってしまう!ならばその前に、絶対に悲鳴を上げさせてやる…!と、完全にムキになっていた(特にヘルクリス)。
ガザザッ!!
「ばああーーーーーっ!!!!」
「「ぎゃーーーーーっ!!?」」
最早仕掛けも何もなく、単純に飛び出して驚かせる面々。しかし驚きは続かず、「ひ、光の精霊様か!」とすぐに抜けられてしまう。
「さっきから、なんだか雑だけど…今のうちに!」
「ああ!このまま突っ走る!!体力は大丈夫か!?」
「心配ご無用よ!!これでも私、身体能力に自信はあってよ!セレスに剣を教わろうかと、思ってるくらいだもの!」
「そうか、それは頼もしい!」
手を繋いだまま、2人は林道を駆け抜ける。ランプもほぼ役に立っておらず、肝試しってなんだっけ?な状態だが…仕方ない。この世界に肝試しなんていう文化は無いのだから…
そしてコインのある大岩が見えて来て、2人は「あれだ!」と顔を輝かせた。急いで取って、速攻ターンして帰ろう!!と思っていたのだったが。
パラ、パラ…
「「ん……?」」
走る2人の上に…何か降ってきた。それは…砂、いや土のようだった。2人が足を止めないまま恐る恐る顔を上げると、そこには……
巨大な骸骨…がしゃどくろがいたのである。
「「……………………」」
がしゃどくろは2人を見下ろし…ゆっくりと手を上げて、まずルシアンに向かって……
「「わ゛あああぁーーーあぁあーああああああっっっ!!!!」」
ずっと怖くない、怖くないと自分に言い聞かせていた2人だが…ついに決壊してしまった。
ルシアンと木華は抱き合い絶叫し、そのまま来た道を引き返す。まるで一昔前のコメディアニメみたーい!とセレスタンが見ていれば言ったであろう光景だった。
がしゃどくろはバキバキと木を折りながら進む。何故なら木華達がコインを取っていないので…追い掛けているのだ。
「おい、おい。コイン、忘れてる」
「「ひいいあああぁっ!!!」」
迫り来る巨大髑髏に、ドドドドドドと地面を揺らしながら追い掛けてくる黒っぽい塊(トッピー)。更に面白がったヨミやヘルクリス、セレネもペースを落として走る。
「がおーーーーー!だぞ!!!」
「ふはははははは!!逃げ回れ!!」
「他の皆もおいで。とにかく数で追い掛けよう!」
精霊が皆大集合し、更に髑髏兵が列をなして美しいフォームで走る。ルシアン達はそんな百鬼夜行を引き連れ…スタート地点に…
「きゃああああーーー!!!」
「うわあああっ!なんだアレは!?」
「殿下方をお守りしろ!!」
「待って待って!あれ多分うちの坊ちゃんの仕業だから!!」
「対象の足は遅い、まず皆様の避難を優先しろ!陣形を組め、1匹たりとも通すな!」
「最上級精霊に剣向けんなよ!ていうかどうにかしておじょ…お坊ちゃーん!!」
「あわ…あわわぁ…!待ってー!!ごめんなさい、僕のせいですから!!アレただの土人形、全然怖くないですーーー!!!」
命からがら逃げて来た殿下2人と、それを追い掛けて来た異形。スタート地点が大騒ぎになるのも必然と言えた。
護衛達は皆職務を全うしようと、相手の正体もまるで分からないまま剣を向ける。
中には「ああ…俺今日死ぬんだ。でも…殿下をお守りして殉職なら悪くない最期だよな…!こんな事なら、もっと妻に普段から感謝の言葉を伝えるべきだった。そして…俺は最期までお前を愛していたと。誰か…伝えてくれ…!!」などと脳内でドラマが展開されている騎士もいた。
とまあ、一時はどうなる事かと思ったが。アクアがその場の全員に水をかけて頭を冷やし。その隙にセレスタン、パスカル、エリゼが皆の前に立ち必死に説明し。
これはイタズラが度を越した結果だと…なんとか全員に納得してもらえた。
しかし当然肝試しは中止。ぐちゃぐちゃになってしまった林はセレスタンの精霊とニナが責任持って修復する事になりましたとさ。
「…あれ?待って俺だけ行ってない!!!暗闇の中でシャーリィとイチャイチャして、こっそり抜け出して…って展開どこ行ったんだ!!?」
残念ながらそのパターンは存在しませんでした。
※※※
「はあーあ…昨日は散々な目に遭った…」
「こっちのセリフだ馬鹿!」
「馬鹿はないでしょー!?あんな事になるなんて考えてもみなかったよ!!」
「ちょっと考えれば分かるだろ!せめて騎士達には前もって説明しておけ!!」
今日は海水浴ではなく、山にやって来ました!しかしわたしだって反省しているというのに、エリゼはぐちぐちと…すいませんね!!
ヴィヴィエ家の使用人がバーベキューの準備をしてくれている間に、川で遊んだり虫取りしたり。山に興味のない面々は海に行っている。
なのでここにはわたし、エリゼ、パスカル、少那しかいない。それとそれぞれの従者とか護衛ね。
「ねえねえ、セレス!あっち蝉がいっぱいいたよー!」
「おお、行く行く!」
「蝉なんか取って何が楽しいんだ…」
エリゼは文句を言いながらも付き合ってくれる。海よりは日陰があってマシだ…との事だが。別にテントで休んでいてもいいし、それこそ屋敷の中にいてもいい。なんだかんだで優しい人なのだ。
「カブトムシは夜のほうがいいかな?」
「うーん、どうなんだろう?夜間外出禁止令出ちゃってるし、とりあえず蜜塗っておこうか…」
「はは…」
海で泳げなくても楽しい事はいっぱいある!今日の夜は花火上がるし、まだまだ夏は始まったばかりだ!
「なあ…どうしてシャーリィは女性用の水着を着ないんだ?スクナ殿下には…女性に慣れる為の特訓だとでも言えばいいじゃないか」
「いえ…やはり水に濡れると身体の線が出てしまうんですよ。いくらなんでもあの体型を男性だ、と言い張る事は出来ません」
「なんでお前がシャーリィの体型を知ってるんだっ!?」
「こちとら一緒に温泉も行ってますからねー!?湯浴み着だって濡れりゃ身体にぴったり張り付くんですよ!!」
「くっそう…!!」
「ごほ…それと胸なんですが…水着と同じ布を巻いてみても、伸縮性があるから意味が無くて。いつものサラシだと水中で緩むし…結局諦めたんですよ」
「見たのか!!!ゆるゆるな所を見たのか!!?」
「俺の妹がね!!!言わせてもらいますがパスカル様、がっつきすぎると嫌われますよ!!?」
「はあっ!!?き、嫌わ、そんな事は…無い、し…」
「いやいやいや。顔を合わせりゃスキンシップ。隙あらばエロい事しようとするし…相手の意思を尊重しないと離れて行きますよ?夫婦なら少しは許されますけどね。
そうなったらお嬢様は…それこそ草食系で癒し系な少那殿下に靡く可能性大です」
「……!!…………ど、どうしよ……?」
「……………ハァ……」
なんだかパスカルとフェイテの話が弾んでいる。揃って河原の岩に腰掛けて…ここからじゃ内容は聞こえないけど…いつの間に仲良しになったんだろう?
それと…この日以降、パスカルのスキンシップが減った。と言うか、「腕を組んでもいいか?」とか「キスがしたい」とか…毎回確認してくるようになった。
わたしとしては、そのほうがありがたい。汗かいた後だから匂いが気になる!なんて事もあるのでな。
たまーにうんざりする時もあったので…良い傾向だ!と1人上機嫌になるのでした。
応援ありがとうございます!
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