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二章 吸血鬼の花嫁

8night

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ひとまず、虎さんをベッドに寝かせ、ジェイさんに客人たちの相手をお願いする。

「……人間って動物になれるのね。さすが異世界。獣人ってやつかしら?」

この世界に獣人はいないと思っていた。見たことがなかったから、てっきり魔法が使える人間のみで構成されているとおもっていた。

「いやいまおもえば、火だるまになってたこともあったし……たしか魔人さんよね?なら、猫耳生やすくらいどうってことないのかしら?全然見てくれが違うけど……。」

どうみても、イケメンな青年だった。ジャニー○に所属してそうな……あっ、そういえばこの世界に来る前に名前変わったんだったわ。たしかスマイル○ップ……。
「いやいや、そんなこといま関係ないわね!?そんなことより、どうしましょ、この虎さん……。飼い主さんたしか騎士さんよね……さすが異世界人……。」
感心していれば、ぐぅ、とお腹の音がなる。
これはいけないわと思い、お蕎麦を魔法で出して食べる。一応虎さんのぶんも用意してあるが、果たして猫科に蕎麦は大丈夫かしら……。

と思いつつそばに蕎麦をおく。蕎麦だけに。

「うわぁっっ!?すっごい寒気きたんだけど!!?……うわぁっっ!!すっごい美人さん!!」
「貴方忙しいわねぇ……。」

飛び起きたと思ったら、こちらを見て跳ねあがる。まるで本物の猫のようだ。まぁ、虎なのだけれども。というか、その姿でも言葉を話せるのね。

「……あれ、あのいかつい男たちは……というかここどこー……?」
「ここは私の屋敷よ。貴方が急に倒れたから、運んできたの。もう具合は大丈夫?」
「う、うん!俺っち元気!チョー元気!!」
二の腕を上にあげ、元気もりもり!と言う虎さん。その虎姿に、はたと気がついたのか、ぽん、と煙と音を立てて人に戻る。なぜ服を着ているのか疑問だ。

「大丈夫そうならよかったわ……ジェイさんたち呼んでくるわね、お医者様もいるし……ごはん、そこにおいておくから食べれたら是非食べて。」

そう伝え、私は箸を渡すことを忘れたことなど気づきもせず、どうやって食べるのと蕎麦をはじめてみた、(しかも箸もなく)二重の意味で困惑している虎さんをあとにした。
どうやらこの世界に蕎麦はないらしい。


「起きたんデスネー……なんってワイルド!!?え、しかもなんですソレ!」
「いや~……お姉さんがせっかくくれたから食べようとおもったんだけど……その、わからなくてさぁ……。見たところなにもないし、手で食べるやつかなぁ、って……。」
「ごめんなさいっっ!!」

まさかの蕎麦を手で食べてた。しかもお汁の使い方もわからず、蕎麦を単品で、のどが渇いたときにたぶん飲み物だとおもってのんでる。お箸を渡し、使い方と食べ方を教える。すると、すぐさまマスターしたのか、泣きながら食べはじめた。そんなに不便だったのね……ごめんなさいねぇ……。

「文明の力……万歳……!!」
「古の魔神がそれでいいんですの?」
「あれ、きみまだその格好……ぐふぇっっ。」

お蕎麦をたべている虎さんに近づいたアーシラさん。何をするのかと見ていれば、ジェイさんとシアンさんが私の前に立ちはだかり、なにも見えない。その後、鈍い音と虎さんのうめき声が聞こえた。

「うっわぁー、見事なストレートですねぇ~。」
「そう感心するものでもないだろう。」

ジェイさんとシアンさんの会話でなんとなく察する。アーシラさんの新たな一面に驚愕だ。でもどうして虎さん殴ったのアーシラさん。暇すぎて砂漠でやってた妖艶な女ごっこpart2してて私を襲おうとした魔法で作り出したとおもってたけど違ったのよね、
本物の男性だったから養護するきはないけれども。魔法で作り出してたら自分の欲求不満にも程があるわ……(照)。というか急にはいってきて押し倒してくる男性って現実離れしすぎよね。魔法だと思うでしょう。普通。

「なんか俺の黒歴史思い出されてる気がするなぁ……。」
「虎に黒歴史があったとしても、それは黒虎になるだけですわ!!」
「うまくないからね??しかも黒いの俺っちの心だし!体は黒くならないし!!俺に似合うのはイエローカラーだしぃ!!」

さっとシアンさんとジェイさんが横にずれ視界が明るくなる。二人は身長がかなり高いため(この世界の人ほとんど高い。)、もはや盾だ。

「でもさぁ、仕方ないでしょ~?ご主人様の命令に従わなくちゃ、自由になれないんだし。あのご主人様、とある女性を絶対妻にするって計画で国巻き込むほどのちょっとこう……頭がイカれてるから、俺っちにできることなんて従うしかないんよ……あれ、俺っちつい口滑らしたけど、なんで苦しくないんだろ?」
「それが動機なのかヴィンス……!?いややりかねないけども……まさか本当にそれが動機だった……のですわね!?」
「……あーさ…アーシラ嬢、仲のよいヴィンス殿を止めるにはどうするのがいいとお考えだ?」
「うーん……やっぱ牢獄行きですわよね……一応国家反逆というか、まぁ国を混乱させておりますものね……。」

(なにそれ、知らないわ。)
突然の騎士さんの国家反逆事件について。誰か教えてほしい。しかし、この神妙な顔つきのなか、それなぁに?なんて無知な子供でもないのに聞けない。一応私も神妙な顔つきをしておく。

「……!女神殿、なにかお考えがあるのか!?」
「!本当デスカ……!ワタシの大切な……ええ、本当に大切デスヨ?大切な幼なじみなんデス!!」

裏目にでたようだ。正直、何が起こっているかわからない。わかっているのは、騎士さんが真っ黒くろすけな有罪で何らかの罪を犯していることくらいだ。

「ええ、それは……彼は黒いのよね……。でもほら、話し合い、はどうかしら……?」

なんの罪かわからないけれど、幼なじみっていう最強ポジションなら話し合いで解決もできるはず。そう希望を含み発言すれば、これまた神妙な顔で彼らに頷かれる。

「……なるほど。奴に聞けってことか。師匠、でも奴はどこに……?」
「ここにおるよ。」

いつからいたのかしら、イスハークくんが会話にはいってきた。そして、私の真後ろからはとても懐かしいというか正体不明の怪しい黒髪の男が。どうやら真っ赤な色の、華やかなつつじ?柄の描かれた浴衣を着ている。

「せい……「ああ、そうか。自己紹介してなかったな。俺の名前はファントムや。気軽にファントム様って呼んでええで。」どこが気軽なんだよ……。」
「こら、イスハーク。そのような口を利くな。一応高貴な方なのだから。」
「ファルークっちゅーんよな?意外と失礼やなぁ……。」
「これは失礼した。なかなかに怪しい風貌でな。つい警戒心がうずいてしまったようだ。」
「ほんま失礼やな。……おいそこの精霊二匹。なに納得そうな顔で頷いとるんや……って話が進まへん!!一旦俺の話を聞きぃや!!」

まぁ、ここからは話が長くなるので割愛。簡単にいえば、私はよくわかってないのだけれど、騎士さんの体のどこかについた、思考を過激にする紫の宝石つきのアクセサリーを奪ってきて、ファントムさんに渡せばいいらしい。そしたら、今度こそしっかりと封印するからと。

「だけど、注意せなあかんことがある。そのアクセサリーもっとるやつ、もれなくヴィンスと同じような過激な思考になるから、我を見失わないようにするんや。または、他のやつがそいつから奪還。」
「そんなことをせずとも、貴方が奪えばいいことではないんですの?」
「はぁーバカなんか、あーさ……アーシラ?それができんからこう言っとるんやろ。頭働かせぇ。」
「あなた魔女さん以外に当たり強いですわね……。でもどうしてできないんですの?」
「タシカニ!強いんじゃないんデスカ!?」
「強いに決まっとるやろ!!号泣中の赤子も黙るファントム様やで!!?だけどまぁ……ヴィンスを吹っ飛ばしてええならやるけど……人間相手の力加減ってかなりムズいんよなぁ……。」
承知した、我々が持ってこよう……ヴィンス殿のバラバラ死体などみるきはない……。」
「うえっ……なんて趣味わりぃんだよこのせいれ……ファントムって……。」
「なんで俺の趣味が人間の惨殺死体みることになっとるんや!?違うかんな!怒ったかんな!はしもと……やめとくわ。通じんしな。まぁ、正直国がどうなろうとあんま俺たちに関係なしやし、このこは俺が守るし、頑張ってくれや。ここまでのヒントは出したからな。まぁ、なんとかこの屋敷までーーー。」
「私、手伝いますよ。」
「なに言うとんの!?!?あぶないんよ!!?」
「でも、この国を見捨てるなんてできないですよ。」
「あー、あんたそういやそうやな……そういう性格やわ。」

なぜ私の性格が知られてるのかはゾッとするけどいまは置いておいて。

「あー……この子が行くっていうならできたら俺も行きたいんやけどなぁ……でも、ほんまに俺たち精霊は城に行けないんよ。城に精霊避けの高度な結界が張られとる。民の信心を魔力に変換してるんやろうな……。なかなかに強い魔法やから、解けないことはないけど、待ち一つ吹き飛ぶ可能性もあるんや。それは本望やないやろ?」
「おとなしくしててクダサイ。」
「言い方は癇に触るけど、まぁほんまにおとなしくしかできんつーことや。一応、城のそと……というか、門の目の前では待機するから、なんとか持ってきてくれ。」
やれやれ、と首を降るファントム?さん。
「まってくれ、ならば女神殿も城へはいれないのではないか……?」
「このこは精霊やないからな。入れるに決まっとるやろ。」
「……たしかに、女神は精霊ではないしな。」
「はっ?このこ女神なの?え、でも他の人たち魔女って言ってたけど……。」
「誤解です虎さん!私は普通の人間です!」
「普通ではないよね。……なーるほど。」
「そうデス、こんな風に誤魔化されるんデスヨ。アナタも、そう気軽に詮索してはイケマセン。」

なにやら新たな誤解が生まれている気がしなくもないが、まぁ手遅れなきもするのでスルーする。ひとまず、打開策は見えてきた。計画を話し合い、みんなで拳を掲げたのだった。
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