転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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9巻

9-3

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 ◇ ◇ ◇


 ヴィノたちがあちこちで「ベェェ」と威嚇の声を上げる中、俺は地上にいるアルフォンス兄さんを見下ろしていた。
 ど……、どーしてこうなったぁっ!
 俺がアルフォンス兄さんと領主一家の事情をヴィノたちに話したら、「それは許せねぇ! あいつらには俺たちも気にくわないことがたくさんあるんだ。ついでだから領主に物申そうぜ!」とヴィノたちが盛り上がってしまったのだ。
 まさかその後、領主の屋敷まで駆け抜けて人々の注目を集めたあげに、屋敷の門を飛び越えることになるとは思わなかった。
 暴走コクヨウも大変だけど、暴走ヴィノも全然止まってくれないっ!
 普段コクヨウやウォルガーのルリの背に乗っているから何とかなったものの、俺以外の人だったら絶対振り落とされてるよ。
 その上、ひょいひょい登ってこんな高い目立つところに連れて来られて……。
 ひゅ~るるると風が吹く屋根の上、俺は悲しい気持ちで地上を見下ろす。
 アルフォンス兄さんや領主一家、門の外の街の住人も俺を見上げていた。
 とにかくこの場をどうにかしないとまずいよなぁ。

「ねぇ、さっき物申すって言ってたけどさ、今の威嚇が物申すってこと?」

 俺はヴィノのリーダーにそっと話しかける。
 ヴィノにまつわる話の中に、『ヴィノが威嚇する者は悪人である』というものがある。
 だけど、いくらヴィノが神聖視されているといっても、それをみにはされないだろう。
 領主たちもヴィノに威嚇されてしばし動揺していたが、今は梯子はしごを持ってこいと指示を出しているし。
 おそらく俺を捕まえ、ヴィノを先導し領主をろうした者として処罰する気だな。
 そこで俺がアルフォンス兄さんの弟王子とばれたら、かなりマズイ事態である。

【安心しな。威嚇だけで終わらせやしない。俺たちが領主たちを嫌いなのは、ちゃんと理由があるのさ】

 ヴィノはそう言って、クイッと顎で指し示す。
 見ると敷地内にあるくららしき建物から、数頭のヴィノたちがひもくわえ大きな袋を引きずり出してきた。蔵の扉が壊れているのがちょっと気になったが、それよりも袋の中身に興味がある。

「何あれ」
【領主が街の住人に隠しているものだ】

 隠しているもの……?
 確かに見つかったらまずいものらしく、ヴィノがその袋を持って来ると領主家族の顔が青くなった。

「え、衛兵たち! あの袋を取り上げろっ!」

 そう指示するが、ヴィノが阻むので誰も近寄れない。

「領主、あれには何が入っているのだ?」

 いぶかしげに聞くアルフォンス兄さんに、領主はぎこちなく笑う。

「あ、あれは領内の住民たちがこんきゅうした時にくばる、備蓄の麦です」

 その時、ヴィノのリーダーがこう言ってみろと俺に言う。その内容に驚きながらも、俺は息を吸って大きな声で叫んだ。

「それは住民たちに配る麦ではない。私腹をやすための密輸品である。検分を求める!」

 門の外にいた街の住民たちのざわめきが大きくなる。

「ば、馬鹿なことを言うなっ!! アルフォンス殿下、検分など必要ありません。あの者は私をおとしめようとたわごとを申しているのです」
「そ、そうですわ! お父様は清廉潔白な方です。にち、領民のために働いております! アルフォンス殿下でしたら、父の人となりを御存じでしょう?」

 キャサリンらしき少女は、そう言ってアルフォンス兄さんに向かって祈る姿勢をとる。
 アルフォンス兄さんはにこやかに微笑んで、少女に頷いてみせた。

「ああ、そうだな。……だが、清廉潔白ならば、何も恐れる必要はない。検分してえんざいであると示すのが早いだろう」

 そう言って、アルフォンス兄さん自ら、運ばれてきた袋の山へと向かう。先ほど衛兵をこばんでいたヴィノたちは、左右に分かれて道を作った。
 アルフォンス兄さんが袋を探るのを、皆がかたを呑んで見守る。やがてアルフォンス兄さんは、麦にまぎれた装飾の美しい陶器をいくつか取り出した。

「フィラメント皇国の陶器か。かの国の陶器は国外に輸出されているものもあるが、皇国お墨付きのかまもとの印が入った品だけは国外に出すことが禁じられている。……そして、これはその窯元の印だ」

 アルフォンス兄さんはそう言って、陶器からゆっくりと領主へ視線を向ける。
 つまり、本当に密輸品だったってことか。
 ひと目でその窯元の印だとわかるアルフォンス兄さんもすごいが、ヴィノもよく密輸品が入っているとわかったな。

「何であれが隠されてるってわかったの?」
【俺たちが言葉を理解できない獣だと思っている領主が、目の前で話しているのを聞いただけさ。随分前からやっていたのは知ってたんだけどよ。俺たちの言葉がわかって、それを信じて代弁してくれるお前さんみたいな人間がいなかったからな】

 ヴィノのリーダーは、俺に向かってニヤリと笑う。
 褒めてくれていると思ってもいいのかな。
 そんな話をしていると、領主が屋根の上の俺を指さした。

「これはあの者の……いや、あの者の背後にいるやからによる策略です。私は無実ですっ! あの子供は何らかの指示を受け、私をおとしいれるためにヴィノを使って罪をでっち上げているのです」

 領主の言葉に続き、夫人とキャサリンが頷く。

「主人が密輸なんて恐ろしいことをするはずがありませんわ」
「ええ! お父様は無実です! よくお調べくださいませ!」

 領主家族の言い分を聞いて、俺は思わずポカンとしてしまった。
 俺のせいって……。いくら何でも、ちょっと言い訳として苦しすぎるんじゃないかなぁ。
 だって、さっき「自分が用意した備蓄だから、検分の必要はない」みたいなこと言って、阻止しようとしたじゃないか。
 密輸品が出てきた途端に、『仕組まれましたっ! 調べてください!』っておかしいだろう。
 街の人だって疑わしげな顔をしたままだし、アルフォンス兄さんだって当然それにだまされてくれるとは思えない。
 アルフォンス兄さんの方を見ると、いまだに言い訳を重ね自分の無実を訴える領主家族をじっと見つめていた。
 ……ま、真顔だ。普段は穏やかなのに、あれほどの無表情は初めて見たな。
 やがてアルフォンス兄さんが口角を上げて、美しく笑った。

「屋根にいるあの少年が……犯人であると?」

 無表情から笑顔に変わったが、声のトーンはいつもよりも低く、大きく張り上げているわけではないのによく響いた。

「敷地内に入り、密輸品を備蓄に忍び込ませ、領主に罪を着せようとしたと……そう言うのか?」
「そうです! さようでございますっ! あの子供は――」
「黙れ。もう聞きたくない」

 自分の言いたいことを理解してくれたかと頷く領主の言葉を、アルフォンス兄さんは短く返して止めた。
 そこでようやく領主も気がついたようだ。アルフォンス兄さんの目が笑っていないことに。
 あ、あのアルフォンス兄さんが、怒っている。
 俺もアルフォンス兄さんに注意されることはあるが、それは心配からくるものであって怒りからではない。
 うちの兄弟の怒りっぽさをランキングしてみた時、一位レイラ姉さん、二位ステラ姉さん、三位がヒューバート兄さん、四位が俺で五位がアルフォンス兄さんである。
 俺だって怒るといってもムッとするくらいだが、アルフォンス兄さんはそんな表情さえ見せたことがなかった。
 ……あんな怒り方するんだ。ステラ姉さんがよくやる〝笑顔でブリザード〟より、空気が重くて怖かった。

「どちらが嘘をついているかなど、明らかだろう。ヴィノには悪者を見抜く力がある。あの少年はヴィノの背に乗り、そなたはヴィノに威嚇されたばかりではないか」

 キャサリンがスカートのすそをつまみ、礼をするポーズをとりながら震える声で言う。

「お、畏れながら……、ヴィノが威嚇したからといって、それだけでは何の証拠にも……」

 顔をこわらせつつも笑顔を作ったことだけは大した度胸だと褒めてあげたいが、その意見はアルフォンス兄さんには逆効果だった。

「これはおかしなことを言う。先ほどまで貴女あなたは『ヴィノの祝福』などと根拠のないものを信じ喜んでいたのに、威嚇については信じないのか? 随分都合のいい話だ」

 アルフォンス兄さんが悠然と微笑むと、キャサリンは青ざめて黙り込んだ。

「ヴィノは人にびず、人の本質を見抜く賢い動物だ。このコルトフィアにおいてヴィノが神聖視されているのは、衣食や生活において恩恵を与えてくれるからだけではない。その精神がとうといからだ。それは他国の私よりも、コルトフィア国民のそなたたちがよく知っているだろう。それとも……私腹を肥やすことに夢中で、国の誇りも忘れたのか?」

 アルフォンス兄さんの言葉を聞いていたヴィノたちは、いいぞという意味をこめて「メェェ」と鳴いてはやし立て、門の外にいる街の人も歓声とともに拍手する。
 アルフォンス兄さんは、さらに屋敷をいちべつして言う。

「それに密輸を行っていると聞いて納得がいった。領主の館の調度品、名だたる絵画、夫人やキャサリン嬢のティリア製と思われるドレス。どれをとっても最高級品だ。以前私をもてなすためにもよおしてくれたパーティーも、とても領主の私財でまかなえるレベルではないと不審に思っていた」

 パーティーなど開いてアルフォンス兄さんを引き止めたとは聞いていたが、そんなに盛大なものだったのか。
 領主クラスでそこまで財があると見せつければ、普通怪しまれると思うのだが……。
 アルフォンス兄さんを引き止めるのに必死だったのかな。
 そう言えば、ヴィノに乗って屋根に登っている途中、窓越しに室内の様子が見えたけど、かなり豪華だったもんなぁ。
 王都から離れているのをいいことに、随分やりたい放題やっていたのかもしれない。
 アルフォンス兄さんに追い詰められると、夫人とキャサリンはもう耐えきれずにその場にへたり込み、顔を覆って大きな声で泣き出した。
 領主はそんな家族とアルフォンス兄さんを交互に見て、アルフォンス兄さんに頭を下げる。

「お許しくださいっ! これも全ては野蛮な密輸団から領民や街を守るためでございますっ!」
「……密輸団から?」

 アルフォンス兄さんの問いに、領主はコクコクと頷く。

「我がピレッドは、交易において物資を補給する重要な街です。密輸を行うその一団はこの街に目をつけ、何も知らぬ私にフィラメントの密輸品を売りつけました。そして、後になって知った私に『今後も物資の補給と通行を許可し、協力しないと王国の査察官にばらす』と脅したのです。さらに『言うことを聞かなければ街を火にかける』ともっ!」

 そうして、手と体を震わせながらさらにこんがんする。

「密輸品とわかった時点で、正直に全てを陛下に報告すれば良かったのです。ですが、騙されたとはいえ罪に加担したのはまぎれもない事実。もし処罰を受けたら私だけでなく他にも影響が出るでしょう。家族や私をしたう領民を思うと、どうしても報告はできなかった。言うことを聞く以外に、選択肢はなかったのです」

 そう言って、大きな声で「おぅおぅ」と泣き出した。

「あの領主の話……どう思う?」

 俺が尋ねると、ヴィノは鼻で笑った。

【嘘くさいな】
「やっぱりそうだよねぇ」

 一見、情状じょうじょうしゃくりょうの余地がありそうな話ではあるが、に落ちない点がいくつかある。
 例えば、百歩譲って悪事への加担がどうにもならなかったとしても、ぜいたくな生活をしていることの理由にはならない。
 それに物資を補給する重要な拠点の街を、密輸団が火にかけるだろうか。仮にそう言われたとしても、現実的ではないから脅しにくつすることはないはずだ。

「領民のためか……。それにしては、街の門を守る衛兵の数が年々減っているようだ。密輸団の脅威を感じているならば、そんなことができるだろうか。しかも、領内にあるヴィノの村を囲う防壁も、未だに簡素なままだと聞く。あの村は魔獣のいる森に近い。屋敷を飾りたてる前に防壁を強化し、守るべきだろう。領民から徴収する税は増やしているのに、なぜ何もしないのだ?」
「な……なな、なぜそれを……」

 驚きのせいか、それとももとより泣きまねだったのか、領主は涙を引っ込め、口を震わせておののく。

【うちの村のことまでよく知ってるな】

 ヴィノは感心していたが、俺も領主と一緒に驚いていた。
 ここに来て一日も経っていないのに、もうこの領内の情報を仕入れてたわけ?
 ヴィノの村に関しては、これからのルート状況を確認するために早馬で兵を送っていたから、そこから連絡をもらった可能性があるけど……。それにしたってすごいな。
 その時、数頭のヴィノが三人の男性を連れて来た。

「もう、わかったって。逃げないから鼻先で押すなよぉ」

 男性たちを先に歩かせ、後ろから威嚇の声で鳴いて脅している。

「誰あれ」
【領主が言うところの、密輸団の一味だ。領主と密輸品に関する話をしていた場にいたから、俺たちの仲間が連れて来たんだろ】
「密輸団っ!?」

 思わず大きな声で言ってしまった俺の言葉に、場が大きくざわめく。
 まずい。つい叫んでしまった。だけど、密輸団にしては腕っぷしも気も弱そうな……。
 こちらに来る前にヴィノとひともんちゃくあったらしく、服は所々破れ、腕などにり傷や歯型がついている。髪の毛をむしられたのか、乱れた髪型で半泣きしている者もいた。
 ヴィノを怒らせたら駄目だめだな……。

「随分弱そうな密輸団がいたものだね」

 呆れ気味のアルフォンス兄さんの言葉に、三人の男性はぎょっとする。

「俺たちは密輸団じゃないです!」
「他にも仲間はいますが、皆、領主様に脅されて従っていただけです!」
「そうです。手伝わないと街から追い出すと言われて!」

 つまりは密輸団など存在せず、領主自身が黒幕だったってことか?
 こりゃあ、ますます領主たちもねんの納め時だな。
 そう思って領主たちへ視線を向けると、アルフォンス兄さんが三人の男に嘆願されている隙に、こっそりと逃げ出そうとしていた。
 逃げられるはずがないのに、おうじょうぎわの悪い。
 指をさして地上にいる人たちに教えてあげようとしたら、ヴィノのリーダーが俺を振り返って言う。

【捕まえるぞ!】
「ふぇっ!?」

 返事をする前に突然屋根の上を走り出し、屋根のふちや窓のひさしを足場にピョンピョンと下りていく。
 また勝手に暴走するぅぅぅっ!
 ヴィノのリーダーは領主たちの行く手を阻むと、先頭にいた領主のそでに噛みついて引き倒した。

「うひゃぁっ!」

 転がる領主に、俺はため息を吐いた。

「領民に背を向けるのは、領主のすることじゃないよ」

 そう言うと、他のヴィノたちも一斉に領主家族を取り囲み「ベェェ」と威嚇の声を上げた。

「く、来るな! いたたたた、髪の毛をむしるな!」
「ひぃ! やめて! 近寄らないで!」
「いやぁぁっ! 私のドレスが齧られてよだれがぁ!」

 取り囲まれて動けなくなった領主や夫人やキャサリンを、アルフォンス兄さんの指示で屋敷の衛兵が捕らえる。

「放せっ! 私はお前たちの主なのだぞっ!」

 怒鳴りつける領主に、衛兵は眉をひそめた。

貴方あなたの衛兵である前に、我々はコルトフィアの国民です」

 領主は体を押さえられながら、顔だけでアルフォンス兄さんを見上げる。

「あ、アルフォンス殿下っ! どうかごをっ!」

 捕らえられた領主たちを見下ろし、アルフォンス兄さんはにっこりと微笑んだ。

「密輸に加え、このヴィノに選ばれた少年に罪を着せるなどの行いは非常に許しがたい。しかし残念ながら、私はこの国の法に対して口を挟むことはできないのでね。代わりに、コルトフィアの中央に連絡を入れて地方査察官を呼んでおいた。明日には到着し、きちんと調べてくれるだろう」

 ……呼んでおいた? それって、ここに来る前に連絡してないと無理じゃないか?
 俺が屋敷に乱入しなくても、遅かれ早かれ領主は捕まっていたんじゃ……。
 微笑むアルフォンス兄さんのそらおそろしさに、俺はコクリと喉を鳴らした。
 ヴィノの涎まみれになった領主一家はがっくりとこうべれ、衛兵たちによって連行されていく。
 門の外で一部始終を見ていた街の住民たちは、賞賛と歓喜に沸いた。

「地方査察官が到着するまでは、領主一家は屋敷にある一室に留置いたします」
「そうだね。よろしく頼むよ」

 アルフォンス兄さんが、衛兵たちと事後処理について話している。
 事件は一件落着した。だが……俺はこれからどうしたらいいんだろう。

「こんなに人に囲まれた状態で、どうやって抜け出せばいいんだ」

 困って呟くと、ヴィノのリーダーが「メェェ」と鳴いた。

【心配するな。帰りも送ってやる。おい、お前らは先にロデルのとこに戻ってろ。俺は坊ちゃんを送り届けてから戻る】

 リーダーの言葉に、他のヴィノたちが「メェェ」と返事をする。

「え、でもヴィノに乗って送ってもらったら目立つか……らぁぁぁぁっ!」

 俺の返事など聞かず、ヴィノのリーダーは群れを飛び出し、領主の屋敷を囲う塀の上に跳び上がった。そして、そのままその塀の上を爆走する。
 よくわかった。ヴィノはあまり人の話を聞かず、思い立ったら即行動なのだ。

「おおっ! ヴィノの使つかい様が塀の上を走ってらっしゃるぞっ!」
「ありがとう! ヴィノ様! ヴィノの御使い様ぁ!」

 そんな街の人の声と、歓声が聞こえる。
 なに、そのヴィノの御使い様ってぇぇ!
 グレスハートの王子だってバレなかったのはいいけど、また変な異名がついた。
 追いかけてくる人たちもいたが、ヴィノの足にはついて来られない。
 よし、あの場にいた人たちはけたみたいだし、塀や屋根を伝ってこのまま離れよう。
 途中で精霊のヒスイを召喚して、カイルやアルフォンス兄さんに、俺が無事であることと先に宿に戻ることを、姿を消した状態で伝えてほしいと頼んだ。
 そうして宿屋からほんの少し離れた裏路地に到着した俺は、人目を確認した後でヴィノから降りる。

「送ってくれてどうもありがとう」

 お礼を言うと、ヴィノのリーダーは俺に顔をすり寄せた。

【こっちこそ、領主の悪事をあばくのを手伝ってくれてありがとうな】
「僕は乗っていただけだよ。ほとんどアルフォンス兄さんがやってくれたことだから」
【あの人間も大したものだが、お前が俺たちの言いたいことを言ってくれたのが一番スッキリした。仲間たちもそう思っているだろう。ヴィノのリーダーとして、感謝する】

 再び顔をすり寄せてきたので、俺はぎゅっとヴィノの頭に抱きつく。

「気をつけて帰ってね。そうだ。ロデルさんにもお詫びとお礼をしなきゃなぁ」

 何せ勝手にヴィノの群れを借りてしまったのだから。
 俺はふくろねずみのテンガを召喚し、ロデルさんへのお土産を出してもらうことにした。
 袋鼠の能力は、別の場所にあるものを袋を使って持ってくることだ。
 俺はテンガに言って、風呂敷一枚とブラシを何個か出してもらった。
 コクヨウたちのために改良を重ねて作った、痛みを感じさせずに毛のゴミがとれる『つやつやブラシ』だ。
 これがあれば、ヴィノの波打つ毛はさらにつやつやと輝くことだろう。
 ブラシを風呂敷に包んで、ヴィノの首に巻きつける。ヴィノはお礼なのか一鳴きして、それから俺を見つめた。

【山越えの時にヴィノの村に寄るんだろう? ヴィノの力を求めるならば、いつでも力を貸そう】

 そう言って、ヴィノはひょいっと塀から屋根に乗って去っていく。
 俺は手を振って、ヴィノのリーダーに別れを告げた。

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