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第二十四話 到着

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「尻が……いたい……」
『モルド~だいじょうぶでしか~?』
「……」
「到着しましたぞー!」

 約一時間半ほどの馬車の旅は、たしかに揺れた。
 乗り物酔いはしない方だが、何より尻が……尻がいたい。

「座布団的な何かを持ち歩こう……」

 ルリはふよふよ浮いてて全く疲れた様子もない。
 ゼヤは俺の向かいで足を組みながら座っていたはずなのに、痛がる様子もない。
 俺だけがヨロヨロと馬車から降りた。

「ここが……」
「では、私はここで待機しております。何かあればお申し付けください」

 馬車が着いたのは占拠された村と、隣の村の中間地点。
 臨時で避難所となっている場所で、センバはここで待機するという。
 簡易的なテントや炊き出しが行われ、よりしっかりとした造りのテントには恐らく怪我人が治療中なのだろう。

 周りを見回せば、不安そうな村人と対照的に、冒険者や騎士たちが真剣に話し合っている。

「誰に事情を聞いたらいいかな」
「さあな」
『でしでし』

 やはり冒険者、……いやここは領の騎士か。

「──あなたがモルドラン殿ですかな?」
「ん?」

 振り返ると、がっしりとした鎧を身に纏った茶髪の騎士がいた。

「そうだが……、貴方は?」
「失礼。私はシャッド。アケド村の警護を行っていた、デュナメリ家配下の騎士だ」

 ちょうどいいところに声を掛けられたな。

「シャッド殿か、よろしく頼む。俺のことはモルドでいい。こっちは従魔のルリと、ゼヤだ」
『でし~♪』
「……」
「水うさぎが従魔……ですかな? それは、珍しいというか……かわ……」

 かわ……。
 絶対かわいいと思ってるだろ。

「コホン、失礼。早速ですが、センバ殿にうかがっています。アケド村への増援、誠にありがとうございます」
「いえ。それで、状況は?」
「はい。簡潔に申しますと、概ね本日中には片が付くかと」
「! それはすごいな」

 彼らも手伝ったのかもしれないが、それにしてもBランクの者は本当に実力者なんだな。

「……ただ、本来ゴブリンというのは知能が低く、統率力も優れているとは言えません」
「それは俺も懸念していた。……もしかすれば、他の種族、あるいは上位種に指示された可能性もある」

 知能が高い魔物は、それだけで脅威だ。
 友好的で従魔になることも多いが、人と慣れ合わないタイプの魔物も多い。
 一番厄介なのは、好戦的なやつだ。

「ですので、村に巣食うゴブリンは彼に任せ、我々とモルド殿で周辺を警戒したいと思うのですが……」
「あぁ、それがいいだろうな」

 その冒険者のことも気になるが、万が一ゴブリンたちが陽動だった時のことを考えると……、周りに気を配っておいた方がいいに違いない。

「俺も哨戒しょうかいのローテーションに入れてくれ。ゼヤは冒険者ではないが、実力的にはAランクと思ってもらって構わない。人数調整は任せる」
「なんと! Aランクがお二人も……心強いですな」
「その冒険者からは、なにか異常のような報告はないのか?」
「はい。定期的に騎士団の者が連絡係として赴いておりますが……数が多い以外には、特に。
 ただ、奴らは恐らく川を渡って村に侵入しました。巣があるとすれば、そちら側かと」
「ふむ。川か」

 自然の要塞だと思っていたところから魔物が侵入すれば、たしかに不意を突かれるな。

「ルリ、氷魔法は使えるのか?」
『お任せでし~♪』
「そうか。もしもの時は頼むぞ」
『でし!』

 氷魔法が使えれば、仮に川から渡られても対策はしようがある。

 あとはゴブリンたちが村を占拠した目的。
 それさえ分かれば……。

「シャッド殿。ゴブリンたちは、村の作物を目当てにやってきたのか?」
「はい。この村には女子供は少ないですから……、たんに食糧を目当てにしていたと思います。破壊衝動に任せ人を蹂躙したいのであれば、わざわざここを狙うことはないかと」
「ふむ」

 そこが引っ掛かるな。
 であれば、わざわざこの村に留まる必要もなさそうだ。
 まるで、冒険者が来るのを待っているかのような──

「!」
「どうされましたか?」

 まさか、ゴブリンたちは捨て駒か……?

「わるい、やっぱり俺たちは村の冒険者と合流する」
「そ、それは構いませんが、……」
「ゴブリンの脅威というのは、繁殖力。……つまり数だ。
 ゴブリン討伐の妥当なランクは1体ならE、数体ならD。
 今回は数が多くC判定。なら、Cランクのパーティが依頼を受けるとする。
 ……そいつらを真っ当に相手にして、疲れない冒険者なんていないだろう?」
「──! 村に留めるための、布石……?」
「そう考えると辻褄が合う」

 知能があり、ゴブリンを従え、好戦的。
 特に、弱い相手をわざわざ狙うのではなく、冒険者……戦える者を狙うとなると、よほどの戦闘狂だ。
 いくつか候補が思い当たるが、Bランクとはいえソロでは骨が折れる相手だ。

「こちらのことはお任せください」
「あぁ、頼んだ」
『行ってくるでし~!』
「ゼヤ」
「?」
「君に万が一ってことはないだろうが、気を付けていこう」
「……あぁ」

 シャッドに村の地図をもらい、ソロの冒険者がいると予想される地点をいくつか教えてもらって俺たちも向かった。

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