4 / 8
3 相違
しおりを挟む
「話が違うではありませんか、お父様!」
なんでなの。
セラはなんでいつも、あの子なの。
「アデリナ……、気持ちは分かるが本人がああ言うのだ。それに王配になるのなら、武芸だけではいくまいて」
「ちっ。アリアめ……」
いつもお母様から聞かされた。
病で伏せったことをいいことに、王である父を誘惑したあの女。
その娘も、いつか私に牙をむくと。
それは予言のように、初めてアリアを見た者は一様に虜になった。
だが、亡霊姫としての彼女の評判を聞いた者で、それ以上のなにかを起こす者は居なかった。
……一人を除いて。
「エレノア、ちょっといい?」
「? はい、お姉様」
「今日の夜ーー」
この国を救ってくださった勇者なのだ。
この国を導く私にこそ、ふさわしい。
セラの瞳がこの身を映すその時が待ち遠しいものだ。
◇
長らく感じていなかった、『幸せ』という感情は私の判断を鈍らせる。
いけない。
私は、王女なのだ。
「……セラ。悪いことは言わないわ。お姉様になさい」
「アリア様」
「私がこの城で王女として生かされているのも、癒やしの力があるから……ただ、それだけ」
それは王家の血脈に流れる、光の魔法。
皮肉にも、それを受け継いだのは三姉妹のなかで私だけ。
けれど正妃であらせられる異母は、それを許さなかった。
この城で生きていく代わりに、この力は姉のモノだということ。
そうすることに、なっている。
魔物に傷つけられた癒やしの力を必要とする者には、夢の中でしか私と出会えない。
この秘密は姉二人と父、異母、そして私とセラ。
その中でしか共有していないのに、亡霊姫とは良くいったものだ。
「アリア様、私が今こうして生きているのもその御力があったからこそ。……私は、自分の命に嘘はつけない」
「っ」
私に譲れないものがあるように、セラにも私に対して忘れられない恩がある。
彼が私の護衛騎士に志願したのも、この力で彼を救ったことがきっかけだ。
それは、意識が混濁していたにもかかわらず、元々の強靱な精神で私という存在が命を救ったのだと確信していた。
彼は、心までも強いのだ。
「セラは……、強いわね」
「ーー貴女ほどでは」
「いいえ、私はあなたと共に行くことすら諦めた」
魔王討伐。
各国から精鋭が集められる中、この国からは騎士の中でもずば抜けた実力の持ち主であったセラと、聖女として名高い、王家以外で癒やしの魔法を扱う女性が連合軍に参加した。
私が亡霊姫でなかったのなら。
癒やしの魔法は私の力だと言う、強い心があれば。
立場を捨てて、側に居られたら。
「けど、貴女は諦めなかった」
「え?」
「命を、その使命を、放棄しなかった。……私にとって、貴女のそんなところが愛おしい」
「!」
愛おしい、だなんて。
だめよ。セラ。
それは、お姉様にとっておいて。
でないと……。
(この国には居られないというのに)
なんでなの。
セラはなんでいつも、あの子なの。
「アデリナ……、気持ちは分かるが本人がああ言うのだ。それに王配になるのなら、武芸だけではいくまいて」
「ちっ。アリアめ……」
いつもお母様から聞かされた。
病で伏せったことをいいことに、王である父を誘惑したあの女。
その娘も、いつか私に牙をむくと。
それは予言のように、初めてアリアを見た者は一様に虜になった。
だが、亡霊姫としての彼女の評判を聞いた者で、それ以上のなにかを起こす者は居なかった。
……一人を除いて。
「エレノア、ちょっといい?」
「? はい、お姉様」
「今日の夜ーー」
この国を救ってくださった勇者なのだ。
この国を導く私にこそ、ふさわしい。
セラの瞳がこの身を映すその時が待ち遠しいものだ。
◇
長らく感じていなかった、『幸せ』という感情は私の判断を鈍らせる。
いけない。
私は、王女なのだ。
「……セラ。悪いことは言わないわ。お姉様になさい」
「アリア様」
「私がこの城で王女として生かされているのも、癒やしの力があるから……ただ、それだけ」
それは王家の血脈に流れる、光の魔法。
皮肉にも、それを受け継いだのは三姉妹のなかで私だけ。
けれど正妃であらせられる異母は、それを許さなかった。
この城で生きていく代わりに、この力は姉のモノだということ。
そうすることに、なっている。
魔物に傷つけられた癒やしの力を必要とする者には、夢の中でしか私と出会えない。
この秘密は姉二人と父、異母、そして私とセラ。
その中でしか共有していないのに、亡霊姫とは良くいったものだ。
「アリア様、私が今こうして生きているのもその御力があったからこそ。……私は、自分の命に嘘はつけない」
「っ」
私に譲れないものがあるように、セラにも私に対して忘れられない恩がある。
彼が私の護衛騎士に志願したのも、この力で彼を救ったことがきっかけだ。
それは、意識が混濁していたにもかかわらず、元々の強靱な精神で私という存在が命を救ったのだと確信していた。
彼は、心までも強いのだ。
「セラは……、強いわね」
「ーー貴女ほどでは」
「いいえ、私はあなたと共に行くことすら諦めた」
魔王討伐。
各国から精鋭が集められる中、この国からは騎士の中でもずば抜けた実力の持ち主であったセラと、聖女として名高い、王家以外で癒やしの魔法を扱う女性が連合軍に参加した。
私が亡霊姫でなかったのなら。
癒やしの魔法は私の力だと言う、強い心があれば。
立場を捨てて、側に居られたら。
「けど、貴女は諦めなかった」
「え?」
「命を、その使命を、放棄しなかった。……私にとって、貴女のそんなところが愛おしい」
「!」
愛おしい、だなんて。
だめよ。セラ。
それは、お姉様にとっておいて。
でないと……。
(この国には居られないというのに)
0
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
[異世界恋愛短編集]お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?
石河 翠
恋愛
公爵令嬢レイラは、王太子の婚約者である。しかし王太子は男爵令嬢にうつつをぬかして、彼女のことを「悪役令嬢」と敵視する。さらに妃教育という名目で離宮に幽閉されてしまった。
面倒な仕事を王太子から押し付けられたレイラは、やがて王族をはじめとする国の要人たちから誰にも言えない愚痴や秘密を打ち明けられるようになる。
そんなレイラの唯一の楽しみは、離宮の庭にある東屋でお茶をすること。ある時からお茶の時間に雨が降ると、顔馴染みの文官が雨宿りにやってくるようになって……。
どんな理不尽にも静かに耐えていたヒロインと、そんなヒロインの笑顔を見るためならどんな努力も惜しまないヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
「お望み通り、悪役令嬢とやらになりましたわ。ご満足いただけたかしら?」、その他5篇の異世界恋愛短編集です。
この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:32749945)をおかりしております。
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる