救国の勇者は末の亡霊姫をご所望です

蒼乃ロゼ

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「話が違うではありませんか、お父様!」

 なんでなの。
 セラはなんでいつも、あの子なの。

「アデリナ……、気持ちは分かるが本人がああ言うのだ。それに王配になるのなら、武芸だけではいくまいて」
「ちっ。アリアめ……」

 いつもお母様から聞かされた。
 病で伏せったことをいいことに、王である父を誘惑したあの女。
 その娘も、いつか私に牙をむくと。

 それは予言のように、初めてアリアを見た者は一様に虜になった。
 だが、亡霊姫としての彼女の評判を聞いた者で、それ以上のなにかを起こす者は居なかった。

 ……一人を除いて。

「エレノア、ちょっといい?」
「? はい、お姉様」
「今日の夜ーー」

 この国を救ってくださった勇者なのだ。
 この国を導く私にこそ、ふさわしい。

 セラの瞳がこの身を映すその時が待ち遠しいものだ。





 長らく感じていなかった、『幸せ』という感情は私の判断を鈍らせる。
 いけない。
 私は、王女なのだ。

「……セラ。悪いことは言わないわ。お姉様になさい」
「アリア様」
「私がこの城で王女として生かされているのも、癒やしの力があるから……ただ、それだけ」

 それは王家の血脈に流れる、光の魔法。
 皮肉にも、それを受け継いだのは三姉妹のなかで私だけ。

 けれど正妃であらせられる異母は、それを許さなかった。

 この城で生きていく代わりに、この力は姉のモノだということ。
 そうすることに、なっている。

 魔物に傷つけられた癒やしの力を必要とする者には、夢の中でしか私と出会えない。
 この秘密は姉二人と父、異母、そして私とセラ。
 その中でしか共有していないのに、亡霊姫とは良くいったものだ。

「アリア様、私が今こうして生きているのもその御力があったからこそ。……私は、自分の命に嘘はつけない」
「っ」

 私に譲れないものがあるように、セラにも私に対して忘れられない恩がある。
 彼が私の護衛騎士に志願したのも、この力で彼を救ったことがきっかけだ。

 それは、意識が混濁していたにもかかわらず、元々の強靱な精神で私という存在が命を救ったのだと確信していた。

 彼は、心までも強いのだ。

「セラは……、強いわね」
「ーー貴女ほどでは」
「いいえ、私はあなたと共に行くことすら諦めた」

 魔王討伐。

 各国から精鋭が集められる中、この国からは騎士の中でもずば抜けた実力の持ち主であったセラと、聖女として名高い、王家以外で癒やしの魔法を扱う女性が連合軍に参加した。

 私が亡霊姫でなかったのなら。

 癒やしの魔法は私の力だと言う、強い心があれば。

 立場を捨てて、側に居られたら。

「けど、貴女は諦めなかった」
「え?」
「命を、その使命を、放棄しなかった。……私にとって、貴女のそんなところが愛おしい」
「!」

 愛おしい、だなんて。

 だめよ。セラ。

 それは、お姉様にとっておいて。

 でないと……。

(この国には居られないというのに)


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