リア=リローランと黒の鷹

橙乃紅瑚

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第二章

24.叶えられた宿願 ★

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 秋が深まるにつれ、王都の寒さは厳しいものになった。今日は冷たい雨が振っている。ゼルドリックは大丈夫だろうかと、リアは窓から雨に濡れた庭を見た。

 暖炉に薪を次々に焚べても、この広い屋敷は中々暖まらない。リアが夕食の調理で悴んだ手をポケットの中で暖めているといつの間にかゼルドリックが帰ってきて、急いでリアの手を魔法で暖めてくれた。リアが雨に濡れた彼の身体を拭くために布を持つと、ゼルドリックは嬉しそうに雫が滴る頭を下げた。

 今日も無事に帰ってきてくれて良かった、今日も家に居てくれて良かった。お互いにそんな感情を抱きつつ、二人は微笑みを交わした。

 そして、二人は今日も食事を共にした。食事の際に様々な会話を交わすのは、いつものことであった。

「ねえ、そういえばゼルって幾つなの?」

 リアは料理を食べながらゼルドリックに訊ねた。今まで彼に色々な質問をしてきたが、彼の年齢について話した事はなかった。

(ずっと気になってたんだけど、中々聞けなかったのよね)

 暖炉の火に照らされる、張りのある黒く艶やかな肌。後ろに撫で付けられた真っ黒な髪。顎から髭が無くなってから、彼は尚更若く見えた。リアは自分と同じくらいの年齢ではないかと思っていたが、もしかしたらそれよりも若い可能性もあるかもしれないと考えた。

「君に教えたことは無かったか。百二十七だ」

 リアは思わずフォークを皿に置いてしまった。

(えっ……私の四倍以上も生きてるじゃない……!)

 リアは衝撃を受けた。エルフは長命で、若く美しいままの外見を長く保ち続けると聞いたが、実際に目の当たりにするととても不思議なことのように思えた。

(……そんなに長く生きているなんて……もしかして私は、ゼルに子供の様に思われているのかもしれない) 

 リアはちくりと胸を痛ませた。子供の様に思われているのだとすれば、今まで手をなぞられたり、抱きしめられたりしたのも納得が行く。

 混ざり血の子供を可愛がるような感覚で、ゼルドリックは自分に接しているのではないだろうか?

 顔を曇らせ、黙りこくったリアに対して何か感じるものがあったらしく、ゼルドリックは早口でリアに話しかけた。

「なんだ、俺の年齢が気に入らんのか? 言っておくが外見年齢は君とそんなに差異はないし、身体の衰えも一切無い。実年齢が離れているとはいえど君と俺の間に気遣いは不要だ。……なぜそんな顔をする? リア、やはり君は年齢が近い男の方がいいのか。レント=オルフィアンやアンジェロの様な……」

「あ、違うの! ただその、長く生きているあなたに比べたら私は子供の様なものだなと思って。何だか恥ずかしくなって……」

「何を言う? 君は子供じゃない。自立した大人の女性だ」

 とくん、とリアの胸が跳ねた。ゼルドリックから一人の女性として見られていることが嬉しかった。

「……ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

 彼から言葉をかけられるだけで、こんなにも心が温かくなる。リアは頬を緩めた。

「俺も聞いていいか?」

「もちろん。何が聞きたいの?」

「君は、家族を作りたいと思った事はあるか?」

 ゼルドリックは静かな声でリアに問いかけた。

「誰かと結婚して、子供を持つってことかしら? そうね……憧れる気持ちはあるわ」

「そうか……。俺の夢は、家族を作ることなのだ。俺には家族というものが無かった。いつしか愛した女と契りたい。出来れば子供も持って、仲良く暮らしていきたいのだ。俺は、ずっとそんな願いを持ち続けている……」

 ゼルドリックはしみじみと、目を閉じ夢を語った。リアは彼の深層に触れた気がした。その夢は、彼の宿願なのだ。それだけ夢を語る彼は嬉しそうで、だけど少し切ない様子で。ずっとその夢に焦がれ続けているのだという想いが伝わった。

「俺の夢を笑うか? リア」

 ゼルドリックは笑った。照れたように耳を少しだけ動かして、リアの反応を伺っている様だった。

「笑わないわ。心から愛する人と出逢って、契って、家族を作るというのは本当に素敵なことよ。私も同じ様な望みを持っているから……」

 黒の王子様の様な存在がいつしか自分の前に現れて、愛し愛される関係になれたら。そして結婚をして、子供を持てたら。命尽きる時まで隣に居てくれたら。

 ゼルドリックの夢は、すっとリアの中に入ってきた。リアはふと、自分の隣にゼルドリックがいて、彼とその子供たちと暮らす想像を巡らせた。それはとても幸せな想像だった。リアは自分の顔に熱が集まるのを感じ、誤魔化す様にゼルドリックに向けて微笑んだ。

「……お互い、いつかその夢が叶うと良いわね」

「ああ。……リア。…………君は、その……」

 ゼルドリックは何かを言いかけ、すぐ口を噤んだ。ごくりと喉を鳴らし唾を飲み込む。聞くか聞くまいか、随分迷っている様子だった。

「どうしたの?」

「ええと……リア。君は、今までに結婚したいと思った男はいるのか?」

 ゼルドリックはリアに切り出した。彼の逡巡に気遣いの様なものを感じ、リアは恥じ入るように笑った。

「ふふっ……いないわ。恥ずかしいことにね、今までに私は誰からも好意を寄せられたことがないの。誰からも色めいた声をかけられることはなかった……」

 リアは諦めの笑みを溢した。

 この先も自分は一人きりで、……そしてもし恋焦がれるゼルドリックが他の誰かと契ってしまったら……
 胸が強く軋むような想像をして、リアは眉を寄せ、目を潤ませた。

「だから私の場合、家族を持つというのは夢物語なのかもしれないわね。誰も近寄ってこないから……」

「夢物語だと? そんな事はない」

 ゼルドリックは身を乗り出した。暖炉の火に照らされ、ゆらゆらと揺れるリアの赤い瞳を真っ直ぐ捉え、彼ははっきりと言った。

「君は可愛い。堪らなく可愛い」

「…………え?」

「君は本当に素敵な女性だ。しっかりと自立していて、他人を思い遣る優しさもあって……その髪も、顔も、俺は可愛いと思う」

「あ……」

 彼は可愛いと、そう言った。

 リアはその言葉を聞いて顔を真っ赤にしてしまった。どうもこのダークエルフは、仲良くなってからというもの、恥ずかしいことを事も無げに言うようになった。

「リア。今までに何も無かったとはいえ、この広い王都で暮らしていれば、いつか必ず君を狙う男が現れる。リア、決して俺から離れるな、いいな? 契る相手はよく考えて決めるのだ」

「あの、ね……ゼル、その、可愛いって言葉は嬉しいんだけど、恥ずかしいから……」

 リアがぼそぼそと顔を逸らして言うと、ゼルドリックは語気を強めた。

「俺は事実を言ったまでだ。君は可愛い」

「だから、そういうのが恥ずかしいの! もう……私、部屋に戻るね……」

「あっ……おい、リア? どうしたんだ?」

 急いで皿を片付けて、照れを隠す様にリアは部屋に引っ込んだ。すぐにベッドに寝転がり、枕に火照った顔を押し付ける。リアは唸り、ごろごろと転がり、滲む涙を指で掬った。

 ――君は可愛い。

 声が甘く響いている。

 身体の奥が切なく疼く。恥ずかしい。嬉しい。幸せ。
 あんな事を言われたら、尚更好きになってしまうではないか。後戻りできない程に。
 可愛いなんて、長く生きている彼であればきっと幾らでも言える言葉なのだ。他意はないのだ。期待してはいけない。期待してしまったら、傷付いた時にどうしようもないから……。

 彼がいつしか、誰かと契った時に、自分はみっともなく縋り付いて泣いてしまいそうだった。彼の幸せを祝福してあげたいのに。そうするべきなのに。

 ああ、いっそ彼に好きだって言ってしまいたい。でも、この穏やかな生活を失うのが堪らなく怖い。告白して断られてしまったら、自分はばらばらになってしまいそう。こんなに誰かに恋い焦がれたのは初めて。彼に好きだって言えない自分が嫌いだ。ああ、苦しい……。

 リアは思考の渦に巻き込まれた。

「何よ、もう……」

 何も考えたくなかった。早く風呂に入り、もう寝てしまおうと考えた。首のチョーカーに手を添える。じんわりとした熱を伝えてくるようなそれをそっと外し、ゼルドリックの瞳によく似たサファイアをじっと見つめた。


 ――――――――――


 リアはその夜、また甘く淫らな夢を見た。
 天蓋のカーテンを優しく開け、ゼルドリックはリアに覆い被さった。彼はごく優しく、リアの頬に触れた。

「リア、リア……」

 優しく掛けられる声に誘われるように、リアはゆっくりと目を開けた。

「あ、ゼル……? どうしたの?」

 リアが起き上がろうとすると、ゼルドリックは優しく肩を押さえて、再びリアを横たえた。

「愛しいリア……好きだ……今夜も君に触れたいんだ」

 切なく恋の言葉を溢し、ゼルドリックがその身を擦り付けるようにリアに触れる。リアは彼を受け入れた。触れるだけの口付けを交わし、彼を抱き締める。

「好きだ、リア……大好きだ……」

 柔らかい愛の言葉が落ちてくる。本当に自分が愛されているような心地になる。その甘さに身を委ねようとした時、リアはふと、ゼルドリックが誰かと契る想像を蘇らせてしまった。苦しさが、胸から込み上げる。

(これは夢よ。夢でしかない)

 彼が好きだと言ってくれるのは、夢の中だけ。自分が大胆になれるのも、この夢の中でだけ。甘く残酷な夢。自分の妄想が作り出した幻のゼルドリック。リアはひとつ涙を溢した。切なくて仕方がなかった。

(どうして、いつもこんな夢を見てしまうのかしら。苦しい……)

「リア……?」

 ゼルドリックはリアが泣いていることに気が付いて、優しく髪を撫でた。リアは涙を流しながら彼の首に手を回した。

「どうしたんだ……?」

「ゼル……ゼル……」

 リアは体温を確かめるようにゼルドリックを抱きしめた。彼の身体からは清涼感のあるミントのような香りがした。彼の匂いだ。この体温も、この匂いも真に迫るのに、これは決して現実ではない……。

「ゼル……私ね、身体がずっと熱いの。いくら休んでも熱っぽいのが消えないの。身体の奥が、ずっとじくじくする」

 幻に過ぎないのなら、今この時間だけでも自分に残るものが欲しかった。リアは彼にねだった。

「疼くの。私の空っぽの部分が……あなたがずっと、埋めてくれない部分が。ねえ、ゼル……私が何を言いたいか、分かるでしょう?」

 ゼルドリックは息を呑んだ。彼の見開かれた青い瞳を見ながら、リアはまたひとつ涙を流した。そして彼の手を、自分の下腹に当てた。絶えず疼き続けているうつろの部分。
 リアは、ただの夢だとしても、自分の初めてをゼルドリックに捧げたかった。

「熱を出したらあなたが治してくれるって言ったけど、私は……ここが埋まらない限り、ずっとこの熱さに苦しみ続けるの。ねえ、だからここを埋めてよ。どうしようもなくあなたが欲しいの。私を抱いて……?」

「リア……君は……」

 ゼルドリックが言葉を詰まらせると、それを否定と捉えたリアが悲痛な声を出して懇願した。

「どうして? ゼル……。どうして私に頻繁に触れるのに、嫌だって言ってもずっと触り続けるのに……どうしてゼルは、いつまでも私の中に入ってくれないの? あなたに触れられたところがずっと疼くの。責任を取ってよ……」

 リアはとうとう、肩を震わせて泣き始めた。

「うっ……ぐすっ……これは、夢だって分かっているのに……私、おかしいの。朝も昼もっ……あなたの温もりを何度も思い出してしまうの……これはただの夢だって分かっているのに。現実じゃないのに! 身体が疼いて仕方がない、いつもあなたが欲しいって、そう考えてしまうの……」

 泣きじゃくるリアを前に、どうにかしてやらなければいけないと分かっているのに、ゼルドリックは手が動かせなかった。

(俺は、このままリアを抱いてしまいたい。でも……)

 何かが引っかかる。自分の感情に、少しのざらつきがある。

(ああ、そうか)

 ゼルドリックは悔い入る様に目を閉じた。

 自分は、リアの心が欲しい。
 リア自身が自分を好いて、求めてくれるならばどんなに幸福だろう。

 だが自分は卑怯にも、魔法を使って彼女を縛った。その結果、快楽に弱い彼女の身体が先に堕ちてきた。
 リアは、自分を好いて求めてくれた訳ではないのだ。ただ身体の熱を冷ましたくて自分を求めている。

(……リア)

 ゼルドリックは手を伸ばしかけ、止めた。だが彼の迷いを断ち切る様に、リアはゼルドリックに何度も乞うような口付けをした。リアの涙がゼルドリックの頬を濡らす。首に回る手は強さが込められていて。

 ゼルドリックはとうとう、リアの身体を強く抱きしめ返した。

(俺は卑怯だ。臆病者だ。でも……どんな形でも、君に求められたら嬉しいんだ。拒絶することなんて出来ない。君のことが、大好きだから……)

「ゼル、お願い……」

「リア……リア。本当に、いいんだな……?」

 ゼルドリックがリアのネグリジェに手をかけると、リアは微笑んで頷いた。リアの身体の力が抜ける。全てを自分に委ねるその様に、ゼルドリックは段々と、獣欲が己を支配していくのを感じた。

 リボンに手をかけ勢い良くその結びを解く。そうすれば月明かりに照らされて、リアの白い肌が美しく浮かび上がった。

「ゼル……」

 リアはゼルドリックを誘うように、彼の敏感な耳に手を這わせた。今宵のゼルドリックは、ゆったりとした寝衣を纏っていた。その寝衣の胸元の隙間から、彼の黒く艷やかな肌と、屈強な身体付きが見える。

 リアは頬を染めた。横にも縦にも大きいと思っていたが、衣服の下に、こんな逞しい身体を隠していたなんて知らなかった。いつも触れ合う時は下を寛げるだけで、基本的にゼルドリックは服を脱がなかった。リアは、ゼルドリックの全身を見たいと望んだ。

「ゼル、ねえ……あなたも脱いで」

 リアがゼルドリックの寝衣に手をかければ、彼の筋肉に覆われた見事な身体が露わになった。黒く艶のある肌。硬くもしなやかで美しい、筋肉に覆われた身体。自分とは異なる男の身体に、リアは感嘆の息を吐いた。

(私はこんな美しい人に、今まで触れられていたのね)

 リアは瞳を潤ませ、そっとゼルドリックの胸に唇を落とした。それが始まりの合図だった。

「あっ……」

 リアの顔が持ち上げられる。ゼルドリックは両手でリアの顔を掴むと、逃がさないとばかりにリアの唇を奪った。

「ふあっ!? んんっ……あああっ……ぜ、るぅ……んんんっ!」

「……あむ、ふぅ……リア、リア……!」

 肌と肌同士をぴったりと密着させ、ふたりは深い口付けを何度も繰り返す。溢れた唾液がリアの口の端から首筋にまで零れれば、ゼルドリックは長い舌でねっとりと舐め取った。

「君の耳はいつも可愛らしいな……?」

「はあっ……ああ、ああああっ……」

 首筋から耳の中まで、舌に犯される快楽にリアは喘いだ。ちゅく、ちゅくとした水音が耳を支配する。まるで脳までおかしくなってしまいそうだった。

 唇、額、頬。首筋から耳にまで、あらゆる場所にキスを落としながら、ゼルドリックはリアの胸の頂きを口に深く含んだ。乳輪ごと口に含んで、円を描く様にころころと舐め回し吸い上げる。片方の乳首は優しく指で上下に擦れば、リアは身体を大きく跳ねさせた。

「んっ……れろ、んむっ……ちゅっ……」

「うああっ……あっあっ! やだっ……ひゃめっ……それ、きもちいいからっ……」

 両胸に襲いかかる快楽にリアは身を捩ろうとするも、ゼルドリックはそれを許さなかった。リアを横たえさせ、その身を縫い付ける様に自分の身体で押さえつける。柔らかな胸を何度も掬い上げる様に揉めば、リアはぴくりと震える。そして唐突に芯を確かめるように乳首を優しく抓ってやれば、リアは甲高い声を上げた。

「あっ、ううっ……いやあああああっ! いやあっ……」

「いや? 嫌じゃないだろう? こんなに慎みのない胸を尖らせて、赤く腫れ上がらせて……堪え性が無いな……?」

「あっあっやっ……やだ、ひっかかないで……ああああっ!」

「駄目だ。君は快楽に弱くて……少し乱暴にされた方が喜ぶのは知っているんだ……だから、俺の好きなようにする。このはしたない胸を、徹底的に嬲ってやるからな、リア……」

「あ、ああああ……ひぐぅっ……しげき、つ、よいよぉっ……あっあっ……やだ、むねだけでいっちゃう! いやあああっ……」

「何度でも達け……達けば達くほど、気持ち良くなるんだろう?」

「いやだあっ……つらいの、ずっとじんじんしてっ……う、ふぅっ……ぜる、おねがい! こねるのやめてっ……ああああああ……」

 ゼルドリックがしつこくリアの胸を責め続けると、やがてくたりとリアが身体を投げ出した。彼女は目を瞑り、荒い息を吐いている。嬲られ続けた胸は赤く尖り、その存在を主張した。赤い髪をかきあげ、耳元で今から君を抱くと言えば、リアは目を開き、身体を震わせた。

「あ、ああ……ゼル……」

 赤い瞳に怯えの色は一切無い。ただこれから訪れる快楽に期待を寄せて、ゼルドリックに抱かれることを心の底から喜んでいる様に見えた。その満ち足りた表情に、ゼルドリックはリアが心の底から自分を愛し、求めてくれているのだという錯覚を起こしてしまいそうになった。

(リア……頭が溶けそうだ。……君が愛しい……!)

「はあ、はあっ……! リア、リア、リア……! やっと、君の中に入れると思うと嬉しい……! 俺は、興奮してこうなってしまったんだ……! 今日こそ君の中に、これを挿れてやるからな……」

「あ、あ……ああっ……!」

 ゼルドリックは、秘部から腹へ勃ち上がった陰茎を擦り付けて、先走りの液で彼女の肌を汚した。リアはその熱に、うっとりと目を閉じた。被虐の微笑みが、ゼルドリックの欲望を燃え上がらせていく。

 ゼルドリックはリアの脚を持ち上げ開いた。下半身だけを持ち上げるような、リアにとって不安定な体勢。目の前にはぬらぬらと愛液を滴らせる秘部があって、ゼルドリックは充血して張り詰めたリアの急所を、舌で味わう様に舐め上げた。

「ひいっ、ひゃ、あっあああああああああああっ!!」

 一番敏感な肉芽をいきなり剥かれ、舌で転がされる。鋭すぎる快感にリアは暴れるも、ゼルドリックはリアの股間から決して顔を離さなかった。急所を舐め転がされ、吸われ、リアは涙を流しながらゼルドリックに訴えた。

「やだ、やだあっ、やだあああ! おねがい、ゼル! あっ、ううっ……それ、強すぎるの! 本当におかしくなるっ……ねえ、きいてよお……」

「ん、ちゅ……れろぉっ……んんっ…」

「うああああああああっ……い、くうっ……!ふあっ……」

「ちゅっ……は、ははっ……リア、君は本当にここが弱くて弱くて堪らないみたいだな……?」

「あ、ああ……」

 じんじんと疼く秘部。懇願する様にゼルドリックの顔を見上げれば、己の愛液に顔を濡らしたゼルドリックが嗜虐的な笑みを浮かべた。リアはその表情を怖れ、また悦んだ。どんなに身を捩っても押さえつけられ、逃げ場のない中で与えられる快楽を享受するしかない。リアの仄暗い被虐的な欲望がゼルドリックの前で剥かれ、満たされていく。これから恋焦がれた男に支配されてしまうのだと思うと、うつろが堪らなく疼いた。

「堪え性のない奴め……君はここを弄ってやればすぐに達くよな。俺にこんな弱点を晒して……少しは耐えてみせたらどうだ?」

「あっ、あっ! あっやっやああああっ……むり、無理なのっ! そこは本当に……!」

 ゼルドリックが親指と人差し指で肉芽を捏ねれば、リアは切羽詰まった声を上げる。自分が与える快楽は相当辛いものだろうに、ゼルドリックはリアの快楽に泣き叫ぶ声がもっと聞きたくて、尖ったそこを辱めた。

「や、やあああっ! いく、いく、いっ……ああああああああああっ!」

「ははっ……本当に……弱い、な。ほら、また舐めてやるから……」

「んんんんっ! く、うっ……ああああ! ゆるしてえっ……おねがっ……また、くるっ……」

「んんっ……ふっ……んぐっ……れろっ…」

「ああああああっ……いってる、のに……舐めるのやめてええっ……」

(やだ、どうして? どうしてやめてくれないの……いってるのに、こんなにおねがいしてるのにっ……)

 リアは混乱する頭の中で、ひたすら自分の弱点を責め続けるゼルドリックに懇願した。絶頂を迎えるたびに敏感になっていく肉芽を刺激され続けるのは本当に辛かった。

 つぷり。

「あっ!?」

 濡れそぼり、ぐちゃぐちゃになったリアのうつろを、ゼルドリックの指が貫いた。肉芽を舐められながら抜き差しされる指の感覚に、リアは太ももを慄かせた。

「あっあ、や、ああああっ……」

「ふ、はは……君のここ、ぐちょぐちょだ……分かるか? 糸を引いて、白く泡立って……ここに俺のものを挿れたら、相当気持ちいいんだろうな……」

 ゼルドリックの指はどんどん増えていく。敏感すぎる芽を吸われ、指をばらばらに動かされ、リアは何度も何度も絶頂を迎えた。

「お願いっ……ゼル、おねがい……もう、抱いてよおっ……つらいの、なんどもいくのっ……」

 啜り泣くリアに向けて、ゼルドリックは微かな笑みを返した。それは目の前の女を甚振る事が楽しくて堪らないという様な、支配者の笑みだった。

「駄目だ、もっと解さないと……君に痛みを与えたくないんだ……」

「もっ……いやあああああああああっ……」

「リア……綺麗だ……何度でも気持ち良くなってくれ……」

「あっそこ、こすらないでっ……へんなのっ……あつい……あああっ……」

「んっ……リア、リアあっ……」

「あああああん……ああああああ……」

 涙と涎を垂らし、顔をぐしゃぐしゃに歪めた自分が綺麗な訳がないのに。ゼルドリックの言葉が嬉しくて、リアは何度も、何もかもを晒け出して絶頂に浸った。取り繕う余裕なんて全く無かった。

 リアの身体は、強すぎる快楽で不規則に痙攣している。ゼルドリックは男根をリアのぬかるみにくっつけた。くぷりと水音がして、熱の塊はうつろの入り口に導かれた。

「リア……」

「ああ……ゼル……」

 目を合わせ、どちらともなく口付けをした。ゼルドリックがリアの手を握ると、リアは嬉しそうに指を絡め、微笑んだ。

「ゼル……ゼル。ずっと欲しかったの……あなたが、欲しかったの……」

 リアは現実のゼルドリックに話しかける様に、甘く囁いた。

「あなたに抱いてもらえて、本当に幸せ……」

 リアの綺麗な微笑み。宿願が叶えられた様な、希っていたものが手に入った様な恍惚の表情。

 ゼルドリックはその微笑みを前に頭を垂れた。

 罪悪感か、支配欲か、歓喜か。あらゆるものがない交ぜになった複雑な感情から、ゼルドリックは自分の涙腺が緩むのを感じた。

「リア……リア……俺は、ずっと君が欲しかった……ずっとだ……君に拒絶されることが堪らなく怖くて、でも触れたくて……俺は……」

 声を震えさせるゼルドリックを落ち着かせる様に、リアはゼルドリックの指を握った。

(好きな人に抱いてもらえて、幸せなの……私の願いが、とうとう叶うのね)

 リアは黒の王子様に思いを馳せた。
 自分にとっての王子は、きっとゼルドリックだったのだ。

 一人は寂しいと思いながらずっと過ごしてきたが、今思えばそれも悪くなかった。こうしてゼルドリックに、心の底から恋焦がれる男に出逢えたのだから――

「あなたを拒絶することなんてないわ……来て、ゼル……」

「リア……リアっ……」

「あっ……はあああああああああああっ……!」

 ゼルドリックの男根がリアのうつろを貫いた。みちみちと隘路を拓かれる感覚があるのに、リアは痛みを感じなかった。ゼルドリックによって解されきったそこは、痛みよりも鈍い快楽を伝えてくる様で、リアが息苦しさから口を開けて息を吸えば、ゼルドリックが舌を吸った。

「あっあ……んんっ……ぜるぅ……」

「はあっ……はっ……リア、痛く……ないか?」

 疼き続けていたうつろがやっと満たされた感覚。髪を優しく撫でられ、リアは感極まったように涙を流した。

「おおきくて、すこし苦しいけどっ……いたくない……ゼルっ……うれしい……」

「リア……やっと、やっと君と一つになれた……!」

「あ、ああ……んん……」

「はっ……ごめんな、リア……我慢ができないっ……」

「ん、んんっ……んっ……あっ……はあっ……」

 ゼルドリックがゆるゆると腰を動かすと、リアは腹の裏側を擦られる未知の感覚に喘いだ。彼が腰を動かす度に、勝手に声が漏れ出てしまう。肉芽に与えられた鋭い快楽とはまた別の、深く包み込まれる様な、落ちてしまうような快楽。

「あっ……あっ……はあんっ……ゼルっ……」

「リア、リア……リア……!」

 ひたすらに名前を呼ばれ、うつろを満たされる。
 リアは幸せだった。本当に幸せだった。抱え続けた宿願がとうとう叶った喜びに、歓喜の涙を流した。

 彼の広い背中に手を回せば、垂れ下がったさらさらとした黒い髪が頬を撫でる。リアは尖った耳を甘噛みし、もっと、とねだった。

 緩やかな動きで耐えていたゼルドリックは、一言リアに謝った後、腰の動きを速めた。ぐちゅぐちゅという水音、お互いの肉が柔らかくぶつかり合う音が響く。リアは朦朧とする意識の中で、自分のうつろに熱が放たれたのを感じた。

「はっ……あう、ああっ……リア……」

「あ、あああ……あああ……」

「はあっ……リア、リア……好きだ……! リア、君も言ってくれ……」

「ゼル、ゼルっ……好きよ、大好きっ……」

 愛の言葉を囁かれ、強く抱きしめられる。ゼルドリックから与えられる熱に溺れて、リアは幸せの中で眠りに落ちた。
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