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第三章
42.鉤爪 ★
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嫌い、嫌いと呟くばかりのリアを、ゼルドリックは痛みを堪えながら抱き締めた。殴られる腕や胸よりも心が痛くて仕方がない。リアからの拒絶の言葉が、頭の中で繰り返し響いている。
「放して、放してっ、私のことが好きだなんて嘘でしょう? あなたは歪んでる、好きならこんなことしないはずよっ……。放して!」
自分の腕の中でリアが泣いている。自分のせいでリアが泣いている。宝物である満面の笑みが、くすんでいく……。
「……っ、お願い、お願いだ、リア……。俺の気持ちを信じてくれ……お願いだ……!」
ゼルドリックはリアを放し、胸元から契りの薔薇を取り出した。
青く美しい薔薇。だがつぼみのままのそれ。リアは輝く薔薇の美しさに、目が釘付けになった。
(綺麗な薔薇……)
ゼルドリックの瞳の色によく似た青いつぼみに、光の粒が舞っている。
リアはその美しさにすっかり目を奪われてしまった。ゼルドリックは項垂れながら、その薔薇をリアに手渡した。
「リア……。これが俺の気持ちなんだ。長き一生涯の内に一度しか創り出せぬ魔法の薔薇。契りを交わす時に贈る、誓いの薔薇……俺は君にこれを贈りたかった。相手のことを真に愛していなければ、この薔薇は創り出せない。俺は君と契りたい。そう思ってひとひらひとひらに、魔力を込めて、魂を削って創ってきたんだ……心の底から君を愛している、リア……。頼む、これを受け取ってくれ……」
ゼルドリックはリアにその薔薇を握らせようとした。
リアは何かに誘惑されるように、思わずその薔薇を受け取ってしまいそうになった。
薔薇に指が触れる前に、リアははっとした。
――あいつに対して絶対に隙を見せないで。あいつはその隙に付け込んでくる。最後の砦はリアちゃん自身だ。
自分を強く見据える赤葡萄色の瞳。メルローの言葉を思い出す。
(……そうよ、油断してはだめ。この薔薇に、どんな魔法が掛けられているか分からない。受け取ってしまったら、今度こそ私は支配されてしまうかもしれない。……駄目。ゼル、駄目だわ。あなたが私を愛しても、私があなたを愛しても。不幸しか訪れないのなら、私は……)
リアは唇を噛んだ。この拒絶は、彼に深い傷を付けるだろう。
それでも彼を想えば、言わない訳にはいかなかった。
「…………この薔薇は受け取れない」
「リア? ……リア、そんな……」
「受け取れない。こんな薔薇に何の価値があるというの?」
ゼルドリックが想いを込めて創った薔薇を、リアはわざと腐すように言った。
ゼルドリックの唇が慄き、目が酷く傷付いたように揺れる。
「迷惑よ。勝手に私への感情を拗らせて、こんな薔薇を贈られても迷惑としか言いようがないわ」
「やっ……止めてくれ、そんな酷いことを言わないでくれ! リア……リア!」
ゼルドリックはリアの肩を掴み赤い瞳を覗き込んだ。リアの目が、ゼルドリックを拒絶するように閉じられる。
青い薔薇は雨でぬかるんだ地面に落ち、たちまち泥に汚れた。
「俺を見てくれ……。どうして、どうして見てくれないんだ? ……どうして、俺の名を呼んでくれないんだ? リア……」
ゼルドリックの声が震える。リアは何も言わずに首を横に振り、彼を見ないようにした。ゼルドリックの傷付いた顔を見たくなかった。
「あなたが嫌いだからよ。薔薇は他の人に渡して。私のことは忘れて」
リアの静かな声に、ゼルドリックはぎりぎりと手の力を込める。リアは肩から伝わる痛みに眉を寄せた。
「君はっ……君はどんなに残酷なことを言っているのか分かっているのか……? この薔薇は、一生に一度しか、創れないのだぞ? 君を想って創った薔薇を、他の者に渡せだなんて、そんな……。そんな、酷いことを……。俺は、この気持ちを抱えてこれから生きていかなければならないのか? 君に拒絶されたこの苦しみを、悲しみをっ……! 君は酷い女だ……! 本当に酷い女だ、どうしたらそんな残酷なことを言えるんだ!?」
(……ごめんなさい、本当にごめんなさい、ゼル……)
「そうよ、私は酷い女なの。分かったらさっさと私に見切りを付けて帰ってよ。もう私に関わらないで! お願いだから私のことは忘れて!」
ゼルドリックは硝子玉のような青い瞳から滂沱の涙を流し続け、目の前のリアを呆然と見つめた。
自分の恋情の結晶がその役目を果たせぬまま、泥で汚れていく。
リアを失う悪夢がじわじわと近づいている。リアは頑なに見えた。自分のことが嫌いだとしても、今まで共に過ごしてきた生活を無に帰す程に全く取り合おうとしない無慈悲さがあった。
(なぜ? なぜ君は、そんなに……)
「リア。なあ、君はいつだって優しくて……。こんな、気持ちを蔑ろにするような女ではなかっただろう? 一体どうしたんだ? どうして――」
「しつこいわね」
ゼルドリックは一向に帰ろうとしない。リアはどうしたらゼルドリックに自分を諦めてもらえるのか分からなかった。
彼は本気だ。本気で自分を好きだと言っている。これ以上傷付いて欲しくない。
彼が仕方ないと諦められるような理由を言わなければ……。
そしてリアは嘘を言った。
それがゼルドリックの狂気をなお加速させると知らずに。
「私ね、好きな人がいるの」
リアはゼルドリックの青い瞳を正面から見据えてそう言った。
ゼルドリックの顔からごっそりと表情が抜け落ちる。
彼の無表情な顔が怖ろしい。彼を酷く傷つけている。リアは自分の罪をしっかりと見つめ、熱を込めて恋慕の言葉を紡いだ。
「王子様のような人よ。瞳がきらきらしていて、背が高くて、優しくて、甘い微笑みが素敵で、いつも私の名を呼んでくれて、話が合って、ロングコートがよく似合うの」
冬の大通りを手を繋ぎながら歩いたことを思い出す。ゼルドリックと初めて夜を共にした日を思い出し、リアは声を震わせた。
「私がファティアナ様に捧げる作品に込めてきた感情はね、恋なのよ。あなたは知らないと思うけど、私にはずっと好きな人がいたの」
「……リア」
「その人ただ一人を想って作品を作ってきたの。ファティアナ様も私の作品を褒めてくださる。込められた恋情がどんどん強くなっていってるって」
「やめろ、リア」
「私はその人のことしか考えられない。ずっとその人のことだけが好き。その人のことを心から愛してる。その人になら何をされたっていい。それくらい好きなの」
(ゼル、あなたが好きよ、ずっと、ずっと……。あなたを守りたいの、生きてほしいの)
リアの抱える強い恋情が伝わったのか、ゼルドリックはリアの言葉に目を見開き震える息を吐いた。
「だからその薔薇は受け取れない。絶対に受け取れない。……ごめんなさい」
「………リア!」
ゼルドリックがリアの腕を強く掴んだ。一切の遠慮なく、彼の大きな手がぎりぎりとリアの腕を掴む。リアは痛みに声を上げた。
「そうか……。そうか。好いた男がいるというのは、本当だったのだな。そこに転がっている男の告白を断るための嘘ではなかったのだな……!」
「いや、放してっ……」
「抵抗するな!」
ゼルドリックはリアの腕を勢い良く捻り上げた。鋭い痛みが肩から腕まで走り、リアは涙を流した。
「うああっ!?」
「ははっ……もっと俺の与える痛みで泣けばいい……! なあ、リア。君の王子とは誰だ?」
ゼルドリックはリアの腕を捻り上げたまま尋ねた。落ち窪んだ目に爛々とした輝きが戻っている。不気味な輝き。痛みに苦しむ自分を愉しげに見るような輝き。彼の異様な様子にリアはぞっとした。下唇を噛み、泣きながらも自分を睨むリアをゼルドリックは笑いながら見た。
「……言わない」
「ほう? なら当ててやろうか。レント=オルフィアンだろう? 昼間、共に出歩いていたものな?」
「……それ、何で……。何でレントさんと一緒にいたって知ってるの……?」
「君を捜し回っている最中に見た。君があの男と仲良く歩いているところを……」
リアは自分の身体が震えるのを感じた。ゼルドリックの自分に対する強い執着を目の当たりにした。石造りの避難所を壊してまで追ってきた彼だ。
彼は、レントに危害を与えようとするのではないか?
「違う、レントさんは関係ない」
「庇うか、俺が奴を手に掛けることを気にして。聡い女だ。そして……憎い」
ゼルドリックはリアに怒りをぶつけた。
「俺は君のことを第一に考えてきた。あれほど、あれほど逃げないように手を回して、君と過ごしてきた時間も奴よりずっと長いというのに。それなのに君は俺の目を掻い潜り、いつの間にかあの男に恋をした! 馬鹿らしい。君は俺の恋情を何一つ掬い上げてはくれなかったのだな。共に暮らし、肌を重ね合わせ……君も、少しは俺を受け入れてくれるかと思っていたのに」
酷く冷たい声。彼を傷付けたのは自分だというのに、リアはその声を聞きたくないと思ってしまった。
「リア……」
ゼルドリックはリアの顔にしっかりと手を添えて、そして冷え切った桃色の唇にキスをした。厚い舌が唇を舐め上げる。リアはかっと身体が熱くなるのを感じた。
「んんっ!?」
ゼルドリックの舌がリアの腔内に入ろうとしてくる。リアは必死に口を閉じて、それ以上の侵入を許さないようにした。敏感な唇を執拗に舐められる快楽。好きな男からの口付けに、リアの芯が綻んでいく。
リアは思わずゼルドリックの顔を叩いた。
ぱん、と乾いた音が響く。
「……」
リアは罪悪感で身を硬くした。自分が叩いたせいで、ゼルドリックは口の端を切ってしまったようだった。赤い雫がひとつ溢れ、伝う。だがゼルドリックは真白い歯を見せ狂気的に笑った後、その血を舐め取り、リアにまたキスをした。
「んあっ!?……ん、むうっ……やああっ……」
「はあっ、はあっ……んっ……」
深い深い口付け。鉄の味がする唾液が流れ込んでくる。リアは絶えず流れ込んでくるそれを思わず飲み込んでしまった。
「は、はあっ……どうして、無理やりこんなことするの……? やめて、私はあなたを受け入れる気なんてないっ……」
ゼルドリックは口元を押さえ泣くリアを悲しげに、だがどこか恍惚として見つめた。
「くくっ……泣くほどに俺が嫌か? まあいい、どのみち君は逃げられない。仕方がないのだ。君が俺を受け入れてくれないなら、無理矢理にでも受け入れさせてしまえばいい」
ゼルドリックは黒い靄を右手に纏わせた。
靄の中から現れたのは刀身が黒いサーベルだった。リアは嫌な予感がした。
ゼルドリックは意識を失っている行商人の後ろ髪を掴み、リアに見えるように首にサーベルを当てた。薄皮が切れ、一筋の赤が男の首から滴る。
「リア。俺はこやつの首を、このまま刎ねてしまおうかと考えている」
滴り落ちた血を認めて、リアは身体を大きく震わせた。
ゼルドリックは昏い瞳でじっとリアを見据えながら、口元を大きく歪めた。
「やっ……やめて、何を言ってるの? 何でそんなことを……!」
「君に恋情を向けたこの男を殺してやりたい気分だからだ。君に恋情を向けるのは俺一人でいい。君に集ろうとする虫は全て潰してやる。俺は仕事柄何度も何度も首を刎ねてきた。今更、ひとつ増えたとて何も思わぬ。だが、この虫に情けをかけてやってもいい。こやつが助かる方法がある……」
ゼルドリックはリアの赤い瞳を真っ直ぐ見据えながら言った。
「君が俺と共に来るのならば、この虫の命は助けてやろう」
ゼルドリックは唇を片方だけ曲げる特徴的な笑みを浮かべた。リアは身体の震えを押さえつつ、必死でゼルドリックと向き合った。
「人の、命を人質に取ってまで……! あなたはそんなことしないでしょう……!? その剣を下ろしてよ!」
リアはゼルドリックに懇願したが、彼は全く剣を下ろそうとしなかった。
「君に俺の何が分かる? 俺はこういう奴だ。君がいくら囀ろうが剣は下ろさない。君を捕らえるためなら、俺はどんなことだってやってみせる」
「…………う、そ……やだ、やめてよ……」
リアはがたがたと震えた。ゼルドリックは狂気を剥き出しにしている。
レントが視た悍ましい未来が、すぐ側にまで近づいている気がした。
「リア、君を愛している。君が俺をどんなに嫌ったって、この気持ちは変わらない。そう言っただろう? 君が俺を突き放そうが、失望しようが、他に好いた男がいようが関係ない。俺は君を得るために殺しだって何だってやってやる。さあ、早く答えを返せ! さもなくばここが血の海になるぞ。君は生首を見たくないだろう?」
赤い筋が走る。リアは悲鳴を上げた。
「やめて、やめてよっ……お願い!」
「早く答えを言え」
「わ、分かったわ! あなたについていくから、だからその人を……!」
リアの叫びを聞いた後、ゼルドリックはサーベルを消し、行商人の男をつまらなそうに前に放った。どさりと音を立てて倒れた男にリアは駆け寄り、息があることを確認した。
「……この人、不自然な笑い方をしたの。人の浮かべる表情には見えない、何かに操られているような笑い方。あなたが魔法で操ったのね。私から、タリスマンを奪うために……」
「ああ、そうだ」
「どうして? 任務以外で魔法を掛けるのは罪なのでしょう? どうして……? 私は言ったでしょう、好きな人がいるって。こんなことをしても、あなたを受け入れることは出来ないのよ! これ以上はどうか……。あなたの罪が、重くなってしまう……。お願い、どうか私のことは忘れてよ、あなたが……」
(あなたが死んでしまう……!)
リアは怖ろしい未来に唇を戦慄かせた。涙を流すリアを、ゼルドリックは嬉しそうに抱き締めた。
「罪など戻れない程に重ねている。もう、どうでもいい。君に嫌われてしまったんだ。甘い希望を捨て去るべきだった。君の笑顔が欲しいなんて思わずに、ただ最初からこの力を使って、支配してしまえば良かったんだ。足の腱を切ってでも、その腹に子を孕ませてでも、誰を殺してでも、洗脳してでも、君を逃げられないところに置いておくべきだった」
「薔薇は俺の恋情の全てだった。毎夜毎夜、ひとひらひとひらに強い魔力を込めて創り上げた恋情の結晶だった。それが、それが今や泥に塗れている! こんな風に俺の恋情を打ち捨てられるくらいなら、契りなど交わそうと思わず、ただ愛玩動物のように一方的に飼ってやれば良かった! 君の心を求めた俺が馬鹿だったんだ!」
ゼルドリックは愉快そうに笑った。口を大きく開け、天を仰いで笑った。狂気が滲んだ大笑いが雨音と共に響く。青い瞳からぼたぼたと涙を溢れさせるも、ゼルドリックはリアを放さず、ただ大声で笑い続けた。
「あ……」
リアは自分の罪を思い知った。ゼルドリックは壊れてしまった。彼の姿が怖ろしく、そして悲しかった。
(ゼルを、突き放した結果がこれだというの? ……私のせいで、彼が……)
ゼルドリックはリアを抱き締めたまま魔法を唱えた。黒い靄がリアの身体を包み込む。靄はやがて数多の黒い手となって、リアの足首から腕、首、腰までを撫でさすり、そして掴んだ。ぬらぬらとした悍ましい手が肌を這い回る感覚に、リアは怯えた悲鳴を上げた。
「やだっ……何これ、放してっ……」
「ああ、君の悲鳴が心地いい。行こう、リア……。君を壊してやる。壊れて俺しか見えなくなった君を、ずっと、ずっと手元で可愛がってやるからな……」
「う、あ……」
ゼルドリックはリアに魔法をかけ、彼女の意識を失わせた。ゼルドリックは雨に打たれながらぼんやりと、意識を失ったリアの顔を見た。青白く、桃色の唇は血色が失われている。額にひとつキスを落とし、ゼルドリックは哀しく笑った。
その時、ゼルドリックを引き止める者がいた。
「お待ち下さい、ゼルドリック様」
ゼルドリックは平坦な声に呼び止められた。
ざあざあと大雨が降る中だというのに、感情の読めない平坦な声はゼルドリックにとってはっきりと、そしてやけに響いて聞こえた。ゼルドリックは聞き慣れたかつての部下の声に、硬く低い声で応えた。
「アンジェロ」
自身の身体にぼんやりとした魔力の膜を纏わせ、雨の飛沫を避けながらアンジェロがゼルドリックのもとへ進み出る。敵意は感じられないが、殺気立った自分に近づくことに対して一切の躊躇いがない足取りに、ゼルドリックは警戒を露わにした。
片腕でリアをしっかりと抱きかかえ直し、利き手にサーベルを出現させ握り直す。そして剣の切っ先を、躊躇いなくアンジェロへと向けた。
「避難所の異常を検知して急いで来てみればあなたがいる。まさかこの場所を突き止めるとは、あなたは本当に恐ろしい」
ゼルドリックは低く唸るような声を喉から出した。
「アンジェロ、お前は俺からリアを奪った。ただでは済まないことくらい分かるだろうに、俺の前に一人で現れるとはな。殺されに来たのか?」
「……」
ゼルドリックの恐ろしい殺意を身に受けても、アンジェロは怯みも怖れも表に出すことはなかった。ただ無表情な顔をゼルドリックの方へと向け、時折意識を失ったリアへと視線をやった。
「俺がこの女をどれほど愛しているか、お前が知らない訳がないだろうに。残念だ。可愛い部下のことも、リアを奪ったと思うと憎らしくて仕方がない……」
青い瞳が剣呑な輝きを宿し、黒いサーベルが雨の雫に濡れて不気味に光る。アンジェロは静かに目を閉じた。数多の血を流してきたと言われる剣を前に怖れを抱かない訳ではなかったが、不思議と心は凪いでいた。
「リローラン殿を拐ってどうするおつもりです」
「……」
アンジェロの静かな問いに、ゼルドリックは黙して語らなかった。
「あなたは激情のまま彼女を傷付ける。そして今度こそ逃げ出せないように、徹底的に縛り付けるおつもりでしょう」
「だとしたら?」
ゼルドリックは皮肉げに笑った。
「俺はリアに壊された。リアは、俺の想いの結晶を粉々に砕いた! 愛しい女だ、だが同じくらいに憎い。リアにも俺の苦しみを味わってもらう。俺の愛を受け入れられないというのなら、壊れてしまえばいい……!」
「その結果、彼女を永遠に喪うことになっても?」
「……何?」
ゼルドリックは訝しげに呟いた。
「レント=オルフィアン。彼がごく珍しい未来視の能力を持っていることはゼルドリック様もご存知ですね? 彼はリローラン殿と接触した際、彼女の未来を視たのです。あなたがリローラン殿に悍ましい暴行を加え、その結果、彼女が死を迎える未来を」
アンジェロは未来の全容を話さなかったが、僅かな説明でもゼルドリックに大きな衝撃を与えるのは分かっていた。青い目が見開かれ、リアを抱える腕が震えたのを見逃さなかった。
「私はその未来を信じたくなかった。あなたはリローラン殿を深く愛していて、リローラン殿もまたあなたに歩み寄ろうとしていた。ですが、レントの視た未来が訪れる兆候は充分にあった。ですから私は、彼女を守るために保護したのです」
「……俺が、リアを死なせる訳がないだろう」
「レントの未来視は確実です」
「信じぬぞ! 俺を引き止めるために嘘を吐いているのだろう!」
ゼルドリックがそれ以上は聞きたくないというように、頭を振って大声を出した。
「それで、お前もオリヴァーもリアを俺から引き離したというのか。あの男の言うことを信じて? 口だけなら何とでも言える! リアを得たいがために不確かな未来を見たなどど嘘を吐いたかもしれないのに!」
「ゼルドリック様」
「リアはレントの奴と仲が良かった。そして好いている。俺が手を離せばリアは決して戻ってこない。考えただけで駄目だ。あまりにも耐え難い。リアは俺の全てなのに。何を賭しても傍にいたい存在なのに」
震える声で紡がれた言葉が、雨音の中で哀しく響いた。
「俺が傍にいることで、リアが死ぬだと? そんな訳がない。決して死なせぬ。死なせることはない。俺から離れるなんて、そんなことは許されない……」
ゼルドリックは雨に濡れるリアを抱き寄せた。いつの間にか、アンジェロに突きつけられていたサーベルは消えていた。ゼルドリックは震える両手でしっかりとリアを抱え、その体温を確かめるように彼女の頬に触れた。アンジェロは僅かに眉を下げ、平坦な声で切り出した。
「ご忠告を。リローラン殿の身は現在、パルナパ家の下にあります。あなたがこのまま彼女を拐えば、それはパルナパ家への反逆と見做される。王家に連なる高貴な一族を敵に回せば、ゼルドリック様。いくらあなたでも無事でいられるはずがない」
「パルナパだろうが大魔導師だろうが、俺たちを追ってはこれまい」
「どういうことです」
「俺たちはこれから誰の邪魔も入らない、完成された世界へと向かうのだ。そこには俺とリアしかいない。その他の者は介入できず、俺が生きている限りはリアが死ぬことはない。俺は、その世界に行くことをずっと夢見てきた」
「何、を?」
アンジェロは無表情を崩し、困惑を顔に浮かべた。ゼルドリックの言葉を理解することが出来なかった。
「もう少しなのだ、アンジェロ。邪魔をしないでくれ」
「ゼルドリック様? どうか……」
「退け! 本当に殺されたいか!」
怒声が鼓膜を震わせ、アンジェロは思わず歩み寄る足を止めた。だがゼルドリックの青い瞳をじっと見つめた後、静かに切り出した。
「あなたは、私を殺すつもりはないのでしょう。リローラン殿をあなたから引き離したにも拘らず、あなたはまだ私に目を掛けてくださっている。殺すつもりなら、私の姿を認めた時にすぐ首を斬ってしまえば良かったのだ。あなたにはまだ、私を殺すことへの躊躇いがある」
「煩い。リアの為ならいくらでも殺せる。お前とて例外ではない」
「あなたはまだ、ご自身の狂気に浸されきってはいない。戻ってこられるはずです。行かないで下さい」
「煩い!」
「私は二人を救いた――」
懇願の言葉を吐く前に、アンジェロは頭から地面に倒れ込んだ。昏倒の魔術を掛けられたのだと彼が一拍遅れて気がついた時には、ゼルドリックの身体はもう黒い靄に包まれていた。
「ゼル……ドリック様……」
朦朧とした意識の中で、アンジェロは必死にゼルドリックの名を呼んだ。だが彼の姿は大雨の中に溶けゆき、そしてアンジェロの意識は間もなく暗闇に落ちた。ざあざあと大雨が降る中で、倒れ込む行商人の男とアンジェロだけが残された。
――――――――――
ぽたり。ぽたり。
水の音が聞こえる。
リアが微睡みの中でそれを聞いていると、乱暴に髪を掴まれ顔を上に向かされた。驚きと痛みにリアの意識が急浮上する。
「起きろ、いつまで寝ているつもりだ」
ゼルドリックは乱暴に言い捨て、爛々と輝く目でリアを見下ろした。黒い髪が垂れ下がり、彼の落ち窪んだ目をより怖ろしげに見せている。
「……ここは」
リアは髪を掴まれたまま、目を動かして辺りを見た。辺りはとても暗く、灯りはゼルドリックの側にある蝋燭しかない。建物の中だということは分かるが、窓もなく雨音も聞こえない。襲いくる閉塞感に、リアは大きな不安を覚えた。
「俺と君がしばらく過ごすことになる場所だ。俺はここで君を飼ってやる」
ゼルドリックはにんまりと笑った。わざとらしく唇を上げる歪な笑み。優しさの欠片もないそれに、リアは身体を恐怖から震わせた。
(……私は、ここで……。何をされるんだろう……)
ゼルドリックは自分を愛していると言ってくれた。だが自分は彼の薔薇を腐し、酷いことを言って突き放してしまった。彼は深く傷付き、そして壊れてしまった。
彼に憎まれても仕方がない。憎しみのまま拷問でもされるのだろうか?
リアは唇を噛み締め俯いた。そして、自分が変な体勢で拘束されていることに気が付いた。
「……っ!?」
痛みを与えない程度に背が平坦になった三角屋根状の椅子のようなもの、その上にリアは全裸で座らされ、逃げられないように足を縛られていた。両手は縛り上げられ、天井から吊り下げられているようだった。
(なに、これ……!?)
自分が座らされている変な形の椅子。それは背が平らなため痛くはないものの、自分の重みがかかり、股が椅子に強く押し付けられる。秘所に伝わる堅い木の感覚にリアは身を強張らせた。
「リア、三角木馬を知っているか」
ゼルドリックは愉しそうに笑い、リアの頬に手を添えた。
「拷問器具の一種だ。この木馬に座らされた者は、自らの重みで尖った背に股を押し付けられ、逃げられない中、酷く苦しみ続ける。全く、悪趣味な拷問器具もあったものだな? 君が座っているそれがその三角木馬だ。まあ尤も、俺が手を加えているから普通のものとは大分違うがな……」
「……これで、私を拷問するの?」
「くくっ……。ああそうだ、君を拷問して壊してやる。元に戻れないくらいにめちゃめちゃにしてやる」
「っ……!」
「怖いか? その酷く怯えた顔。痛みを与えられた末に、俺に殺されてしまうとでも思ったか……?」
ゼルドリックはリアの怯えた顔を見て、喜色を浮かべた。
「安心しろ、拷問と言っても痛みを与えるような拷問ではない。その手の拷問を俺がやると手加減し損ねてうっかり君を殺しかねない。大切な君の身体に傷は付けない。ただ強烈な快楽を与えて、俺から逃げようとする意思をすっかり折ってしまうだけ……」
ゼルドリックは怯えるリアを愛おしそうに見つめた後、ねっとりと唇や頬を舐め回した。
リアの恐怖に半開きになった口に、ゼルドリックの分厚く赤い舌が入り込む。歯列をなぞられ、舌を絡め取られ、流れ込む唾液を飲まされ、リアは執拗なキスの合間に色を含んだ吐息を漏らした。
「っあ……やあ、やめ……へ……」
「んんっ……リア……はっ……君の舌は、本当に、美味い、な……」
「ううっ……は、ああっ……や、やだあっ……」
リアはゼルドリックの舌から逃げようとするが、ゼルドリックはリアの両頬に手を添え、なお深く舌を入れ込んだ。ぐちゅぐちゅと口からいやらしい音が聞こえ、敏感な耳の穴にゼルドリックの指が差し込まれる。ゼルドリックは喜色を浮かべた青い瞳で、じっとリアの濡れる赤い瞳を見た。
情欲を掻き立てる口付けに、リアの芯が綻んでいく。リアはかつてゼルドリックから与えられてきた快楽を思い出し、とろりと自分の内から愛液が溢れ出るのを感じた。
(拒絶しなきゃいけないのに……。気持ち良くてたまらない……)
半月ぶりの接触は甘い毒の様で、何も考えずに濃厚なキスの快楽に浸りたくなる。自分から舌を絡ませ、彼の唾液を求めてしまいたくなる。リアは眉を下げ、甘い口付けに溺れた。愛液は次々と溢れ出て、秘所に当たる木馬の背を濡らしてしまう。リアは強い羞恥から身を捩ろうとするが、ふと胸が熱くなり、自分の内側が燃え上がるような感覚がした。これは――
「う、あ……魔力、酔い……?」
「はあっ……ははっ……そうだ、そうだリア……。酔わせてやった。君は俺の血と唾液を飲んだだろう? またその身体に俺の魔力が巡り始めたのだ。その熱は君の内を俺の魔力が犯している証……。受け入れろ……」
ゼルドリックはリアの首筋に舌を這わせながら、リアの胸の頂きの感触を楽しむように指で捏ね、豊かな乳房を黒く大きな手で揉み込んだ。リアは身体の内の熱に苦しみながら、胸が蕩けてしまいそうな快楽に甘やかな声を上げた。
「ふあああっ……! あっ……いや、お願いっ……こんなことしないで、私を放してっ……!」
「暴れるな。あれだけ魔力を注ぎ込んでやったというのに、君の魔力の器はすっかり空になっている。……あの忌々しいオリヴァーが、君の身体から俺の魔力を抜き取ったみたいだな」
「んんんっ……ん、ふ、ふうっ……!」
「声を我慢するな。君の声を聞かせろ……。なあ、オリヴァーはどうやって君から魔力を抜き出したのだ? まさか君は奴に身体を触れさせたのか? その身体を許したのか?」
「ああっ、あ……おねが、そこ、抓らないでえっ! 何もしてない……オリヴァーさま、は何も……!」
「オリヴァー様だと? 君はあやつまで誑し込んだのか!? あやつの名を呼ぶなど気に入らぬ……そういえば、君は先程から俺の名を全く呼ばないな。何故だ? 嫌う男の名など呼びたくないと思っているのか? なあ、呼んでみろ、俺に媚びるのが賢い選択だぞ……」
ゼルドリックはリアの胸を弄びながら、リアに自分の名を呼ぶように要求した。リアは荒い息を吐きながらも下唇を噛んだ。ゼルと愛しい男の名を呼んでしまえば、この快楽がより深まる気がして怖くて呼べなかった。ゼルドリックは口を開かないリアに苛つき、濃桃色の乳輪を舐め転がした。
「ふあああああっ……」
胸を強く寄せられ、二つの乳輪を舐め回される。リアが弱いと知っての責め方。赤く分厚い舌が、飴をじっくりと味わうように乳輪をなぞり、乳首を包み、弾く。じわじわと迫り上がってくる身を捩らずにはいられない気持ちよさ。リアは思わず涙を流し、喉を震わせた。
「あ、ああっ……ああ、ぜ、る……」
彼の名を呼べば、舌に確かな甘さを感じ、心が高鳴った。とぷりとまた液が溢れる。きっと股に当たっている部分には自分の愛液が染み込んでしまっている。リアは快楽に弱すぎる自分の身体を恥じた。
「リア、リア……やっと呼んだな」
赤い髪を撫で、ゼルドリックはリアの桃色の唇を柔らかく己のもので噛んだ。彼の声には嬉しさが混じっていて、リアは思わず彼を抱き締めたいと思ってしまった。ゼルドリックの黒い手が、髪から首、胸、背中から腹、腰、太腿と順に撫でさすっていく。木馬から滴る雫に気が付いたのか、ゼルドリックはリアを嘲笑するように息を吐いた。
「はっ……あれだけ俺を嫌がっておいて、なんだこの様は? 君は嫌いな男に触れられていてもこんなに濡れるのだな。どうしようもない淫乱女だ……」
「う、うううっ……ひっ……ああっ……」
「誰が触れてもこうなるのか? なあ、どうなんだ……?」
「……ち、がう……」
「ほう? 信じられんな。君は嫌いな男に触れられてここまで濡らすんだ。誰が触れてもこうなってしまいそうだがな」
(……分かっている、くせに……私を追い詰めようとしている……)
リアは彼を弱々しく睨んだ。ゼルドリックは分かっているはずだ、目の前の女を簡単に支配できるのは自分だけだということを。自分は彼に軟禁され、日々調教を受け続けた。敏感なところは全て知られてしまっている。彼に少し触れられただけで、秘部をどろどろに蕩けさせてしまうほど彼に堕ちている。
(お前がどう思おうが……お前をここまで感じさせることができるのは自分だけって、言いたいのでしょう? ゼル……)
その通りだとリアは思った。自分がこうなるのはゼルドリックだけだ。彼の支配欲が粘っこく絡みつく。リアが目を潤ませ恍惚に浸ると、ゼルドリックは涙を舌で舐め取り、耳元で囁いた。
「リア、君は俺と離れていた間……誰かに抱かれたか?」
ゼルドリックの落ち窪んだ目が強く強くリアを見据える。暗がりの中蝋燭に照らされる青い瞳は揺れていて、彼はリアの答えを怖れているようだった。
(そんな訳ない……。でも、ここで突き放せば、ゼルは私への執着を絶ってくれるだろうか……? 自分だけのものでなくなった私を、自分以外を選んだ私を、嫌ってくれるだろうか……)
はっきりとした答えを返すのは躊躇われた。自分はゼルドリックのことが好きで、彼に嫌われることをまだ怖れてしまっている。彼に身体を撫で回されながらしばらく口を噤んだ後に、リアが返した言葉は弱々しく曖昧な拒絶だった。
「そんなのっ……あなたに関係ない……わたしが……誰に抱かれようと……」
「関係ないだと?」
ゼルドリックの声が低くなった。
「何だその答えは? 君は誰かを咥え込んだというのか? だが……レントでもオリヴァーでもなさそうだ。魔力の匂いがしない……相手は人間か? オークか? 俺の見ていないところで誰に抱かれた?」
「ああ……だが君は接触を避けて暮らしていたはずだ、誰の元にも行かず、あの石造りの建物の中で暮らしていたはずだ、だから君を抱いたのは俺だけのはずだ……。本当に、本当に気に入らないな。俺を拒絶するためにそんな言葉を吐く。どんなに動揺したか分かるか? 俺の問いに素直に答えていればいいものを……」
ゼルドリックはぶつぶつと呟き、近くの机の上に置いてある箱から何かものを取り出した。それは丸く滑らかなゴムの玉だった。ゴムの玉には穴が空けられ、両端から紐が出ている。
「リア。やはり君を壊してしまおう。君の態度次第では優しくしてやろうかとも思ったが、反抗的な女には厳しい躾が必要なようだ。その反抗心を折ってやる」
リアは顔を強張らせた。ゼルドリックが手に持つ玉。それが何に使われるのか分からなかったが、自分を壊すと聞いて嫌な予感しかしなかった。
「これを作ってからずっと君に使ってやりたかったが、可哀想だと思って止めていたのだ。だが、もう遠慮なくこれを使える……。リア、このゴムの玉は何に使うものだと思う?」
ゼルドリックは愉しげにリアに聞いた。リアが分からないと首を横に振ると、ゼルドリックは唇を歪に曲げた。
「君の陰核を嬲り続けるためのものだ」
「っ……!」
青い瞳が蝋燭に照らされて輝く。怖ろしい笑みにリアは思わず身を捩った。腕に繋がれた鎖がじゃらじゃらと音を立てる。
「俺は魔力で何かを操ることに長けているのだよ。このつまらないゴムの玉もこうして……」
ゼルドリックが玉に人差し指を当てると、玉が音を立て細かく振動し始めた。聞いたこともない低い振動音に、リアは大きく目を見開いた。ゼルドリックは細かく振動しているゴムの玉を、リアの胸の頂きにそっと当てた。
「ふああっ!?」
リアは胸の先端を襲った振動に目を見開き、すぐに絶頂を迎えた。あっという間の絶頂が、じわじわと乳首から全身へ拡がっていく。ゼルドリックはリアの絶頂を見届けて、歪な笑みを浮かべながら玉の振動を止めた。
(なに、これ……なにこれ!?)
快楽の芯を無理やり揺り動かされるような、ぞわぞわとした強烈な快楽。あれは駄目だ、胸だけでこんなに気持ちいいのに、あんなものを弱点に当てられてしまったら……。
(やだ、こんなの、私本当に壊れちゃう……!)
リアはぼたぼたと涙を流し、首を勢い良く横に振った。大きな恐怖がたがたと身を震わせる。
「おねがいっ……やだ、それやだ! そんなものを当てられたら、おかしくなっちゃう……だからお願い……!」
「ああ、本当に良いな。君の怯えた顔、悲鳴が入り混じる声……。もっと見せて、聞かせてほしい。俺の心が、何とも慰められるような感じがする……」
ゼルドリックはリアの懇願を打ち捨て、濡れそぼるリアの秘所にゴムの玉を当てた。そして玉の両端から出る紐を、しっかりとリアの身体に巻き付ける。
「さて……これで君を壊すための準備は完了だ。我慢せず何度も達していいぞ? 今までたっぷりと俺が虐めてやった陰核だ、そこに細かい振動が襲い来て、君は終わらない絶頂に追いやられる。ああ、想像しただけで勃ってしまった。リア、気持ちよすぎて君が色狂いになっても、俺がずっと面倒を見てやるからな……」
「や、やだ、お願いよ、ゼル……お願い……」
「俺は君がいない間、君の身体を思い出しながら何百回も自慰をしたんだ。君も俺を想いながら何百回も達くといい。俺は君から見えないところで、その淫らな姿を観察するとしよう……。それではな、リア。精々たっぷりと喘げ」
「や、やあっ……お願い、待って!」
ゼルドリックの姿が黒い靄となって消えていく。そしてリアの陰核にぴったりと当てられたゴムの玉が、低い音を立てて振動し始めた。
「あっ!? あ、ああああああああああああああああああっ!!」
暴力的な快感が陰核を襲う。リアはあっという間に絶頂を迎えたが、ゴムの玉は振動し続け、快感をリアに与え続ける。絶頂に次ぐ絶頂にリアは身体を慄かせ、腹や腿を痙攣させ、引き攣れるような叫びを上げた。暗い暗い部屋の中で、リアの必死の喘ぎが響き渡る。
「やあああっ! いやああっ……あああああっ! ひゃめっ、こんなのひゃめっ……! やだあああ! もうやめて、とめてえええっ!」
リアがどんなに叫んでも、何の変化もない。部屋にはただ振動音とリアの叫びだけが響く。
「ぜ、るうっ……ごめ、なさいっ! あやまるっ……あやまるから! ゆるしてえっ…いやあああああっ……また、いくうっ……! うあああぁぁあああっ!」
何かが肌を這い回る感覚がした。胸や腹、脇、腿を無数の黒い手が撫でさすっている。その触れ方はゼルドリックそっくりで。リアの呼びかけに応えたのか、ゼルドリックが魔法を使ってリアを遠くから嬲っているようだった。
「ふううっ……やあ、つらいっ……なんどもいくのっ……つらいいい……いやっ、やだああ……またいっちゃう! いやあああっ……」
リアがいくら髪を振り乱し、腕をがしゃがしゃと揺らし、大きな悲鳴を上げて身体を痙攣させても、ゴムの玉の振動が弱まることはなかった。ゼルドリックに嬲られ続け肥大した陰核一点に執拗な快楽を与え続けられ、リアは段々と自分がばらばらになっていくような感覚に溺れていった。
「放して、放してっ、私のことが好きだなんて嘘でしょう? あなたは歪んでる、好きならこんなことしないはずよっ……。放して!」
自分の腕の中でリアが泣いている。自分のせいでリアが泣いている。宝物である満面の笑みが、くすんでいく……。
「……っ、お願い、お願いだ、リア……。俺の気持ちを信じてくれ……お願いだ……!」
ゼルドリックはリアを放し、胸元から契りの薔薇を取り出した。
青く美しい薔薇。だがつぼみのままのそれ。リアは輝く薔薇の美しさに、目が釘付けになった。
(綺麗な薔薇……)
ゼルドリックの瞳の色によく似た青いつぼみに、光の粒が舞っている。
リアはその美しさにすっかり目を奪われてしまった。ゼルドリックは項垂れながら、その薔薇をリアに手渡した。
「リア……。これが俺の気持ちなんだ。長き一生涯の内に一度しか創り出せぬ魔法の薔薇。契りを交わす時に贈る、誓いの薔薇……俺は君にこれを贈りたかった。相手のことを真に愛していなければ、この薔薇は創り出せない。俺は君と契りたい。そう思ってひとひらひとひらに、魔力を込めて、魂を削って創ってきたんだ……心の底から君を愛している、リア……。頼む、これを受け取ってくれ……」
ゼルドリックはリアにその薔薇を握らせようとした。
リアは何かに誘惑されるように、思わずその薔薇を受け取ってしまいそうになった。
薔薇に指が触れる前に、リアははっとした。
――あいつに対して絶対に隙を見せないで。あいつはその隙に付け込んでくる。最後の砦はリアちゃん自身だ。
自分を強く見据える赤葡萄色の瞳。メルローの言葉を思い出す。
(……そうよ、油断してはだめ。この薔薇に、どんな魔法が掛けられているか分からない。受け取ってしまったら、今度こそ私は支配されてしまうかもしれない。……駄目。ゼル、駄目だわ。あなたが私を愛しても、私があなたを愛しても。不幸しか訪れないのなら、私は……)
リアは唇を噛んだ。この拒絶は、彼に深い傷を付けるだろう。
それでも彼を想えば、言わない訳にはいかなかった。
「…………この薔薇は受け取れない」
「リア? ……リア、そんな……」
「受け取れない。こんな薔薇に何の価値があるというの?」
ゼルドリックが想いを込めて創った薔薇を、リアはわざと腐すように言った。
ゼルドリックの唇が慄き、目が酷く傷付いたように揺れる。
「迷惑よ。勝手に私への感情を拗らせて、こんな薔薇を贈られても迷惑としか言いようがないわ」
「やっ……止めてくれ、そんな酷いことを言わないでくれ! リア……リア!」
ゼルドリックはリアの肩を掴み赤い瞳を覗き込んだ。リアの目が、ゼルドリックを拒絶するように閉じられる。
青い薔薇は雨でぬかるんだ地面に落ち、たちまち泥に汚れた。
「俺を見てくれ……。どうして、どうして見てくれないんだ? ……どうして、俺の名を呼んでくれないんだ? リア……」
ゼルドリックの声が震える。リアは何も言わずに首を横に振り、彼を見ないようにした。ゼルドリックの傷付いた顔を見たくなかった。
「あなたが嫌いだからよ。薔薇は他の人に渡して。私のことは忘れて」
リアの静かな声に、ゼルドリックはぎりぎりと手の力を込める。リアは肩から伝わる痛みに眉を寄せた。
「君はっ……君はどんなに残酷なことを言っているのか分かっているのか……? この薔薇は、一生に一度しか、創れないのだぞ? 君を想って創った薔薇を、他の者に渡せだなんて、そんな……。そんな、酷いことを……。俺は、この気持ちを抱えてこれから生きていかなければならないのか? 君に拒絶されたこの苦しみを、悲しみをっ……! 君は酷い女だ……! 本当に酷い女だ、どうしたらそんな残酷なことを言えるんだ!?」
(……ごめんなさい、本当にごめんなさい、ゼル……)
「そうよ、私は酷い女なの。分かったらさっさと私に見切りを付けて帰ってよ。もう私に関わらないで! お願いだから私のことは忘れて!」
ゼルドリックは硝子玉のような青い瞳から滂沱の涙を流し続け、目の前のリアを呆然と見つめた。
自分の恋情の結晶がその役目を果たせぬまま、泥で汚れていく。
リアを失う悪夢がじわじわと近づいている。リアは頑なに見えた。自分のことが嫌いだとしても、今まで共に過ごしてきた生活を無に帰す程に全く取り合おうとしない無慈悲さがあった。
(なぜ? なぜ君は、そんなに……)
「リア。なあ、君はいつだって優しくて……。こんな、気持ちを蔑ろにするような女ではなかっただろう? 一体どうしたんだ? どうして――」
「しつこいわね」
ゼルドリックは一向に帰ろうとしない。リアはどうしたらゼルドリックに自分を諦めてもらえるのか分からなかった。
彼は本気だ。本気で自分を好きだと言っている。これ以上傷付いて欲しくない。
彼が仕方ないと諦められるような理由を言わなければ……。
そしてリアは嘘を言った。
それがゼルドリックの狂気をなお加速させると知らずに。
「私ね、好きな人がいるの」
リアはゼルドリックの青い瞳を正面から見据えてそう言った。
ゼルドリックの顔からごっそりと表情が抜け落ちる。
彼の無表情な顔が怖ろしい。彼を酷く傷つけている。リアは自分の罪をしっかりと見つめ、熱を込めて恋慕の言葉を紡いだ。
「王子様のような人よ。瞳がきらきらしていて、背が高くて、優しくて、甘い微笑みが素敵で、いつも私の名を呼んでくれて、話が合って、ロングコートがよく似合うの」
冬の大通りを手を繋ぎながら歩いたことを思い出す。ゼルドリックと初めて夜を共にした日を思い出し、リアは声を震わせた。
「私がファティアナ様に捧げる作品に込めてきた感情はね、恋なのよ。あなたは知らないと思うけど、私にはずっと好きな人がいたの」
「……リア」
「その人ただ一人を想って作品を作ってきたの。ファティアナ様も私の作品を褒めてくださる。込められた恋情がどんどん強くなっていってるって」
「やめろ、リア」
「私はその人のことしか考えられない。ずっとその人のことだけが好き。その人のことを心から愛してる。その人になら何をされたっていい。それくらい好きなの」
(ゼル、あなたが好きよ、ずっと、ずっと……。あなたを守りたいの、生きてほしいの)
リアの抱える強い恋情が伝わったのか、ゼルドリックはリアの言葉に目を見開き震える息を吐いた。
「だからその薔薇は受け取れない。絶対に受け取れない。……ごめんなさい」
「………リア!」
ゼルドリックがリアの腕を強く掴んだ。一切の遠慮なく、彼の大きな手がぎりぎりとリアの腕を掴む。リアは痛みに声を上げた。
「そうか……。そうか。好いた男がいるというのは、本当だったのだな。そこに転がっている男の告白を断るための嘘ではなかったのだな……!」
「いや、放してっ……」
「抵抗するな!」
ゼルドリックはリアの腕を勢い良く捻り上げた。鋭い痛みが肩から腕まで走り、リアは涙を流した。
「うああっ!?」
「ははっ……もっと俺の与える痛みで泣けばいい……! なあ、リア。君の王子とは誰だ?」
ゼルドリックはリアの腕を捻り上げたまま尋ねた。落ち窪んだ目に爛々とした輝きが戻っている。不気味な輝き。痛みに苦しむ自分を愉しげに見るような輝き。彼の異様な様子にリアはぞっとした。下唇を噛み、泣きながらも自分を睨むリアをゼルドリックは笑いながら見た。
「……言わない」
「ほう? なら当ててやろうか。レント=オルフィアンだろう? 昼間、共に出歩いていたものな?」
「……それ、何で……。何でレントさんと一緒にいたって知ってるの……?」
「君を捜し回っている最中に見た。君があの男と仲良く歩いているところを……」
リアは自分の身体が震えるのを感じた。ゼルドリックの自分に対する強い執着を目の当たりにした。石造りの避難所を壊してまで追ってきた彼だ。
彼は、レントに危害を与えようとするのではないか?
「違う、レントさんは関係ない」
「庇うか、俺が奴を手に掛けることを気にして。聡い女だ。そして……憎い」
ゼルドリックはリアに怒りをぶつけた。
「俺は君のことを第一に考えてきた。あれほど、あれほど逃げないように手を回して、君と過ごしてきた時間も奴よりずっと長いというのに。それなのに君は俺の目を掻い潜り、いつの間にかあの男に恋をした! 馬鹿らしい。君は俺の恋情を何一つ掬い上げてはくれなかったのだな。共に暮らし、肌を重ね合わせ……君も、少しは俺を受け入れてくれるかと思っていたのに」
酷く冷たい声。彼を傷付けたのは自分だというのに、リアはその声を聞きたくないと思ってしまった。
「リア……」
ゼルドリックはリアの顔にしっかりと手を添えて、そして冷え切った桃色の唇にキスをした。厚い舌が唇を舐め上げる。リアはかっと身体が熱くなるのを感じた。
「んんっ!?」
ゼルドリックの舌がリアの腔内に入ろうとしてくる。リアは必死に口を閉じて、それ以上の侵入を許さないようにした。敏感な唇を執拗に舐められる快楽。好きな男からの口付けに、リアの芯が綻んでいく。
リアは思わずゼルドリックの顔を叩いた。
ぱん、と乾いた音が響く。
「……」
リアは罪悪感で身を硬くした。自分が叩いたせいで、ゼルドリックは口の端を切ってしまったようだった。赤い雫がひとつ溢れ、伝う。だがゼルドリックは真白い歯を見せ狂気的に笑った後、その血を舐め取り、リアにまたキスをした。
「んあっ!?……ん、むうっ……やああっ……」
「はあっ、はあっ……んっ……」
深い深い口付け。鉄の味がする唾液が流れ込んでくる。リアは絶えず流れ込んでくるそれを思わず飲み込んでしまった。
「は、はあっ……どうして、無理やりこんなことするの……? やめて、私はあなたを受け入れる気なんてないっ……」
ゼルドリックは口元を押さえ泣くリアを悲しげに、だがどこか恍惚として見つめた。
「くくっ……泣くほどに俺が嫌か? まあいい、どのみち君は逃げられない。仕方がないのだ。君が俺を受け入れてくれないなら、無理矢理にでも受け入れさせてしまえばいい」
ゼルドリックは黒い靄を右手に纏わせた。
靄の中から現れたのは刀身が黒いサーベルだった。リアは嫌な予感がした。
ゼルドリックは意識を失っている行商人の後ろ髪を掴み、リアに見えるように首にサーベルを当てた。薄皮が切れ、一筋の赤が男の首から滴る。
「リア。俺はこやつの首を、このまま刎ねてしまおうかと考えている」
滴り落ちた血を認めて、リアは身体を大きく震わせた。
ゼルドリックは昏い瞳でじっとリアを見据えながら、口元を大きく歪めた。
「やっ……やめて、何を言ってるの? 何でそんなことを……!」
「君に恋情を向けたこの男を殺してやりたい気分だからだ。君に恋情を向けるのは俺一人でいい。君に集ろうとする虫は全て潰してやる。俺は仕事柄何度も何度も首を刎ねてきた。今更、ひとつ増えたとて何も思わぬ。だが、この虫に情けをかけてやってもいい。こやつが助かる方法がある……」
ゼルドリックはリアの赤い瞳を真っ直ぐ見据えながら言った。
「君が俺と共に来るのならば、この虫の命は助けてやろう」
ゼルドリックは唇を片方だけ曲げる特徴的な笑みを浮かべた。リアは身体の震えを押さえつつ、必死でゼルドリックと向き合った。
「人の、命を人質に取ってまで……! あなたはそんなことしないでしょう……!? その剣を下ろしてよ!」
リアはゼルドリックに懇願したが、彼は全く剣を下ろそうとしなかった。
「君に俺の何が分かる? 俺はこういう奴だ。君がいくら囀ろうが剣は下ろさない。君を捕らえるためなら、俺はどんなことだってやってみせる」
「…………う、そ……やだ、やめてよ……」
リアはがたがたと震えた。ゼルドリックは狂気を剥き出しにしている。
レントが視た悍ましい未来が、すぐ側にまで近づいている気がした。
「リア、君を愛している。君が俺をどんなに嫌ったって、この気持ちは変わらない。そう言っただろう? 君が俺を突き放そうが、失望しようが、他に好いた男がいようが関係ない。俺は君を得るために殺しだって何だってやってやる。さあ、早く答えを返せ! さもなくばここが血の海になるぞ。君は生首を見たくないだろう?」
赤い筋が走る。リアは悲鳴を上げた。
「やめて、やめてよっ……お願い!」
「早く答えを言え」
「わ、分かったわ! あなたについていくから、だからその人を……!」
リアの叫びを聞いた後、ゼルドリックはサーベルを消し、行商人の男をつまらなそうに前に放った。どさりと音を立てて倒れた男にリアは駆け寄り、息があることを確認した。
「……この人、不自然な笑い方をしたの。人の浮かべる表情には見えない、何かに操られているような笑い方。あなたが魔法で操ったのね。私から、タリスマンを奪うために……」
「ああ、そうだ」
「どうして? 任務以外で魔法を掛けるのは罪なのでしょう? どうして……? 私は言ったでしょう、好きな人がいるって。こんなことをしても、あなたを受け入れることは出来ないのよ! これ以上はどうか……。あなたの罪が、重くなってしまう……。お願い、どうか私のことは忘れてよ、あなたが……」
(あなたが死んでしまう……!)
リアは怖ろしい未来に唇を戦慄かせた。涙を流すリアを、ゼルドリックは嬉しそうに抱き締めた。
「罪など戻れない程に重ねている。もう、どうでもいい。君に嫌われてしまったんだ。甘い希望を捨て去るべきだった。君の笑顔が欲しいなんて思わずに、ただ最初からこの力を使って、支配してしまえば良かったんだ。足の腱を切ってでも、その腹に子を孕ませてでも、誰を殺してでも、洗脳してでも、君を逃げられないところに置いておくべきだった」
「薔薇は俺の恋情の全てだった。毎夜毎夜、ひとひらひとひらに強い魔力を込めて創り上げた恋情の結晶だった。それが、それが今や泥に塗れている! こんな風に俺の恋情を打ち捨てられるくらいなら、契りなど交わそうと思わず、ただ愛玩動物のように一方的に飼ってやれば良かった! 君の心を求めた俺が馬鹿だったんだ!」
ゼルドリックは愉快そうに笑った。口を大きく開け、天を仰いで笑った。狂気が滲んだ大笑いが雨音と共に響く。青い瞳からぼたぼたと涙を溢れさせるも、ゼルドリックはリアを放さず、ただ大声で笑い続けた。
「あ……」
リアは自分の罪を思い知った。ゼルドリックは壊れてしまった。彼の姿が怖ろしく、そして悲しかった。
(ゼルを、突き放した結果がこれだというの? ……私のせいで、彼が……)
ゼルドリックはリアを抱き締めたまま魔法を唱えた。黒い靄がリアの身体を包み込む。靄はやがて数多の黒い手となって、リアの足首から腕、首、腰までを撫でさすり、そして掴んだ。ぬらぬらとした悍ましい手が肌を這い回る感覚に、リアは怯えた悲鳴を上げた。
「やだっ……何これ、放してっ……」
「ああ、君の悲鳴が心地いい。行こう、リア……。君を壊してやる。壊れて俺しか見えなくなった君を、ずっと、ずっと手元で可愛がってやるからな……」
「う、あ……」
ゼルドリックはリアに魔法をかけ、彼女の意識を失わせた。ゼルドリックは雨に打たれながらぼんやりと、意識を失ったリアの顔を見た。青白く、桃色の唇は血色が失われている。額にひとつキスを落とし、ゼルドリックは哀しく笑った。
その時、ゼルドリックを引き止める者がいた。
「お待ち下さい、ゼルドリック様」
ゼルドリックは平坦な声に呼び止められた。
ざあざあと大雨が降る中だというのに、感情の読めない平坦な声はゼルドリックにとってはっきりと、そしてやけに響いて聞こえた。ゼルドリックは聞き慣れたかつての部下の声に、硬く低い声で応えた。
「アンジェロ」
自身の身体にぼんやりとした魔力の膜を纏わせ、雨の飛沫を避けながらアンジェロがゼルドリックのもとへ進み出る。敵意は感じられないが、殺気立った自分に近づくことに対して一切の躊躇いがない足取りに、ゼルドリックは警戒を露わにした。
片腕でリアをしっかりと抱きかかえ直し、利き手にサーベルを出現させ握り直す。そして剣の切っ先を、躊躇いなくアンジェロへと向けた。
「避難所の異常を検知して急いで来てみればあなたがいる。まさかこの場所を突き止めるとは、あなたは本当に恐ろしい」
ゼルドリックは低く唸るような声を喉から出した。
「アンジェロ、お前は俺からリアを奪った。ただでは済まないことくらい分かるだろうに、俺の前に一人で現れるとはな。殺されに来たのか?」
「……」
ゼルドリックの恐ろしい殺意を身に受けても、アンジェロは怯みも怖れも表に出すことはなかった。ただ無表情な顔をゼルドリックの方へと向け、時折意識を失ったリアへと視線をやった。
「俺がこの女をどれほど愛しているか、お前が知らない訳がないだろうに。残念だ。可愛い部下のことも、リアを奪ったと思うと憎らしくて仕方がない……」
青い瞳が剣呑な輝きを宿し、黒いサーベルが雨の雫に濡れて不気味に光る。アンジェロは静かに目を閉じた。数多の血を流してきたと言われる剣を前に怖れを抱かない訳ではなかったが、不思議と心は凪いでいた。
「リローラン殿を拐ってどうするおつもりです」
「……」
アンジェロの静かな問いに、ゼルドリックは黙して語らなかった。
「あなたは激情のまま彼女を傷付ける。そして今度こそ逃げ出せないように、徹底的に縛り付けるおつもりでしょう」
「だとしたら?」
ゼルドリックは皮肉げに笑った。
「俺はリアに壊された。リアは、俺の想いの結晶を粉々に砕いた! 愛しい女だ、だが同じくらいに憎い。リアにも俺の苦しみを味わってもらう。俺の愛を受け入れられないというのなら、壊れてしまえばいい……!」
「その結果、彼女を永遠に喪うことになっても?」
「……何?」
ゼルドリックは訝しげに呟いた。
「レント=オルフィアン。彼がごく珍しい未来視の能力を持っていることはゼルドリック様もご存知ですね? 彼はリローラン殿と接触した際、彼女の未来を視たのです。あなたがリローラン殿に悍ましい暴行を加え、その結果、彼女が死を迎える未来を」
アンジェロは未来の全容を話さなかったが、僅かな説明でもゼルドリックに大きな衝撃を与えるのは分かっていた。青い目が見開かれ、リアを抱える腕が震えたのを見逃さなかった。
「私はその未来を信じたくなかった。あなたはリローラン殿を深く愛していて、リローラン殿もまたあなたに歩み寄ろうとしていた。ですが、レントの視た未来が訪れる兆候は充分にあった。ですから私は、彼女を守るために保護したのです」
「……俺が、リアを死なせる訳がないだろう」
「レントの未来視は確実です」
「信じぬぞ! 俺を引き止めるために嘘を吐いているのだろう!」
ゼルドリックがそれ以上は聞きたくないというように、頭を振って大声を出した。
「それで、お前もオリヴァーもリアを俺から引き離したというのか。あの男の言うことを信じて? 口だけなら何とでも言える! リアを得たいがために不確かな未来を見たなどど嘘を吐いたかもしれないのに!」
「ゼルドリック様」
「リアはレントの奴と仲が良かった。そして好いている。俺が手を離せばリアは決して戻ってこない。考えただけで駄目だ。あまりにも耐え難い。リアは俺の全てなのに。何を賭しても傍にいたい存在なのに」
震える声で紡がれた言葉が、雨音の中で哀しく響いた。
「俺が傍にいることで、リアが死ぬだと? そんな訳がない。決して死なせぬ。死なせることはない。俺から離れるなんて、そんなことは許されない……」
ゼルドリックは雨に濡れるリアを抱き寄せた。いつの間にか、アンジェロに突きつけられていたサーベルは消えていた。ゼルドリックは震える両手でしっかりとリアを抱え、その体温を確かめるように彼女の頬に触れた。アンジェロは僅かに眉を下げ、平坦な声で切り出した。
「ご忠告を。リローラン殿の身は現在、パルナパ家の下にあります。あなたがこのまま彼女を拐えば、それはパルナパ家への反逆と見做される。王家に連なる高貴な一族を敵に回せば、ゼルドリック様。いくらあなたでも無事でいられるはずがない」
「パルナパだろうが大魔導師だろうが、俺たちを追ってはこれまい」
「どういうことです」
「俺たちはこれから誰の邪魔も入らない、完成された世界へと向かうのだ。そこには俺とリアしかいない。その他の者は介入できず、俺が生きている限りはリアが死ぬことはない。俺は、その世界に行くことをずっと夢見てきた」
「何、を?」
アンジェロは無表情を崩し、困惑を顔に浮かべた。ゼルドリックの言葉を理解することが出来なかった。
「もう少しなのだ、アンジェロ。邪魔をしないでくれ」
「ゼルドリック様? どうか……」
「退け! 本当に殺されたいか!」
怒声が鼓膜を震わせ、アンジェロは思わず歩み寄る足を止めた。だがゼルドリックの青い瞳をじっと見つめた後、静かに切り出した。
「あなたは、私を殺すつもりはないのでしょう。リローラン殿をあなたから引き離したにも拘らず、あなたはまだ私に目を掛けてくださっている。殺すつもりなら、私の姿を認めた時にすぐ首を斬ってしまえば良かったのだ。あなたにはまだ、私を殺すことへの躊躇いがある」
「煩い。リアの為ならいくらでも殺せる。お前とて例外ではない」
「あなたはまだ、ご自身の狂気に浸されきってはいない。戻ってこられるはずです。行かないで下さい」
「煩い!」
「私は二人を救いた――」
懇願の言葉を吐く前に、アンジェロは頭から地面に倒れ込んだ。昏倒の魔術を掛けられたのだと彼が一拍遅れて気がついた時には、ゼルドリックの身体はもう黒い靄に包まれていた。
「ゼル……ドリック様……」
朦朧とした意識の中で、アンジェロは必死にゼルドリックの名を呼んだ。だが彼の姿は大雨の中に溶けゆき、そしてアンジェロの意識は間もなく暗闇に落ちた。ざあざあと大雨が降る中で、倒れ込む行商人の男とアンジェロだけが残された。
――――――――――
ぽたり。ぽたり。
水の音が聞こえる。
リアが微睡みの中でそれを聞いていると、乱暴に髪を掴まれ顔を上に向かされた。驚きと痛みにリアの意識が急浮上する。
「起きろ、いつまで寝ているつもりだ」
ゼルドリックは乱暴に言い捨て、爛々と輝く目でリアを見下ろした。黒い髪が垂れ下がり、彼の落ち窪んだ目をより怖ろしげに見せている。
「……ここは」
リアは髪を掴まれたまま、目を動かして辺りを見た。辺りはとても暗く、灯りはゼルドリックの側にある蝋燭しかない。建物の中だということは分かるが、窓もなく雨音も聞こえない。襲いくる閉塞感に、リアは大きな不安を覚えた。
「俺と君がしばらく過ごすことになる場所だ。俺はここで君を飼ってやる」
ゼルドリックはにんまりと笑った。わざとらしく唇を上げる歪な笑み。優しさの欠片もないそれに、リアは身体を恐怖から震わせた。
(……私は、ここで……。何をされるんだろう……)
ゼルドリックは自分を愛していると言ってくれた。だが自分は彼の薔薇を腐し、酷いことを言って突き放してしまった。彼は深く傷付き、そして壊れてしまった。
彼に憎まれても仕方がない。憎しみのまま拷問でもされるのだろうか?
リアは唇を噛み締め俯いた。そして、自分が変な体勢で拘束されていることに気が付いた。
「……っ!?」
痛みを与えない程度に背が平坦になった三角屋根状の椅子のようなもの、その上にリアは全裸で座らされ、逃げられないように足を縛られていた。両手は縛り上げられ、天井から吊り下げられているようだった。
(なに、これ……!?)
自分が座らされている変な形の椅子。それは背が平らなため痛くはないものの、自分の重みがかかり、股が椅子に強く押し付けられる。秘所に伝わる堅い木の感覚にリアは身を強張らせた。
「リア、三角木馬を知っているか」
ゼルドリックは愉しそうに笑い、リアの頬に手を添えた。
「拷問器具の一種だ。この木馬に座らされた者は、自らの重みで尖った背に股を押し付けられ、逃げられない中、酷く苦しみ続ける。全く、悪趣味な拷問器具もあったものだな? 君が座っているそれがその三角木馬だ。まあ尤も、俺が手を加えているから普通のものとは大分違うがな……」
「……これで、私を拷問するの?」
「くくっ……。ああそうだ、君を拷問して壊してやる。元に戻れないくらいにめちゃめちゃにしてやる」
「っ……!」
「怖いか? その酷く怯えた顔。痛みを与えられた末に、俺に殺されてしまうとでも思ったか……?」
ゼルドリックはリアの怯えた顔を見て、喜色を浮かべた。
「安心しろ、拷問と言っても痛みを与えるような拷問ではない。その手の拷問を俺がやると手加減し損ねてうっかり君を殺しかねない。大切な君の身体に傷は付けない。ただ強烈な快楽を与えて、俺から逃げようとする意思をすっかり折ってしまうだけ……」
ゼルドリックは怯えるリアを愛おしそうに見つめた後、ねっとりと唇や頬を舐め回した。
リアの恐怖に半開きになった口に、ゼルドリックの分厚く赤い舌が入り込む。歯列をなぞられ、舌を絡め取られ、流れ込む唾液を飲まされ、リアは執拗なキスの合間に色を含んだ吐息を漏らした。
「っあ……やあ、やめ……へ……」
「んんっ……リア……はっ……君の舌は、本当に、美味い、な……」
「ううっ……は、ああっ……や、やだあっ……」
リアはゼルドリックの舌から逃げようとするが、ゼルドリックはリアの両頬に手を添え、なお深く舌を入れ込んだ。ぐちゅぐちゅと口からいやらしい音が聞こえ、敏感な耳の穴にゼルドリックの指が差し込まれる。ゼルドリックは喜色を浮かべた青い瞳で、じっとリアの濡れる赤い瞳を見た。
情欲を掻き立てる口付けに、リアの芯が綻んでいく。リアはかつてゼルドリックから与えられてきた快楽を思い出し、とろりと自分の内から愛液が溢れ出るのを感じた。
(拒絶しなきゃいけないのに……。気持ち良くてたまらない……)
半月ぶりの接触は甘い毒の様で、何も考えずに濃厚なキスの快楽に浸りたくなる。自分から舌を絡ませ、彼の唾液を求めてしまいたくなる。リアは眉を下げ、甘い口付けに溺れた。愛液は次々と溢れ出て、秘所に当たる木馬の背を濡らしてしまう。リアは強い羞恥から身を捩ろうとするが、ふと胸が熱くなり、自分の内側が燃え上がるような感覚がした。これは――
「う、あ……魔力、酔い……?」
「はあっ……ははっ……そうだ、そうだリア……。酔わせてやった。君は俺の血と唾液を飲んだだろう? またその身体に俺の魔力が巡り始めたのだ。その熱は君の内を俺の魔力が犯している証……。受け入れろ……」
ゼルドリックはリアの首筋に舌を這わせながら、リアの胸の頂きの感触を楽しむように指で捏ね、豊かな乳房を黒く大きな手で揉み込んだ。リアは身体の内の熱に苦しみながら、胸が蕩けてしまいそうな快楽に甘やかな声を上げた。
「ふあああっ……! あっ……いや、お願いっ……こんなことしないで、私を放してっ……!」
「暴れるな。あれだけ魔力を注ぎ込んでやったというのに、君の魔力の器はすっかり空になっている。……あの忌々しいオリヴァーが、君の身体から俺の魔力を抜き取ったみたいだな」
「んんんっ……ん、ふ、ふうっ……!」
「声を我慢するな。君の声を聞かせろ……。なあ、オリヴァーはどうやって君から魔力を抜き出したのだ? まさか君は奴に身体を触れさせたのか? その身体を許したのか?」
「ああっ、あ……おねが、そこ、抓らないでえっ! 何もしてない……オリヴァーさま、は何も……!」
「オリヴァー様だと? 君はあやつまで誑し込んだのか!? あやつの名を呼ぶなど気に入らぬ……そういえば、君は先程から俺の名を全く呼ばないな。何故だ? 嫌う男の名など呼びたくないと思っているのか? なあ、呼んでみろ、俺に媚びるのが賢い選択だぞ……」
ゼルドリックはリアの胸を弄びながら、リアに自分の名を呼ぶように要求した。リアは荒い息を吐きながらも下唇を噛んだ。ゼルと愛しい男の名を呼んでしまえば、この快楽がより深まる気がして怖くて呼べなかった。ゼルドリックは口を開かないリアに苛つき、濃桃色の乳輪を舐め転がした。
「ふあああああっ……」
胸を強く寄せられ、二つの乳輪を舐め回される。リアが弱いと知っての責め方。赤く分厚い舌が、飴をじっくりと味わうように乳輪をなぞり、乳首を包み、弾く。じわじわと迫り上がってくる身を捩らずにはいられない気持ちよさ。リアは思わず涙を流し、喉を震わせた。
「あ、ああっ……ああ、ぜ、る……」
彼の名を呼べば、舌に確かな甘さを感じ、心が高鳴った。とぷりとまた液が溢れる。きっと股に当たっている部分には自分の愛液が染み込んでしまっている。リアは快楽に弱すぎる自分の身体を恥じた。
「リア、リア……やっと呼んだな」
赤い髪を撫で、ゼルドリックはリアの桃色の唇を柔らかく己のもので噛んだ。彼の声には嬉しさが混じっていて、リアは思わず彼を抱き締めたいと思ってしまった。ゼルドリックの黒い手が、髪から首、胸、背中から腹、腰、太腿と順に撫でさすっていく。木馬から滴る雫に気が付いたのか、ゼルドリックはリアを嘲笑するように息を吐いた。
「はっ……あれだけ俺を嫌がっておいて、なんだこの様は? 君は嫌いな男に触れられていてもこんなに濡れるのだな。どうしようもない淫乱女だ……」
「う、うううっ……ひっ……ああっ……」
「誰が触れてもこうなるのか? なあ、どうなんだ……?」
「……ち、がう……」
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(……分かっている、くせに……私を追い詰めようとしている……)
リアは彼を弱々しく睨んだ。ゼルドリックは分かっているはずだ、目の前の女を簡単に支配できるのは自分だけだということを。自分は彼に軟禁され、日々調教を受け続けた。敏感なところは全て知られてしまっている。彼に少し触れられただけで、秘部をどろどろに蕩けさせてしまうほど彼に堕ちている。
(お前がどう思おうが……お前をここまで感じさせることができるのは自分だけって、言いたいのでしょう? ゼル……)
その通りだとリアは思った。自分がこうなるのはゼルドリックだけだ。彼の支配欲が粘っこく絡みつく。リアが目を潤ませ恍惚に浸ると、ゼルドリックは涙を舌で舐め取り、耳元で囁いた。
「リア、君は俺と離れていた間……誰かに抱かれたか?」
ゼルドリックの落ち窪んだ目が強く強くリアを見据える。暗がりの中蝋燭に照らされる青い瞳は揺れていて、彼はリアの答えを怖れているようだった。
(そんな訳ない……。でも、ここで突き放せば、ゼルは私への執着を絶ってくれるだろうか……? 自分だけのものでなくなった私を、自分以外を選んだ私を、嫌ってくれるだろうか……)
はっきりとした答えを返すのは躊躇われた。自分はゼルドリックのことが好きで、彼に嫌われることをまだ怖れてしまっている。彼に身体を撫で回されながらしばらく口を噤んだ後に、リアが返した言葉は弱々しく曖昧な拒絶だった。
「そんなのっ……あなたに関係ない……わたしが……誰に抱かれようと……」
「関係ないだと?」
ゼルドリックの声が低くなった。
「何だその答えは? 君は誰かを咥え込んだというのか? だが……レントでもオリヴァーでもなさそうだ。魔力の匂いがしない……相手は人間か? オークか? 俺の見ていないところで誰に抱かれた?」
「ああ……だが君は接触を避けて暮らしていたはずだ、誰の元にも行かず、あの石造りの建物の中で暮らしていたはずだ、だから君を抱いたのは俺だけのはずだ……。本当に、本当に気に入らないな。俺を拒絶するためにそんな言葉を吐く。どんなに動揺したか分かるか? 俺の問いに素直に答えていればいいものを……」
ゼルドリックはぶつぶつと呟き、近くの机の上に置いてある箱から何かものを取り出した。それは丸く滑らかなゴムの玉だった。ゴムの玉には穴が空けられ、両端から紐が出ている。
「リア。やはり君を壊してしまおう。君の態度次第では優しくしてやろうかとも思ったが、反抗的な女には厳しい躾が必要なようだ。その反抗心を折ってやる」
リアは顔を強張らせた。ゼルドリックが手に持つ玉。それが何に使われるのか分からなかったが、自分を壊すと聞いて嫌な予感しかしなかった。
「これを作ってからずっと君に使ってやりたかったが、可哀想だと思って止めていたのだ。だが、もう遠慮なくこれを使える……。リア、このゴムの玉は何に使うものだと思う?」
ゼルドリックは愉しげにリアに聞いた。リアが分からないと首を横に振ると、ゼルドリックは唇を歪に曲げた。
「君の陰核を嬲り続けるためのものだ」
「っ……!」
青い瞳が蝋燭に照らされて輝く。怖ろしい笑みにリアは思わず身を捩った。腕に繋がれた鎖がじゃらじゃらと音を立てる。
「俺は魔力で何かを操ることに長けているのだよ。このつまらないゴムの玉もこうして……」
ゼルドリックが玉に人差し指を当てると、玉が音を立て細かく振動し始めた。聞いたこともない低い振動音に、リアは大きく目を見開いた。ゼルドリックは細かく振動しているゴムの玉を、リアの胸の頂きにそっと当てた。
「ふああっ!?」
リアは胸の先端を襲った振動に目を見開き、すぐに絶頂を迎えた。あっという間の絶頂が、じわじわと乳首から全身へ拡がっていく。ゼルドリックはリアの絶頂を見届けて、歪な笑みを浮かべながら玉の振動を止めた。
(なに、これ……なにこれ!?)
快楽の芯を無理やり揺り動かされるような、ぞわぞわとした強烈な快楽。あれは駄目だ、胸だけでこんなに気持ちいいのに、あんなものを弱点に当てられてしまったら……。
(やだ、こんなの、私本当に壊れちゃう……!)
リアはぼたぼたと涙を流し、首を勢い良く横に振った。大きな恐怖がたがたと身を震わせる。
「おねがいっ……やだ、それやだ! そんなものを当てられたら、おかしくなっちゃう……だからお願い……!」
「ああ、本当に良いな。君の怯えた顔、悲鳴が入り混じる声……。もっと見せて、聞かせてほしい。俺の心が、何とも慰められるような感じがする……」
ゼルドリックはリアの懇願を打ち捨て、濡れそぼるリアの秘所にゴムの玉を当てた。そして玉の両端から出る紐を、しっかりとリアの身体に巻き付ける。
「さて……これで君を壊すための準備は完了だ。我慢せず何度も達していいぞ? 今までたっぷりと俺が虐めてやった陰核だ、そこに細かい振動が襲い来て、君は終わらない絶頂に追いやられる。ああ、想像しただけで勃ってしまった。リア、気持ちよすぎて君が色狂いになっても、俺がずっと面倒を見てやるからな……」
「や、やだ、お願いよ、ゼル……お願い……」
「俺は君がいない間、君の身体を思い出しながら何百回も自慰をしたんだ。君も俺を想いながら何百回も達くといい。俺は君から見えないところで、その淫らな姿を観察するとしよう……。それではな、リア。精々たっぷりと喘げ」
「や、やあっ……お願い、待って!」
ゼルドリックの姿が黒い靄となって消えていく。そしてリアの陰核にぴったりと当てられたゴムの玉が、低い音を立てて振動し始めた。
「あっ!? あ、ああああああああああああああああああっ!!」
暴力的な快感が陰核を襲う。リアはあっという間に絶頂を迎えたが、ゴムの玉は振動し続け、快感をリアに与え続ける。絶頂に次ぐ絶頂にリアは身体を慄かせ、腹や腿を痙攣させ、引き攣れるような叫びを上げた。暗い暗い部屋の中で、リアの必死の喘ぎが響き渡る。
「やあああっ! いやああっ……あああああっ! ひゃめっ、こんなのひゃめっ……! やだあああ! もうやめて、とめてえええっ!」
リアがどんなに叫んでも、何の変化もない。部屋にはただ振動音とリアの叫びだけが響く。
「ぜ、るうっ……ごめ、なさいっ! あやまるっ……あやまるから! ゆるしてえっ…いやあああああっ……また、いくうっ……! うあああぁぁあああっ!」
何かが肌を這い回る感覚がした。胸や腹、脇、腿を無数の黒い手が撫でさすっている。その触れ方はゼルドリックそっくりで。リアの呼びかけに応えたのか、ゼルドリックが魔法を使ってリアを遠くから嬲っているようだった。
「ふううっ……やあ、つらいっ……なんどもいくのっ……つらいいい……いやっ、やだああ……またいっちゃう! いやあああっ……」
リアがいくら髪を振り乱し、腕をがしゃがしゃと揺らし、大きな悲鳴を上げて身体を痙攣させても、ゴムの玉の振動が弱まることはなかった。ゼルドリックに嬲られ続け肥大した陰核一点に執拗な快楽を与え続けられ、リアは段々と自分がばらばらになっていくような感覚に溺れていった。
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