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After.花図鑑
Aft6.緋衣草
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エリテバラント首都正門。セージは門を見張る兵士たちに挨拶をし、綺羅びやかな王都に足を踏み入れた。
王都の美しい街並みは強烈な夏日に揺らいでいる。夏の陽射しがセージの黒い板金鎧を熱していき、彼の背中に汗の雫を滴らせていく。セージは鎧の下が酷く蒸れるのを感じながら、うんざりしたように息を吐いた。
「ああ……あっちぃな。どこもかしこもあっちぃ。ったく、夏ってのは暑くていけねえ! 王都でこんな暑いなら、南部は一体どれだけ暑いんだ? あーあ……。早く北の方に戻りたいぜ」
セージは人混みを掻き分けながら足早に歩いた。彼が動く度、分厚い板金鎧ががしゃがしゃと音を立てる。真夏だというのに全身鎧を身に着け、顔全体を覆い隠した兜を被るセージは人々の注目の的だった。
暑くはないのか、とすれ違った男がセージに尋ねた。セージが暑いに決まってるだろとぶっきらぼうに返事をすると、男は変な顔をしながら鎧を脱げばいいのにと呟いた。
「ああそうだな! でもよ、俺は恥ずかしがり屋だから身体を見せたくねえんだよ!」
セージは男に向かって吐き捨て、目的地までの道を急いだ。冷却の魔法を身体に施しながらひたすら炎天下を歩き続ける。
やがて、セージの前方に金と宝石で造られた門扉が現れた。
門扉の傍らには大きな鶴がいて、セージのことをじっと見つめている。セージは兜を脱ぎ、陽光に光り輝く門を見上げた。
「はっ、目が痛くなるくれえに金ぴかでごてごてした門だ。パルナパってのは何でも派手に飾り立てやがるな。……おい、アンジェロのおじさんに伝えろ! 可愛いセージがやって来たってさ!」
セージが鶴に向かって大声を出すと、鶴は羽を広げた後その場から勢い良く飛び去った。しばらくしてから門が独りでに開く。セージはずかずかと庭に入り、屋敷目掛けて駆け出した。
高貴なるパルナパの一族。王族貴族幾百人が同じ姓を名乗っていても、血統や家格、司る力によって幾つかの派閥がある。生命力を司る「豊穣」の一派に属するアンジェロは、鶴の離宮と呼ばれる広大な屋敷にて何百羽もの鶴を育てていた。
鶴は外だけでなく、屋敷の中にも何十羽といた。ふかふかとしたソファの上で休むものや、階段の手すりに留まるもの。アンジェロから美味な魔力をたっぷりと与えられてきた鶴は肥え太り、いずれも幸せそうな面持ちをしている。セージは屋敷の中を自由に歩き回る鶴たちを見遣り苦笑した。
「おじさんの屋敷は鶴だらけだな。一体どれだけいるんだ?」
「離宮全体で五百羽ほど。交配が上手くいっているから年々鶴の数が増えている。そのうちこの屋敷では飼いきれなくなるかもしれないな」
「そしたら俺に一羽くれよ。使い魔として便利そうだし、こんだけ肥ってたら非常食としても良さそうだ」
セージが近くにいた鶴の頭をがしがしと撫でると、鶴は彼の手を嫌そうに突いた。
「こらセージ、鶴にちょっかいをかけるな。彼らは繊細なのだぞ。食べ物にはうるさいし、一日三回ブラッシングをしないと機嫌を損ねる。鶴はやらん、がさつな君に世話ができるとは思えない」
「ちぇっ」
アンジェロはセージに楽にするように言った。彼が遠慮なくどかりとソファに腰掛けると、アンジェロは柔らかく目を細めた。
「元気そうで何よりだ、セージ。君と直接会えることを心待ちにしていた」
「おう、俺もだ! おじさんと生きて会えて嬉しいぜ!」
アンジェロの顔は無表情だが、目には確かなセージへの親愛の色が宿っている。アンジェロが手をふたつ叩くと、セージの目の前にカップと茶菓子が現れた。
「おっ、ありがとよおじさん! 助かるぜ」
ふわふわと空に浮かぶカップの中には冷えた紅茶がたっぷりと注がれている。セージはありがたそうにそれを飲んだ後、ソファの背にぐったりと凭れた。
「はあぁぁ……生き返った。ったく、外は暑くて仕方ねえ!」
「まあ、それだけ分厚い鎧を着ていればな。汗もたっぷりかくだろうに。脱がないのか?」
「本当は脱ぎたいんだがよ、俺の姿を見るとぎょっとする奴ばかりでさ。夏だろうが何だろうが鎧を着込むのが癖になっちまった」
セージは笑い、己の黒い髪をがしがしと掻いた。
セージ=リローラン。
ダークエルフの父とハーフドワーフの母の間に生まれた、五人の子の五番目。
セージは背が低いが、とにかく屈強な男だった。彼は傭兵として各地を巡り、その場その場で繰り広げられる熾烈な争いに加わることによって生計を立てた。セージの身体は盛り上がった固い筋肉に覆われていて、彼は分厚い全身鎧を身に着けたまま一日中動き回れるほど体力があった。片手で大斧を振り回すセージの強さは、傭兵の間ではそれなりに知られていた。
セージは、自分の外見を人に見せることを好まなかった。父譲りの黒い肌の上には夥しい数の傷痕があり、長い耳はところどころ欠けている。無数の傷によって歪んだ表情を見せる顔と鮮血のような赤い目は、見る者に対し怖ろしさを感じさせた。自分の傷だらけの顔や身体を見せたくなかったので、セージは心を許した者の前以外は必ず漆黒の全身鎧を纏った。
セージの顔をじっと見つめた後、アンジェロは平坦な声で言った。
「私は君の顔を怖ろしいとは思わないがな」
「へいへい、そりゃどうも」
「だが心配だ。前に会った時よりもずっと顔に傷が増えている。いつか君が死んでしまうのではないかと思うと気が気でない。……そういえばセージ、君は全く実家に顔を出さないそうだな。ゼルドリック様が酷く心配していたぞ」
親に心配をかけるなと呟くアンジェロから、セージは気まずそうに目を逸らした。
「あー……。なるべく田舎には帰りたくなくてよ」
「なぜだ?」
アンジェロはセージのカップに紅茶を注ぎながら無表情で尋ねた。
「……何ていうか……。親父とお袋から距離を置きたくてさ」
セージは誤魔化すように笑った後、冷えた紅茶を一気に呷った。
――――――――――
好奇心の強い子供だったセージは、週に一度村を訪れる行商人が持ってくる品々に興味津々だった。図書室にある本では飽き足らず、新たな冒険記や英雄譚を求めて母と共に欠かさず行商人のもとへ通った。
行商人の男が母にばかり話しかけるのは気になったが、その時のセージにとっては新しい本に触れることの方が大事だった。
セージが五歳の時だった。
行商人の男が、母――リアにしつこく誘いをかけた。
男の下卑た言葉の意味を幼いセージは理解することができなかったが、リアの腕を強く掴みながら腰を撫で回す男に対し、彼はぞっとしたものを感じた。
母から離れろとセージが口を開きかけた時、行商人の男が勢い良く吹っ飛んだ。父――ゼルドリックが駆けてきて、男を勢い良く殴り飛ばしたからだった。
――俺の妻に何をしている!? この蛆虫が!!
ゼルドリックは激昂し、妻に手を出そうとした男の胸倉を掴んだ。喚く男の顔目掛けて、ゼルドリックの拳が勢い良く叩き込まれる。セージは初めて見る父の怖ろしい姿に背筋が寒くなるのを感じた。優しい父の姿はそこになく、セージは目の前のダークエルフが知らない男のように見えた。
――来なさい、セージ。
後からやってきた姉のリリーが、セージの目を隠しながら家に連れ帰ろうとした。
――ま、待って。母さんが……。
セージは幼いながらも、男の行為が醜いものであると察した。母は男に触られて悲しい思いをしたのではないかと。自分が悲しい時に母が頭を撫でてくれたように、自分も母の頭を撫でて慰めなければならない。きっと母は泣いているから、可哀想な母を抱きしめて家に帰ろうと伝えようとした。
――母さん、泣かないで……。
セージはリリーの腕から抜け出し、母の顔を見上げた。
だがセージが見たものは、母の微笑みだった。
悲しい顔も、苦しそうな顔も浮かべることなく、リアは嬉しそうに笑っていた。大声を出しながら男を追及する夫を止めながらも、母は顔を綻ばせていた。
潤む目、染まった頬、僅かに開かれた口。
セージが知る温かい微笑みとは違う、どこか陰のある表情だった。
(母さん……?)
予想と異なる母の顔に、セージは何も言えず立ち尽くした。
彼の視界が再びリリーの手によって塞がれる。セージは姉に手を引かれながら、両親を置いて家に帰った。
ゼルドリックとリアは少ししてから家に帰って来た。手を繋ぎながら仲睦まじく寄り添う姿は、いつもの父と母だった。
セージが母を抱きしめると、リアは彼に温かな微笑みを向けた。
セージがよく知る、母の顔だった。
(……母さん)
男はどうなったのか。
父はどうしてあんなに怒っていたのか。
なぜあの時、父を見て嬉しそうに笑っていたのか。
セージは思うことがありながらも、それをリアに聞くことは出来なかった。
村を訪ねてくる行商人は変わり、あの男を見かけることは二度となかった。
セージは今までのように、母に手を引かれながら行商人のもとへと通った。
前にやって来た男の顔は忘れてしまっても、激昂する父の姿と母の微笑みは、いつまでもセージの中から消えることはなかった。
十二を過ぎた頃、セージは魔法の使い方を少しずつ学び始めた。
エルフの血を引く者として「鍵」の力を天から授けられたセージは、屋敷中の箱に魔法の鍵を施しては家族たちを困らせた。セージの持つ能力は中々に便利だった。どんな箱や扉、あるいは空間に対して魔法で鍵を掛けることができ、反対にどんな鍵でも魔法で開けることができた。
セージは魔法で鍵を掛けられることは家族に伝えても、反対に開けられることは誰にも言わなかった。
悪戯好きの少年に育った彼は、自分の力を秘密にしておいて家族をもっと困らせてやろうという企みを持っていた。
セージは、かねてより気になっていた扉のひとつに目をつけた。両親の寝室の中には「開かずの扉」があって、その扉には何重にも鍵が掛けられている。あの扉の向こうには一体何があるのだろうかと、セージは期待に胸を躍らせた。
ゼルドリックとリアが家を空けた日、セージはこっそりと寝室に忍び込み開かずの扉を開けた。
両親は何か素晴らしい宝物を隠しているのではないか? 可愛い子供たちに秘密にしておくなんてずるい。もし宝物を隠しているなら、自分が暴いて部屋から持ち出してやるのだ……そう考えながら部屋に飛び込んだセージは、すぐに顔を強張らせた。
そこにあったのは、セージの理解を超えたものだった。
壁と天井にぎっしりと貼られた大量の母の写真。自分がよく知る微笑みや怒り顔から、泣き顔や見たことのない表情まで……何十枚も、何百枚もの写真が一斉に目に飛び込んでくる。セージは慄き、母の視線から逃れるように目を逸らした。
天井からはかつて母が着ていた古着が吊り下げられ、長机の上には分厚い本や鍵の掛けられた箱がいくつも置かれている。箱には日付が記された札が付けられており、扉と同じ様に鍵が掛けられていたが、セージはそれを開けたいとは思わなかった。壁際には母と同じくらいの背丈の人形がずらりと並べられている。赤いドレスを着せられた木人形は、扉から射し込んだ明かりを受けて不気味に光った。
(親父が……親父がこの部屋を作ったのか?)
セージはそっと机の上の本を開き、そこにある父の字を食い入るように見つめた。脳が書かれた文字の意味を理解することを拒んだが、その本の中にはリアのことばかりが記されていた。リア、リア、リア。頁を捲っても捲っても、母の名前が飛び込んでくる。凄まじい熱量で書かれた記録は何十冊も机の上に積み上がっていた。
(なんだ……? 一体何なんだよ、この部屋は!)
どくどくと自分の胸が跳ねるのを感じる。セージは震えながら部屋を見渡した。
物がぎっしりと詰め込まれているせいで狭い印象を持ったが、よく見ると中々に広い部屋だった。母の服、母の私物、母の赤い髪、母の記録、母に関するそれ以外の何か……。セージが目を遣るところ全てに、リアに繋がるものがある。まるでこの部屋が、「リア」という存在を形作ろうとしているかのようだった。
部屋の奥には手錠や首輪、鞭が並べられていて、その傍らには一枚の写真があった。
(……これは)
首輪を付けられ、微笑む母の顔。
潤む目、染まった頬、僅かに開かれた口。母の顎には、父のものと思われる黒い手が添えられている。
陰のあるその微笑みは、かつて見た母の顔と重なった。
激昂する父を嬉しそうに見つめるあの顔に。
(……!)
セージはそれ以上見ていられず、急いで部屋を後にした。
開かずの扉に鍵を掛け直し、自室に引き篭もる。帰ってきたリアに声を掛けられても、ゼルドリックから食事の用意が出来たと言われても、その日セージは部屋から出ることはしなかった。
(あれは、おかしい)
自分の父は異常だ。
そしてその異常さを、母は喜んで受け入れている。
(あの二人はおかしい)
恋を知らぬセージでも、両親の愛がどこか歪なものだと分かっていた。あのように母の写真を壁中に貼り付けたり古着を飾り付ける父はおかしい。そして父のおかしさを肯定するような母もまた、おかしい。
薄暗い部屋の様子は、セージの中に消えない染みとなって刻み込まれた。
それからセージは悪戯を止めた。屋敷の中で「鍵」の能力を使う気が全く起きなかった。
いきなり悪戯をやめたセージにゼルドリックとリアは首を傾げたが、彼は決して両親に理由を話すことはなかった。開かずの扉の向こう側を見てからというもの、セージは両親と話をすることを拒むようになった。ゼルドリックとリアは息子の態度に危機感を覚え、何度もセージと話そうと試みたが、彼は心配する両親に放っておいてくれと言い放ち、逃げるように外へ出た。
ウィローやイリスは様子が変わったセージを見てただの反抗期だろうと片付けたが、リリーは何かと彼を気遣った。リリーは両親にも話せないことがあるなら私が話を聞くとセージに言ったが、彼は尊敬する姉にも、自分が目にしたことを話せずにいた。
両親はいつまでも仲睦まじかった。
妻が老いていっても、ゼルドリックはリアを深く深く愛していた。
姉のヴィオラは種族を超えて契った両親に対し憧れの視線を向けたが、セージは二人の愛を綺麗なものだとは思えなかった。歳を重ね、彼らが抱える愛が、父がかつて犯した罪がどれほど異常なのかはっきりと分かった。
セージはヴィオラのように、両親の馴れ初めや契るまでの話を笑顔で聞いていられなかった。話を聞く度に母の微笑みが、あの薄暗い部屋の様子が浮かんできて冷静でいられなくなる。
両親の傍にいては自分までおかしくなってしまいそうで、セージは早く田舎を出たいと望んだ。
そして青年期を迎える頃、セージは姉たちと共に家を出た。両親とのわだかまりが解消されることはなく、彼は結局、笑顔で父母と話すことが出来ないでいた。ゼルドリックとリアはセージを悲しそうな目で見つめたが、それでも息子が無事で過ごせるようにと、彼をしっかりと抱きしめ王都への旅に送り出した。
王都にて異国の言葉を貪欲に学んだ彼は、傭兵として諸国を渡り歩いた。
セージは身体を動かすことが好きだった。武器を振り回す度、自分の心の中の澱が少しずつ取り除かれていくような感覚がする。彼は自分の中に根付いた「開かずの扉の向こう側」をかき消すように、ひたすら戦い続けた。
故郷に帰ったのはリアの葬儀の時だけ。
それ以外は、全く実家に顔を出すことはなかった。
――――――――――
「親父とお袋にとっちゃ訳分からなかっただろうな。手のつけられねえ悪ガキがいきなり静かになって、それから何を言っても不貞腐れたままなんだからよ。俺はお袋に泣かれようが、親父に怒られようが口を割らなかった。あの部屋を見ちまったって言ったら、親との関係がどうしようもないところまで拗れちまう気がしたんだ。……あれは、親の秘密だろうから」
「俺は親のことが好きだ。親父もお袋もおかしいと思ってるけど、絶縁したいなんて思っちゃいねえ。そりゃ、俺だって後悔したさ。こんな態度を取ったら親を悲しませるだけだって。お袋が死んじまった時なんてすげえ後悔したよ。生きてるうちにもっと話しておけば良かったって……」
「でも、二人の傍にいたら頭がおかしくなっちまいそうだった。あれが正しい愛の形なんだって思い込んじまいそうだった。それくらいにあの部屋は俺にとって衝撃だったんだ」
「この事はリリーの姉貴にも話せなかった。姉貴が俺のことを心配してたのは分かってたけどよ、大変な思いをしてる姉貴に負担をかけたくなかったんだ……。この話をしたのはおじさんが初めてだ。おじさんなら、俺の話を聞いてくれると思った」
口早に話した後、セージは深く息を吐いた。
「なるほど。だから故郷に帰る前に、私の屋敷に立ち寄りたいと言ったのだな」
「ああ。この気持ちを抱えたまま田舎に帰ることはできねえと思った。いい加減、誰かに話してすっきりしたかったんだ」
セージとアンジェロは文通をする仲だった。
緑の国に殆ど帰ることがなかったセージは、傭兵という稼業を通して外交官であるアンジェロと知り合った。セージは度々アンジェロの護衛として雇われることがあったが、彼はこの貴族の男が気に入っていた。
感情の起伏が少なくさっぱりとしているが、親切で面白みもある男。
セージは何かを話したい時、いつもアンジェロに便りを出してきた。
アンジェロから父の元部下だったと打ち明けられた時は驚いたが、セージは彼との交流を絶つことはなかった。実家に顔を出す勇気が持てない分、ゼルドリックと連絡を取り合うアンジェロから度々親の様子を聞いていた。
かつて見た薄暗い部屋の中身が、頭の中に鮮明に蘇っていく。信頼するアンジェロにゆっくりと心の内を吐き出す度、セージは胸が強く跳ねるのを感じた。
「お袋が戻ってきた。エルフとなって、しかも元の姿のままで……! 親父の愛が、お袋をあの世から呼び戻したのか? 死さえあの二人を分かつことはないのか? 親父の熱心な祈りに女神様が応えたのか? 女神様から微笑みを向けられるほどに、親父が抱える愛は重かったのか?」
セージはぶつぶつと呟いた後、顔を覆った。
「お袋から会おうって手紙を受け取った時、俺はまたあの部屋のことを思い出しちまった。あの部屋は異常だった。親父はきっと、あの部屋の中にもうひとりのお袋を作り出そうとしてたんだ。写真やら物やらを集めて、お袋の日常生活を事細かに記録して……お袋が死んじまった後も自分が生きていけるように! そうはっきりと分かるほどに、お袋への怖ろしい執着を感じた」
「俺は怖い。親父がお袋へと向ける愛が怖いんだ。あれだけ重い愛を抱えてるんだ、親父は戻ってきたお袋を……今度こそ逃さないために何だってするはずだ」
「セージ……」
「親父が再び酷いことをしでかすんじゃないかって不安になる。あの罪人の枷を無理やり千切って、また罪を犯すんじゃないかって思っちまう……。俺は怖くて堪らねえ! 親父がお袋のために罪を犯して、そんな親父をお袋が喜んで肯定するかもしれないと思うと、気がおかしくなりそうだ……!」
「……だから、両親から距離を置きたいと?」
「ああ。……杞憂だと思うか?」
アンジェロは項垂れるセージを見つめた後、静かに口を開いた。
「君の感じる不安は解らんでもない。ゼルドリック様は怖ろしい男だった。愛しい女を得るために、数多の犯罪に手を染めた。公文書偽造、任務外での魔法の使用、魔力の過剰滲出、他者への精神操作、死霊術の使用、監禁罪など。本来なら牢に三百年収監されるほどの重罪だ。私もゼルドリック様の狂気を目の当たりにしたがな、あの時の彼は罪を犯すことに対して抵抗がなかった……」
「エルフの血を引く者とそれ以外では圧倒的な寿命差がある。ゼルドリック様は考えたはずだ、愛しい女がエルフでなくても、魔法を使ってその寿命を無理やり永らえさせてしまえばいいのだと。そして愛する女を生かすためになら、なお犯罪に手を染める覚悟があると。だが、罪人の首枷がそれをさせなかった。結果彼は、何よりも愛おしい妻と死に別れることとなった」
「…………」
「ゼルドリック様は、再び自分の元に戻ってきた『奇跡』を今度こそ逃さないように繋ぎ止めておこうとするだろう。だがセージ、君が心配しているようなことにはならないよ。ゼルドリック様はもう罪を犯すことはない」
「……何でそう言い切れる?」
「大切な宝物が増えたからだ」
アンジェロは平坦ながらも、優しさが感じられる声で言った。
「以前のゼルドリック様にとっては、リア=リローランという存在だけが宝物だった。それ以上に大切なものはなかったから、彼女を得るためならどんな罪も平気で犯した。だが彼女と契り……彼は新たな宝物を持つことになった」
「……ガキのことか?」
「そうだ。リリー、ウィロー、イリス、ヴィオラ……そしてセージ。君たちの存在があったから、ゼルドリック様は踏みとどまることが出来た。君たちへの愛情が、そして子供たちを守るという妻との約束が、彼を暗い道から連れ戻した」
「ゼルドリック様ほどのエルフなら、罪人の枷を無理やり引き千切ってしまうことは可能だったはずだ。亡くなった妻を禁呪で蘇らせることもできたかもしれない。己の精神世界へ妻の魂を引きずり込むこともできたかもしれない……」
セージの黒い手が、アンジェロの手に優しく握られる。
「だが、彼はそれを選ばなかった。子供たちのことを心から大切に思っていたから。罪を犯し、彼らを傷付けるような真似はしたくなかったのだろう」
「…………」
「君の母親も同じだ。夫を深く愛しているように、我が子たちのことも深く愛している。夫が暗い道に進もうとするならば、彼女は何としても止めるはずだ」
赤い目から涙が溢れ落ちる。
セージは涙を拭い、ゆっくりと目を瞑った。
「ゼルドリック様の狂気の一端を目の当たりにした君には同情する。幼い子供が見るにはさぞきつかっただろう。だが、その部屋に渦巻く狂気が外にぶつけられることはない。彼が抱え続ける狂気と重い愛は、エルフとなって戻ってきた妻が全て受け止めてくれるからだ。……だからセージ、不安にならず母の帰還を祝ってやれ。ずっと会っていなかった家族に、元気な顔を見せてやれ」
「……ああ」
「もっと母と話しておくべきだったという後悔があるのだろう? なら戻ってきた母と存分に話すといい。ゼルドリック様とも、兄と姉ともな。時間はたっぷりとあるのだから」
「ああ。……ありがとよ、おじさん」
セージはどこかすっきりとした顔で頷いた。
リアによく似たセージの赤い目を見つめ、アンジェロは僅かに口角を上げた。
――――――――――
それから数日後、セージは故郷を訪れた。
故郷は随分と様変わりしていた。村は町となり、かつて畑があったところには色鮮やかな煉瓦造りの家が建ち並んでいる。幼い頃に遊んだ自警団の事務所は役場へと生まれ変わっており、畦道は全て舗装されていた。山から飛んでくるパルシファーの真っ赤な綿毛が、訪れたセージを歓迎するようにふわふわと漂った。
セージは辺りを見渡し、驚きに目を見開いた。
「おお。こりゃ立派な町になったなあ。……親父、町長として頑張ってきたんだな」
セージは軽装で実家へと向かった。すれ違う者の中にはセージの傷だらけの顔を見遣る者もいたが、彼は特に何も言われることはなかった。
「ははっ、案外こっちの方が声を掛けられねえのかもしれねえな」
セージは笑いながら額から滲む汗を拭った。夏薔薇と向日葵が咲く道を歩む。澄み渡る青空と色鮮やかな花々の色彩が目に染みて、セージの心を柔らかく揺らす。
(田舎って、こんなに綺麗だったっけ)
町がどんなに栄えても、清浄な水を湛えた湖や深く美しい緑の森、高台はそのままだった。
セージは故郷の景色を楽しむように、ゆっくりとゆっくりと歩いた。
やがて、道の先に自分が生まれ育った屋敷が見えて、セージは懐かしさに胸を詰まらせた。
「……あ」
屋敷の前に、家族が立っている。
リリーが、ウィローが、イリスが、ヴィオラが。
そしてリアの肩を抱きながら、ゼルドリックが潤む目でセージを見つめていた。
「おかえり。おかえりなさい、セージ」
夏の温かい風が、母の柔らかな声をセージのもとまで運んでくる。
「お袋……」
ふわふわとした赤い髪がなびく。
記憶の中にある母よりもずっと若い姿で、エルフの女は微笑んだ。
「……っ」
懐かしさ、後悔、歓喜、安堵。様々な感情がセージの中に込み上げてくる。彼は駆け出し、生まれ変わった母を力強く抱きしめた。ごめんなと呟きながら啜り泣く息子の背を、リアは何度も何度も撫でた。
「おかえり、セージ」
ゼルドリックはセージの肩に手を添え、息子の無事を喜んだ。父の深みのある声がセージの心に沁み渡っていく。ゼルドリックの大きな手に頭を撫でられ、セージは声を上げて泣いた。
――――――――――
それからセージは家族と共に楽しい時間を過ごした。机の上にはヴィオラの料理や、リアが作ったベリーのコブラーが所狭しと並べられていて、彼は喜んでそれを平らげた。
柱のいたずら描きや壁に貼られた家族写真、イリスが集めた獣の頭蓋骨、ウィローが作った細工を眺めながら、セージはこの家で過ごした思い出に浸った。
七人の会話は止まることがなかった。この温かな再会までに各々が経験してきたことは山程あって、キッチンには笑い声や弾んだ声が響き続けた。
中央政府の役人として働くリリーの苦労話。ファティアナから掛けられた言葉を嬉しそうに話すウィロー。イリスがマルティンと話したことを伝えると、リアはぽろぽろと涙を流した。王子様を見つけたとヴィオラが嬉しそうに切り出せば、ゼルドリックはいたく驚き男と付き合うのはやめろとヴィオラに言い放った。娘に縋り付く父の必死な様子に、セージは腹を抱えて大笑いした。
夜、セージは両親を庭に呼び出し、自分の心の澱を洗いざらい彼らに話した。
幼い頃に見た母の微笑みのこと、開かずの扉の向こう側を見てしまったこと、そして父がまた罪を犯すのではないかという不安。ゼルドリックは眉を下げながら息子の話を聞いていたが、セージの手を握り、子供たちを裏切るようなことは絶対にしないと言い切った。リアはセージの頭を撫でながら、あなたの傷に気がついてあげられなくてごめんなさいと謝った。
険しい顔を崩し、青い目に慈しみを宿す父。穏やかで優しい母の微笑み。
セージがよく知る両親の顔がそこにあった。
「セージ、お前もまた俺にとって大切な宝物だ。かけがえのない宝物なんだ。お前とまたこうして……話すことが出来てよかった」
セージの身体がゼルドリックにしっかりと抱きしめられる。ゼルドリックの身体は震えていた。セージは痩せてしまった父の身体をそっと抱きしめ返し、骨ばった背を摩った。感じていた不安やわだかまりはすっかりどこかに行ってしまい、セージは涙を流しながらも、晴れやかな気持ちで夏の美しい夜空を見上げた。
三日三晩の間、楽しい宴は続いた。
酒を飲みながら、笑い合いながら、皆は家族と共に温かい時間を過ごした。
――――――――――
セージが屋根の上に座って星空を眺めていると、彼の傍にやって来る者がいた。
「お疲れ、セージ」
「姉貴」
リリーは腰を下ろし、星空を見上げるセージをじっと見つめた。
「随分とすっきりした顔をしているな」
姉の声に安堵が込められているのを感じ取り、セージは口角を上げた。
「悪ぃな、姉貴にも心配かけちまったよな? 俺さ、ずっと悩んでたことがあって……やっとその悩みに区切りがついたんだ」
セージは両親に話したことをリリーにも話した。
父が母へと向ける重い執着に不安を抱いていたこと。戻ってきた母を繋ぎ止めるために父がまた罪を犯すのではないかと心配していたが、子供たちを裏切るような真似はしないとゼルドリックから直接聞いたこと。
リリーは弟の話に口を挟むことなく、静かに相槌を打ち続けた。
(……罪、か)
中央政府上層部『円卓』を壊滅させた女。
地獄の炎のような激情を身に宿す、怖ろしい女。
(父さんもだけど、私は母さんの方が……)
辺りに広がる血の海、そしてオリヴァーと母の会話を思い出し、リリーは眉を下げた。
(母さんは変わってしまった。父さんと同じように、自分の激情を表に出して――)
「おい姉貴、どうした? 何か気になってることでもあんのかよ?」
セージの赤い目がじっと自分の顔を覗き込んでいる。リリーははっとし、首を横に振った。
「あ、ああ……ごめん、何でもないよ。酒で少し酔ってしまったかな」
「おう、そうか?」
曖昧に微笑む姉の顔を見つめた後、セージは真面目な声で切り出した。
「なあ姉貴。俺さ……。親にも、誰にも話せなかったことがあるんだ。……聞いてくれないか?」
「勿論。どうした?」
「……この話は、姉貴に負担を掛けちまうかもしれないな」
セージは口を噤んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「崖の国にさ、お気に入りのいい宿があんだよ。狭くてボロいけど料理は中々旨くてさ。何よりも、美人で気立てのいい女が経営してるんだ。そいつは優しい女でよ、俺が泊まりに行く度に喜んでくれるんだ。無事で良かった、いつでもここに来てくださいってな」
「……俺さ、いつの間にかその女のことがすげえ好きになっちまった。好きすぎて、フラれるのが怖くて告白できねえんだ。うじうじ悩んだ末にどうしようもなくなって、女に会いたくなって、用もないのに宿に泊まりに行ってまた悩む。その繰り返し……。女と話す度に幸せな気持ちになる。でもその女と話してると、開かずの扉の向こう側がちらつくんだ」
「あの部屋を見た時、親父もお袋もおかしいって思った。でも本当は……おかしいと思うのと同じくらいに、あの部屋のことを素敵だって思っちまったんだっ! 好きな女の写真を貼り付けて、髪も爪も私物も集めて、古着を飾って、一挙一動を観察して記録したい。そんな願望が心から湧き上がってくる!」
セージは己の膝に顔を埋めた。
「傷だらけの醜い俺を、あんな綺麗な女が愛してくれる訳がない。俺の知らないところであの女は誰かに抱かれているかもしれない。それなら誰の元へも行けないように閉じ込めて、俺の魔法で何重にも鍵をかけてしまおう。親父がそうしたように、俺もあの女にかかわる一切を部屋に集めてしまおう。そうしてこそ俺の愛をあの女に証明できる。そうしてこそ俺が楽になれる……。お袋が親父を受け入れたように、あの女にも俺を受け入れてほしい。あの女と契って家族になりたい。あの女を得るためになら罪さえ犯せる! そんな考えが、ずっと俺の心を苦しめてんだ!」
「親父とお袋に会ったら、この自分の中にある怖ろしい考えを実行に移しちまいそうだった。だから田舎に帰れなかった! 俺は親父を否定しつつも、確かに親父に似ちまったんだ!」
「……セージ」
俯くセージから嗚咽が漏れる。
「俺はおかしい! 狂ってんだ! だってそんなのないだろ!? 姉貴がよ、親父の汚名を濯ごうと頑張ってんのに! 家族を守ろうと戦ってんのに! 俺がそれをやっちまったら台無しじゃねえか! 俺みたいな奴は死んだ方が――」
「セージ!」
リリーは一喝した後、啜り泣く弟の頭を撫でた。
「そんなことは私がさせない。何が何でも止めてやる。お前が暗い道に進まないようにしっかりと支えてやる」
リリーは力強く言い切った。そのきっぱりとした答えに、セージはゆっくりと顔を上げた。
「私は強い。傭兵として働くお前よりもずっと強い。お前を止める力が私にはあるのだ。安心しろ、手を汚しそうになった時は頬を引っ叩いて明るいところに連れ戻してやる」
「……姉貴」
「だから決して抱え込もうとするな。お前が狂気を持て余した時は、存分にこのリリーに話すといい。分かったか?」
セージは涙を流しながらも、リリーの青い目をしっかりと見つめ頷いた。
(そうだ。誰かが狂気に蝕まれそうになった時は、このリリーが止めればいい)
(セージが、父さんが、そしてオフィーリア=オルフィアンが誤った道を選びそうになったら、このリリーが全力を以って止めるのだ)
(私は母さんが戻ってきてくれて嬉しかった。父さんの幸せそうな顔を、再び見ることができて嬉しかった)
(父さんと母さんの愛が永遠であるように、周囲から祝福されるものであるように。いつまでも見守り続けよう)
リリーは静かに決意した。
そして心の中で、家族に加護あるようにと女神オーレリアへ祈った。
ふと、庭に一人の男が転移してきた。
銀の髪を高い位置で一つに結わえたエルフの男。見慣れぬその姿に、リリーとセージは首を傾げた。
「なあ姉貴。あれは誰だ?」
「……さあ?」
玄関の扉が開く音がする。ヴィオラが駆けてきて、エルフの男に勢い良く抱きついた。
「ディステル様! どうしてここに?」
「ああ、愛しのヴィオラ……。あなたがいつまでも戻ってこないから、痺れを切らして迎えに来たのですよ」
「うふふっ! もう、ディステル様ったら寂しがり屋なんですから!」
「そう。私は寂しがり屋なのですよ、ヴィオラ。ずっとあなたとくっついていたい。あなたに会えない日は世界が色褪せて見えます。ああ、綺麗だ、そしてどこまでも可憐で……。すみれの妖精、あなたはなんて可愛いのでしょう! 暫く会っていなかった分、あなたがより美しく見える……!」
ヴィオラとディステルは頬を染め、お互いを蕩ける目で見つめ合った。二人が醸し出す甘ったるい雰囲気にリリーが困惑していると、屋敷の中からゼルドリックが転がるように出てきた。
「おい! 俺からヴィオラを奪ったのはお前か!」
ゼルドリックの大声が響き渡る。
ディステルはにやりと笑った後、ゼルドリックに向けて丁寧なエルフ式の挨拶をした。
「ああ、これはお義父様……。初めまして、私はディステル=オルフィアン。ヴィオラの王子です」
「なっ……!? お義父様? それに王子!? 抜かしおって……! 俺は認めんぞ! お前のような眼鏡野郎にヴィオラはやらん!」
「ふむ、私を認めてくださらないと……。仕方ないですね。ヴィオラ、あなたの父にあれを見せてやりなさい」
「はい、ディステル様!」
ヴィオラは満面の笑みを浮かべつつ、己の胸に手を差し込んだ。ヴィオラの胸から一輪の薔薇が取り出される。魔力の光を溢れさせる紫色の薔薇を見て、ゼルドリックは目を大きく見開いた。
「なっ、なっ、な!? おい、まさかそれっ……!」
驚きに吃るゼルドリックをにやにやと見つめ、ディステルは転移魔法を発動させた。
「お義父様。あなたが認めても認めなくても、ヴィオラは未来永劫私のものなのです。『契りの薔薇』は既に発動してしまいましたからね。さて、それでは失礼します。ヴィオラを愛の巣に連れて帰らないと……」
「あ、おい待て!」
焦るゼルドリックを置いて、ディステルとヴィオラはその場からぱっと消え去った。
セージは頭を抱えるゼルドリックをぼんやりと見つめていたが、しばらくした後に口を開いた。
「なあ姉貴……。あの二人さ」
「……ああ。父さんと母さんによく似てるな」
セージに頷きを返し、リリーは妹と、妹の王子のことを考えた。
(あの二人、どうも私の親と似たような道を辿る気がする。重い愛を抱えて、お互いにぶつけあってどこまでも溺れていくに違いない。……はは、私の勘はよく当たるからな。セージと、父さんと、母さんに加えて……あの二人もしっかりと見守っておかなくちゃいけないな)
これから大変だと心の中で呟き、リリーは微笑んだ。
王都の美しい街並みは強烈な夏日に揺らいでいる。夏の陽射しがセージの黒い板金鎧を熱していき、彼の背中に汗の雫を滴らせていく。セージは鎧の下が酷く蒸れるのを感じながら、うんざりしたように息を吐いた。
「ああ……あっちぃな。どこもかしこもあっちぃ。ったく、夏ってのは暑くていけねえ! 王都でこんな暑いなら、南部は一体どれだけ暑いんだ? あーあ……。早く北の方に戻りたいぜ」
セージは人混みを掻き分けながら足早に歩いた。彼が動く度、分厚い板金鎧ががしゃがしゃと音を立てる。真夏だというのに全身鎧を身に着け、顔全体を覆い隠した兜を被るセージは人々の注目の的だった。
暑くはないのか、とすれ違った男がセージに尋ねた。セージが暑いに決まってるだろとぶっきらぼうに返事をすると、男は変な顔をしながら鎧を脱げばいいのにと呟いた。
「ああそうだな! でもよ、俺は恥ずかしがり屋だから身体を見せたくねえんだよ!」
セージは男に向かって吐き捨て、目的地までの道を急いだ。冷却の魔法を身体に施しながらひたすら炎天下を歩き続ける。
やがて、セージの前方に金と宝石で造られた門扉が現れた。
門扉の傍らには大きな鶴がいて、セージのことをじっと見つめている。セージは兜を脱ぎ、陽光に光り輝く門を見上げた。
「はっ、目が痛くなるくれえに金ぴかでごてごてした門だ。パルナパってのは何でも派手に飾り立てやがるな。……おい、アンジェロのおじさんに伝えろ! 可愛いセージがやって来たってさ!」
セージが鶴に向かって大声を出すと、鶴は羽を広げた後その場から勢い良く飛び去った。しばらくしてから門が独りでに開く。セージはずかずかと庭に入り、屋敷目掛けて駆け出した。
高貴なるパルナパの一族。王族貴族幾百人が同じ姓を名乗っていても、血統や家格、司る力によって幾つかの派閥がある。生命力を司る「豊穣」の一派に属するアンジェロは、鶴の離宮と呼ばれる広大な屋敷にて何百羽もの鶴を育てていた。
鶴は外だけでなく、屋敷の中にも何十羽といた。ふかふかとしたソファの上で休むものや、階段の手すりに留まるもの。アンジェロから美味な魔力をたっぷりと与えられてきた鶴は肥え太り、いずれも幸せそうな面持ちをしている。セージは屋敷の中を自由に歩き回る鶴たちを見遣り苦笑した。
「おじさんの屋敷は鶴だらけだな。一体どれだけいるんだ?」
「離宮全体で五百羽ほど。交配が上手くいっているから年々鶴の数が増えている。そのうちこの屋敷では飼いきれなくなるかもしれないな」
「そしたら俺に一羽くれよ。使い魔として便利そうだし、こんだけ肥ってたら非常食としても良さそうだ」
セージが近くにいた鶴の頭をがしがしと撫でると、鶴は彼の手を嫌そうに突いた。
「こらセージ、鶴にちょっかいをかけるな。彼らは繊細なのだぞ。食べ物にはうるさいし、一日三回ブラッシングをしないと機嫌を損ねる。鶴はやらん、がさつな君に世話ができるとは思えない」
「ちぇっ」
アンジェロはセージに楽にするように言った。彼が遠慮なくどかりとソファに腰掛けると、アンジェロは柔らかく目を細めた。
「元気そうで何よりだ、セージ。君と直接会えることを心待ちにしていた」
「おう、俺もだ! おじさんと生きて会えて嬉しいぜ!」
アンジェロの顔は無表情だが、目には確かなセージへの親愛の色が宿っている。アンジェロが手をふたつ叩くと、セージの目の前にカップと茶菓子が現れた。
「おっ、ありがとよおじさん! 助かるぜ」
ふわふわと空に浮かぶカップの中には冷えた紅茶がたっぷりと注がれている。セージはありがたそうにそれを飲んだ後、ソファの背にぐったりと凭れた。
「はあぁぁ……生き返った。ったく、外は暑くて仕方ねえ!」
「まあ、それだけ分厚い鎧を着ていればな。汗もたっぷりかくだろうに。脱がないのか?」
「本当は脱ぎたいんだがよ、俺の姿を見るとぎょっとする奴ばかりでさ。夏だろうが何だろうが鎧を着込むのが癖になっちまった」
セージは笑い、己の黒い髪をがしがしと掻いた。
セージ=リローラン。
ダークエルフの父とハーフドワーフの母の間に生まれた、五人の子の五番目。
セージは背が低いが、とにかく屈強な男だった。彼は傭兵として各地を巡り、その場その場で繰り広げられる熾烈な争いに加わることによって生計を立てた。セージの身体は盛り上がった固い筋肉に覆われていて、彼は分厚い全身鎧を身に着けたまま一日中動き回れるほど体力があった。片手で大斧を振り回すセージの強さは、傭兵の間ではそれなりに知られていた。
セージは、自分の外見を人に見せることを好まなかった。父譲りの黒い肌の上には夥しい数の傷痕があり、長い耳はところどころ欠けている。無数の傷によって歪んだ表情を見せる顔と鮮血のような赤い目は、見る者に対し怖ろしさを感じさせた。自分の傷だらけの顔や身体を見せたくなかったので、セージは心を許した者の前以外は必ず漆黒の全身鎧を纏った。
セージの顔をじっと見つめた後、アンジェロは平坦な声で言った。
「私は君の顔を怖ろしいとは思わないがな」
「へいへい、そりゃどうも」
「だが心配だ。前に会った時よりもずっと顔に傷が増えている。いつか君が死んでしまうのではないかと思うと気が気でない。……そういえばセージ、君は全く実家に顔を出さないそうだな。ゼルドリック様が酷く心配していたぞ」
親に心配をかけるなと呟くアンジェロから、セージは気まずそうに目を逸らした。
「あー……。なるべく田舎には帰りたくなくてよ」
「なぜだ?」
アンジェロはセージのカップに紅茶を注ぎながら無表情で尋ねた。
「……何ていうか……。親父とお袋から距離を置きたくてさ」
セージは誤魔化すように笑った後、冷えた紅茶を一気に呷った。
――――――――――
好奇心の強い子供だったセージは、週に一度村を訪れる行商人が持ってくる品々に興味津々だった。図書室にある本では飽き足らず、新たな冒険記や英雄譚を求めて母と共に欠かさず行商人のもとへ通った。
行商人の男が母にばかり話しかけるのは気になったが、その時のセージにとっては新しい本に触れることの方が大事だった。
セージが五歳の時だった。
行商人の男が、母――リアにしつこく誘いをかけた。
男の下卑た言葉の意味を幼いセージは理解することができなかったが、リアの腕を強く掴みながら腰を撫で回す男に対し、彼はぞっとしたものを感じた。
母から離れろとセージが口を開きかけた時、行商人の男が勢い良く吹っ飛んだ。父――ゼルドリックが駆けてきて、男を勢い良く殴り飛ばしたからだった。
――俺の妻に何をしている!? この蛆虫が!!
ゼルドリックは激昂し、妻に手を出そうとした男の胸倉を掴んだ。喚く男の顔目掛けて、ゼルドリックの拳が勢い良く叩き込まれる。セージは初めて見る父の怖ろしい姿に背筋が寒くなるのを感じた。優しい父の姿はそこになく、セージは目の前のダークエルフが知らない男のように見えた。
――来なさい、セージ。
後からやってきた姉のリリーが、セージの目を隠しながら家に連れ帰ろうとした。
――ま、待って。母さんが……。
セージは幼いながらも、男の行為が醜いものであると察した。母は男に触られて悲しい思いをしたのではないかと。自分が悲しい時に母が頭を撫でてくれたように、自分も母の頭を撫でて慰めなければならない。きっと母は泣いているから、可哀想な母を抱きしめて家に帰ろうと伝えようとした。
――母さん、泣かないで……。
セージはリリーの腕から抜け出し、母の顔を見上げた。
だがセージが見たものは、母の微笑みだった。
悲しい顔も、苦しそうな顔も浮かべることなく、リアは嬉しそうに笑っていた。大声を出しながら男を追及する夫を止めながらも、母は顔を綻ばせていた。
潤む目、染まった頬、僅かに開かれた口。
セージが知る温かい微笑みとは違う、どこか陰のある表情だった。
(母さん……?)
予想と異なる母の顔に、セージは何も言えず立ち尽くした。
彼の視界が再びリリーの手によって塞がれる。セージは姉に手を引かれながら、両親を置いて家に帰った。
ゼルドリックとリアは少ししてから家に帰って来た。手を繋ぎながら仲睦まじく寄り添う姿は、いつもの父と母だった。
セージが母を抱きしめると、リアは彼に温かな微笑みを向けた。
セージがよく知る、母の顔だった。
(……母さん)
男はどうなったのか。
父はどうしてあんなに怒っていたのか。
なぜあの時、父を見て嬉しそうに笑っていたのか。
セージは思うことがありながらも、それをリアに聞くことは出来なかった。
村を訪ねてくる行商人は変わり、あの男を見かけることは二度となかった。
セージは今までのように、母に手を引かれながら行商人のもとへと通った。
前にやって来た男の顔は忘れてしまっても、激昂する父の姿と母の微笑みは、いつまでもセージの中から消えることはなかった。
十二を過ぎた頃、セージは魔法の使い方を少しずつ学び始めた。
エルフの血を引く者として「鍵」の力を天から授けられたセージは、屋敷中の箱に魔法の鍵を施しては家族たちを困らせた。セージの持つ能力は中々に便利だった。どんな箱や扉、あるいは空間に対して魔法で鍵を掛けることができ、反対にどんな鍵でも魔法で開けることができた。
セージは魔法で鍵を掛けられることは家族に伝えても、反対に開けられることは誰にも言わなかった。
悪戯好きの少年に育った彼は、自分の力を秘密にしておいて家族をもっと困らせてやろうという企みを持っていた。
セージは、かねてより気になっていた扉のひとつに目をつけた。両親の寝室の中には「開かずの扉」があって、その扉には何重にも鍵が掛けられている。あの扉の向こうには一体何があるのだろうかと、セージは期待に胸を躍らせた。
ゼルドリックとリアが家を空けた日、セージはこっそりと寝室に忍び込み開かずの扉を開けた。
両親は何か素晴らしい宝物を隠しているのではないか? 可愛い子供たちに秘密にしておくなんてずるい。もし宝物を隠しているなら、自分が暴いて部屋から持ち出してやるのだ……そう考えながら部屋に飛び込んだセージは、すぐに顔を強張らせた。
そこにあったのは、セージの理解を超えたものだった。
壁と天井にぎっしりと貼られた大量の母の写真。自分がよく知る微笑みや怒り顔から、泣き顔や見たことのない表情まで……何十枚も、何百枚もの写真が一斉に目に飛び込んでくる。セージは慄き、母の視線から逃れるように目を逸らした。
天井からはかつて母が着ていた古着が吊り下げられ、長机の上には分厚い本や鍵の掛けられた箱がいくつも置かれている。箱には日付が記された札が付けられており、扉と同じ様に鍵が掛けられていたが、セージはそれを開けたいとは思わなかった。壁際には母と同じくらいの背丈の人形がずらりと並べられている。赤いドレスを着せられた木人形は、扉から射し込んだ明かりを受けて不気味に光った。
(親父が……親父がこの部屋を作ったのか?)
セージはそっと机の上の本を開き、そこにある父の字を食い入るように見つめた。脳が書かれた文字の意味を理解することを拒んだが、その本の中にはリアのことばかりが記されていた。リア、リア、リア。頁を捲っても捲っても、母の名前が飛び込んでくる。凄まじい熱量で書かれた記録は何十冊も机の上に積み上がっていた。
(なんだ……? 一体何なんだよ、この部屋は!)
どくどくと自分の胸が跳ねるのを感じる。セージは震えながら部屋を見渡した。
物がぎっしりと詰め込まれているせいで狭い印象を持ったが、よく見ると中々に広い部屋だった。母の服、母の私物、母の赤い髪、母の記録、母に関するそれ以外の何か……。セージが目を遣るところ全てに、リアに繋がるものがある。まるでこの部屋が、「リア」という存在を形作ろうとしているかのようだった。
部屋の奥には手錠や首輪、鞭が並べられていて、その傍らには一枚の写真があった。
(……これは)
首輪を付けられ、微笑む母の顔。
潤む目、染まった頬、僅かに開かれた口。母の顎には、父のものと思われる黒い手が添えられている。
陰のあるその微笑みは、かつて見た母の顔と重なった。
激昂する父を嬉しそうに見つめるあの顔に。
(……!)
セージはそれ以上見ていられず、急いで部屋を後にした。
開かずの扉に鍵を掛け直し、自室に引き篭もる。帰ってきたリアに声を掛けられても、ゼルドリックから食事の用意が出来たと言われても、その日セージは部屋から出ることはしなかった。
(あれは、おかしい)
自分の父は異常だ。
そしてその異常さを、母は喜んで受け入れている。
(あの二人はおかしい)
恋を知らぬセージでも、両親の愛がどこか歪なものだと分かっていた。あのように母の写真を壁中に貼り付けたり古着を飾り付ける父はおかしい。そして父のおかしさを肯定するような母もまた、おかしい。
薄暗い部屋の様子は、セージの中に消えない染みとなって刻み込まれた。
それからセージは悪戯を止めた。屋敷の中で「鍵」の能力を使う気が全く起きなかった。
いきなり悪戯をやめたセージにゼルドリックとリアは首を傾げたが、彼は決して両親に理由を話すことはなかった。開かずの扉の向こう側を見てからというもの、セージは両親と話をすることを拒むようになった。ゼルドリックとリアは息子の態度に危機感を覚え、何度もセージと話そうと試みたが、彼は心配する両親に放っておいてくれと言い放ち、逃げるように外へ出た。
ウィローやイリスは様子が変わったセージを見てただの反抗期だろうと片付けたが、リリーは何かと彼を気遣った。リリーは両親にも話せないことがあるなら私が話を聞くとセージに言ったが、彼は尊敬する姉にも、自分が目にしたことを話せずにいた。
両親はいつまでも仲睦まじかった。
妻が老いていっても、ゼルドリックはリアを深く深く愛していた。
姉のヴィオラは種族を超えて契った両親に対し憧れの視線を向けたが、セージは二人の愛を綺麗なものだとは思えなかった。歳を重ね、彼らが抱える愛が、父がかつて犯した罪がどれほど異常なのかはっきりと分かった。
セージはヴィオラのように、両親の馴れ初めや契るまでの話を笑顔で聞いていられなかった。話を聞く度に母の微笑みが、あの薄暗い部屋の様子が浮かんできて冷静でいられなくなる。
両親の傍にいては自分までおかしくなってしまいそうで、セージは早く田舎を出たいと望んだ。
そして青年期を迎える頃、セージは姉たちと共に家を出た。両親とのわだかまりが解消されることはなく、彼は結局、笑顔で父母と話すことが出来ないでいた。ゼルドリックとリアはセージを悲しそうな目で見つめたが、それでも息子が無事で過ごせるようにと、彼をしっかりと抱きしめ王都への旅に送り出した。
王都にて異国の言葉を貪欲に学んだ彼は、傭兵として諸国を渡り歩いた。
セージは身体を動かすことが好きだった。武器を振り回す度、自分の心の中の澱が少しずつ取り除かれていくような感覚がする。彼は自分の中に根付いた「開かずの扉の向こう側」をかき消すように、ひたすら戦い続けた。
故郷に帰ったのはリアの葬儀の時だけ。
それ以外は、全く実家に顔を出すことはなかった。
――――――――――
「親父とお袋にとっちゃ訳分からなかっただろうな。手のつけられねえ悪ガキがいきなり静かになって、それから何を言っても不貞腐れたままなんだからよ。俺はお袋に泣かれようが、親父に怒られようが口を割らなかった。あの部屋を見ちまったって言ったら、親との関係がどうしようもないところまで拗れちまう気がしたんだ。……あれは、親の秘密だろうから」
「俺は親のことが好きだ。親父もお袋もおかしいと思ってるけど、絶縁したいなんて思っちゃいねえ。そりゃ、俺だって後悔したさ。こんな態度を取ったら親を悲しませるだけだって。お袋が死んじまった時なんてすげえ後悔したよ。生きてるうちにもっと話しておけば良かったって……」
「でも、二人の傍にいたら頭がおかしくなっちまいそうだった。あれが正しい愛の形なんだって思い込んじまいそうだった。それくらいにあの部屋は俺にとって衝撃だったんだ」
「この事はリリーの姉貴にも話せなかった。姉貴が俺のことを心配してたのは分かってたけどよ、大変な思いをしてる姉貴に負担をかけたくなかったんだ……。この話をしたのはおじさんが初めてだ。おじさんなら、俺の話を聞いてくれると思った」
口早に話した後、セージは深く息を吐いた。
「なるほど。だから故郷に帰る前に、私の屋敷に立ち寄りたいと言ったのだな」
「ああ。この気持ちを抱えたまま田舎に帰ることはできねえと思った。いい加減、誰かに話してすっきりしたかったんだ」
セージとアンジェロは文通をする仲だった。
緑の国に殆ど帰ることがなかったセージは、傭兵という稼業を通して外交官であるアンジェロと知り合った。セージは度々アンジェロの護衛として雇われることがあったが、彼はこの貴族の男が気に入っていた。
感情の起伏が少なくさっぱりとしているが、親切で面白みもある男。
セージは何かを話したい時、いつもアンジェロに便りを出してきた。
アンジェロから父の元部下だったと打ち明けられた時は驚いたが、セージは彼との交流を絶つことはなかった。実家に顔を出す勇気が持てない分、ゼルドリックと連絡を取り合うアンジェロから度々親の様子を聞いていた。
かつて見た薄暗い部屋の中身が、頭の中に鮮明に蘇っていく。信頼するアンジェロにゆっくりと心の内を吐き出す度、セージは胸が強く跳ねるのを感じた。
「お袋が戻ってきた。エルフとなって、しかも元の姿のままで……! 親父の愛が、お袋をあの世から呼び戻したのか? 死さえあの二人を分かつことはないのか? 親父の熱心な祈りに女神様が応えたのか? 女神様から微笑みを向けられるほどに、親父が抱える愛は重かったのか?」
セージはぶつぶつと呟いた後、顔を覆った。
「お袋から会おうって手紙を受け取った時、俺はまたあの部屋のことを思い出しちまった。あの部屋は異常だった。親父はきっと、あの部屋の中にもうひとりのお袋を作り出そうとしてたんだ。写真やら物やらを集めて、お袋の日常生活を事細かに記録して……お袋が死んじまった後も自分が生きていけるように! そうはっきりと分かるほどに、お袋への怖ろしい執着を感じた」
「俺は怖い。親父がお袋へと向ける愛が怖いんだ。あれだけ重い愛を抱えてるんだ、親父は戻ってきたお袋を……今度こそ逃さないために何だってするはずだ」
「セージ……」
「親父が再び酷いことをしでかすんじゃないかって不安になる。あの罪人の枷を無理やり千切って、また罪を犯すんじゃないかって思っちまう……。俺は怖くて堪らねえ! 親父がお袋のために罪を犯して、そんな親父をお袋が喜んで肯定するかもしれないと思うと、気がおかしくなりそうだ……!」
「……だから、両親から距離を置きたいと?」
「ああ。……杞憂だと思うか?」
アンジェロは項垂れるセージを見つめた後、静かに口を開いた。
「君の感じる不安は解らんでもない。ゼルドリック様は怖ろしい男だった。愛しい女を得るために、数多の犯罪に手を染めた。公文書偽造、任務外での魔法の使用、魔力の過剰滲出、他者への精神操作、死霊術の使用、監禁罪など。本来なら牢に三百年収監されるほどの重罪だ。私もゼルドリック様の狂気を目の当たりにしたがな、あの時の彼は罪を犯すことに対して抵抗がなかった……」
「エルフの血を引く者とそれ以外では圧倒的な寿命差がある。ゼルドリック様は考えたはずだ、愛しい女がエルフでなくても、魔法を使ってその寿命を無理やり永らえさせてしまえばいいのだと。そして愛する女を生かすためになら、なお犯罪に手を染める覚悟があると。だが、罪人の首枷がそれをさせなかった。結果彼は、何よりも愛おしい妻と死に別れることとなった」
「…………」
「ゼルドリック様は、再び自分の元に戻ってきた『奇跡』を今度こそ逃さないように繋ぎ止めておこうとするだろう。だがセージ、君が心配しているようなことにはならないよ。ゼルドリック様はもう罪を犯すことはない」
「……何でそう言い切れる?」
「大切な宝物が増えたからだ」
アンジェロは平坦ながらも、優しさが感じられる声で言った。
「以前のゼルドリック様にとっては、リア=リローランという存在だけが宝物だった。それ以上に大切なものはなかったから、彼女を得るためならどんな罪も平気で犯した。だが彼女と契り……彼は新たな宝物を持つことになった」
「……ガキのことか?」
「そうだ。リリー、ウィロー、イリス、ヴィオラ……そしてセージ。君たちの存在があったから、ゼルドリック様は踏みとどまることが出来た。君たちへの愛情が、そして子供たちを守るという妻との約束が、彼を暗い道から連れ戻した」
「ゼルドリック様ほどのエルフなら、罪人の枷を無理やり引き千切ってしまうことは可能だったはずだ。亡くなった妻を禁呪で蘇らせることもできたかもしれない。己の精神世界へ妻の魂を引きずり込むこともできたかもしれない……」
セージの黒い手が、アンジェロの手に優しく握られる。
「だが、彼はそれを選ばなかった。子供たちのことを心から大切に思っていたから。罪を犯し、彼らを傷付けるような真似はしたくなかったのだろう」
「…………」
「君の母親も同じだ。夫を深く愛しているように、我が子たちのことも深く愛している。夫が暗い道に進もうとするならば、彼女は何としても止めるはずだ」
赤い目から涙が溢れ落ちる。
セージは涙を拭い、ゆっくりと目を瞑った。
「ゼルドリック様の狂気の一端を目の当たりにした君には同情する。幼い子供が見るにはさぞきつかっただろう。だが、その部屋に渦巻く狂気が外にぶつけられることはない。彼が抱え続ける狂気と重い愛は、エルフとなって戻ってきた妻が全て受け止めてくれるからだ。……だからセージ、不安にならず母の帰還を祝ってやれ。ずっと会っていなかった家族に、元気な顔を見せてやれ」
「……ああ」
「もっと母と話しておくべきだったという後悔があるのだろう? なら戻ってきた母と存分に話すといい。ゼルドリック様とも、兄と姉ともな。時間はたっぷりとあるのだから」
「ああ。……ありがとよ、おじさん」
セージはどこかすっきりとした顔で頷いた。
リアによく似たセージの赤い目を見つめ、アンジェロは僅かに口角を上げた。
――――――――――
それから数日後、セージは故郷を訪れた。
故郷は随分と様変わりしていた。村は町となり、かつて畑があったところには色鮮やかな煉瓦造りの家が建ち並んでいる。幼い頃に遊んだ自警団の事務所は役場へと生まれ変わっており、畦道は全て舗装されていた。山から飛んでくるパルシファーの真っ赤な綿毛が、訪れたセージを歓迎するようにふわふわと漂った。
セージは辺りを見渡し、驚きに目を見開いた。
「おお。こりゃ立派な町になったなあ。……親父、町長として頑張ってきたんだな」
セージは軽装で実家へと向かった。すれ違う者の中にはセージの傷だらけの顔を見遣る者もいたが、彼は特に何も言われることはなかった。
「ははっ、案外こっちの方が声を掛けられねえのかもしれねえな」
セージは笑いながら額から滲む汗を拭った。夏薔薇と向日葵が咲く道を歩む。澄み渡る青空と色鮮やかな花々の色彩が目に染みて、セージの心を柔らかく揺らす。
(田舎って、こんなに綺麗だったっけ)
町がどんなに栄えても、清浄な水を湛えた湖や深く美しい緑の森、高台はそのままだった。
セージは故郷の景色を楽しむように、ゆっくりとゆっくりと歩いた。
やがて、道の先に自分が生まれ育った屋敷が見えて、セージは懐かしさに胸を詰まらせた。
「……あ」
屋敷の前に、家族が立っている。
リリーが、ウィローが、イリスが、ヴィオラが。
そしてリアの肩を抱きながら、ゼルドリックが潤む目でセージを見つめていた。
「おかえり。おかえりなさい、セージ」
夏の温かい風が、母の柔らかな声をセージのもとまで運んでくる。
「お袋……」
ふわふわとした赤い髪がなびく。
記憶の中にある母よりもずっと若い姿で、エルフの女は微笑んだ。
「……っ」
懐かしさ、後悔、歓喜、安堵。様々な感情がセージの中に込み上げてくる。彼は駆け出し、生まれ変わった母を力強く抱きしめた。ごめんなと呟きながら啜り泣く息子の背を、リアは何度も何度も撫でた。
「おかえり、セージ」
ゼルドリックはセージの肩に手を添え、息子の無事を喜んだ。父の深みのある声がセージの心に沁み渡っていく。ゼルドリックの大きな手に頭を撫でられ、セージは声を上げて泣いた。
――――――――――
それからセージは家族と共に楽しい時間を過ごした。机の上にはヴィオラの料理や、リアが作ったベリーのコブラーが所狭しと並べられていて、彼は喜んでそれを平らげた。
柱のいたずら描きや壁に貼られた家族写真、イリスが集めた獣の頭蓋骨、ウィローが作った細工を眺めながら、セージはこの家で過ごした思い出に浸った。
七人の会話は止まることがなかった。この温かな再会までに各々が経験してきたことは山程あって、キッチンには笑い声や弾んだ声が響き続けた。
中央政府の役人として働くリリーの苦労話。ファティアナから掛けられた言葉を嬉しそうに話すウィロー。イリスがマルティンと話したことを伝えると、リアはぽろぽろと涙を流した。王子様を見つけたとヴィオラが嬉しそうに切り出せば、ゼルドリックはいたく驚き男と付き合うのはやめろとヴィオラに言い放った。娘に縋り付く父の必死な様子に、セージは腹を抱えて大笑いした。
夜、セージは両親を庭に呼び出し、自分の心の澱を洗いざらい彼らに話した。
幼い頃に見た母の微笑みのこと、開かずの扉の向こう側を見てしまったこと、そして父がまた罪を犯すのではないかという不安。ゼルドリックは眉を下げながら息子の話を聞いていたが、セージの手を握り、子供たちを裏切るようなことは絶対にしないと言い切った。リアはセージの頭を撫でながら、あなたの傷に気がついてあげられなくてごめんなさいと謝った。
険しい顔を崩し、青い目に慈しみを宿す父。穏やかで優しい母の微笑み。
セージがよく知る両親の顔がそこにあった。
「セージ、お前もまた俺にとって大切な宝物だ。かけがえのない宝物なんだ。お前とまたこうして……話すことが出来てよかった」
セージの身体がゼルドリックにしっかりと抱きしめられる。ゼルドリックの身体は震えていた。セージは痩せてしまった父の身体をそっと抱きしめ返し、骨ばった背を摩った。感じていた不安やわだかまりはすっかりどこかに行ってしまい、セージは涙を流しながらも、晴れやかな気持ちで夏の美しい夜空を見上げた。
三日三晩の間、楽しい宴は続いた。
酒を飲みながら、笑い合いながら、皆は家族と共に温かい時間を過ごした。
――――――――――
セージが屋根の上に座って星空を眺めていると、彼の傍にやって来る者がいた。
「お疲れ、セージ」
「姉貴」
リリーは腰を下ろし、星空を見上げるセージをじっと見つめた。
「随分とすっきりした顔をしているな」
姉の声に安堵が込められているのを感じ取り、セージは口角を上げた。
「悪ぃな、姉貴にも心配かけちまったよな? 俺さ、ずっと悩んでたことがあって……やっとその悩みに区切りがついたんだ」
セージは両親に話したことをリリーにも話した。
父が母へと向ける重い執着に不安を抱いていたこと。戻ってきた母を繋ぎ止めるために父がまた罪を犯すのではないかと心配していたが、子供たちを裏切るような真似はしないとゼルドリックから直接聞いたこと。
リリーは弟の話に口を挟むことなく、静かに相槌を打ち続けた。
(……罪、か)
中央政府上層部『円卓』を壊滅させた女。
地獄の炎のような激情を身に宿す、怖ろしい女。
(父さんもだけど、私は母さんの方が……)
辺りに広がる血の海、そしてオリヴァーと母の会話を思い出し、リリーは眉を下げた。
(母さんは変わってしまった。父さんと同じように、自分の激情を表に出して――)
「おい姉貴、どうした? 何か気になってることでもあんのかよ?」
セージの赤い目がじっと自分の顔を覗き込んでいる。リリーははっとし、首を横に振った。
「あ、ああ……ごめん、何でもないよ。酒で少し酔ってしまったかな」
「おう、そうか?」
曖昧に微笑む姉の顔を見つめた後、セージは真面目な声で切り出した。
「なあ姉貴。俺さ……。親にも、誰にも話せなかったことがあるんだ。……聞いてくれないか?」
「勿論。どうした?」
「……この話は、姉貴に負担を掛けちまうかもしれないな」
セージは口を噤んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「崖の国にさ、お気に入りのいい宿があんだよ。狭くてボロいけど料理は中々旨くてさ。何よりも、美人で気立てのいい女が経営してるんだ。そいつは優しい女でよ、俺が泊まりに行く度に喜んでくれるんだ。無事で良かった、いつでもここに来てくださいってな」
「……俺さ、いつの間にかその女のことがすげえ好きになっちまった。好きすぎて、フラれるのが怖くて告白できねえんだ。うじうじ悩んだ末にどうしようもなくなって、女に会いたくなって、用もないのに宿に泊まりに行ってまた悩む。その繰り返し……。女と話す度に幸せな気持ちになる。でもその女と話してると、開かずの扉の向こう側がちらつくんだ」
「あの部屋を見た時、親父もお袋もおかしいって思った。でも本当は……おかしいと思うのと同じくらいに、あの部屋のことを素敵だって思っちまったんだっ! 好きな女の写真を貼り付けて、髪も爪も私物も集めて、古着を飾って、一挙一動を観察して記録したい。そんな願望が心から湧き上がってくる!」
セージは己の膝に顔を埋めた。
「傷だらけの醜い俺を、あんな綺麗な女が愛してくれる訳がない。俺の知らないところであの女は誰かに抱かれているかもしれない。それなら誰の元へも行けないように閉じ込めて、俺の魔法で何重にも鍵をかけてしまおう。親父がそうしたように、俺もあの女にかかわる一切を部屋に集めてしまおう。そうしてこそ俺の愛をあの女に証明できる。そうしてこそ俺が楽になれる……。お袋が親父を受け入れたように、あの女にも俺を受け入れてほしい。あの女と契って家族になりたい。あの女を得るためになら罪さえ犯せる! そんな考えが、ずっと俺の心を苦しめてんだ!」
「親父とお袋に会ったら、この自分の中にある怖ろしい考えを実行に移しちまいそうだった。だから田舎に帰れなかった! 俺は親父を否定しつつも、確かに親父に似ちまったんだ!」
「……セージ」
俯くセージから嗚咽が漏れる。
「俺はおかしい! 狂ってんだ! だってそんなのないだろ!? 姉貴がよ、親父の汚名を濯ごうと頑張ってんのに! 家族を守ろうと戦ってんのに! 俺がそれをやっちまったら台無しじゃねえか! 俺みたいな奴は死んだ方が――」
「セージ!」
リリーは一喝した後、啜り泣く弟の頭を撫でた。
「そんなことは私がさせない。何が何でも止めてやる。お前が暗い道に進まないようにしっかりと支えてやる」
リリーは力強く言い切った。そのきっぱりとした答えに、セージはゆっくりと顔を上げた。
「私は強い。傭兵として働くお前よりもずっと強い。お前を止める力が私にはあるのだ。安心しろ、手を汚しそうになった時は頬を引っ叩いて明るいところに連れ戻してやる」
「……姉貴」
「だから決して抱え込もうとするな。お前が狂気を持て余した時は、存分にこのリリーに話すといい。分かったか?」
セージは涙を流しながらも、リリーの青い目をしっかりと見つめ頷いた。
(そうだ。誰かが狂気に蝕まれそうになった時は、このリリーが止めればいい)
(セージが、父さんが、そしてオフィーリア=オルフィアンが誤った道を選びそうになったら、このリリーが全力を以って止めるのだ)
(私は母さんが戻ってきてくれて嬉しかった。父さんの幸せそうな顔を、再び見ることができて嬉しかった)
(父さんと母さんの愛が永遠であるように、周囲から祝福されるものであるように。いつまでも見守り続けよう)
リリーは静かに決意した。
そして心の中で、家族に加護あるようにと女神オーレリアへ祈った。
ふと、庭に一人の男が転移してきた。
銀の髪を高い位置で一つに結わえたエルフの男。見慣れぬその姿に、リリーとセージは首を傾げた。
「なあ姉貴。あれは誰だ?」
「……さあ?」
玄関の扉が開く音がする。ヴィオラが駆けてきて、エルフの男に勢い良く抱きついた。
「ディステル様! どうしてここに?」
「ああ、愛しのヴィオラ……。あなたがいつまでも戻ってこないから、痺れを切らして迎えに来たのですよ」
「うふふっ! もう、ディステル様ったら寂しがり屋なんですから!」
「そう。私は寂しがり屋なのですよ、ヴィオラ。ずっとあなたとくっついていたい。あなたに会えない日は世界が色褪せて見えます。ああ、綺麗だ、そしてどこまでも可憐で……。すみれの妖精、あなたはなんて可愛いのでしょう! 暫く会っていなかった分、あなたがより美しく見える……!」
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「おい! 俺からヴィオラを奪ったのはお前か!」
ゼルドリックの大声が響き渡る。
ディステルはにやりと笑った後、ゼルドリックに向けて丁寧なエルフ式の挨拶をした。
「ああ、これはお義父様……。初めまして、私はディステル=オルフィアン。ヴィオラの王子です」
「なっ……!? お義父様? それに王子!? 抜かしおって……! 俺は認めんぞ! お前のような眼鏡野郎にヴィオラはやらん!」
「ふむ、私を認めてくださらないと……。仕方ないですね。ヴィオラ、あなたの父にあれを見せてやりなさい」
「はい、ディステル様!」
ヴィオラは満面の笑みを浮かべつつ、己の胸に手を差し込んだ。ヴィオラの胸から一輪の薔薇が取り出される。魔力の光を溢れさせる紫色の薔薇を見て、ゼルドリックは目を大きく見開いた。
「なっ、なっ、な!? おい、まさかそれっ……!」
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「お義父様。あなたが認めても認めなくても、ヴィオラは未来永劫私のものなのです。『契りの薔薇』は既に発動してしまいましたからね。さて、それでは失礼します。ヴィオラを愛の巣に連れて帰らないと……」
「あ、おい待て!」
焦るゼルドリックを置いて、ディステルとヴィオラはその場からぱっと消え去った。
セージは頭を抱えるゼルドリックをぼんやりと見つめていたが、しばらくした後に口を開いた。
「なあ姉貴……。あの二人さ」
「……ああ。父さんと母さんによく似てるな」
セージに頷きを返し、リリーは妹と、妹の王子のことを考えた。
(あの二人、どうも私の親と似たような道を辿る気がする。重い愛を抱えて、お互いにぶつけあってどこまでも溺れていくに違いない。……はは、私の勘はよく当たるからな。セージと、父さんと、母さんに加えて……あの二人もしっかりと見守っておかなくちゃいけないな)
これから大変だと心の中で呟き、リリーは微笑んだ。
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