風紀委員長は××が苦手

乙藤 詩

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2学期までの1週間

七話

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「それで?待ってたって事は何か用があったのか?」
撫でてくる正木の腕をさり気なく躱しながら姫川が言うと、
「あぁ、一緒に飯を食おうと思って。なぁたまには食堂に行かないか?」
と正木が言った
「何でわざわざあんなにうるさい所に行くんだ?」
正木の言葉に姫川が眉を顰める。
姫川は3年間を通しても食堂で食べたのは数えるほどしかなかった。特に風紀委員長になってからは、自分が知らない生徒がチラチラと視線を送ってきたり、ヒソヒソと話しているのを見て、とても美味しくご飯を食べられる気がしなかった。
「いいから、いいから。いつも自分で作って大変だろ?たまには食堂で食って楽しろって。」
正木は姫川の腕を強引に引っ張りながらそう言った。
「別に大変だと思ってない。それにお前と食堂なんて行ったらそれこそ他の生徒にどんな目で見られるか。」
「何だよ。これから付き合うのに今からそんなこと言ってたら身が持たないぞ。」
「何で付き合う前提なんだ。」
正木のペースにすっかり飲まれた姫川は半ば無理やり食堂に連れてこられた。
「はぁ、マジで嫌だ。」
姫川が心底嫌そうに呟くと、横で正木が笑っている気配がした。
「何が可笑しいんだよ。」
ジロッと睨んで言えば、
「いや、俺の前だと素が出るようになったなと思うと何か嬉しくてな。」
そう言われて、姫川は気づいた。実家で正木と接することも多かったからか砕けた口調で喋ってしまっていた。それが何だか急に恥ずかしくなって、姫川は俯くと、
「ほらっ、入るんだろ。さっさと行くぞ。」
と正木の顔も見ずに食堂に入って行った。
その後ろ姿を正木が嬉しそうに眺めていた。
2人で食堂に入ると、先程まで騒がしかった食堂が嘘のように静まり返った。
目を見開き固まるもの、食べていたものをこぼすもの、友達とヒソヒソ話すものと反応は様々だが、皆の目は姫川と正木に釘付けだった。
姫川が1人で食堂に来た時でもここまでの反応はなかった。
姫川はこの時点でもう食堂に来た事を後悔していた。正木と来た事でいつもの倍以上の視線を感じる気がしたからだ。
「なぁ、やっぱりやめないか?」
今からでも寮に戻りたくなって正木に問うが、正木は姫川の肩をポンポンと宥めるように叩いた。
「まぁまぁ、こっちについてこいって。」
その様子を見て何名かの生徒から悲鳴が上がる。しかし、正木は慣れているのかお構いなしにずんずん食堂を進んで行った。
「おいっ!待てって。」
置いていかれないように、姫川も急いで後を追う。正木が近くを通る時、頬を染める生徒や黄色い声を上げる生徒もいて、あまりの異様な光景に姫川は唖然とした。姫川は男にときめく趣味はないので、ここの生徒たちが正木をそういう目で見ているのが信じられなかった。
その間にも正木は食堂の奥へ進んでいく。そこには2階に通じる階段があり、躊躇う事なくそこを登っていく。
「おい、ここ入ってもいいのか?」
2階に上がる事ができることも知らなかった姫川が焦ったように正木に声を掛けると、
「あぁ、ここは生徒会専用の食事スペースだからな。」
「待て、それは初耳なんだが。」
3年近くここで過ごしてきたのに、そんなスペースがある事を姫川は全く知らなかった。
「生徒会は風紀と違って生徒からも人気があるから、食べる時くらいはゆっくり出来るようにとこのスペースを設けてくれてるんだ。大抵の生徒は知ってるもんだけどな。姫川が極端に食堂を使わなすぎるからだろ。」
少し揶揄うような言い方が気になったが敢えてそこには触れず姫川が尋ねる。
「俺は生徒会でもないのに勝手に入っていいのか?」
「それは、俺がいいって言ってんだからいいんだよ。ほらっ、ここなら静かに食べれるだろ。」
階段を上がった先は広めのテラスのようになっており、床には丁寧に人工芝のようなものが敷いてあった。白で統一された机と椅子がそれぞれ5組ずつくらいあり、生徒会だけで使うには少し広すぎるスペースにも感じた。
「じゃあ俺はこれから飯を取ってくるから、姫川はここで待ってろよ。」
姫川を案内するだけして、正木はさっさと下に戻ろうとする。
「いや、俺はまだメニュー決めてなー」
「今日は俺のお勧めをもらってくるからちょっと待っとけって。」
姫川が言うそばから言葉を奪うとあっさり食事を取りに行ってしまった。
正木にペースを乱されてばかりの姫川は近くの椅子に腰掛けるとふぅと溜息を漏らした。

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