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第一章 悠久老師──改め、悠久少女
第六話 雪景色
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朝。窓から射し込む陽光で目の覚めた蒼炎は布団から体を起こした。寝惚け眼で見慣れない部屋を眺め、自分が今悠久老師の家にいる事を思い出す
この部屋は昨夜、竜胆に通された部屋だった。誰かの部屋のようだったが、蒼炎は詳しくは聞かなかった。
蒼炎は寝間着を脱ぎ、着替えようとするが、妙な肌寒さを感じてぶるりと震えた。腕を擦りながら窓の外を見るとその光景に絶句する。
外は一面、雪化粧に覆われていた。
「な……っ!」
驚く事はない。山の天気は変わりやすいというし、高い山に雪が積もるのは珍しい事ではない。
が、何分滅多に雪の降らない帝都育ちの蒼炎にとってはとても珍しい光景だった。
(こんなに積もって、下山できるのか……!?)
念のための装備は持ってきているが、足を滑らせたら一貫の終わりだ。蒼炎が考え込んでいると、がらりと戸が開かれた。
「蒼炎、朝餉の支度できてるよ。どうしたの?」
竜胆が入ってきて訊ねる。蒼炎は窓の外を指差した。
「夜中に降ったのよ。暫くは溶けないわ」
「万年雪ではないんですね」
山によっては雪が積もると年中溶けない場所もある。
「雪は滅多に降らないし、天花山は山頂でもあまり冷えないからね」
「ですが、この雪で下山できるでしょうか?」
「その心配はいらないわ。抜け道があるから。それより、その変な喋り方やめて」
「変な喋り方?」
蒼炎が不思議そうに首を傾げる。一応、言葉遣いには気を使っていたつもりだが、何か間違えただろうか?
「昨日からずっと気になってたの。最初は普通だったのに」
竜胆が不満げに唇を尖らせる。
そういえば、竜胆が悠久老師と名乗る前に少しだけ素の話し方をしていた。まさか自分より年下に見える少女が悠久老師とは思いもしなかったからだ。
「普通がいい」
蒼炎としてもそう言われては断る理由もなかったので、
「分かった。普通に話す。これでいいか?」
「うん。朝餉にしましょう」
竜胆は嬉しそうににこりと笑い、蒼炎の手を引いて居間に連れて行こうとした。
「待て待て! まだ着替えてない!」
「そう。じゃあ待ってる」
そう言って竜胆はぺたりと床に座った。
………………。
「着替えないの?」
「いや、出てけよ!?」
「なんで?」
竜胆が訊ねる。
なんでって……普通、異性の着替えを見るというのは非常識な行為だ。しかし、竜胆はその事を分かっていなかった。
蒼炎が説明すると竜胆は目をぱちくりさせて、
「そういうものなの」
と神妙そうな顔をして部屋を出ていった。
「何なんだ。一体……」
一万年生き続けている悠久老師。長い事俗世から離れ過ぎて、常識が抜け落ちているのか、その行動がやけに幼く感じた蒼炎だった。
この部屋は昨夜、竜胆に通された部屋だった。誰かの部屋のようだったが、蒼炎は詳しくは聞かなかった。
蒼炎は寝間着を脱ぎ、着替えようとするが、妙な肌寒さを感じてぶるりと震えた。腕を擦りながら窓の外を見るとその光景に絶句する。
外は一面、雪化粧に覆われていた。
「な……っ!」
驚く事はない。山の天気は変わりやすいというし、高い山に雪が積もるのは珍しい事ではない。
が、何分滅多に雪の降らない帝都育ちの蒼炎にとってはとても珍しい光景だった。
(こんなに積もって、下山できるのか……!?)
念のための装備は持ってきているが、足を滑らせたら一貫の終わりだ。蒼炎が考え込んでいると、がらりと戸が開かれた。
「蒼炎、朝餉の支度できてるよ。どうしたの?」
竜胆が入ってきて訊ねる。蒼炎は窓の外を指差した。
「夜中に降ったのよ。暫くは溶けないわ」
「万年雪ではないんですね」
山によっては雪が積もると年中溶けない場所もある。
「雪は滅多に降らないし、天花山は山頂でもあまり冷えないからね」
「ですが、この雪で下山できるでしょうか?」
「その心配はいらないわ。抜け道があるから。それより、その変な喋り方やめて」
「変な喋り方?」
蒼炎が不思議そうに首を傾げる。一応、言葉遣いには気を使っていたつもりだが、何か間違えただろうか?
「昨日からずっと気になってたの。最初は普通だったのに」
竜胆が不満げに唇を尖らせる。
そういえば、竜胆が悠久老師と名乗る前に少しだけ素の話し方をしていた。まさか自分より年下に見える少女が悠久老師とは思いもしなかったからだ。
「普通がいい」
蒼炎としてもそう言われては断る理由もなかったので、
「分かった。普通に話す。これでいいか?」
「うん。朝餉にしましょう」
竜胆は嬉しそうににこりと笑い、蒼炎の手を引いて居間に連れて行こうとした。
「待て待て! まだ着替えてない!」
「そう。じゃあ待ってる」
そう言って竜胆はぺたりと床に座った。
………………。
「着替えないの?」
「いや、出てけよ!?」
「なんで?」
竜胆が訊ねる。
なんでって……普通、異性の着替えを見るというのは非常識な行為だ。しかし、竜胆はその事を分かっていなかった。
蒼炎が説明すると竜胆は目をぱちくりさせて、
「そういうものなの」
と神妙そうな顔をして部屋を出ていった。
「何なんだ。一体……」
一万年生き続けている悠久老師。長い事俗世から離れ過ぎて、常識が抜け落ちているのか、その行動がやけに幼く感じた蒼炎だった。
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