悠久少女と天花薬

夢草 蝶

文字の大きさ
6 / 12
第一章 悠久老師──改め、悠久少女

第六話 雪景色

しおりを挟む
 朝。窓から射し込む陽光で目の覚めた蒼炎は布団から体を起こした。寝惚け眼で見慣れない部屋を眺め、自分が今悠久老師の家にいる事を思い出す
 この部屋は昨夜、竜胆に通された部屋だった。誰かの部屋のようだったが、蒼炎は詳しくは聞かなかった。
 蒼炎は寝間着を脱ぎ、着替えようとするが、妙な肌寒さを感じてぶるりと震えた。腕を擦りながら窓の外を見るとその光景に絶句する。
 外は一面、雪化粧に覆われていた。

「な……っ!」

 驚く事はない。山の天気は変わりやすいというし、高い山に雪が積もるのは珍しい事ではない。
 が、何分滅多に雪の降らない帝都育ちの蒼炎にとってはとても珍しい光景だった。

(こんなに積もって、下山できるのか……!?)

 念のための装備は持ってきているが、足を滑らせたら一貫の終わりだ。蒼炎が考え込んでいると、がらりと戸が開かれた。

「蒼炎、朝餉の支度できてるよ。どうしたの?」

 竜胆が入ってきて訊ねる。蒼炎は窓の外を指差した。

「夜中に降ったのよ。暫くは溶けないわ」
「万年雪ではないんですね」

 山によっては雪が積もると年中溶けない場所もある。

「雪は滅多に降らないし、天花山は山頂でもあまり冷えないからね」
「ですが、この雪で下山できるでしょうか?」
「その心配はいらないわ。抜け道があるから。それより、その変な喋り方やめて」
「変な喋り方?」

 蒼炎が不思議そうに首を傾げる。一応、言葉遣いには気を使っていたつもりだが、何か間違えただろうか?

「昨日からずっと気になってたの。最初は普通だったのに」

 竜胆が不満げに唇を尖らせる。
 そういえば、竜胆が悠久老師と名乗る前に少しだけ素の話し方をしていた。まさか自分より年下に見える少女が悠久老師とは思いもしなかったからだ。

「普通がいい」

 蒼炎としてもそう言われては断る理由もなかったので、

「分かった。普通に話す。これでいいか?」
「うん。朝餉にしましょう」

 竜胆は嬉しそうににこりと笑い、蒼炎の手を引いて居間に連れて行こうとした。

「待て待て! まだ着替えてない!」
「そう。じゃあ待ってる」

 そう言って竜胆はぺたりと床に座った。

 ………………。

「着替えないの?」
「いや、出てけよ!?」
「なんで?」

 竜胆が訊ねる。
 なんでって……普通、異性の着替えを見るというのは非常識な行為だ。しかし、竜胆はその事を分かっていなかった。
 蒼炎が説明すると竜胆は目をぱちくりさせて、

「そういうものなの」

 と神妙そうな顔をして部屋を出ていった。

「何なんだ。一体……」

 一万年生き続けている悠久老師。長い事俗世から離れ過ぎて、常識が抜け落ちているのか、その行動がやけに幼く感じた蒼炎だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

処理中です...