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彼女の思惑は? 1
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「そうなの、羨ましいわ。クランク様はアニカさんを大切にされていらっしゃるのね。クランク様は優しくて紳士的と噂は伺っていましたけれど、本当に優しい方なのですね」
フィーアさんがため息をつきながらマルセルの顔を見つめた後、急に誉め始めたので私は何だか嫌な気持ちになりました。
マルセルが優しくて紳士的で貴族令嬢達から人気が高いのは事実ですが、それを噂を聞いたと本人に話すのはどうかと思いますし、そもそも親しくもない男性の顔を見つめながら話すのは礼儀に反している気がします。
「クランク様の評判は私の学年でも有名ですわ。そういえばクランク様は試験の成績は常に上位で剣の腕も立ち学校内の憧れの的だというお話も聞いたことがございますわ」
「へえ? アニカ知ってた?」
フィーアさんのべた褒めに、私の心は苛々としてきてしまいますが、救いなのはマルセルが喜んでいないことです。というよりもマルセルはフィーアさんの言葉を社交の笑顔で受け止めた後、惚けて私に尋ねてきたのです。
「ふふ、噂なんて本人やその関係者には言わないものだから噂なのよ。でも、あってもおかしくないわ。マルセルは素敵だもの」
フィーアさんの思惑が分かりませんが、礼儀に反する話し方は良しとは言えませんから続くようなら考えなくてはいけません。
フィーアさんの言動は私には受け入れがたいものがあります。ですが、でも……と考えます。
お兄様の婚約者ですから、現状は少し甘めにしないといけないのかもしれません。
お兄様の言動がフィーアさんの婚約者としては及第点以下なので、対応に悩むところが多々ありすぎるのが困りものなのです。
「ふうん? アニカは素敵だと思ってくれているの? それなら嬉しいけれど」
マルセルの甘い笑顔に私は苛々が一瞬で溶けてなくなり、気持ちが舞い上がってしまいました。
私って単純すぎませんか? フィーアさんの問題が解決していないのに。そんな疑問は脇に置いて今は婚約者との語らいが大切。そう割り切りました。
「マルセルは素敵よ。私が婚約者でいいのか不安に成程よ」
そっと手を伸ばしマルセルの制服の裾に手を触れ視線を合わせます。
こんな仕草はマルセルが許してくれていると分かっているから出来ることです。
フィーアさんへの牽制とも言えます。
「アニカが不安になるのは僕の行いが悪いってことだよね。ごめんね。アニカ、もっともっと君を大切にすると誓うよ。大好きな婚約者だからね」
マルセルは、なんだか少し演技に見える様な大袈裟な仕草で私の髪を一束取るとそこに唇を近づけて、キスをしました。
ドキン。
私の心臓が大きく脈打って、離れていくマルセルの唇を私の目が凝視しました。
マルセルの性格を考えるとフィーアさんの言動が好ましくないと感じているのだろうと察せられます。
彼は多分保守的な人です。
婚約者である私を一番に考え大切にしてくれるのも、その考えの一つなのだと思います。
だからこそ、婚約者の妹の婚約者に礼儀違反な行いをするフィーアさんは、マルセルの中で異性とは見られない物になっているのでしょう。
「二人はとても仲がよろしいのね。羨ましいわ。私はクランク様と個人的にお話をする機会がなかったのが寂しいわ。今後はお話してもいいでしょうか」
フィーアさんは、何故かマルセルをべた褒めしてくれています。
私も私の侍女もメイドも戸惑う褒めっぷりです。そして、更に親密になりたいと暗に言っている様に見えます。
「お嬢様、お食事がお済みでしたらデザートのご用意をいたしましょうか」
侍女が気を利かせ話しかけてきました。
学園の昼休みはゆっくりと食事をしても十分な程の長さがありますが、でも時間は有限です。
いつもよりも長引いている食事に、侍女が気を利かせたのです。
「そうね。お願い。今日のデザートは何かしら。マルセルは午後に剣の授業があるのよ。動きを妨げないものだといいけれど」
食事は授業内容を考えて侍女達がある程度選んでいますから、その辺りは心配ありませんがフィーアさんへの牽制を含めてそう言うと優秀な彼女はにっこりと余裕の笑顔で答えました。
「はい。授業の妨げにならぬものです。酸味の強い果物は体を動かした後に食すると良いようですが、事前摂取も良いとの説もあるようです」
「そう。配慮してくれて嬉しいわ」
私についてくれる使用人は誰もが優秀ですが、そういえばフィーアさんの家からの使用人は誰もいないと気が付きました。
私にはいつもメイドか侍女のどちらかが付きそうだけですが、今日はフィーアさんからの声掛けがあった為急遽家から一人呼び寄せ現在の私に侍女とメイドの両方がついてくれています。
マルセルについているのはいつもの侍従が一人です。
一方フィーアさんには誰もついていません。
うちは子爵とはいえ、かなり裕福な部類に入る家です。
資産でいえば伯爵家にも侯爵家にも勝るかもしれないと言われているのが、我が家です。
そういうわけで家からは、爵位には過分な者がついているとは分かっていますが、商と領地経営で栄えているというのは反発もあるので、積極的に領地から使用人を選び働いてもらっています。
領民が領主の家で働くというのは、つまり家の内情が領民に筒抜けになるということです。ですがお父様はそうすることで家の内部を知ってもらい、領民の信用を得る一つとしているのです。
「クランク様は先日の試験でも優秀な成績を残されたとか、本当に素晴らしいですわね」
うっとりと、まさにうっとりとした表情でフィーアさんはマルセルを褒めています。
マルセルは優秀な人なので、他人から褒められるのは常ですが、でもこれはどうなのでしょうか。
ちょっと私考えてもいいでしょうか。
フィーアさんがため息をつきながらマルセルの顔を見つめた後、急に誉め始めたので私は何だか嫌な気持ちになりました。
マルセルが優しくて紳士的で貴族令嬢達から人気が高いのは事実ですが、それを噂を聞いたと本人に話すのはどうかと思いますし、そもそも親しくもない男性の顔を見つめながら話すのは礼儀に反している気がします。
「クランク様の評判は私の学年でも有名ですわ。そういえばクランク様は試験の成績は常に上位で剣の腕も立ち学校内の憧れの的だというお話も聞いたことがございますわ」
「へえ? アニカ知ってた?」
フィーアさんのべた褒めに、私の心は苛々としてきてしまいますが、救いなのはマルセルが喜んでいないことです。というよりもマルセルはフィーアさんの言葉を社交の笑顔で受け止めた後、惚けて私に尋ねてきたのです。
「ふふ、噂なんて本人やその関係者には言わないものだから噂なのよ。でも、あってもおかしくないわ。マルセルは素敵だもの」
フィーアさんの思惑が分かりませんが、礼儀に反する話し方は良しとは言えませんから続くようなら考えなくてはいけません。
フィーアさんの言動は私には受け入れがたいものがあります。ですが、でも……と考えます。
お兄様の婚約者ですから、現状は少し甘めにしないといけないのかもしれません。
お兄様の言動がフィーアさんの婚約者としては及第点以下なので、対応に悩むところが多々ありすぎるのが困りものなのです。
「ふうん? アニカは素敵だと思ってくれているの? それなら嬉しいけれど」
マルセルの甘い笑顔に私は苛々が一瞬で溶けてなくなり、気持ちが舞い上がってしまいました。
私って単純すぎませんか? フィーアさんの問題が解決していないのに。そんな疑問は脇に置いて今は婚約者との語らいが大切。そう割り切りました。
「マルセルは素敵よ。私が婚約者でいいのか不安に成程よ」
そっと手を伸ばしマルセルの制服の裾に手を触れ視線を合わせます。
こんな仕草はマルセルが許してくれていると分かっているから出来ることです。
フィーアさんへの牽制とも言えます。
「アニカが不安になるのは僕の行いが悪いってことだよね。ごめんね。アニカ、もっともっと君を大切にすると誓うよ。大好きな婚約者だからね」
マルセルは、なんだか少し演技に見える様な大袈裟な仕草で私の髪を一束取るとそこに唇を近づけて、キスをしました。
ドキン。
私の心臓が大きく脈打って、離れていくマルセルの唇を私の目が凝視しました。
マルセルの性格を考えるとフィーアさんの言動が好ましくないと感じているのだろうと察せられます。
彼は多分保守的な人です。
婚約者である私を一番に考え大切にしてくれるのも、その考えの一つなのだと思います。
だからこそ、婚約者の妹の婚約者に礼儀違反な行いをするフィーアさんは、マルセルの中で異性とは見られない物になっているのでしょう。
「二人はとても仲がよろしいのね。羨ましいわ。私はクランク様と個人的にお話をする機会がなかったのが寂しいわ。今後はお話してもいいでしょうか」
フィーアさんは、何故かマルセルをべた褒めしてくれています。
私も私の侍女もメイドも戸惑う褒めっぷりです。そして、更に親密になりたいと暗に言っている様に見えます。
「お嬢様、お食事がお済みでしたらデザートのご用意をいたしましょうか」
侍女が気を利かせ話しかけてきました。
学園の昼休みはゆっくりと食事をしても十分な程の長さがありますが、でも時間は有限です。
いつもよりも長引いている食事に、侍女が気を利かせたのです。
「そうね。お願い。今日のデザートは何かしら。マルセルは午後に剣の授業があるのよ。動きを妨げないものだといいけれど」
食事は授業内容を考えて侍女達がある程度選んでいますから、その辺りは心配ありませんがフィーアさんへの牽制を含めてそう言うと優秀な彼女はにっこりと余裕の笑顔で答えました。
「はい。授業の妨げにならぬものです。酸味の強い果物は体を動かした後に食すると良いようですが、事前摂取も良いとの説もあるようです」
「そう。配慮してくれて嬉しいわ」
私についてくれる使用人は誰もが優秀ですが、そういえばフィーアさんの家からの使用人は誰もいないと気が付きました。
私にはいつもメイドか侍女のどちらかが付きそうだけですが、今日はフィーアさんからの声掛けがあった為急遽家から一人呼び寄せ現在の私に侍女とメイドの両方がついてくれています。
マルセルについているのはいつもの侍従が一人です。
一方フィーアさんには誰もついていません。
うちは子爵とはいえ、かなり裕福な部類に入る家です。
資産でいえば伯爵家にも侯爵家にも勝るかもしれないと言われているのが、我が家です。
そういうわけで家からは、爵位には過分な者がついているとは分かっていますが、商と領地経営で栄えているというのは反発もあるので、積極的に領地から使用人を選び働いてもらっています。
領民が領主の家で働くというのは、つまり家の内情が領民に筒抜けになるということです。ですがお父様はそうすることで家の内部を知ってもらい、領民の信用を得る一つとしているのです。
「クランク様は先日の試験でも優秀な成績を残されたとか、本当に素晴らしいですわね」
うっとりと、まさにうっとりとした表情でフィーアさんはマルセルを褒めています。
マルセルは優秀な人なので、他人から褒められるのは常ですが、でもこれはどうなのでしょうか。
ちょっと私考えてもいいでしょうか。
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