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閣下と伯爵令嬢(酒乱)
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アドミリア軍の完全敗北により、ザクセン前線基地には多くの難民が押し寄せることとなった。
反乱軍が勝ったといえど、長く続いた戦争で民や土地は疲弊しており、アドミリアの民は豊かなザナリアに支援を求めていたのだ。
比較的大きな町であるザクセンも、大量の難民で溢れかえり、そのため軍部・情報局・警邏隊、総出で対処せざるおえない状況になっていた。
「はぁー……もう、凄い量ですねぇ……いつまでこの作業つづくんですか?」
連日の事務作業で、疲れ果てたオズワルドがぐったりと天井を仰ぎながら愚痴る。
「暫くは続くだろうな、まぁ適度に休憩はとれよ。寝込まれて人員が減るのは困る。……ああ、そろそろ見回りの時間だ、出るぞ、オズワルド」
「はぁい……閣下……」
「返事は短く、シャキッとしろ!」
「……はいっ、えー、少々お待ちを……」
と言うとパンパンと自分で両頬を叩き、漸く気合いが入ったオズワルドは、ローラントの後ろを颯爽と付いていった。
国境付近の検問所では、朝から晩までひっきりなしに難民が押し掛けている。
5人一組で作業に当たらせているが、それでも行列はどんどん長くなっていた。
「閣下、お疲れ様です!」
「ああ、ご苦労。進んでいるか?」
ローラントは兵士の一人に声を掛けた。
「どうにも数が多すぎて……情報局や警邏に手伝って貰ってもこれですからね。あと何日かかるやら……」
兵士は疲れきった顔でため息をついた。
「そうか…、すまないな、もう少し頑張ってくれ」
「あっ!いえ、はい!閣下!」
思いがけない言葉をかけられ、兵士は反射的に敬礼をした。
それから、5分ほど歩きザクセンに作った難民区の様子を見に行く。
そこも、かなりの人で溢れ返っていた。
「あー、またですよーほら、閣下?」
オズワルドが指さす方へ視線を向けると、5、6人の女達がおかしな笑みでこちらを見ていた。
「閣下、狙われてますよ」
「は?」
「わかりませんか?媚びを売ってるんですよ!どうやら、向こうの貴族階級の女性達らしいですね。身なりがいい。大方、閣下に取り入っていい思いをしようとしてるんでしょう」
「そんなものに興味はない」
「閣下にはなくても……、あ、ほら、来ますよ」
楽しげに言うオズワルドの肩越しに、一人の女が現れた。
「あの、こんばんは、閣下」
「……………ああ」
女に背を向けているオズワルドは、ニヤつきながら様子を伺っている。
「この度は保護して下さりありがとうございます」
「仕事だ」
「はい、それはわかっています。でも私、閣下にどうしてもお礼を述べたくて……」
「礼ならオレじゃなく情報局に言うといい。オレは何もしていない」
「ええそれでも、お話がしてみたかったのです。とても素敵な方でしたので、私、閣下とならそういう関係になっても……」
女の言葉より、オズワルドのおかしな顔の方が気になってしょうがない。
「そういう関係?意味がわからない。何を求めているか知らないが、オレは結婚しているし、貴女に全く興味がない」
「結婚しているのかどうかなんて関係ありませんわ。それに、興味なんて、一度抱いてみれば湧いてくるのでは?」
オズワルドの顔面を殴りたい気分になってきた。
真っ赤な顔で肩を震わせ、笑いをこらえてこちらを見上げている。
「………オレは、妻以外を欲しいとは思わない。愛しているし、愛されている。それに、妻は貴女のような節操のない女ではない。美しく、強く、賢く、慈悲深く、時に可愛いネコのように鳴き、その声はまるで……」
「んんんっ!んっ!」
「どうした、オズワルド?虫でも食ったのか?」
オズワルドが人差し指を口にあてる仕草を見て、オレは暴走しかけたと気付いた。
「……無礼な、私に向かって節操がないなどと…アドミリアの伯爵令嬢ですのよ!軍人ごときにバカにされる謂れはないわ!」
化けの皮が剥がれるのが早いな、とローラントは呆れて見ていたが、何故かここでオズワルドがキレた。
くるりと女に向き直り、長身の背をわざわざ屈めると下から睨め付けながら叫んだ。
「それがどうした?閣下はザナリアの公爵だ。ちなみに奥方様も公爵家令嬢だ!そして、私も伯爵令嬢だ、コラァー!」
伯爵令嬢がコラァはどうだろう……。
怒りのオズワルドはもう止まらなくなっていたらしい。
「ふ、ふっううっ……」
どこぞの伯爵令嬢はザナリアの伯爵令嬢に恫喝され退場した。
「オズワルド、そう言えばお前、伯爵令嬢だったな……忘れていた。で?気は済んだか?」
「済みませんよ!!全く、軍人ごときとは何事!!……閣下、帰って一杯付き合って下さい」
「ごめんだ、お前酒グセ悪いからな……あ、…まぁ、一杯ぐらいならいいぞ、特別な」
こいつのお陰で当分女関係の面倒くさいことからは解放されそうだ。
それを思えば酒の一杯くらいはな。
「ありがとうございますっ!」
オズワルドは大袈裟に敬礼をした。
司令官室で管を巻くオズワルドをよそに、オレは別のことを考えていた。
クリスタに指輪を買ってあげる約束をしている。
結婚式も挙げなくては。
結婚してすぐ離れることになるなら、もっと沢山抱いておけば良かった。
クリスタがオレのことしか考えられなくなるように、何度も、何度も。
「それでぇですねぇ……あ?閣下?きいてますかぁーー」
オレの甘美な妄想は酒グセの悪い伯爵令嬢に邪魔され、それは明け方まで続いた……。
反乱軍が勝ったといえど、長く続いた戦争で民や土地は疲弊しており、アドミリアの民は豊かなザナリアに支援を求めていたのだ。
比較的大きな町であるザクセンも、大量の難民で溢れかえり、そのため軍部・情報局・警邏隊、総出で対処せざるおえない状況になっていた。
「はぁー……もう、凄い量ですねぇ……いつまでこの作業つづくんですか?」
連日の事務作業で、疲れ果てたオズワルドがぐったりと天井を仰ぎながら愚痴る。
「暫くは続くだろうな、まぁ適度に休憩はとれよ。寝込まれて人員が減るのは困る。……ああ、そろそろ見回りの時間だ、出るぞ、オズワルド」
「はぁい……閣下……」
「返事は短く、シャキッとしろ!」
「……はいっ、えー、少々お待ちを……」
と言うとパンパンと自分で両頬を叩き、漸く気合いが入ったオズワルドは、ローラントの後ろを颯爽と付いていった。
国境付近の検問所では、朝から晩までひっきりなしに難民が押し掛けている。
5人一組で作業に当たらせているが、それでも行列はどんどん長くなっていた。
「閣下、お疲れ様です!」
「ああ、ご苦労。進んでいるか?」
ローラントは兵士の一人に声を掛けた。
「どうにも数が多すぎて……情報局や警邏に手伝って貰ってもこれですからね。あと何日かかるやら……」
兵士は疲れきった顔でため息をついた。
「そうか…、すまないな、もう少し頑張ってくれ」
「あっ!いえ、はい!閣下!」
思いがけない言葉をかけられ、兵士は反射的に敬礼をした。
それから、5分ほど歩きザクセンに作った難民区の様子を見に行く。
そこも、かなりの人で溢れ返っていた。
「あー、またですよーほら、閣下?」
オズワルドが指さす方へ視線を向けると、5、6人の女達がおかしな笑みでこちらを見ていた。
「閣下、狙われてますよ」
「は?」
「わかりませんか?媚びを売ってるんですよ!どうやら、向こうの貴族階級の女性達らしいですね。身なりがいい。大方、閣下に取り入っていい思いをしようとしてるんでしょう」
「そんなものに興味はない」
「閣下にはなくても……、あ、ほら、来ますよ」
楽しげに言うオズワルドの肩越しに、一人の女が現れた。
「あの、こんばんは、閣下」
「……………ああ」
女に背を向けているオズワルドは、ニヤつきながら様子を伺っている。
「この度は保護して下さりありがとうございます」
「仕事だ」
「はい、それはわかっています。でも私、閣下にどうしてもお礼を述べたくて……」
「礼ならオレじゃなく情報局に言うといい。オレは何もしていない」
「ええそれでも、お話がしてみたかったのです。とても素敵な方でしたので、私、閣下とならそういう関係になっても……」
女の言葉より、オズワルドのおかしな顔の方が気になってしょうがない。
「そういう関係?意味がわからない。何を求めているか知らないが、オレは結婚しているし、貴女に全く興味がない」
「結婚しているのかどうかなんて関係ありませんわ。それに、興味なんて、一度抱いてみれば湧いてくるのでは?」
オズワルドの顔面を殴りたい気分になってきた。
真っ赤な顔で肩を震わせ、笑いをこらえてこちらを見上げている。
「………オレは、妻以外を欲しいとは思わない。愛しているし、愛されている。それに、妻は貴女のような節操のない女ではない。美しく、強く、賢く、慈悲深く、時に可愛いネコのように鳴き、その声はまるで……」
「んんんっ!んっ!」
「どうした、オズワルド?虫でも食ったのか?」
オズワルドが人差し指を口にあてる仕草を見て、オレは暴走しかけたと気付いた。
「……無礼な、私に向かって節操がないなどと…アドミリアの伯爵令嬢ですのよ!軍人ごときにバカにされる謂れはないわ!」
化けの皮が剥がれるのが早いな、とローラントは呆れて見ていたが、何故かここでオズワルドがキレた。
くるりと女に向き直り、長身の背をわざわざ屈めると下から睨め付けながら叫んだ。
「それがどうした?閣下はザナリアの公爵だ。ちなみに奥方様も公爵家令嬢だ!そして、私も伯爵令嬢だ、コラァー!」
伯爵令嬢がコラァはどうだろう……。
怒りのオズワルドはもう止まらなくなっていたらしい。
「ふ、ふっううっ……」
どこぞの伯爵令嬢はザナリアの伯爵令嬢に恫喝され退場した。
「オズワルド、そう言えばお前、伯爵令嬢だったな……忘れていた。で?気は済んだか?」
「済みませんよ!!全く、軍人ごときとは何事!!……閣下、帰って一杯付き合って下さい」
「ごめんだ、お前酒グセ悪いからな……あ、…まぁ、一杯ぐらいならいいぞ、特別な」
こいつのお陰で当分女関係の面倒くさいことからは解放されそうだ。
それを思えば酒の一杯くらいはな。
「ありがとうございますっ!」
オズワルドは大袈裟に敬礼をした。
司令官室で管を巻くオズワルドをよそに、オレは別のことを考えていた。
クリスタに指輪を買ってあげる約束をしている。
結婚式も挙げなくては。
結婚してすぐ離れることになるなら、もっと沢山抱いておけば良かった。
クリスタがオレのことしか考えられなくなるように、何度も、何度も。
「それでぇですねぇ……あ?閣下?きいてますかぁーー」
オレの甘美な妄想は酒グセの悪い伯爵令嬢に邪魔され、それは明け方まで続いた……。
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