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ヴァーミリオン領

85.神の箱庭、悪魔の檻

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「グリーグ審問官。まさに君のいう通り、肝はそこなのだよ。悪魔は異常なまでに美しいものに執着している。それこそ、各国から名だたる美女を集めて侍らせ……エレナが呼ばれるのも時間の問題だった。だから、早めに手を打ったのだが、まさかそれが裏目に出ようとは思わなかったよ」

ガストは項垂れて頭を抱えた。
どうでもいいけど、今さらっと娘自慢したよね?……どうでもいいけど。

「唯美主義とか耽美主義とか呼ばれるものですね?しかし、そこまで怯えることでもないでしょう?美女を侍らせるだけなら。標本にされてコレクションされる、とかなら怖いですが……」

ローケンは自分の言葉に、ガストが激しく震えるのを見て怪訝な顔をした。

「おい ………まさか、そうなのか!?」

ディランがローケンの肩を掴んだ。
ローケンは暫く黙って何かを考え込み、それから慎重にガストに尋ねた。

「標本に……される?」

「それは……飛躍しすぎだが……あの悪魔は美しい者を集めて捕らえ《神の箱庭》を作っている」

「箱庭??」

「地下にハレムを作ったのだよ。自分専用のな。そして、囚われた女たちは鎖に繋がれ出ることも叶わず……いや、神ではないな……悪魔の檻だな」

ディランの肩に置かれた私の手が、より一層震えた。
それまで、ぼーっとしか解らなかった相関図が、頭の中で突如色つきで再現されたのだ。
宰相を怯えさせ、エレナを操り、猛毒を簡単に入手できる者。
そして、ディラン亡き後、鉱山の権利を手に入れられる者。
地下にハレムを作れる地位と権力を持ち、美しい者が好きな………。
そんなのもう、一人しかいないじゃない!

「ラシュカ王……ラシュカ王が悪魔なのですね!?」

ガストもローケンもディランも。
皆わかっていたのだろうけど、わたしはあえて声を上げた。
上げずにはいられなかった。

「お美しい方……君は、ディランの恋人かね?」

「へ?」

ガストの問いに私は面食らった。
いや、今そんな話をしているんじゃなくてね?
悪魔がラシュカ王なのか聞いてるんですけども?
と言おうとした私の言葉は、ディランによって邪魔された!

「そうです」

断言!?
嫉妬メラメラ大作戦は終わったはずよね?
え、継続中??

「彼女はシルベーヌ様。覚えていませんか?王宮から追い出したと聞いていますが?」

そして、何故バラす!?
それ、言わなくても良くない?

「は………え?………ん?うーん……すまないが、王宮で会ったかな?」

ほらご覧なさい!!
面倒なことになるんだから、黙っておけばよかったのよ!!

「冥府の王女、シルベーヌ様だ。ヴァーミリオン騎士団の象徴であり、主。そして、俺の……大事な人だ」

ぐいっと手を引っ張られ、前のめりになる私を、ディランは片手でひょいと持ち上げた。
そして、恒例になった定位置へと誘われるのである。

「冥府のシルベーヌ様!?は?…………待ってくれ、顔が全然違うぞ?」

「口に気を付けられよ!シルベーヌ様に対する無礼は容赦しない!」

ディランの雰囲気がガラリと変わった。
見上げた顔はキリリとしていて、その真剣な眼差しにちょっと……ちょっとだけ、ときめいたりはしたけど、話が脱線してるのを止めなくてはいけない!
今かなり大事な話をしているんだから!!







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