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番外編
魔女はある時突然に……③
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彼女はファリーナという黒髪の美しい女性だった。
年はあたしと同じくらいか、少し下。
普段ならこういった賄賂を持たない者は、カーズが追い返してしまうのだけど、幸い彼は外出していて不在。
更にあたしと仲の良いメイドに一番最初に声をかけた為、すんなり研究室に来ることが出来たらしい。
彼女は研究室の扉を開けると、すがり付くようにあたしに詰め寄った。
「聖女様!!私、お願いがあって参りました!」
その勢いに思わず後退さった。
ここに来るんだから、家族が病気なのだろう。
必死になるのもわかるけど、病気が治せるかどうかはわからない。
だから、安易に請け負うことは出来ないのだ。
「せ、聖女じゃないけど……ま、いいや。で、何でしょう?」
「私は、レイン領の端、ザビ村から来ました。今ザビ村には謎の奇病が流行っているのです……村長である夫もその病に倒れ……是非一度聖女様に見て頂きたいと……」
美しい瞳に涙を湛え、ファリーナは言った。
「え?……あたしは医者じゃないから診察は出来ないよ?薬を作ることしか出来ないし……でも、謎の奇病ってどんなの?」
あたしの不謹慎極まりない好奇心がピョコンと顔をのぞかせた。
「謎の奇病」というものに反応したのだ。
ここで、相談されるのは殆どが簡単な症状で、腹痛や頭痛、痒みや切傷など。
そういった一般的な諸症状を緩和する薬はもう大量に作ってしまっている。
つまり……あたしは退屈していた。
「ああ!なんと、聖女様!聞いていただけるのですね!」
「うん。聞くだけね?」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
ファリーナはあたしの前で跪き、祈りを捧げ始めた。
聞くだけって言ってるのに、なんだか断りづらい雰囲気になってしまった……。
でも、こんなに困ってるんだから、出来ることなら助けてあげたい。
あたしは彼女を立たせ、側の椅子に座らせた。
「ま、聞かせて。始まりと、症状と、経過と患者数」
「は、はい」
勧めたお茶を一口、口に含むと、ファリーナは震える声で語り始めた。
「あれは、先週の初めのことです。始まりは、村はずれのトムじいさんの腹痛からでした」
「腹痛?ただの?」
「いえ……それから半日で体中が冷たくなり、やがて寝たきりになって……今もそのまま……」
「生きてるの?」
「……はい、一応は。そして、今、村の3分の2がその病に倒れています……」
うーん。
3分の2が動けないとなると、村は相当危機的な状況に陥っているはず。
村長……ファリーナの旦那さんも病に掛かってると言ってたし、他の村への連絡も思うようにいかなかったに違いない。
「大変だったね?あのさ、その病にかかっている患者は主に大人?子供?男が多い?女が多い?」
「それが……全員大人の男なのです。そして、おかしなことにレイン領の教会普請へ駆り出された者達で……」
「教会普請??」
そう聞いて思い出した。
あたしが作った薬を売ったお金と、お客から貰った賄賂を使って町に大きな教会を建てるのだと、メイド達が噂をしていたのを。
それにしても、どうして教会なんだろう、特に信心深くない筈なのに。
あの男なら、娼館でも作りそうなもんだけど。
「ふぅん。それは、おかしな話だね」
「はい。そこに行かなかった者は、全く異常がないので」
「看病したり、一緒にいたりしても移ったりしないのかな?」
「移る??」
ファリーナは不思議そうに首を傾げた。
「……あ、患者と同じ症状が出るか、ってこと」
「それはありません」
質問にキッパリと返すと、ファリーナは腕を組んだままのあたしを見つめた。
「謎の奇病」は感染するものではない。
じゃあ、どこから病を貰ってきたのか。
……簡単じゃないか。
教会普請の現場に何かあるに違いない。
これは、少し調べてみる必要があるな。
そう思い、ファリーナに向き合うと力強く言い切った。
「ちょっと調べてみる。あなたは……どこか身を寄せるところある?」
「え、いえ。着の身着のまま出てきてしまい……お金も何も……」
「そっか。じゃあここにいてもいいよ。但し、見つからないように部屋から出ないようにね」
あたしのその言葉に、ファリーナは瞳を潤ませる。
ここまでの不安や緊張が解けたのか、潤ませた瞳から涙が溢れるのは、それからすぐのことだった。
年はあたしと同じくらいか、少し下。
普段ならこういった賄賂を持たない者は、カーズが追い返してしまうのだけど、幸い彼は外出していて不在。
更にあたしと仲の良いメイドに一番最初に声をかけた為、すんなり研究室に来ることが出来たらしい。
彼女は研究室の扉を開けると、すがり付くようにあたしに詰め寄った。
「聖女様!!私、お願いがあって参りました!」
その勢いに思わず後退さった。
ここに来るんだから、家族が病気なのだろう。
必死になるのもわかるけど、病気が治せるかどうかはわからない。
だから、安易に請け負うことは出来ないのだ。
「せ、聖女じゃないけど……ま、いいや。で、何でしょう?」
「私は、レイン領の端、ザビ村から来ました。今ザビ村には謎の奇病が流行っているのです……村長である夫もその病に倒れ……是非一度聖女様に見て頂きたいと……」
美しい瞳に涙を湛え、ファリーナは言った。
「え?……あたしは医者じゃないから診察は出来ないよ?薬を作ることしか出来ないし……でも、謎の奇病ってどんなの?」
あたしの不謹慎極まりない好奇心がピョコンと顔をのぞかせた。
「謎の奇病」というものに反応したのだ。
ここで、相談されるのは殆どが簡単な症状で、腹痛や頭痛、痒みや切傷など。
そういった一般的な諸症状を緩和する薬はもう大量に作ってしまっている。
つまり……あたしは退屈していた。
「ああ!なんと、聖女様!聞いていただけるのですね!」
「うん。聞くだけね?」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
ファリーナはあたしの前で跪き、祈りを捧げ始めた。
聞くだけって言ってるのに、なんだか断りづらい雰囲気になってしまった……。
でも、こんなに困ってるんだから、出来ることなら助けてあげたい。
あたしは彼女を立たせ、側の椅子に座らせた。
「ま、聞かせて。始まりと、症状と、経過と患者数」
「は、はい」
勧めたお茶を一口、口に含むと、ファリーナは震える声で語り始めた。
「あれは、先週の初めのことです。始まりは、村はずれのトムじいさんの腹痛からでした」
「腹痛?ただの?」
「いえ……それから半日で体中が冷たくなり、やがて寝たきりになって……今もそのまま……」
「生きてるの?」
「……はい、一応は。そして、今、村の3分の2がその病に倒れています……」
うーん。
3分の2が動けないとなると、村は相当危機的な状況に陥っているはず。
村長……ファリーナの旦那さんも病に掛かってると言ってたし、他の村への連絡も思うようにいかなかったに違いない。
「大変だったね?あのさ、その病にかかっている患者は主に大人?子供?男が多い?女が多い?」
「それが……全員大人の男なのです。そして、おかしなことにレイン領の教会普請へ駆り出された者達で……」
「教会普請??」
そう聞いて思い出した。
あたしが作った薬を売ったお金と、お客から貰った賄賂を使って町に大きな教会を建てるのだと、メイド達が噂をしていたのを。
それにしても、どうして教会なんだろう、特に信心深くない筈なのに。
あの男なら、娼館でも作りそうなもんだけど。
「ふぅん。それは、おかしな話だね」
「はい。そこに行かなかった者は、全く異常がないので」
「看病したり、一緒にいたりしても移ったりしないのかな?」
「移る??」
ファリーナは不思議そうに首を傾げた。
「……あ、患者と同じ症状が出るか、ってこと」
「それはありません」
質問にキッパリと返すと、ファリーナは腕を組んだままのあたしを見つめた。
「謎の奇病」は感染するものではない。
じゃあ、どこから病を貰ってきたのか。
……簡単じゃないか。
教会普請の現場に何かあるに違いない。
これは、少し調べてみる必要があるな。
そう思い、ファリーナに向き合うと力強く言い切った。
「ちょっと調べてみる。あなたは……どこか身を寄せるところある?」
「え、いえ。着の身着のまま出てきてしまい……お金も何も……」
「そっか。じゃあここにいてもいいよ。但し、見つからないように部屋から出ないようにね」
あたしのその言葉に、ファリーナは瞳を潤ませる。
ここまでの不安や緊張が解けたのか、潤ませた瞳から涙が溢れるのは、それからすぐのことだった。
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