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旅行編
70. 偶然と必然
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ゴクリと喉を鳴らす。
今、上空から見えている範囲にゴブリンはいない。だが視界に入り次第、僕の標的となるのだろう。それが分かっているから、緊張が僕の身を包む。
サンドワームを討伐したときは、生理的な嫌悪感が勝って思わずウィンドカッターを放っていた。でもあの巨大ミミズと違ってゴブリンは人型だ。攻撃するのにまだ少し抵抗を感じる。
「魔物はね、自分の生活圏から出ることはあまりないんだ。でも、個体数の増加などによって食料が足りなくなると、食料を探し求めて移動するのもいるんだよ。あんな風にね」
ライが指す場所を見ると、遠くの方にゴブリンが三匹いた。森の外に出ている。偶然僕達に見つかってしまったがゆえに、討伐される運命となったゴブリン達だ。
少し近づいて観察してみる。ゴブリン達は、地面を見て何かを探しているようだ。
「食料になる小さな生き物を探しているみたいだね。···ウィル君、やってみるかい?」
やってみるとは、つまり、そういうことですよね?
「まだ抵抗があるようなら無理強いはしないよ。でもゴブリンは放置しておくとすぐに増えるんだ。一匹は弱いけど、集団で襲われると普通の人にとっては脅威になる。だからね、見つけたら狩るようにしているんだ。ウィル君にも、いつかは討伐できるようになってほしいな」
ライ達は優しいから、僕の心の準備が整うのを待ってくれている。まだその優しさに甘えていたい気持ちはあるが、そうしていると自分に甘くなってしまいそうだ。
僕が少し迷っている間に、ゴブリン達は探していた生き物を見つけたようだ。
「あうあう」
僕はキリッとした顔をしてやる気を見せる。
「ふふ、大丈夫そうだね。無理はしないで、やれるだけやってみてごらん」
ジルが僕を抱えたままゴブリン達に近づいて行く。
ゴブリン達は地面にいる何かに攻撃するのに夢中で、僕達には気づいていない。
「『風刃』!」
思い切って放った魔法は、一匹のゴブリンの首をハネた。勢い余ってゴブリンの後ろにあった木も一本切り倒してしまった。
「ウィルくん、ナイスだねー!」
テムが触れることで浮いているファムが、ぽよぽよしながら褒めてくれた。手が離れないように、テムがちょっと慌てている。
ゴブリンを、倒してしまった···!なんとなく不快感というか、モヤっとした気分が僕を襲う。
この不快感について考えたいところだが、あとの二匹に気づかれてしまった。「グギャー!」とお世辞にもキレイとは言えない声で叫ぶゴブリンに、少し怯んでしまう。
ここでゴブリン達が攻撃していた生き物が目に入る。白くて小さな毛玉だ。ダメージが大きいのか、ゴブリンからの攻撃が止まってもそこを動く気配はない。
小さい生き物に庇護欲がそそられたからだろうか。ゴブリン達が弱い者いじめをしているように見えて、怒りがふつふつと湧き上がる。
でもどこかで冷静な自分がいて、僕は威力を調整した魔法を放った。
「···『風刃』」
二つの首が空を舞う。
「おお!一発で二匹倒したぜ!」
今度はテムがバンザイしそうになって、ファムが慌てて止めていた。
不意打ちで人型の魔物を討伐してしまった自分にモヤっとしていたが、もうゴブリンは魔物だと割り切れそうな気がする。
「じる」
僕が白い毛玉を指差すと、ジルは僕を毛玉の傍に降ろしてくれた。
近くで見ると、毛玉はふるふると震えている。怪我をしているようで、白い毛が赤く染まっている部分がある。
僕はマジックバッグからポーションを出して、出血している部位にふりかけた。
「こいつ、何の生き物だ?」
テム達も集まってこの生き物を観察している。
「この子、ダイアウルフの赤ん坊みたいだよ」
ライがそう言った。そういえば、ライは鑑定スキルの持ち主だった。
「ダイアウルフって、こんな色だったっけー?赤ちゃんだから?」
「赤ん坊のときは白いなんて話は聞いたことないよ。多分、この子が特殊なんじゃないかな」
周りのそんな会話を聞きながら、僕はこの小さな生き物を観察する。怪我が治ったからか、もぞもぞと動き始めた。ぴょこんと小さな三角の耳を出し、おずおずとこちらを見上げる目と、僕の目が合う。
しばらく見つめ合っていると、不思議な感覚なのだが、なぜかこのダイアウルフの赤ちゃんに知性があるように感じられた。僕がこの子を観察しているように、この子も僕を観察しているような、そんな感じがするのだ。
「うぃる」
僕は名乗って手を差し出した。
カプリと指を噛まれた。
「キャウッ」
突然、僕の指を噛んでいたダイアウルフの赤ちゃんが飛び上がって僕から離れる。
「ウィルくん、指は大丈夫ー?」
噛まれたのはちょっとビックリしたけど、甘噛みだったようで全然痛くなかった。
「あう」
指を見せて大丈夫アピールをする。
「ふふ、ジル、もう威圧はしなくてよさそうだよ」
あ、ジル、そんなことしてたんだね。だからダイアウルフの赤ちゃんがぷるぷる震えているのか。
僕は震える小さな体をよしよしと撫でる。少し毛がゴワついているけど、整えたらふわふわになりそうだ。
よしよし、としばらく撫でていると、「クゥ」と鳴いてお腹を見せて転がる。···なにこの生き物、めちゃくちゃ可愛い。
よしよし、よしよし。
ああ、可愛い。
「ふふ、ウィル君、その子が気に入ったみたいだね」
「お家で飼っちゃえばー?」
なんてナイスなアイデアなんだ!
僕はジルを見る。じっと見つめる。
「···ウィルがそうしたいのなら」
やったあ!
嬉しくて、ダイアウルフの赤ちゃんをワシャワシャ撫でる。今日から君は、僕の家族だよ。
今、上空から見えている範囲にゴブリンはいない。だが視界に入り次第、僕の標的となるのだろう。それが分かっているから、緊張が僕の身を包む。
サンドワームを討伐したときは、生理的な嫌悪感が勝って思わずウィンドカッターを放っていた。でもあの巨大ミミズと違ってゴブリンは人型だ。攻撃するのにまだ少し抵抗を感じる。
「魔物はね、自分の生活圏から出ることはあまりないんだ。でも、個体数の増加などによって食料が足りなくなると、食料を探し求めて移動するのもいるんだよ。あんな風にね」
ライが指す場所を見ると、遠くの方にゴブリンが三匹いた。森の外に出ている。偶然僕達に見つかってしまったがゆえに、討伐される運命となったゴブリン達だ。
少し近づいて観察してみる。ゴブリン達は、地面を見て何かを探しているようだ。
「食料になる小さな生き物を探しているみたいだね。···ウィル君、やってみるかい?」
やってみるとは、つまり、そういうことですよね?
「まだ抵抗があるようなら無理強いはしないよ。でもゴブリンは放置しておくとすぐに増えるんだ。一匹は弱いけど、集団で襲われると普通の人にとっては脅威になる。だからね、見つけたら狩るようにしているんだ。ウィル君にも、いつかは討伐できるようになってほしいな」
ライ達は優しいから、僕の心の準備が整うのを待ってくれている。まだその優しさに甘えていたい気持ちはあるが、そうしていると自分に甘くなってしまいそうだ。
僕が少し迷っている間に、ゴブリン達は探していた生き物を見つけたようだ。
「あうあう」
僕はキリッとした顔をしてやる気を見せる。
「ふふ、大丈夫そうだね。無理はしないで、やれるだけやってみてごらん」
ジルが僕を抱えたままゴブリン達に近づいて行く。
ゴブリン達は地面にいる何かに攻撃するのに夢中で、僕達には気づいていない。
「『風刃』!」
思い切って放った魔法は、一匹のゴブリンの首をハネた。勢い余ってゴブリンの後ろにあった木も一本切り倒してしまった。
「ウィルくん、ナイスだねー!」
テムが触れることで浮いているファムが、ぽよぽよしながら褒めてくれた。手が離れないように、テムがちょっと慌てている。
ゴブリンを、倒してしまった···!なんとなく不快感というか、モヤっとした気分が僕を襲う。
この不快感について考えたいところだが、あとの二匹に気づかれてしまった。「グギャー!」とお世辞にもキレイとは言えない声で叫ぶゴブリンに、少し怯んでしまう。
ここでゴブリン達が攻撃していた生き物が目に入る。白くて小さな毛玉だ。ダメージが大きいのか、ゴブリンからの攻撃が止まってもそこを動く気配はない。
小さい生き物に庇護欲がそそられたからだろうか。ゴブリン達が弱い者いじめをしているように見えて、怒りがふつふつと湧き上がる。
でもどこかで冷静な自分がいて、僕は威力を調整した魔法を放った。
「···『風刃』」
二つの首が空を舞う。
「おお!一発で二匹倒したぜ!」
今度はテムがバンザイしそうになって、ファムが慌てて止めていた。
不意打ちで人型の魔物を討伐してしまった自分にモヤっとしていたが、もうゴブリンは魔物だと割り切れそうな気がする。
「じる」
僕が白い毛玉を指差すと、ジルは僕を毛玉の傍に降ろしてくれた。
近くで見ると、毛玉はふるふると震えている。怪我をしているようで、白い毛が赤く染まっている部分がある。
僕はマジックバッグからポーションを出して、出血している部位にふりかけた。
「こいつ、何の生き物だ?」
テム達も集まってこの生き物を観察している。
「この子、ダイアウルフの赤ん坊みたいだよ」
ライがそう言った。そういえば、ライは鑑定スキルの持ち主だった。
「ダイアウルフって、こんな色だったっけー?赤ちゃんだから?」
「赤ん坊のときは白いなんて話は聞いたことないよ。多分、この子が特殊なんじゃないかな」
周りのそんな会話を聞きながら、僕はこの小さな生き物を観察する。怪我が治ったからか、もぞもぞと動き始めた。ぴょこんと小さな三角の耳を出し、おずおずとこちらを見上げる目と、僕の目が合う。
しばらく見つめ合っていると、不思議な感覚なのだが、なぜかこのダイアウルフの赤ちゃんに知性があるように感じられた。僕がこの子を観察しているように、この子も僕を観察しているような、そんな感じがするのだ。
「うぃる」
僕は名乗って手を差し出した。
カプリと指を噛まれた。
「キャウッ」
突然、僕の指を噛んでいたダイアウルフの赤ちゃんが飛び上がって僕から離れる。
「ウィルくん、指は大丈夫ー?」
噛まれたのはちょっとビックリしたけど、甘噛みだったようで全然痛くなかった。
「あう」
指を見せて大丈夫アピールをする。
「ふふ、ジル、もう威圧はしなくてよさそうだよ」
あ、ジル、そんなことしてたんだね。だからダイアウルフの赤ちゃんがぷるぷる震えているのか。
僕は震える小さな体をよしよしと撫でる。少し毛がゴワついているけど、整えたらふわふわになりそうだ。
よしよし、としばらく撫でていると、「クゥ」と鳴いてお腹を見せて転がる。···なにこの生き物、めちゃくちゃ可愛い。
よしよし、よしよし。
ああ、可愛い。
「ふふ、ウィル君、その子が気に入ったみたいだね」
「お家で飼っちゃえばー?」
なんてナイスなアイデアなんだ!
僕はジルを見る。じっと見つめる。
「···ウィルがそうしたいのなら」
やったあ!
嬉しくて、ダイアウルフの赤ちゃんをワシャワシャ撫でる。今日から君は、僕の家族だよ。
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