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レイヴン辺境伯領の息子
#3
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結局、あれからカインズは語り続けている。
アトシュはすでにカインズを止めることを諦めていた。
もう、何を言っても話の方向性が元に戻ってしまい、前に進まない。
助けを求めて後ろを振り返るもアサルトをはじめ、全員に視線をそらされた。
そばにいるレインやルージュすら目線を合わせてくれない。
ならば、カインズの後ろにいる隊員たちに助けを求める。
ということはしない。
なぜなら、隊長を含め、この部隊の隊員たちは大なり小なり似たようなものだからだ。
1人を除いて。
隊員たちの中にその人物がいないことが分かり、カインズを止める手立てがなかった。
そんな困った状況の中………
「そこまでです!隊長!!」
淡い緑色の長い髪を動きやすいよう一つにくくった女性が声を上げながらこちらに向かってくる。
「むっ、ターニャか。
帰りの道中の索敵は終わったのか?」
ターニャと呼ばれた女性の登場でカインズによるアトシュへの『敬愛』語りが中断される。
これで彼女がカインズを諌めてくれれば場が落ち着くだろう。
しかし、そうはならないことをアトシュ含めこの場にいる全員が知っていた。
なぜなら、彼女は………
「隊長、アトシュ様が尊いお方なのは当たり前です!
アトシュ様は月の女神 ルナティール様が常日頃から国の為 剣を捧げる我々に遣わしてくださった御使い。いえ、天使なのですよ!!
きっと我々の働きに女神様が応えてくださったのです!!!」
隊長であるカインズと同等のアトシュ敬愛信者の1人だからだ。
ちなみにこの小隊の副隊長でもある。
ターニャの参戦によりこの場に新たな燃料が追加されてしまった。
火種(カインズ)➕新たな燃料(ターニャ)
=収集不可能な状態
という方程式が出来上がった瞬間である。
『ねぇ~、これ、いつ終わるのー?』
『分からん。
主人なのだからアシュがどうにかするべきだ!』
「えーー、これはもう俺でもムリだ!
っていうか、俺、こいつらの主人になった覚えないし。」
『アシュ。往生際が悪いぞ。』
『そうだよー。認めてしまった方が楽だよ!』
「他人事だと思って勝手なこと言うなよ、2人とも。」
止まらないカインズとターニャ。
それに対し、アトシュの従魔2匹はさっさと止めろと言う。
アトシュとしては彼らの主人になったつもりはなく、周りがいろいろ言ってくるのに辟易していた。
そんなアトシュにレインとルージュの従魔2匹は……
『『他人事だからな(ね)!!』』
「薄情者!!」
アトシュの叫びが響き渡る。
アトシュは本当に困り果てていた。
誰もアテにできない。
声をかけてもカインズとターニャは止まらない。
どうしたらいいか分からない。
そんな風にほとほと困り果てて、熱く語り合うカインズとターニャを眺めていたら………
「おまえら!ほんと、いいかげんにしやがれ!!」
怒号とともに2人の脳天に鞘に収まったままの剣が直撃した。
ゴンッという音が2つ響く。
「痛いですね………
何をするんですか、ジン?」
「何をするんですか!ジン殿!!」
カインズとターニャの2人は自分たちに鞘に収まったままの剣を振り下ろした人物を振り返り、不満を露わにする。
その剣を振り下ろした人物は燃える様な赤髪と白い瞳。
精悍な顔立ちで左目の方には剣で付けられたような傷痕があった。
『ジン』と呼ばれた男は振り下ろした剣を腰に戻し、再度、2人を叱責する。
「いつも言ってるよな?
勝手に熱くなって語り始めるのは別にかまわないが時と場所を考えろ。
それから、主であるアトシュ様を困らせるな!」
「いや……、私は………」
「ですが………」
カインズとターニャが何か言おうとするがジンがひと睨みで黙らせる。
「言い訳するなよ?
騎士が自分の非を素直に認めないのはカッコ悪いからな。」
とどめの一言。
これにより、カインズとターニャの暴走は鎮火した。
「いつも悪い、ジン。ありがと。」
「いいってことですよ、ぼっちゃん。
この2人を止めるのが俺の一番の仕事みたいなものですから。
それにもう慣れました。」
「そっか……、ジンも大変だな…………」
「まぁ、ぼっちゃんほどではありませんけどね。」
「うん。俺もそう思うよ。」
「あははは、さすがぼっちゃん!
正直なところは清々しいくらい正直だな!!」
ジンが戻って来たことによりやっと話が前に進める。
『やっと、止まったか。』
『今日も長かったねーー!』
カインズとターニャが止まり、従魔2匹がアトシュに話しかける。
「………」
そんな2匹をアトシュは無言で恨みがましげに見つめる。
『アシュ、落ち着け、話せばわかる。』
『うん、うん。そうだよ、おちつこーー』
「なんで助けてくれなかった?
目線、また逸らしたよな?」
『いや、あれは………、その、だな………』
『あはは………』
レインとルージュ、毎度のことながら言い訳が見つからず、レインは口ごもり、ルージュは笑ってごまかした。
この従魔2匹も最初のうちはアトシュとともにカインズとターニャを止めようと行動していた。
しかし、止まらず、ヒートアップする一方だった。
さらに、話のターゲットが自分たちにまで飛び火した日には語り時間はとんでもないことになる。
結果として、自分たちは下手に口を挟むべきではないという結論に達したのだ!
だが、この2匹の対応はまだマシだった。
なぜ、マシかというと………
「あら、終わったみたいよ? お兄さま。」
「そうだね、リア。今日もそれなりに長かったね。」
「アサルト様、ルナリア様、紅茶のお代わりはいかがいたしますか?」
「ありがとう、サーシャ。いただくわ。」
「わるいね。僕も頼むよ。」
『メアも!メアにもちょうだい!!』
騒動の後方。
アトシュ達の後ろの黒月の森の入り口付近でどこから取り出したのかアサルト、ルナリアの兄妹、ルナリアの従魔のメアがサーシャの給仕のもと優雅なティータイムを過ごしていた。
それを確認したアトシュはガックしと肩を落とし、レインとルージュ、そしてジンがそんなアトシュを静かに慰めるのだった。
アトシュはすでにカインズを止めることを諦めていた。
もう、何を言っても話の方向性が元に戻ってしまい、前に進まない。
助けを求めて後ろを振り返るもアサルトをはじめ、全員に視線をそらされた。
そばにいるレインやルージュすら目線を合わせてくれない。
ならば、カインズの後ろにいる隊員たちに助けを求める。
ということはしない。
なぜなら、隊長を含め、この部隊の隊員たちは大なり小なり似たようなものだからだ。
1人を除いて。
隊員たちの中にその人物がいないことが分かり、カインズを止める手立てがなかった。
そんな困った状況の中………
「そこまでです!隊長!!」
淡い緑色の長い髪を動きやすいよう一つにくくった女性が声を上げながらこちらに向かってくる。
「むっ、ターニャか。
帰りの道中の索敵は終わったのか?」
ターニャと呼ばれた女性の登場でカインズによるアトシュへの『敬愛』語りが中断される。
これで彼女がカインズを諌めてくれれば場が落ち着くだろう。
しかし、そうはならないことをアトシュ含めこの場にいる全員が知っていた。
なぜなら、彼女は………
「隊長、アトシュ様が尊いお方なのは当たり前です!
アトシュ様は月の女神 ルナティール様が常日頃から国の為 剣を捧げる我々に遣わしてくださった御使い。いえ、天使なのですよ!!
きっと我々の働きに女神様が応えてくださったのです!!!」
隊長であるカインズと同等のアトシュ敬愛信者の1人だからだ。
ちなみにこの小隊の副隊長でもある。
ターニャの参戦によりこの場に新たな燃料が追加されてしまった。
火種(カインズ)➕新たな燃料(ターニャ)
=収集不可能な状態
という方程式が出来上がった瞬間である。
『ねぇ~、これ、いつ終わるのー?』
『分からん。
主人なのだからアシュがどうにかするべきだ!』
「えーー、これはもう俺でもムリだ!
っていうか、俺、こいつらの主人になった覚えないし。」
『アシュ。往生際が悪いぞ。』
『そうだよー。認めてしまった方が楽だよ!』
「他人事だと思って勝手なこと言うなよ、2人とも。」
止まらないカインズとターニャ。
それに対し、アトシュの従魔2匹はさっさと止めろと言う。
アトシュとしては彼らの主人になったつもりはなく、周りがいろいろ言ってくるのに辟易していた。
そんなアトシュにレインとルージュの従魔2匹は……
『『他人事だからな(ね)!!』』
「薄情者!!」
アトシュの叫びが響き渡る。
アトシュは本当に困り果てていた。
誰もアテにできない。
声をかけてもカインズとターニャは止まらない。
どうしたらいいか分からない。
そんな風にほとほと困り果てて、熱く語り合うカインズとターニャを眺めていたら………
「おまえら!ほんと、いいかげんにしやがれ!!」
怒号とともに2人の脳天に鞘に収まったままの剣が直撃した。
ゴンッという音が2つ響く。
「痛いですね………
何をするんですか、ジン?」
「何をするんですか!ジン殿!!」
カインズとターニャの2人は自分たちに鞘に収まったままの剣を振り下ろした人物を振り返り、不満を露わにする。
その剣を振り下ろした人物は燃える様な赤髪と白い瞳。
精悍な顔立ちで左目の方には剣で付けられたような傷痕があった。
『ジン』と呼ばれた男は振り下ろした剣を腰に戻し、再度、2人を叱責する。
「いつも言ってるよな?
勝手に熱くなって語り始めるのは別にかまわないが時と場所を考えろ。
それから、主であるアトシュ様を困らせるな!」
「いや……、私は………」
「ですが………」
カインズとターニャが何か言おうとするがジンがひと睨みで黙らせる。
「言い訳するなよ?
騎士が自分の非を素直に認めないのはカッコ悪いからな。」
とどめの一言。
これにより、カインズとターニャの暴走は鎮火した。
「いつも悪い、ジン。ありがと。」
「いいってことですよ、ぼっちゃん。
この2人を止めるのが俺の一番の仕事みたいなものですから。
それにもう慣れました。」
「そっか……、ジンも大変だな…………」
「まぁ、ぼっちゃんほどではありませんけどね。」
「うん。俺もそう思うよ。」
「あははは、さすがぼっちゃん!
正直なところは清々しいくらい正直だな!!」
ジンが戻って来たことによりやっと話が前に進める。
『やっと、止まったか。』
『今日も長かったねーー!』
カインズとターニャが止まり、従魔2匹がアトシュに話しかける。
「………」
そんな2匹をアトシュは無言で恨みがましげに見つめる。
『アシュ、落ち着け、話せばわかる。』
『うん、うん。そうだよ、おちつこーー』
「なんで助けてくれなかった?
目線、また逸らしたよな?」
『いや、あれは………、その、だな………』
『あはは………』
レインとルージュ、毎度のことながら言い訳が見つからず、レインは口ごもり、ルージュは笑ってごまかした。
この従魔2匹も最初のうちはアトシュとともにカインズとターニャを止めようと行動していた。
しかし、止まらず、ヒートアップする一方だった。
さらに、話のターゲットが自分たちにまで飛び火した日には語り時間はとんでもないことになる。
結果として、自分たちは下手に口を挟むべきではないという結論に達したのだ!
だが、この2匹の対応はまだマシだった。
なぜ、マシかというと………
「あら、終わったみたいよ? お兄さま。」
「そうだね、リア。今日もそれなりに長かったね。」
「アサルト様、ルナリア様、紅茶のお代わりはいかがいたしますか?」
「ありがとう、サーシャ。いただくわ。」
「わるいね。僕も頼むよ。」
『メアも!メアにもちょうだい!!』
騒動の後方。
アトシュ達の後ろの黒月の森の入り口付近でどこから取り出したのかアサルト、ルナリアの兄妹、ルナリアの従魔のメアがサーシャの給仕のもと優雅なティータイムを過ごしていた。
それを確認したアトシュはガックしと肩を落とし、レインとルージュ、そしてジンがそんなアトシュを静かに慰めるのだった。
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