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キース
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キースには一つ年上の姉、サティアがいた。
誰にでも優しくて、可愛らしい、自慢の姉だった。
大好きな姉だった。
サティアは小さい頃から仲の良かったクレオと、あと数日で家庭を持つことになっていた。
クレオは戦うことには向いていないが、商才があった。
クレオの商才のおかげで、僅か数年で村が潤った。
村には以前のようにお腹が空いたと泣く子供はいなくなった。
サティアには幸せが約束されていた。
そんな姉が、変わり果てた姿で村に運び込まれた。
隣村の悪ガキたちとそれらのボスを気取る領主のバカ息子に、集団で襲われたのだ。
いつものように子供たちとサティアとクレオだけで薬草採取をしていたところに、隣村の男たちがやってきた。
男たちはクレオをサティアの目の前で嬲り殺しにし、彼女を攫った。
そして、用済みになったサティアを村へ続く街道に捨てた。
体の傷は癒えつつあっても、心の傷は深かった。
キースにはぎこちない笑顔を見せてくれるが、他の男は、父親にも怯えて暴れだす有様だった。
ある日、母親が目を離した隙に、村はずれにある崖から飛び降りた。
気付いた時には、既に魔物に食い散らかされた後であり、血痕とサティアが着ていた服の切れ端しか残っていなかった。
キースは斧を持って隣村に向かおうとした。
その体を父親が抱きすくめた。
「悔しい気持ちは、父さんも同じだ。だが、止めておけ。」
「嫌だ!あいつら、殺してやる!!」
「キース。今のお前では無理だ。だから、止めておけ、今は。」
「今は」という言葉に振り返ると、父親の瞳の奥に炎が見えた気がした。
「こんなことを言うのは、父親失格だ。だがな、父さんは許せない。絶対に許さない。許さないが・・・今はだめだ。今行動を起こせば、真っ先に俺たちが疑われる。念入りに準備を重ねて・・・あいつらが俺たちのことを忘れた頃に、確実に息の根を止める。1人残らずだ。」
自分の父親ながら、その声に背筋が凍るような気がしたキース。
「覚悟はあるか?」
「ある。」
なんの覚悟か分からないが、キースは即答した。
―なんでもやってやる。
「ならば、俺の持てる術、すべてお前に叩き込んでやる。」
父親は、この村に来る前はどこかの貴族に仕えていたという。
この時初めて、温厚な父親が裏の世界の人間だったことを知った。
隠密、という情報収集が主な仕事だったという。
父親は主に忠誠を誓っていて、主のために暗殺の腕も磨き、何度も人に害成す貴族や商人を屠ってきた。
その主はもうこの世にはいない。
そんな話を聞いても、キースの父親に対する思いは欠片も変わらなった。
尊敬する、大好きな父親だった。
母親はサティアから目を離してしまった自分を責め続け、心を病んで寝込み、衰弱して、サティアが死んでから1年も経たずにサティアのところに行ってしまった。
2年間、キースは父親に毎日しごかれた。
元々魔物や盗賊たちとの戦いに長けていたキースではあったが、訓練は厳しかった。
体は辛かったが、心が辛いと感じたことは一度もなかった。
3年目に、隣村から出ていった奴らを探す旅に出た。
と言っても、大体の所在はもう把握済みだ。
領主の方は、父さんが動く。
さあ、復讐の始まりだ。
誰にでも優しくて、可愛らしい、自慢の姉だった。
大好きな姉だった。
サティアは小さい頃から仲の良かったクレオと、あと数日で家庭を持つことになっていた。
クレオは戦うことには向いていないが、商才があった。
クレオの商才のおかげで、僅か数年で村が潤った。
村には以前のようにお腹が空いたと泣く子供はいなくなった。
サティアには幸せが約束されていた。
そんな姉が、変わり果てた姿で村に運び込まれた。
隣村の悪ガキたちとそれらのボスを気取る領主のバカ息子に、集団で襲われたのだ。
いつものように子供たちとサティアとクレオだけで薬草採取をしていたところに、隣村の男たちがやってきた。
男たちはクレオをサティアの目の前で嬲り殺しにし、彼女を攫った。
そして、用済みになったサティアを村へ続く街道に捨てた。
体の傷は癒えつつあっても、心の傷は深かった。
キースにはぎこちない笑顔を見せてくれるが、他の男は、父親にも怯えて暴れだす有様だった。
ある日、母親が目を離した隙に、村はずれにある崖から飛び降りた。
気付いた時には、既に魔物に食い散らかされた後であり、血痕とサティアが着ていた服の切れ端しか残っていなかった。
キースは斧を持って隣村に向かおうとした。
その体を父親が抱きすくめた。
「悔しい気持ちは、父さんも同じだ。だが、止めておけ。」
「嫌だ!あいつら、殺してやる!!」
「キース。今のお前では無理だ。だから、止めておけ、今は。」
「今は」という言葉に振り返ると、父親の瞳の奥に炎が見えた気がした。
「こんなことを言うのは、父親失格だ。だがな、父さんは許せない。絶対に許さない。許さないが・・・今はだめだ。今行動を起こせば、真っ先に俺たちが疑われる。念入りに準備を重ねて・・・あいつらが俺たちのことを忘れた頃に、確実に息の根を止める。1人残らずだ。」
自分の父親ながら、その声に背筋が凍るような気がしたキース。
「覚悟はあるか?」
「ある。」
なんの覚悟か分からないが、キースは即答した。
―なんでもやってやる。
「ならば、俺の持てる術、すべてお前に叩き込んでやる。」
父親は、この村に来る前はどこかの貴族に仕えていたという。
この時初めて、温厚な父親が裏の世界の人間だったことを知った。
隠密、という情報収集が主な仕事だったという。
父親は主に忠誠を誓っていて、主のために暗殺の腕も磨き、何度も人に害成す貴族や商人を屠ってきた。
その主はもうこの世にはいない。
そんな話を聞いても、キースの父親に対する思いは欠片も変わらなった。
尊敬する、大好きな父親だった。
母親はサティアから目を離してしまった自分を責め続け、心を病んで寝込み、衰弱して、サティアが死んでから1年も経たずにサティアのところに行ってしまった。
2年間、キースは父親に毎日しごかれた。
元々魔物や盗賊たちとの戦いに長けていたキースではあったが、訓練は厳しかった。
体は辛かったが、心が辛いと感じたことは一度もなかった。
3年目に、隣村から出ていった奴らを探す旅に出た。
と言っても、大体の所在はもう把握済みだ。
領主の方は、父さんが動く。
さあ、復讐の始まりだ。
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