パチンカスだった男、ダンジョンの出現によりダンジョン依存症になる。

蜂谷

文字の大きさ
12 / 31

第十二話 若いっていいね

しおりを挟む
 次の日から11層と14層の間の探索を始めた。11層はアイススライムがよく出てきたが、ドロップするのはNやRのアイススライムの液体や核、1層のスライムと同じような内容だった。12層から14層を同じように探索したが、それっぽいモンスターは出てこなかった。しかしドロップしたアイテムに光明がさした。
 13層に出現したアイスゴーレムからNアイスゴーレムの靴がドロップした。これがスノーシューのような形をしており、レア度をあげれば充分役に立ちそうだ。この日はNしかドロップしなかったので、明日以降13層を中心にゴーレムを倒していこうと思う。


 俺がダンジョンを出ると女の子から声をかけられた。

「あの、すいません。覚えていませんか?」

 はい?誰だろう、逆ナンとか珍しいじゃん。しかしどうやら違うようだ、一緒に男と女がついている。

「半年前貴方に助けてもらった者です」

 はて?恩返しにきた鶴か?いや人間だけど、うーん、思い出せない。
 あ、そういえばモンスター群れを横取りした時、声を掛けたの女の子だったか。

「はい、あの時です。あれから探したんですけどどこにも見当たらなくて暇を見つけてはダンジョンの前で待っていたんです」
「それはご丁寧に、でもそんな大層なものじゃないですよ。あの時はダンジョンハイっていうんですか、気持ちが昂っててよく覚えてないですし」
「でも、あのおかげで私は助かりました。あの後和人と杏とも話して冒険者はやめてしまったんです。だから半年もかかってしまいました」

 そうか、やめてしまったのか。でもそれが正常なのかもしれない。死ぬを目の前にして冒険者を続けるのは俺みたいなギャンブル好きか、命知らずの一攫千金を目指す野心家くらいなんだろう。

「やめちゃったんだね、やっぱり危険だから?」
「それもそうなんですけど、私達まだ若いじゃないですか、それなのにこんな危険なことしなくても真面目に生きていけばいいかなって」

 そうか、そういう幸せの形もあるよな。

「あ、名前まだでしたね、伊藤優菜《いとうゆうな》といいます。今度よかったらお礼をしたいので空いているときに連絡ください」

 そう言って彼女は俺に連絡先を渡してきた。俺はそれを受け取ると名前を言って今度連絡するよといってその場は別れた。彼女は振り返るといつまでも手を振っていた。


 少し、眩しかった。



 次の日、アイスゴーレムを倒しに13層に転移する。昨日のことでちょっとセンチメンタルな気分になったが、気を取り直してモンスターを倒していく。その日はNアイスゴーレムの靴、アイスゴーレムの核、アイスゴーレムの鎧、銀貨しか出なかった。アイスゴーレムの鎧って、あいつ鎧装備してないだろ。それを言ったら靴もなんだが、その辺は適当だなあ。俺はいつも通り換金をして、いつもならカジノで遊ぶんだけど、ちょっと考えて帰宅することにした。

 どうも気分が晴れないので優菜ちゃんに連絡を取ってみた。メールでやり取りすると分かったのが彼女たちは大学生らしく、来年は就活を控えているらしい。
 あの日はダンジョンに潜って三か月くらいで、スライム狩りで充分な力を手にしたと感じ、初めて2層に降りたとのこと。それが早々に杏ちゃんが相手の攻撃で気を失ってしまい、敵に囲まれてしまったということだ。

 大学か……パチンコにハマってろくにいかなくなったな。そんなに前じゃないのに遠い昔に感じる。そういう場で楽しくキャンパスライフを送る日々もあったのかなぁ。あり得ない想像をして、いやいやないなと首を横に振る。

 明日は時間があるというので、ご飯を奢ってもらうことにした。命を助けたのだから体で、なんてゲスなことも一瞬考えたが、人の善意につけこむようなことをするのも気が引けた。ご飯とお礼の言葉でちょうどいいところだろう。


 次の日、待ち合わせの場所に行くと、優菜ちゃんと一緒に和人と杏ちゃんがいた。二人きりとも言ってないし、そもそも二人も当事者なんだからいても当然なんだが。若い女の子とパパ活、いや、お金貰ってるからママ活かな。

「今日は時間を取ってもらってありがとうございます。全部奢るのでどんどん食べてくださいね」
「そんなに食べれないよ、まぁせっかくだからちょっと高いお店に行かせて貰おうかな」

 優菜ちゃんと言葉を交わし、事前に調べておいたちょっとお高い焼き肉店へと向かう。

「俺らも出すから、お金の心配はしなくていいよ」
「私も、今日の為に、お金、降ろしてきたから、大丈夫」

 和人と杏ちゃんが優菜ちゃんとおしゃべりする。微笑ましいやり取りに、また少し胸がズキリとした。なんだろう、胃がちょっと痛いな。今から焼き肉だってのに、こんな状態で食えるかな。ハハハ……


「え、誠さんT大学中退してるんですか」
「そうなんだ、それからブラック企業を転々として、ダンジョンは渡りに船だったんだ」

 ギャンブルによって破滅した人生を送っていたことを隠して、人生の先輩として威厳を保とうとする。少し見栄をはった。

「これから就活だろうけど、俺みたいに変な企業入らないようにね、俺は中退だったけど君たちは新卒だし」
「実感こもってるっすね、気を付けまっす」
「私も、頑張ります」

 その後も自分の自慢話をしながら、皆に太鼓持ちをしてもらった。まるでキャバクラだよ、しかも無料、でもどこか虚しかった。
 俺もまだ前途ある若者のはずなのに、彼女たちとの違いはなんなんだろう。ダンジョンに潜ってること?それだけなのかな。なんか違う気がするけどとりあえず納得してその日は解散した。

「また連絡くださいね~、もっと奢らせてください」
「ハハ、そうさせてもらうよ」

 乾いた笑い声だけがその場に残っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...