それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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1.はじまりは黒と青

青②

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 ブルーと出会ったのは、一ヶ月ほど前。
 パパの転勤を機に小中高一貫の女子中学校から今の高校に入学して、慣れない共学に少しも馴染めずにいた頃だ。

 縁側から続く庭に、灰色の綺麗な猫が現れた。それが、ブルーだ。
 青色の目が吸い込まれそうなほど美しくて、苦手なはずの猫なのに不思議と怖くなかった。

 動物は弱っている人がわかるというのは、本当なのかもしれない。ブルーはゆっくりと私のそばに近づき、今と同じように体をすり寄せてきた。まるで慰めてくれているみたいに。

 その日から、ブルーは毎日のようにやって来るようになった。今ではこっそり名前もつけて、毎晩こうして話をするのが私の日課になっている。

「ブルー」

 私を見上げて首を傾げるブルーをそっとなでてみる。やわらかくて、温かい。
 なでられて心地良かったのか、細い身体がもっと細く、ぐーんと長く伸びた。

「わ、わわ、長くなるなぁ」

 猫の背骨って、どうなっているんだろう。不思議に思いながら見ていると、ブルーの首輪についていた鈴がチリチリンと音を立てて床に落ちた。

 あ、紐が切れちゃったんだ。

 そっとのぞき込んで見てみたけれど、首輪と鈴を結んでいた紐がすり切れてしまっていて、もう結び直せそうにない。

「ちょっと待っててね」

 そう言って、私は急いでキッチンにかけ込んで、お菓子づくりに使う道具入れをひっぱり出した。中には、道具のほかにラッピングの袋やリボンを入れた箱も入っている。その中から一番細い青色のギンガムチェックのリボンを取り出す。
 うん、これなら首輪の色とも喧嘩しない。私はひとり頷いて、ブルーの元へと戻った。

「おまたせ」

 もしかしたら帰っちゃってるかな、と思ったけれど、ブルーは縁側にちょこんと座って待っていてくれた。

「ごめんね、じっとしてね」

 引っ張って痛くしないように気をつけながら、そうっと首に手を回して、持ってきたリボンで首輪と鈴を結ぶ。ブルーは私がしていることがわかっているのか、首を上げたままじっと動かない。その様子がすごく可愛くて、結びながらつい口元がほころんでしまう。

 飼い主さんが気づいて取り外せるように、ちょっとだけ結び目をゆるくして……。

「よし、できたっ。もう動いて大丈夫だよ」

 私の声を合図に、ブルーがピョンと縁側から跳び降りる。次のジャンプで軽やかに塀に駆け上る姿は、まるで忍者だ。

「ブルー、また明日ね」

 振り向かず去っていく灰色の背中を、私は小さく呟いて見送った。
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