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4.ハードモードなハイキング

ひとり

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 吉川先生の言ったとおり、ハイキングは想像していたよりもずっとハードだった。

 午前中は、班ごとに分かれて自然公園の広場を出発して、いくつかのチェックポイントを通りキャンプ場を目指す。
 キャンプ場で飯盒炊さんをしたあと、午後からはまた別の道でゴールの広場を目指す。一日で自然公園を一周するルートだ。

 森の中にある自然歩道は未舗装なところもあって、気が抜けない。
 木の根っこにつまずくだけでなく、伸びた枝が服に引っかかる。その上、ところどころ登山のような急勾配があったり、下を見ると動けなくなるくらい高い吊り橋があったりする。
 そのせいか、片道5kmの行程がそれ以上に長く感じた。

 手すりをつかんでおそるおそる吊り橋を渡る私の横を、他の班の女の子たちが楽しそうに黄色い声をあげて通り過ぎていく。

 ……いいなぁ。

 私の班で盛り上がっているのは、近藤くんだけだ。黒崎くんと須川くんは、吊り橋のかなり先を何事もないように歩いている。
 歩幅が違いすぎるせいもあって、ぼんやりしているとすぐ距離が空いてしまう。チェックポイントは班の全員が揃わないと通過できない決まりになっているからか、時々確かめるように黒崎くんが後ろをふり返る。そのたびに私は慌てて足を速めた。

 私も由真ちゃんと、きゃあきゃあ言いたかったな……。

 なんとか橋を渡り切ると、思わずため息がもれた。道のりが長く感じたのは、きっと険しさだけが理由じゃないだろう。やはりひとりは寂しい。
 誰も話す人がいない分、私は綺麗な花や植物を見つけてはスマホのカメラにおさめた。たくさん写真を撮って、由真ちゃんに送るためだ。
 今日来れなくなって一番悲しいのは由真ちゃんだ。おそろいのリュックを背負って歩くのをすごく楽しみにしていたことを、私は知っている。
 だから、少しだけでも遠足気分を届けたかった。
 黒崎くんたちから遅れないように気をつけながら、立ち並ぶ木々を見上げてスマホをかざす。
 まだ夏ほどは濃くない若葉の緑が太陽の光を反射し、きらきら輝いていてとても綺麗だ。
 今日は快晴で気温も上がって暑くなると天気予報では言っていたのに、森の中はひんやりと涼しい。さわさわとさわやかな風が吹き抜けて、私は心地よさに何度も足を止めた。

 次に来る時は、部のカメラを借りてこよう。写真を撮って花さんに見せよう。
 そう考えると、少し心が軽くなった。
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