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5.家に帰るまでが遠足です
余韻
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お風呂に入ると、靴ずれと手足のすり傷がしみて飛び上がりそうなくらい痛かった。
久しぶりにたくさん歩いたから、きっと筋肉痛にもなるだろう。明日のことを思ってちょっと憂鬱になる。
よほど疲れていたのか、お風呂からあがるとすぐに眠気がやってきた。自分の部屋で横になると明日の朝まで寝てしまいそうなので、私は縁側にクッションを敷いて寝ころび、ブルーを待った。
庭から通り抜けていく風が心地よい。六月に入ったけれど、朝晩はまだ涼しい日が多くて過ごしやすい。
ブルーが来る時刻までは、あと少し。おやつも便せんも用意した。準備万端整っている。
私はうとうとしながら、今日の出来事を思い返してみた。
いろんなことがあった。由真ちゃんのお休みはすごく残念だったけれど、その分みんなに助けてもらった。
ハイキング、カレー作り……ひとつひとつ思い返していると、ふいに黒崎くんの顔がぽわんとまぶたに浮かぶ。瞬間、きゅううっと胸が苦しくなって、私はびっくりして目を開けた。
何、今の……?
胸のあたりをなでて、ふうっと息を吐く。まだドキドキしているけれど、もう息苦しさは感じない。
私は首を傾げながら、もう一度黒崎くんのことを思い浮かべた。
黒崎くんは、いつもぶっきらぼうで無表情だ。常に不機嫌そうだし、淡々としている。正直、すごくすごく怖い。
でも……きっと、とても優しい人だ。
カレー作りのときも、山でひとりになったときも、靴ずれで歩けなかったときも、助けてくれた。
滅多に見られない笑った顔も、すごく優しかった。
「うっ」
まだ二度しか向けられたことのないあの笑顔がよぎり、またぎゅっと締めつけられるみたいに胸が苦しくなる。痛みとはちがう息苦しさに、なぜか涙が出そうになった。
疲れてるのかな、私……。
首を傾げながら胸をなでていると、庭からニャアオとかわいい声が聞こえてきた。
来たっ。
身体を起こして、「わっ」と声が出る。すでにすぐそばまでブルーが来ていた。
「ブルー!」
今日一日が長かったせいか、なんだか久しぶりに会ったような気がして、思わずうるうるしてしまう。
灰色の毛並みも青い目も、今日もとても綺麗だ。早くなでたくて、うずうずした。
「あのね、今日ね、ほんとに大変だったんだよ」
私が話しかけると、気持ちが伝わったのかブルーは私の膝に身体をすり寄せて、ニャアオと鳴く。なでていいよ、って言ってるみたいだ。
私はおやつを床に置いて、そうっとなでながら今日の遠足の話をした。
「それでね、黒崎くんがね」
不思議なことに、ブルーは黒崎くんの名前が出ると、宝石みたいに綺麗な瞳で私を見上げて首を傾げる。何度も出てくる黒崎くんの名前を「それ、だぁれ?」って思っているのかもしれない。
「あ、ブルー。今日もお手紙ある?」
ちょっと恥ずかしくなって、私はごまかすようにブルーの首元をのぞき込んだ。
綺麗に折りたたまれた紙が結ばれている。いつもはピンクの便せんが、今日は水色だ。
『遠足は楽しめましたか?
今日、とても綺麗な夕焼けを見ました』
お手紙はいつもより短くて、なんだか文章の雰囲気が少しちがう気がした。
花さん、忙しいのかな。そう思いながら、返事を書く。
『遠足は大変だったけど楽しかったです
人の優しさにふれた一日でした
花さんはお忙しいですか?
お身体に気をつけてくださいね
私も今日夕焼けを見ました!
とても綺麗でした』
同じ夕日を見て同じように綺麗だと感じていたことに、心が繋がっているみたいで嬉しくなった。
書き上がった手紙を、丁寧にたたんで首輪に結ぶ。
「ブルー、いつもありがとう」
心をこめてお礼を言うと、ブルーは「どういたしまして」と返事をするみたいに、いつもより長くニャアアアオと鳴いた。
久しぶりにたくさん歩いたから、きっと筋肉痛にもなるだろう。明日のことを思ってちょっと憂鬱になる。
よほど疲れていたのか、お風呂からあがるとすぐに眠気がやってきた。自分の部屋で横になると明日の朝まで寝てしまいそうなので、私は縁側にクッションを敷いて寝ころび、ブルーを待った。
庭から通り抜けていく風が心地よい。六月に入ったけれど、朝晩はまだ涼しい日が多くて過ごしやすい。
ブルーが来る時刻までは、あと少し。おやつも便せんも用意した。準備万端整っている。
私はうとうとしながら、今日の出来事を思い返してみた。
いろんなことがあった。由真ちゃんのお休みはすごく残念だったけれど、その分みんなに助けてもらった。
ハイキング、カレー作り……ひとつひとつ思い返していると、ふいに黒崎くんの顔がぽわんとまぶたに浮かぶ。瞬間、きゅううっと胸が苦しくなって、私はびっくりして目を開けた。
何、今の……?
胸のあたりをなでて、ふうっと息を吐く。まだドキドキしているけれど、もう息苦しさは感じない。
私は首を傾げながら、もう一度黒崎くんのことを思い浮かべた。
黒崎くんは、いつもぶっきらぼうで無表情だ。常に不機嫌そうだし、淡々としている。正直、すごくすごく怖い。
でも……きっと、とても優しい人だ。
カレー作りのときも、山でひとりになったときも、靴ずれで歩けなかったときも、助けてくれた。
滅多に見られない笑った顔も、すごく優しかった。
「うっ」
まだ二度しか向けられたことのないあの笑顔がよぎり、またぎゅっと締めつけられるみたいに胸が苦しくなる。痛みとはちがう息苦しさに、なぜか涙が出そうになった。
疲れてるのかな、私……。
首を傾げながら胸をなでていると、庭からニャアオとかわいい声が聞こえてきた。
来たっ。
身体を起こして、「わっ」と声が出る。すでにすぐそばまでブルーが来ていた。
「ブルー!」
今日一日が長かったせいか、なんだか久しぶりに会ったような気がして、思わずうるうるしてしまう。
灰色の毛並みも青い目も、今日もとても綺麗だ。早くなでたくて、うずうずした。
「あのね、今日ね、ほんとに大変だったんだよ」
私が話しかけると、気持ちが伝わったのかブルーは私の膝に身体をすり寄せて、ニャアオと鳴く。なでていいよ、って言ってるみたいだ。
私はおやつを床に置いて、そうっとなでながら今日の遠足の話をした。
「それでね、黒崎くんがね」
不思議なことに、ブルーは黒崎くんの名前が出ると、宝石みたいに綺麗な瞳で私を見上げて首を傾げる。何度も出てくる黒崎くんの名前を「それ、だぁれ?」って思っているのかもしれない。
「あ、ブルー。今日もお手紙ある?」
ちょっと恥ずかしくなって、私はごまかすようにブルーの首元をのぞき込んだ。
綺麗に折りたたまれた紙が結ばれている。いつもはピンクの便せんが、今日は水色だ。
『遠足は楽しめましたか?
今日、とても綺麗な夕焼けを見ました』
お手紙はいつもより短くて、なんだか文章の雰囲気が少しちがう気がした。
花さん、忙しいのかな。そう思いながら、返事を書く。
『遠足は大変だったけど楽しかったです
人の優しさにふれた一日でした
花さんはお忙しいですか?
お身体に気をつけてくださいね
私も今日夕焼けを見ました!
とても綺麗でした』
同じ夕日を見て同じように綺麗だと感じていたことに、心が繋がっているみたいで嬉しくなった。
書き上がった手紙を、丁寧にたたんで首輪に結ぶ。
「ブルー、いつもありがとう」
心をこめてお礼を言うと、ブルーは「どういたしまして」と返事をするみたいに、いつもより長くニャアアアオと鳴いた。
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