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8 結婚 [最終話]
しおりを挟むあれから、5年の月日が流れました。
無事結婚式を終えた私達は、王城を離れ、東のセイル城に住み始めました。
この城がある地域は乾燥した気候で、雨が滅多に降りません。
レンが現地を視察し、王様が灌漑などの政策を進めて大体の村の農業は改善してきました。
今日は最後の村を視察するために、私とレンは城から出かけました。
今回の村は周囲が自然に囲まれていて足元が悪い場所が続くので私はレンの視察にはついて行かずに、護衛の騎士と侍女の二人と村に残ることにしました。
村はかなり閑散としていて、農地に育つ植物は萎れていました。
今すぐ雨を降らせてやりたかったのですが、レンのいないところでは安全のために力は見せないという約束があったので私たちは仕方がなく散歩を続けました。
村の坂道を登って行くとそこにも集落がありました。
その中心には修道院とその隣に学校が建っています。
側の空き地では子供達が元気に走り回り、それを一人の修道女が笑顔で見つめていました。
「村には読み書きができる大人がいなくてね、あの修道女さんが代わりに子供達に字を教えてくれているんだよ。」
「なんでも、元々は貴族のお嬢ちゃんだったらしくてねえ。」
案内役の夫婦がそう教えてくださいました。
私はじっと彼女を見つめると、彼女もこちらを見返してきました。
私はその顔に驚きを隠せませんでした。
彼女は、ルジエル伯爵の娘のマリア様だったのです。
そして、あちらも私に気がついているようでした。
マリア様は真っ直ぐに私を見つめていました。
数秒後、彼女は私に深い一礼をし、子供達の方へ去って行きました。
「マリアせんせー!!この本読んで!!」
「ダメだよ!僕が先に予約したんだから!」
「ヤダヤダヤダ!!」
子供達に囲まれたマリア様は幸せそうに微笑んでいました。
貴族時代とは違い、心からの笑顔を彼女は手に入れることができているようでした。
私達がきた道を下ると丁度レンと鉢合わせました。
そして、私はレンと二人で近くの丘に登り、村に一雨降らせました。
レンの前で雨降らしはもう何度もしたのですが、毎回レンは新鮮な顔で楽しんでくれます。
その横顔を見るのが好きでした。
雨降しが終わった後、私達は空にかかった大きな虹を二人で見つめました。
レンは自然に手を握ってくれて、私もぎゅっと握り返しました。
そして、私はあることを思い出してレンの方に顔を向けました。
「レン、耳を貸してください!」
「ん~???」
そう言って、彼は私の顔の位置に自分の顔が近づくようにかがんでくれました。
私はレンの耳に自分の口元を寄せ、”あること”を報告しました。
「............え"え”ぇぇええ、ホントに!?!?!?」
「はい!」
「ドッキリじゃないよな!?!?!?」
「はい!!」
「やべーーーー!!! 俺、父親になるのかあ。」
レンはそう言って、不思議そうに私のお腹を見つめました。
「本当に、ここにいるのか。なんか不思議だな?」
「そうですねぇ、私も正直まだ実感が湧いていないんです。でも、素直に嬉しい........。」
「俺も今、凄い幸せだよ。嬉しすぎて、なんかもうよく分かんないし、つーか!フリージア歩いていいのか!? 帰りの坂道は俺がおぶってやるよ!」
「今日は体調が良いので大丈夫です! それに体力をつけねばいけませんから!!」
「おお!それは確かにそうだな.....。あとは俺にできることは何だ!? つーか、後で一緒にお医者のばーさんのとこ行こうぜ!俺全然知らないから、聞いておかないと!!!やばい!!」
「そうですね!これからに備えましょう」
私達は手を繋いだまま坂道を下って行きました。
虹と夕焼けで美しい空の下、二人でのんびりと歩く.....それだけで幸せでした。
「なあ、フリージア。こうやって、幸せって増えていくんだな」
そう言ったレンの瞳はとても暖かくて、私も自然と笑顔になりました。
いくつもの偶然が重なり、私達は出会えて一緒になれました。
その奇跡を忘れずに、隣に立つこの人をいつまでも大切にしたい.......。
幸せの思い出を共有していきたい。
..........ずっと先も....................
貴方の愛しの聖女でありたいのです。
私は、そう願いながら愛しい彼の唇にキスを落としました。
(「ニセ聖女」と言われ婚約破棄されました。どうやら彼は私の能力を勘違いしているようです。 完結)
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みんなの感想(4件)
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👏👏👏👏👏😭✨
マリアさんが改心したシーン、美しかった
金持ちで権力者の男が暴力で身分が下の女を好き勝手にする胸糞は
もっと権力者でもっと金持ちの男が暴力を振るって解決しても変わらないので
ヨハネスより身分が下で力が弱い女の被害者である主人公自身がベッキベキにヨハネスをへし折って欲しかった
このままでは主人公は流されるままに周囲の男の言うことを聞いてるだけで、自分では何もしていないので…
フリージアがいい娘過ぎて…レンの王子様らしからぬ王子様ぷりに、二人の会話聞いてると(読んでると)…朝から微笑ま~(*´∀`*)♡
マリア嬢は改心?して、今の生活をやれる事を見いだせてるようで何より(´・ω・`)
朝から素敵なお話ご馳走様でした♪
素敵な感想ありがとうございます!!