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7 聖女の力

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 私が王都に来てから数日後、王城に大司教様が現れました。
 彼は王様とレンと私の前で、キャンメル侯爵領の現状についてゆっくりと語り始めました。


 「あの日以来、分厚い雲が空を覆い、雨が一向に止みませぬ。民は原因がヨハネス様とマリア様にあると考え、彼らをヘレナ湖に生贄として沈めろと要求しております。」

 「...............その天気は、私のせいですね........」

 「落ち込まれるな、聖女殿。貴方がいない侯爵領は元々あのように荒れた自然と付き合わなくてはならない土地だったのだ。それに、街の民はヨハネス様の言葉を簡単に信じ、あろうことか集団で貴方に石を投げつけたと聞いた。貴方が民を心配して気を病む必要はないでしょう。」

 「ですが、農地が心配です。山地に近い村は雨が少なく、よく雨を降らしに行っていました。今度は私の雨のせいで農場が台無しになっているのではないでしょうか???彼らの生活が心配です」

 「それについては心配ござらぬ。貴方が巡礼に赴き、聖女の力を使った地域では未だに天候が安定していると聞いております。村も無事でしょう。」

 「そうですか.......」


 私はホッと息を吐いた。
 巡礼には色々な村に行ったことがありましたが、どの村の方も皆親切でよくしてくださりました。
 そして、農業がとても大変な作業だということもそこで学んだのです。
 それを私が台無しにしてしまっている訳ではなく安心しました。


 「そして、今回の件の罪を負い、ヨハネス様は罪人神官になることが決まり、マリア様は修道院に送られるそうです。」

 「.........罪人.......神官ですか........。私は跡継ぎの座を追われるくらいの罰が下されるとばかり.......」

 「それだけで許される罪ではござらぬな。彼の父君もすでに彼を廃嫡し、神殿へ送ることを決めたそうです」

 「...........そうですか.........」

 ”神に誓う”

 それは私達にとって、人生で一番重要な契約を行うときに使うとても重い言葉です。
 破れば、神を裏切ることになりますから。
 だから、死刑とは別にこのような刑罰が用意されているのです。
 神の審判を受ける前......つまり生前にその誓いを破った罪を悔い改めるために。


 「私も今回の件には責任を感じているのです。信仰の暴走が聖女を傷つけることになるなどあってはならないことですからね。私達は狙われる危険性を恐れて聖女の力を公には公表してこなかった。それがこのような事態を引き起こすとは.........」

 「...........」

 「それに侯爵家との縁談も進めるべきではなかった。良い後ろ盾となることを期待していたのですが結果として悪手でしたな。貴方が苦しんでいることにも私は気がついてやれなかった......。神官と寄付金についても考え直さねばなるまい......」

 「それらについては後で詳しく話そう、大司教殿。神殿のあり方については、私も思うところがある。」


 王様の言葉に大司教様は”わかりました”と答えました。
 大司教様は今回のことに非常に責任を感じておられるようで、ここに来てからずっと肩を落としていました。
 

 「........あの、大司教」

 「何でしょう?」

 「あの黒い雲を追い払うには、私はどうすれば良いのでしょうか?」

 「................それは...........あんな目にあったというのに、侯爵領を救ってくださると???」

 「民に苦しんで欲しいわけではありませんから。あの場にいなかった方達には理不尽な罰になってしまいますし........」


 あの場にいた人達は街の住人のほんの一部です。
 そのせいで関係ない人たちまで苦しむ必要はないでしょう。
 それに長く続いた雨のせいで洪水対策のなされていないキャンメル侯爵領の街では、普通の仕事もできなくなっているようなのです。
 ..........そこまでの混乱を私は望んでいませんでした。

 「........貴方は、”聖女”ですな.........」

 「え?」

 「いや、なんでもありませぬ。雲を払うのは雨を降らすのより簡単なはずです。貴方様が魔力を込めた神具さえあれば我らでも普通の雲は払えるのです。この神具を使い、魔力を引き戻すイメージで力を使ってみてください。現地にいかずともこの場でできるはずです。」


 私はその言葉に頷き、大司教が差し出した小さな神具に手をあてました。
 少しすると神具は光出します。
 白色のような、薄い黄色のような......それでいて黄金のような不思議な色を放つ光です。
 その眩い光に、レンと王様は驚きの表情を浮かべました。


 しばらくするとキャンメル侯爵領の上空を覆う厚い雲の感覚を手につかむことができました。
 私はそれをほぐすようなイメージで魔力を動かします。
 すると遠くの黒い雲塊の色が少しづつ明るくなって行きました。
 次に私はその魔力を引っ張り出すように、魔力を吸収し始めました。
 

 遠くにあった雲塊は少しづつこちらに近づいてきて、数分後には王城を囲いました。
 その雲塊は普通の雲とは異なり、眩い光を放つ魔力が、まるで綿毛のように飛び回っていました。
 その光景は不思議で、それでいてとても美しいものでした。
 城下では人々が驚き手を止め、子供達は”雪だ!!!”とはしゃいでいました。
 目の前のレンも窓の外を食い入るように見つめています。


 私は最後にその魔力を全て集めるように力を使いました。
 雲の魔力は弾けるように消えて行き、空は再び青を取り戻しました。
 私はホッとしながら、神具を机に置き、椅子に倒れこむようにして座りました。
 やはりいつもよりかなり魔力の消耗が早かったのです。


 そんな私を支えるようにしてレンは私の隣に座りました。
 その顔は満面の笑みが浮かべられていました。

 
 「フリージアの魔法って最高に綺麗だな!!」

 
 その言葉に私は顔を真っ赤にしました。
 私にとって魔法を綺麗と褒められるのは、自分の顔を褒められるくらい恥ずかしいものなのです。
 それでも、好きな人に自分の力を認めてもらうのはとても気分が良いことでした。


 「次は雨降らしもみてください!もっと綺麗な光景を見せれるので」

 「本当かっ???じゃあ楽しみにしてる!」

 「はい!!!」

 
 レンは隣で笑いながら、私の手を握ってきました。
 その暖かい温もりを感じながら”幸せだ”と、私はそう強く思いました。




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