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6 婚姻

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 「相手が聖女様、というのなら私に文句はないが.........」


 ここは王城の中の一室、王様と近しい人間が会うための謁見室です。
 広々としたソファが向かい合わせに並べられていて、向かい側に座っている方は紛れもない国王様........つまりレンのお父様です。


 あの後、私達はレンの愛馬に乗って途中で休みを挟みながら王都までやってきました。
 私が神殿から遠い森の中に捨てられたと聞いたからか、”聖女が侯爵の息子によって殺された”という噂がどこの街でも話題になっていました。
 ”ニセ聖女”というワードを耳にしなかったのは、あの後マリア様は神具に触れることができずに、そのまま罪人として捕らえられたからだそうです。
 私がレンと行動していることは誰も知らないようでした。
 つまり、ヨハネス様は口を開いていないのでしょう。


 王城に到着してすぐに私達は王へ会いに行きました。
 理由は”しばらく会ってねーから、顔見るのと、婚約するって言いに行くぞ!”とのことで、半ば強引に引っ張っていかれました。
 個人的には王に会う心の準備の時間が欲しかったですが、時間をかけても緊張がなくなるはずもありません。
 私は諦めてレンについて行きました。


 レンのお父様.....ということもあり、国王もなかなか個性的な方でした。
 レンが”いやー遅くなったわ。ただいま”と軽く挨拶をすると、王は重いゲンコツをレンに落としました。
 どうやらレンはキャンメル侯爵領の視察に訪れていたらしく、二週間だけのはずがいつの間にか二ヶ月という時が経っていたそうなのです。
 おまけにレンは連絡の一つもよこさなかったらしく........
 (...........それは、心配しますよね.........。)
 現に、毒で生死の狭間を彷徨っていた訳ですし。


 そして、レンは私について話し始めました。
 そして私が聖女だと知った国王は、私に深々と頭を下げてくださったのです。
 私はその国王の態度に驚き、そして自分が自覚していた以上に聖女は重い役職だったのでは、ということに気がつき始めました。


 そして、冒頭の国王の言葉に戻ります。
 彼はレンから婚約の話を聞いた後に、そう答えました。
 しかし、何か引っかかるような表情でした。


 「元々最近のキャンメル侯爵領の動向には注視していてね、それでこのバカ息子を侯爵領に送ったんだ。...街を探らせるために。あそこは.......かなり宗教への信仰が厚いだろう? 信仰は構わないが、行きすぎた信仰は何かのきっかけで大きな暴動を起こしかねない。そして、あそこは神殿と政治の距離が近く、政治も閉鎖的だ。閉鎖的だと、どんどん周囲の領地との差が生まれていく。現に、あの場所の科学技術の進歩はとても遅れていてね.......それで心配していたんだ。」

 「君が王都に来てくれたのは良いことなのかもしれない。信仰の的が王都にいれば、彼らの政治はもう少し中央を見るようになるだろうからね。ただ..........よりによって相手がこのバカだとなあ.........。他にも王子は沢山いるんだが........」


 そう言って、国王は不安そうにレンを見つめました。
 レンはその視線は気にもせずに、机に出されたお菓子を食べています。
 (...........自由、だな.........)
 私の緊張も吸い上げて欲しいなんて思ってしまいました。


 王様はそんな自由なレンを不安視しているようですが、私は他の王子を選択肢に入れるつもりはさらさらありません。
 キャンメル侯爵領で過ごした一ヶ月、そして侯爵領からここまでの間で彼のことが更に好きになったような気がします。
 一緒に旅をして色んな景色を見て、見たこともない食べ物を食べたり、野外で一緒に作ったり、レンと出会ったこの短い期間で、私がヨハネス様と結婚した場合の一生分の笑顔を全部使い果たしたことは間違いありません。
 それくらいレンといると、素直に笑うことができました。

 彼の横にいると私は、神殿と聖女という役割から縛られることのなくなった一人のフリージアとして生きることができるのです。


 「陛下、私はローレンス様以外の殿方と結婚する気はございません。彼をお慕いしております。私は聖女という肩書きがなければただの平民です。ですが、彼の側でこの国のために尽力したいと考えています。どうか、ローレンス様との婚約を進めることをお許しください」


 そう言って私は深々と頭を下げました。

 
 「父上、私は自由奔放な男ですが、この真面目で人を思いやりすぎる聖女様の肩の力は抜いてやれる自信があります。それに誰より、笑顔にさせる自信も!」

 レンの言葉に王様は苦笑しました。
 そして、ゆっくりと頷いたのです。


 「二人がそういうのなら、私に反対をする理由はないよ。」


 その言葉に私とレンは顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべました。
 レンは両手を広げて私のところに飛び込んでこようとしましたが、王様に首根っこを掴まれて大人しく椅子に座り直しました。
 その不満そうな顔が面白くて、私はクスクスと笑ってしまいました。


 「結婚は........3年後だな。その間に、お前はもう少し王子らしい振る舞いができるようになれよ」

 「もう十分だと思うけどなあ」
 
 「ローレンス!!」
 
 「はーい。頑張りまーす」

 やる気がなさげなレンの言葉に王様は呆れたようにため息をつきました。
 

 「あの、なぜ三年後なのでしょうか?」

 その言葉に、王様は首を傾げた。

 「聞いていないのか?こいつはまだ、15歳だ。成人するまで結婚はできないからな」


 その言葉に私は目を丸くしました。まさか、2歳も年下だとは思っていなかったのです。
 それに彼はヨハネス様と違って、とても自立した男性だったので年下だとも思っていませんでした。


 「年下は嫌いか?」

 王様がニヤリと微笑んだので、私は慌てて首を振りました。
 確かに動揺はしましたが、年齢なんて気にしません。
 年上のヨハネス様より100倍頼もしいですし......。


 「覚悟しておけよ、フリージア。三年後の俺は超絶かっこいいはずだぜ」


  そう言ってレンは不敵に微笑みました。
 ですが、その言葉に私は首を傾げました。
 覚悟もなにも、私にとってもう既にレンはとってもかっこいい男性ですから。

 「レンは今でも十分かっこいいですけど??」


 私の言葉にレンは一瞬ポカンとした表情を浮かべました。
 しかし、すぐにいつものような太陽みたいな笑顔を私に向けました。
 

 「それを超えるってことだ!」

 「なるほど!それは楽しみです!」

 「だろ!!お前を片手で持ち上げられるような男になるぜ」

 「......そこまでは良いんじゃないでしょうか」

 「楽しい会話の邪魔をして悪いが、そろそろ夕食の時間だ。レン、聖女様をしっかりご案内して差しあげろよ」

 「言われなくてもわかってるぞ、父上。行くぞ!フリージア!」


 レンは私の手を引いて、歩き出しました。
 私は慌てて王様に一礼をします。
 王様はそんな私達に怒ることもなく、暖かい眼差しを送ってくださいました。


 

 
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