転生先がサイコパス一家だったので悪役令嬢になりきってみせます!

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選択肢が地獄しかない

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父親(らしき人)の言葉が静かに部屋に響いた。

「エリシア、お前は我が娘として、このヴァルムント家の名を背負うことになる」

「……えっ、今さら?」

いや、言いたいことは色々あるけど、どこからツッコんでいいかわからない。まず、放置プレイされてた期間が長すぎる。これが普通の家族の会話かと言われたら、絶対違うでしょ!?

しかし、そんな私の動揺をよそに、次に口を開いたのは母親(らしき人)だった。

「あなたは、これからヴァルムント家の最高の教育を受けることになるの」

「……え?」

なんか唐突に話が進んだんだけど!?

「それにあたって、まずはしなければいけないことがあるのよ」

母親らしき人はそう言いながら、スッと目を細めた。

──その瞬間、空気が変わった。

冷たく、氷のようだった目つきが、まるで春の陽だまりのように暖かくなる。

「…………」

「……いやいやいやいや、なんだこの豹変ぶり!!?」

目つきだけじゃない。声色まで変わってる!!? さっきまでのクールで怖そうな雰囲気はどこへやら、めちゃくちゃ優しげな母親ボイスになってるんですけど!?

「あなたは、これから誰から教育を受けるか、自分で決めるのよ」

「…………」

「まだわからないことが多いだろうけど、頑張って覚えていきましょうね?」

にっこり。

「…………」

「……いや、待て待て待て待て!!!」

怖い怖い怖い!!! 胡散臭さが限界突破してる!!!

その声、営業スマイルのヤバい上司のやつじゃん!!?

これ、もし私が普通の三歳児だったら、絶対この人を選ぶ流れになってた。

でもな……残念ながら私は社会を生き抜いた元OL。

「これは確実にヤバいやつです」

私の経験が全力で警鐘を鳴らしている。

「この母親を選んだら終わる」

だってさ、この手の人間は絶対に裏がある。豹変するタイプは信用ならないし、むしろこの豹変ぶりを見せつけてくるあたり、もはや威嚇だろこれ!?

「えっ、でもこれ、普通の三歳児だったら騙されるよね? こわっ!!」

そう思った瞬間、私の表情が無意識に引きつったらしい。

母親(らしき人)の顔が、ピキッと微妙に動いた。

「……どうしたのかしら?」

にっこり。

「…………」

いや我慢できなさすぎだろ!? まだ数秒しか経ってないのに顔ピキピキしちゃってるよ!?

どんだけ耐性ないの!? どんだけ早く私のリアクションが気に食わなかったの!?

「いや、むしろなんでこんな人が急に優しくなって誘導しようとしてるの?」

ここにいる以上、私はこの家の一員として何かしらの役割を持たされるんだろう。そうなると、この選択ってめちゃくちゃ重要なんじゃないか?

「もしかしてこれ、将来のコース選択です?」

A:母親(らしき人)を選んだらたぶん一番ヤバいルート
B:他の誰かを選べば、多少はマシな可能性がある

「……いや、でも『多少はマシ』ってなんだ? そもそも『マシ』って言葉が出る時点で、詰んでない?」

悩んでいると、父親(らしき人)が、またしても超簡潔に言い放った。

「選べ」

「…………」

いや、こっちの混乱を一切考慮しないのね!?

なんだこの家族!? 会話が一方的すぎない!? もうちょっとこう、幼児に優しくしようとかないの!?

──でも、選ばなきゃいけないらしい。

どうする、私!?

ここで母親を選んだら終わるのは確定。じゃあ、他の選択肢は……?

そう考えながら、私は部屋を見渡した。

……が、座っている他の三人の顔を見て、すぐに悟る。

「……うん、選択肢、地獄しかないな?」

ヴァルムント家の食卓に、静かな緊張が漂う。

娘であるエリシアに向けられた「選択せよ」という父の言葉に、兄弟たちはそれぞれ微妙な反応を見せていた。

黒いゴスロリを纏った少女は淡々とスプーンを口に運び、幽霊のような少女は沈黙したまま。その中で、唯一楽しそうにしていたのは、金髪の少年──彼は、エリシアにナイフを振るった張本人だった。

「へぇ……」

少年は小さく笑いながら、じっとエリシアを見つめている。

その目は、まるで獲物がどう動くかを楽しむ捕食者のようだった。

エリシアは、自分の目の前に並ぶ選択肢を見渡し──そして、静かに上を指差した。

「……?」

兄弟たちは、一瞬「何をしている?」と言いたげな顔をする。

しかし、それを見た父親──ガイル・フォン・ヴァルムントは、一瞬だけ顔をしかめた。

数秒の沈黙。

そして、その沈黙を破るように、突然、何もない空間から召使いAが現れた。

「お呼びでしょうか」

変わらぬ無表情で、淡々とした声。その登場は、あまりにも自然すぎて、もはや驚くのも忘れるほどだった。

だが、その直後、父親が低い声で問いかける。

「……なぜ、上にいるとわかった?」



──いや、そりゃそう聞くよな!?

だって、私も最初は勘だったんだから!!

……いや、でも、よくよく考えたら、これは消去法の結果だ。

兄弟の誰を選んでも地獄になるのは確定していた。どう選んでも詰みルート。

「じゃあ、どうする……?」

「どうすれば、この最悪の選択肢を回避できる……?」

そう考えて、ふと脳裏をよぎったのが──

「……そういえば、こっちをずっとメモしてるやつがいたな?」

召使いたちは、いつも無言でメモを取っていた。誰よりも私のことを観察していた存在。ならば、そいつらはどこから私を見ていたのか?

「……この部屋にいて、私のことを見下ろせる場所ってどこだ?」

──答え:天井。

「……いやいやいや、違ったらめちゃくちゃ恥ずかしいけど!?」

でも、こいつら(家族)以外を選べる可能性があるなら、全然いいでしょ!?

というわけで、意を決して上を指差したわけだ。

そして数秒の沈黙。

「…………」

「……いや、ダメだった!? 違った!? やっちまった!?」

今さら恥ずかしさが込み上げてきて、穴があったら入りたい気持ちになってきたその瞬間──

「お呼びでしょうか」

「うおああああ!?!?」

──横にいきなり現れる召使いA。

「ビックリしたあああああ!!!!」

驚きすぎて心臓止まるかと思った。お前、ほんとどこにいたんだよ!? さっきまで完全に気配ゼロだったよな!? なんで突然現れるの!? いや、なんでそんなことが可能なの!?

「……でも、信じてたよ、神技A!!」

ただただ感謝しかない。

とりあえず、この場の最悪の選択肢は回避できた……はず!?

「……なぜ、上にいるとわかった?」

父親(らしき人)の低い声が響いた。

……いやいや、そりゃそう聞くよね!?

「こいつら(家族)以外を選べる可能性にかけたんです!」なんて正直に言えるわけないし、かといって普通に答えたら舐められそうだし……!

ここはカッコよく決めるべきところだ!!

私はできるだけ無表情を保ちつつ、堂々とした態度で答えた。

「……なんで おしぇなきゃ いけにゃいわけ?」

「…………」

「…………」

「…………」

はっずかしいぃぃぃ!!!!

なに!? なんで!? なんでこんな肝心なとこで噛むの!? なんで「おしぇなきゃ」になっちゃったの!?

カッコつけて言ったのに、めちゃくちゃ台無しなんだけど!? ああああもう最悪だよ!!!

恥ずかしさで頭が沸騰しそうになりながら、それでも必死に表情を崩さないようにする。

くっそ、今のなし! なしだから!! 記憶から消して!!!

……と、心の中で大暴れしていたその瞬間、父親(らしき人)の口元が、ほんの一瞬だけ動いた。

「……え?」

今、一瞬だけ笑った?

いやいや、そんなわけないよね!? だってこの人、絶対に笑わないタイプの人間だろ!?

しかも本当に一瞬すぎて、気のせいレベルだった。

「……多分錯覚だろう」

うん、錯覚だ。見間違いだ。そういうことにしとこ。

そして、父親(らしき人)は、私をじっと見下ろしながら、静かに口を開いた。

「そうか、ならば良い」

「…………」

「……え、それだけなん!?」

えっ、なんかこう、もうちょっと突っ込まれるとか、「面白いことを言うな」とか、何かしらのリアクションがあると思ったのに!?

あまりにもシンプルに終わったんだけど!?

「なんか返してよ! わかんないけど、なんかこう返してよ!!」

めちゃくちゃ拍子抜けしたけど、とにかくこの一応今世最大? の難所は突破したらしい。

はぁ……疲れた。

これから先、もっと地獄みたいなことが待ってる気しかしないんだけど、大丈夫なのかな、私……!?
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