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再会
しおりを挟む長い間祈りを捧げ、手を合わせていた染谷は少し一息ついて、一礼すると、帰りましょうか、と先に本堂の階段を降りた所で待っていた二人を振り返った。
するとそこには先ほどまで石原と言い合っていた赤乃とは、違う雰囲気の人が立っていた。銀髪のままだが、何かが違う。
石原が口を開いたまま彼を指差し、染谷を見て何か言いたげにしていた。
その出で立ちに見覚えがある。赤乃のように憮然とした力強い立ち方ではなく、弓を射るようにしなやかな、しかしどこか警戒するような構えでその人は立ち、温かい懐かしい緑と茶色を片方ずつその瞳に宿してこちらを見ている…まさか……。
「――海静様!!!」
染谷は少ない石階段を滑る様に駆け下り、その人に手を伸ばし、その両肩を鷲掴みすると、ぎゅっと抱きしめた。
「海静様、海静様、海静様っ!!!?」
両目から涙が溢れる。ぎゅうっと強く染谷は海静を捕まえた。
「海静様…、一体今までどうして…海静様…。」
その人の頭も手のひらで抱きしめて、力を込めて染谷は全身で縋《すが》る。神に祈りが届いた!
「く、苦しい、染谷・・・。」
あぁ、お声も、お声も海静様のもの…。本当に戻ってこられた。本当に帰ってきてくれた。海静様・・・。
涙や鼻水が一杯出てくる。
離してなるものか、やっと…。
染谷は本堂の前で人目も気にせずじっとしている海静を抱きしめて声をあげて泣いた。
石原は傍らでぐずっと鼻水をすすり、海静の心の帰還を喜んだ。染谷の心を唯一救える主人の帰還だ。
何分そうしていただろうか、海静が口を開く。
「染谷…く、苦しいよ、もう離して、大丈夫だから…。」
そう言われても不安で堪らない。彼の顔を両手で包んでその瞳の色をもう一度確認した。赤い色ではない、淡い緑と茶色の美しい瞳が自分を見ている。
「…海静様!!」
また抱きしめる。
「…っ!おいっ…!もういいだろう?!」
海静は染谷の両腕を掴んで体から引っぺがした。染谷の両手が名残惜しそうに空を切る。
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