【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

~拓海～

葛藤

「はあ…　…　やべえ…　」

ぼそりと、呟く…

自覚はある…

さっきから舌打ちと…
深いため息が、交互に口から出てしまう…

今の俺の…この、精神状況はヤバい…

困惑と不快感…

苛立ちと…
大袈裟かもしれないが、まるで…絶望のような…
重くて暗い、感情…。

葉月が…俺の前から、いなくなる…？
俺の隣から、いなくなる… 
まさか…
こんなに長く続いてきた葉月との仲が、今になって壊れる…

葉月が、彼女ではなくなるかもしれないという可能性…

考えたことがなかった状況を目の当たりにして初めて、俺は恐怖にも似た感情を覚える…。

なんだ、この嫌な感じ…　
この、心の中の…何とも表現できない…ざわざわするような、不快感…。

なんでだ…       
なんで…　　葉月は…　　
なぜ、今… 
こんなタイミングで、そんな決断をした…？

葉月には、もともとドライな部分がある…
今まで、会えなくて寂しいなどと、言われたこともない…        だからこそ、わかる…

遠距離恋愛が理由などでは、絶対にない…


あの男…

杉崎と、葉月が並んで空港ゲートから出てきた時…

俺は二人の姿に…確実に、不快感を覚えた…。

ああ…   

もういっそ、今すぐ…

今すぐ立ち上がって浴室のドアを開け…
葉月に言いたい…

「いきなり別れるとか言われて、納得できるか…はっきり言え…本当の理由、言えよ…」

そんな風に…葉月につかみかかって、問い詰めてしまいたい…
そんな…真っ黒な感情が…
俺の中に、今にも侵食してきそうだ…

駄目だ…　

　　　　　ヤバい…

このまま、ここにいれば…
今夜、ともに葉月と…一つのベッドに入れば…

葉月を、怒りのままに組み伏せて…滅茶苦茶にしてしまいそうだ…

押し倒して、葉月を抱く… 
いつもより激しく… さっきみたいに乱暴な、キスをして…
　
葉月を、俺のものに…   俺だけのものに…　

俺以外の…俺以外の男には、絶対にやらない…　

ああ…　

抑えられる、自信がない…　　

だが絶対に、ダメだ…

そんなことをしては、逆効果だ…　
そんなことをすればきっと…間違いなく…葉月がもっと…遠くに行ってしまう… もう二度と…俺の元には戻らない気がする…。

冷静になれ…　

早く、この…このおかしな激情を、抑え込め…　　

俺は自分の良心に…理性に祈るような気持ちで、残りのお茶を一気に喉に流し込み、
すぐに、ベッドにもぐりこんだ…

寝てしまえ…
いっそ、速攻…今すぐ、寝てしまえばいい…

葉月を傷付けるわけには行かない…　

大人だ…
かつてないほどに、
大人の男を…演じなければ…
　
明日の朝、何事もなかったかのように、冷静に…話をして…
葉月を、説得する… なんとか、考え直せと…　

もはや、瑠衣などどうでもいい…
こんなことになるくらいなら…
葉月を…    失うくらいなら…

俺は二度と…いや、もう一生…浮気なんて、しない…

　　俺は神に誓うかのように、目を閉じた…。