【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～杉崎～

器

ヤバい…　マジで…　彼女はヤバい…　

　　いや…違う…。　俺が、危ない…。　
　　　　　　　
ある意味で、恋愛初心者といえる俺にとって…
水無月さんの全ての反応が…ストライクゾーン過ぎるのだ…。

『えっ…』

「…そういう、こと…電話で言うの、やめよう…あ、お互いに…あの…色々な意味で、危ない…と、思う、から…」

自分が先に、おかしなことを口走っておきながら、勝手な言い分だとはわかりつつも、
俺は彼女の言葉を、半ば強引に遮った…。

これ以上、彼女に可愛いらしい反応をされて…しかも、俺にそうされるのが嫌じゃないなどと…甘やかな言葉を囁かれたら…耐える自信がない…。
物理的に、今すぐに彼女に会うことが出来ない距離で…そして、いまだに中途半端な関係性の今の状況のままでは…
彼女の言葉は…嬉しい反面、辛いだけだ。　

『えっ…？えっ…？？…どういう…意味…？ですか…』彼女の、動揺したような声。

俺のおかしな制止の言葉に…彼女の頭の中はさぞかし、はてなだっただろう。

「ごめん…ほんと、こっちの都合で…あ、そうそう、実は今…俺ね…」

もう、いっそ話題を変えてしまおう…本当に勝手でごめん…心の中だけで、静かに頭を下げる。

『ぁ…は、はい…』

「実は今、福岡…、天神のホテルにいるんだ…今、ベッドの上でくつろいでる。」

『…えっ…そ…そう、…なんですか…福岡…に…』

「そう…　今日、やっと…　話してきたんだ。彼女と、ね…」

『…そ…そう…　だったんですね…』　

彼女の性格から…その先をズカズカ聞いてはこないだろうと予想していたが、案の定、彼女は何も聞いてはこなかった。

だからこそ、俺の方から…
やっと、直接会って智花と別れ話をしたこと、承諾を得られたことを、手短に彼女に伝えた…。

なぜ、わざわざそんな報告をしたのか…　　

自分なりに気付いた理由は、ただ一つ。

俺の方は、片付いた…。

君も、早く…　出来るだけ早く、あの男と別れて欲しい…。

そんな…
目に見えない圧力を…彼女に、かけたかったのかもしれない…。

彼女への執着の強さ…
独占欲のようなこの感情は…　初めて経験する感情もので…

俺は、自分で自分が怖くなると同時に…

彼女に関係する事柄に関しての…自分の小ささを…

　　　　　　己の器の小ささを、思い知った。