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23.呪われ公爵は愛せない

2.

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「おはようございます、アンブラ様っ」


 陽光の如き満面の笑み。その光はあまりにも眩しく、朝から酷く胸焼けがする。


「――――本当に朝まで居座ったんだな」

「はい! アンブラ様の寝台はふかふかで、とても寝心地が良かったです」


 ハルリーはそう言って微笑みつつ、嬉しそうに布団を抱き締める。


「……おまえの部屋の調度類は、俺よりも良いものを準備している」

「そうでしたか! ですが、わたくしの寝室にはアンブラ様がいらっしゃらないでしょう? ですから、明日も明後日も、わたくしはここで眠ります」


 アンブラの意図することを明確に読み取りつつ、ハルリーはきっぱりと言い放つ。屈託のない笑み。けれど、そこはかとなく大人の色香が漂う。


「居座られたところで、俺はおまえに手を出さないぞ」

「ええ、それで構いませんわ」


 そう言ってハルリーはクスクス笑う。


(解せない)


 アンブラは眉間にそっと皺を寄せた。


「だったら何故、俺の寝室に?」

「夫婦ですもの。愛がなくとも一緒に眠って然るべきでしょう?」


 キョトンと目を丸くし、ハルリーは小さく首を傾げる。


「それに、今は出さずとも、いずれはそうなさるでしょう? わざわざ借金を肩代わりしてまで結婚していただいたんですもの。ちゃんと跡取りは産みませんと」

「…………おまえ」

「わたくしに色気が足りないのは分かっております! ですから、こうして寝台を共にし、アンブラ様の気が昂った時を逃すまいと」

「いや……俺が言いたいのはそういうことじゃない」


 眉間を軽く押さえつつ、アンブラは小さくため息を吐く。


「え? ……ああ! アンブラ様がわたくしを愛してくださらない、ということは存じておりますし、本当にそれで構いません。
ですが、わたくしがあなたを愛してはいけない、とは言われていませんもの。好きにさせていただきますわ」


 柔らかな笑み。けれど、彼女の言葉は力強い。


(馬鹿な)


 普通の人間は、自分を愛してくれない相手のことを愛そうとはしないだろう。人は皆、己が一番可愛い。自分は特別なのだと思わせてくれる相手にこそ寄り付くし、軽んじる相手のことは忌嫌う。関わり合いたいとすら思わない筈だ。

 だというのに、ハルリーはアンブラを愛そうとしているらしい。

 ニコニコと屈託のない笑みを浮かべたハルリーは大層愛らしく、余程の馬鹿男でない限りはコロリと恋に落ちるだろう。腕の中に閉じ込め、愛を囁き、周囲が呆れるほどに甘やかして、幸せにしようと努力するに違いない。


「――――時間は有限だ。無駄にしない方が良い」


 アンブラが徐に立ち上がる。冷たい声音。けれど、ハルリーはニコニコと微笑みながら、彼の後ろに付いて回る。


「はい、一秒たりとも無駄にはしませんわ!」


 縋りつく腕。白く柔らかい肌。アンブラの喉がゴクリと鳴る。


(あり得ない)


 目を瞑り、静かにため息を吐いた。
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