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26.所詮、あなたは愛されない

5.(END)

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「俺の婚約者を傷つけるのは止めていただきたい」

「ヒューゴ様……」


 間一髪。スカーレットの手は、ヒューゴによって宙に縫い留められていた。


「なっ……! まさか、あなたがヒューゴ様だっていうの⁉」


 散々馬鹿にした、自身の婚約者になるはずだった人物。それが、想像以上にカッコよく、逞しい人物なのだと知ったスカーレットは、驚きのあまり愕然とする。


「そんな! そうだと知っていたらわたくし、ミカエルなんかと婚約したりしませんでした! あぁ、今からでも遅くありませんわ。お姉さまとわたくしの婚約者を取り替えましょう! そうすればきっと、全てが上手く――――」

 けれどヒューゴは、大層冷ややかな目でスカーレットを睨んでいた。ヒューゴはスカーレットへの嫌悪感を露にしつつ、ブリジットをそっと腕に収める。スカーレットの瞳孔がカッと見開かれた。


「俺の婚約者は君じゃない。ブリジットだ。俺はブリジットと夫婦になる。必ずブリジットを幸せにする」


 ヒューゴは迷いなく、そう言い放った。ブリジットは瞳いっぱいに涙を溜め、ヒューゴのことを見つめている。スカーレットは唇をギザギザに引き結び、地団太を踏むと、その場から一目散に逃げ出した。ブリジットたちはそんなスカーレットの後姿を見送りつつ、躊躇いがちに互いを見つめる。


「ヒューゴ様。わたしはこれまで、貴族の結婚に愛情は必要ないと思っていました。その方が上手く行く。傷つかずに済むのだと。けれど――――そうではない結婚もある。そう思ってもよろしいでしょうか?」

「……もちろん。そうしてくれると、俺も嬉しい」


 ヒューゴの返答に、ブリジットは嬉しそうに笑う。

 それから数年後。
 ブリジットの実家であるマルティニ家は、入り婿の度重なる借金により首が回らなくなり。家財を引き払って、地方でひっそりと暮らしている。スカーレットも義母も、さすがに現実を受け入れざるを得ず、これまでの自分を恥じて慎ましく生きているらしい。
 ブリジットはというと。


「お母さま!」


 ヒューゴによく似た可愛い子供達に囲まれ、幸せな気持ちで毎日を過ごしている。守るものができたヒューゴは、これまで以上に仕事にも精を出し、王家の覚えも目出度くなっている。結婚が良い方向に働いた例だと、専らの評判だ。


「ねぇ、ヒューゴ様。わたし、この子達には将来『結婚は幸せなものだ』と思ってもらいたいです」


 ブリジットはそう言って目を細めて笑う。かつての自分のように、愛情を諦めたりせず、現実から目を逸らさずに生きて行って欲しい。


「大丈夫だよ。俺たちなら絶対、大丈夫」


 ヒューゴはブリジットの手を取り、力強くそう口にする。二人は顔を見合わせると、声を上げて笑うのだった。
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