復讐の悪女になるはずが、天使系義兄からピュアな執着と溺愛で邪魔されてます!

鈴宮(すずみや)

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【1章】幼女に復讐は難しい〜ピュアすぎる兄ができました〜

3.どうか今だけ

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 朝だ。侍女が部屋のカーテンを開けると同時にわたしは目覚める。


(ああ、よく寝た)


 あくびを一つ、わたしは顔をゴシゴシと擦る。小さくてぷくぷくした『the赤ん坊』って感じのこぶしは何度みても中々慣れない。だけど、最近は夜中に空腹で目が覚めることは減ったし、少しずつ体がいうことをきくようになってきた気がする。……まあ、誤差の範囲だけど。


「リビーおはよう! 今日もとっても可愛いね」


 と、ゼリックが部屋に入ってきた。


(可愛いのはあなたのほうだって!)


 もしも自由に喋ることができたら、絶対そう返事をするのにと思いつつ、わたしはニコニコと笑顔を浮かべる。


 現世での生家である城が襲われ、この家に連れて来てから一ヶ月。わたしはすっかりこの家――グレゾール伯爵家の一員として馴染んでいた。


 引き取られてしばらくの間は、正直言って気が気じゃなかった。わたしの存在が襲撃者にバレているんじゃないか、追っ手が来るんじゃないかってビクビクしながら過ごしていたから。

 だけど、この家は城が襲撃されたことが夢だったんじゃないかと思うほど平和そのもの。だんだん身構えているのが馬鹿らしくなってきた。そうして、今に至るのだけど――。


「あのね、今日はお母様がリビーのために果物を準備してくれたんだ。りんごっていうんだよ。甘くてとっても美味しいよ」


 すりおろしりんごの入った皿を抱えて、ゼリックが嬉しそうにわたしを見つめている。


 この一ヶ月の間に、わたしは離乳食をはじめた。

 最初は前世の記憶がある故に、離乳食を口にすることに抵抗があった。グズグズに煮溶けた野菜やパン粥を美味しいとは思えなかったし、飲み込むまでに時間がかかってしまう。せめて自分で食事をしたい――そう思って皿に手を伸ばすものの、上手にできずにたくさんこぼし、悲しくて悔しくて泣いてしまうこともしばしばだった。

 だけど、ゼリックやママはそんなわたしに腹を立てず、ニコニコと向き合い続けてくれた。失敗しても「上手だね」って褒めてくれるし、「大丈夫だよ」って励ましてくれる。本当に純粋無垢で、仏のような人たちだとわたしは思う。


「美味しい、リビー?」

「だーうー(美味しいよ、ゼリック)」


 ゼリックが差し出したスプーンをパクッとくわえ、もぐもぐと必死で咀嚼する。相変わらずアーとかウーぐらいの声しか出せないけど、これでも言いたいことは伝わるはずだ。現に、ゼリックは嬉しそうに「だよね、美味しいよね」って言って笑っている。わたしも思わずつられて笑った。


「座るのも上手になってきたね。偉いよ、リビー」


 ゼリックがそう言って、わたしのことをよしよしと撫でる。前世のわたしは享年十二歳でゼリックよりも年上だけど、褒められると普通に嬉しい。もっと撫でてと頭をつき出したら、ゼリックはわたしを抱きしめながら「いい子いい子!」と笑った。


 ここに来てからの一ヶ月間、わたしはいろんなことを頑張るようになった。離乳食や寝返り、おすわりに加えて、ずりばいやハイハイの練習もしている。

 早く自分の足で歩けるようになりたい。文字を学んで、自分で調べごとができるようになりたい。そしていずれは祖国の――お父様やお母様の敵を討ちたいと思っている。

 そのためには、一分一秒だって無駄にするわけにはいかない。ということで、わたしは必死で離乳食に食らいついていた。


「はい、おしまい」


 ゼリックは空っぽの皿をわたしに見せ、頭を優しく撫でてくれる。それから、侍女たちがわたしの口の周りを拭いてくれる様子を目を細めて眺めていた。


「少し休憩したら僕と一緒にお外に行こうか。お花がとっても綺麗なんだよ。きっとリビーも気にいるよ」

(お花、見たい!)


 言葉のかわりに手足をバタつかせると、ゼリックは「うんうん、楽しみだね」ってニコリと笑う。


 三十分後、ゼリックとわたしは外に出かけた。
 伯爵邸の庭は本当に綺麗だ。季節の花々が咲き乱れていて、見ているだけでとても楽しい。


「リビー、チューリップだよ。綺麗だね」


 乳母車を押しながらゼリックが言う。

 この世界は前世と繋がってはいないものの、似通っているものがたくさんある。花や植物、果物や動物なんかはいい例だ。文明は――小学校レベルの歴史しか学んでいないわたしにはよくわからないけど、前世ほどは発達していない。そのかわり、魔法を使える人がチラホラいて、生活の不便な部分を補ってくれているらしい。


「パパにも見せたいね。次はいつ帰ってくるのかな?」


 と、ゼリックがしょんぼり肩を落とした。

 ゼリックの父親はジルヴィロスキー王国に勤める魔術師だ。忙しいためか帰宅するのは数日に一回なので、ゼリックはいつも寂しそうにしている。


「いつもはね、こんなに忙しくないんだよ。だけど、最近はあんまり帰ってこないんだ」

(そうなの?)


 ゼリックと一緒に庭を眺めつつ、わたしは考えを巡らせる。

 いつもより忙しい――それはきっと、わたしの祖国、サウジェリアンナ王国の後始末があるからだろう。


 この一ヶ月、情報がないなりに自分で考えてみた。誰がわたしの城を、サウジェリアンナ王国を襲ったのか。

 ゼリックの父親は王宮魔術師だ。彼――パパはあの夜、わたしの城にいた。状況から判断して、襲撃犯の一味だった可能性が高い。つまり、パパの雇い主であるジルヴィロスキー王国の国王が襲撃を指示したんだと思う。


(わたしはいずれ、ジルヴィロスキー王国に復讐をしなければならない)


 復讐なんて、なにをどうやったらいいかなんてわからない。だけど、はじめてわたしを愛してくれた人々を奪った報いは必ず受けてもらわなきゃ。そのために、一刻も早く成長しなきゃって思うんだけど。


「だけどね、リビーがいてくれるから僕は寂しくないんだよ」

(うっ……!)


 良心の権化であるゼリックが側にいると、どうにも毒気を抜かれてしまう。

 ハイハイを頑張らなきゃって思っていても、ゼリックに抱っこをしてもらうとひたすら甘えたくなるし、起きていられる時間を延ばしたいと思っても、ゼリックのトントンには抗えない。本当に赤子泣かせのお兄様だ。

 今だって、乳母車の揺れがあまりにも心地よくて、だんだん眠たくなってきてしまった。


「ねんねしていいよ。起きたら僕が絵本を読んであげるからね」


 ゼリックが笑う。たったそれだけのことなのに、心と体が温かくなった気がした。


(今はまだ、ゆっくりしていてもいいよね)


 足掻いても、すぐに大きくなれるわけじゃない。身体能力も言語能力も、まだまだ身に着けられないんだもの。

 だから、どうか今だけ。赤ん坊としての日々を謳歌させてもらいたい――そんなことを思いながら、わたしは目をつぶるのだった。
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