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【1章】幼女に復讐は難しい〜ピュアすぎる兄ができました〜
4.王太子妃も夢じゃない
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鏡の前の自分を眺めつつ、ほうと小さくため息を吐く。
銀色がかった黄緑色のストレートヘアと、エメラルドに例えられるほどキラキラした大きな瞳、顔も人気芸能人みたいに整っているし、肌だって雪みたいに真っ白だ。
そんなわたしのクローゼットにはドレスが山程収納されている。これらは主にママの趣味で、フリルや刺繍、リボンがふんだんにあしらわれたたくさんの可愛いドレスに、年齢からすれば少し背伸びをした感じのシンプルなドレスが数着、それから動物の着ぐるみ的なものと天使の羽がついたドレスなんかもあったりする。
つまるところ、この三年の間にわたしは伯爵家の愛娘へと昇格していた。
(ああ、前世のわたしに見せてあげたい)
幼稚園にも通えず、毎日同じ服を着ていた幼少期。おもちゃも絵本もなく、外に遊びに行くことすら許されず、それを当たり前だと思いこんでいた。自分が周囲と違うと気づいたのは小学校に通うようになってからで、あのときは本当にショックだった。
けれど、そんな人生とは決別済み。今のわたしは幸せそのもの――と言いたいところなんだけど、そうもいかなかった。
(最近、ひんぱんに夢を見るのよね)
夢を――現世でのわたしの両親の夢を見るのだ。
二人がどうなったのか、事件から三年が経った今もはっきりとわからない。
というのも、この三年間でわたしは人並みの成長しか遂げられなかったからだ。
歩くこと、喋ること、文字を読んだり書いたりすること……全部一度は経験しているんだから、人より簡単にこなせると思うじゃない? なんならチート的な感じでマスターできる予定だったのよ?
だけど、予定はあくまで予定。わたしは自分の能力のなさをこれでもかというほど知ることになった。
(まあね……運動神経悪かったし、頭のできもよくはなかったもんね)
現世で改善されたのは容姿。それから親ガチャ成功――というか金銭的な待遇ぐらいのものだ。……いや、そこが違うだけで本当にすごいんだけど。
三歳のわたしにできることは、三歳児レベルでお喋りをすること、人並みの速さで歩くことと走ること、それからこちらの世界で言うアルファベット的な文字を単体で読むことぐらいだ。
とてもじゃないけど、王族を暗殺したり、文献から必要な情報を読み取れるようなレベルじゃない。
そういうわけで、わたしの復讐計画はどうにも長期戦になりそうだなぁと感じている。
「リビー、準備はできた?」
「お兄様!」
そのとき、わたしの部屋にヒョコッとゼリックが顔を出す。
八歳になったゼリックは、どの角度から見ても文句のつけようがない美少年だ。出会った頃の純粋無垢さ加減もそのままに、勉強に加えて乗馬や剣術、魔術を学んで幼いながらの逞しさを身につけた上、各家庭教師が息を巻くほどの優秀さを発揮している。その上、わたしのことを超がつくほど溺愛してくれており、とんでもなく優しいので、わたしはゼリックが大好きだ。
「準備できたよ」
「うん、可愛い! 僕の妹は最高に可愛いよ」
ゼリックはわたしを見つめ、ギュッと力強く抱きしめてくれる。
今日は二人でママの実家に遊びに行く予定だ。ママの両親は、あのママの両親なだけあって、わたしをあっという間に受け入れてくれた。今ではゼリック同様、本物の孫としてわたしを扱ってくれている。しかも、会うたびにドレスやおもちゃを買い与えてくれる上、甘くて美味しいお菓子を振る舞ってくれるので、わたしにとってお気に入りの場所だった。
「お兄様、到着するまでの間、絵本を読んでください!」
「いいよ。リビーは絵本が大好きだね」
馬車の中でわたしはゼリックに絵本を差し出す。
少しでも早く言語能力を身につけるために、ゼリックの協力が必要不可欠だ。まずは基礎を身につけなければ新聞や歴史書を読み解くことなんて到底できない。
ゼリックが音読するのに合わせて、わたしは絵本に書かれた文字を目で追う。
「これが『あ』ですか?」
「そうだよ。リビーは賢いね」
ゼリックがよしよしとわたしを撫でる。
前世の経験を踏まえたら本当はもう少し賢くなきゃいけないんだけど、ゼリックが褒めてくれると素直に嬉しい。復讐なんて忘れて、このままちびっこライフを満喫するのも悪くないと思えてしまうほどに――。
(って、それじゃダメなんだって)
ブルブルと頭を横に振り、わたしは静かに前を向いた。
「いらっしゃい、二人とも。大きくなったわね」
屋敷に着くと、ママの両親が満面の笑みでわたしたちを出迎えてくれる。
「お久しぶりです。おじい様、おばあ様」
侍女たちに習った淑女の礼をすると、二人(とゼリック)は感激してくれた。
「うちの孫は天才なんじゃないか?」
「だよね! リビーは本当にすごいんだ!」
「将来は王太子妃も夢じゃないかもしれないわね」
三人は手を取り合ってわたしを褒める。この程度なら幼児のお遊戯の範疇だから、さすがのわたしでもできるのだ。内心でドヤッていたわたしは、ふとあることに気づいた。
「ねえお祖母様、王太子妃って?」
パパは家にいてもお城や国のことをちっとも話そうとしない。家庭に仕事を持ち込まないのはいい父親の証だと思うけど、復讐につながる情報を求めているわたしとしては結構困っていたのだ。
(王太子って確か……)
「王太子は王子様のことだよ。絵本に出てきただろう?」
ゼリックがそう教えてくれる。
「それじゃあ、王太子妃って、王子様のお嫁さんのことをいうの?」
「そうだよ。よくわかったね」
今度はおじい様が褒めてくれた。
「王子様は今何歳?」
「え? 確か……五歳だったかな」
「五歳? それじゃあわたしの二歳上だね」
言いながら、ドキドキと心臓が高鳴っていく。
(これだわ)
わたしが復讐を果たすためには、王太子を利用するのが一番だ。もしも彼の妃になれたなら、食事の際に王や妃へ薬を盛るチャンスができるし、不意打ちをすることだって十分に可能だ。使用人として城に潜り込むっていう道もあるけど、一番復讐の成功確率が高いのは王太子妃になることだと思う。
「リビー、王子様と結婚したい!」
「ダメだよ!」
と、ゼリックが身を乗り出す。彼はわたしを抱きしめると、ブンブンと首を横に振った。
「どうして?」
「だって、リビーと結婚するのは僕だもん」
「「まぁ……!」」
(うわあああ)
ゼリックは曇りなき眼でこちらをじっと見つめていた。純粋すぎて本当に怖い。しかも、ゼリックとわたしは本当は血がつながっていないので、しようと思えば結婚できちゃうっていうのがなんとも言えず照れくさかった。
(パパもママも、わたしが赤ん坊時代のことを覚えているなんて夢にも思っていないだろうけど)
二人はわたしを実子として扱っているし、生涯出自を明かしはしないだろう。……というか怖くてできないと思う。パパはママにすらわたしの正体を知らせていないはずだし。
「んもう、二人とも可愛いんだから」
おじい様とおばあ様がニコニコと笑っている。今はまだ子供だから、冗談だと思われているし笑い話にされてしまう。
だけどわたしはめちゃくちゃ本気だ。今、わたしの進むべき道が決まったと思う。
わたしはいつかきっと、王太子妃になってみせる。まずはその候補になれるよう、頑張らなきゃだ。わたしは密かに拳をギュッと握るのだった。
銀色がかった黄緑色のストレートヘアと、エメラルドに例えられるほどキラキラした大きな瞳、顔も人気芸能人みたいに整っているし、肌だって雪みたいに真っ白だ。
そんなわたしのクローゼットにはドレスが山程収納されている。これらは主にママの趣味で、フリルや刺繍、リボンがふんだんにあしらわれたたくさんの可愛いドレスに、年齢からすれば少し背伸びをした感じのシンプルなドレスが数着、それから動物の着ぐるみ的なものと天使の羽がついたドレスなんかもあったりする。
つまるところ、この三年の間にわたしは伯爵家の愛娘へと昇格していた。
(ああ、前世のわたしに見せてあげたい)
幼稚園にも通えず、毎日同じ服を着ていた幼少期。おもちゃも絵本もなく、外に遊びに行くことすら許されず、それを当たり前だと思いこんでいた。自分が周囲と違うと気づいたのは小学校に通うようになってからで、あのときは本当にショックだった。
けれど、そんな人生とは決別済み。今のわたしは幸せそのもの――と言いたいところなんだけど、そうもいかなかった。
(最近、ひんぱんに夢を見るのよね)
夢を――現世でのわたしの両親の夢を見るのだ。
二人がどうなったのか、事件から三年が経った今もはっきりとわからない。
というのも、この三年間でわたしは人並みの成長しか遂げられなかったからだ。
歩くこと、喋ること、文字を読んだり書いたりすること……全部一度は経験しているんだから、人より簡単にこなせると思うじゃない? なんならチート的な感じでマスターできる予定だったのよ?
だけど、予定はあくまで予定。わたしは自分の能力のなさをこれでもかというほど知ることになった。
(まあね……運動神経悪かったし、頭のできもよくはなかったもんね)
現世で改善されたのは容姿。それから親ガチャ成功――というか金銭的な待遇ぐらいのものだ。……いや、そこが違うだけで本当にすごいんだけど。
三歳のわたしにできることは、三歳児レベルでお喋りをすること、人並みの速さで歩くことと走ること、それからこちらの世界で言うアルファベット的な文字を単体で読むことぐらいだ。
とてもじゃないけど、王族を暗殺したり、文献から必要な情報を読み取れるようなレベルじゃない。
そういうわけで、わたしの復讐計画はどうにも長期戦になりそうだなぁと感じている。
「リビー、準備はできた?」
「お兄様!」
そのとき、わたしの部屋にヒョコッとゼリックが顔を出す。
八歳になったゼリックは、どの角度から見ても文句のつけようがない美少年だ。出会った頃の純粋無垢さ加減もそのままに、勉強に加えて乗馬や剣術、魔術を学んで幼いながらの逞しさを身につけた上、各家庭教師が息を巻くほどの優秀さを発揮している。その上、わたしのことを超がつくほど溺愛してくれており、とんでもなく優しいので、わたしはゼリックが大好きだ。
「準備できたよ」
「うん、可愛い! 僕の妹は最高に可愛いよ」
ゼリックはわたしを見つめ、ギュッと力強く抱きしめてくれる。
今日は二人でママの実家に遊びに行く予定だ。ママの両親は、あのママの両親なだけあって、わたしをあっという間に受け入れてくれた。今ではゼリック同様、本物の孫としてわたしを扱ってくれている。しかも、会うたびにドレスやおもちゃを買い与えてくれる上、甘くて美味しいお菓子を振る舞ってくれるので、わたしにとってお気に入りの場所だった。
「お兄様、到着するまでの間、絵本を読んでください!」
「いいよ。リビーは絵本が大好きだね」
馬車の中でわたしはゼリックに絵本を差し出す。
少しでも早く言語能力を身につけるために、ゼリックの協力が必要不可欠だ。まずは基礎を身につけなければ新聞や歴史書を読み解くことなんて到底できない。
ゼリックが音読するのに合わせて、わたしは絵本に書かれた文字を目で追う。
「これが『あ』ですか?」
「そうだよ。リビーは賢いね」
ゼリックがよしよしとわたしを撫でる。
前世の経験を踏まえたら本当はもう少し賢くなきゃいけないんだけど、ゼリックが褒めてくれると素直に嬉しい。復讐なんて忘れて、このままちびっこライフを満喫するのも悪くないと思えてしまうほどに――。
(って、それじゃダメなんだって)
ブルブルと頭を横に振り、わたしは静かに前を向いた。
「いらっしゃい、二人とも。大きくなったわね」
屋敷に着くと、ママの両親が満面の笑みでわたしたちを出迎えてくれる。
「お久しぶりです。おじい様、おばあ様」
侍女たちに習った淑女の礼をすると、二人(とゼリック)は感激してくれた。
「うちの孫は天才なんじゃないか?」
「だよね! リビーは本当にすごいんだ!」
「将来は王太子妃も夢じゃないかもしれないわね」
三人は手を取り合ってわたしを褒める。この程度なら幼児のお遊戯の範疇だから、さすがのわたしでもできるのだ。内心でドヤッていたわたしは、ふとあることに気づいた。
「ねえお祖母様、王太子妃って?」
パパは家にいてもお城や国のことをちっとも話そうとしない。家庭に仕事を持ち込まないのはいい父親の証だと思うけど、復讐につながる情報を求めているわたしとしては結構困っていたのだ。
(王太子って確か……)
「王太子は王子様のことだよ。絵本に出てきただろう?」
ゼリックがそう教えてくれる。
「それじゃあ、王太子妃って、王子様のお嫁さんのことをいうの?」
「そうだよ。よくわかったね」
今度はおじい様が褒めてくれた。
「王子様は今何歳?」
「え? 確か……五歳だったかな」
「五歳? それじゃあわたしの二歳上だね」
言いながら、ドキドキと心臓が高鳴っていく。
(これだわ)
わたしが復讐を果たすためには、王太子を利用するのが一番だ。もしも彼の妃になれたなら、食事の際に王や妃へ薬を盛るチャンスができるし、不意打ちをすることだって十分に可能だ。使用人として城に潜り込むっていう道もあるけど、一番復讐の成功確率が高いのは王太子妃になることだと思う。
「リビー、王子様と結婚したい!」
「ダメだよ!」
と、ゼリックが身を乗り出す。彼はわたしを抱きしめると、ブンブンと首を横に振った。
「どうして?」
「だって、リビーと結婚するのは僕だもん」
「「まぁ……!」」
(うわあああ)
ゼリックは曇りなき眼でこちらをじっと見つめていた。純粋すぎて本当に怖い。しかも、ゼリックとわたしは本当は血がつながっていないので、しようと思えば結婚できちゃうっていうのがなんとも言えず照れくさかった。
(パパもママも、わたしが赤ん坊時代のことを覚えているなんて夢にも思っていないだろうけど)
二人はわたしを実子として扱っているし、生涯出自を明かしはしないだろう。……というか怖くてできないと思う。パパはママにすらわたしの正体を知らせていないはずだし。
「んもう、二人とも可愛いんだから」
おじい様とおばあ様がニコニコと笑っている。今はまだ子供だから、冗談だと思われているし笑い話にされてしまう。
だけどわたしはめちゃくちゃ本気だ。今、わたしの進むべき道が決まったと思う。
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