復讐の悪女になるはずが、天使系義兄からピュアな執着と溺愛で邪魔されてます!

鈴宮(すずみや)

文字の大きさ
4 / 12
【1章】幼女に復讐は難しい〜ピュアすぎる兄ができました〜

4.王太子妃も夢じゃない

しおりを挟む
 鏡の前の自分を眺めつつ、ほうと小さくため息を吐く。

 銀色がかった黄緑色のストレートヘアと、エメラルドに例えられるほどキラキラした大きな瞳、顔も人気芸能人みたいに整っているし、肌だって雪みたいに真っ白だ。

 そんなわたしのクローゼットにはドレスが山程収納されている。これらは主にママの趣味で、フリルや刺繍、リボンがふんだんにあしらわれたたくさんの可愛いドレスに、年齢からすれば少し背伸びをした感じのシンプルなドレスが数着、それから動物の着ぐるみ的なものと天使の羽がついたドレスなんかもあったりする。

 つまるところ、この三年の間にわたしは伯爵家の愛娘へと昇格していた。


(ああ、前世のわたしに見せてあげたい)


 幼稚園にも通えず、毎日同じ服を着ていた幼少期。おもちゃも絵本もなく、外に遊びに行くことすら許されず、それを当たり前だと思いこんでいた。自分が周囲と違うと気づいたのは小学校に通うようになってからで、あのときは本当にショックだった。

 けれど、そんな人生とは決別済み。今のわたしは幸せそのもの――と言いたいところなんだけど、そうもいかなかった。


(最近、ひんぱんに夢を見るのよね)


 夢を――現世でのわたしの両親の夢を見るのだ。
 二人がどうなったのか、事件から三年が経った今もはっきりとわからない。

 というのも、この三年間でわたしは人並みの成長しか遂げられなかったからだ。

 歩くこと、喋ること、文字を読んだり書いたりすること……全部一度は経験しているんだから、人より簡単にこなせると思うじゃない? なんならチート的な感じでマスターできる予定だったのよ?

 だけど、予定はあくまで予定。わたしは自分の能力のなさをこれでもかというほど知ることになった。


(まあね……運動神経悪かったし、頭のできもよくはなかったもんね)


 現世で改善されたのは容姿。それから親ガチャ成功――というか金銭的な待遇ぐらいのものだ。……いや、そこが違うだけで本当にすごいんだけど。
 三歳のわたしにできることは、三歳児レベルでお喋りをすること、人並みの速さで歩くことと走ること、それからこちらの世界で言うアルファベット的な文字を単体で読むことぐらいだ。
 とてもじゃないけど、王族を暗殺したり、文献から必要な情報を読み取れるようなレベルじゃない。

 そういうわけで、わたしの復讐計画はどうにも長期戦になりそうだなぁと感じている。


「リビー、準備はできた?」

「お兄様!」


 そのとき、わたしの部屋にヒョコッとゼリックが顔を出す。

 八歳になったゼリックは、どの角度から見ても文句のつけようがない美少年だ。出会った頃の純粋無垢さ加減もそのままに、勉強に加えて乗馬や剣術、魔術を学んで幼いながらの逞しさを身につけた上、各家庭教師が息を巻くほどの優秀さを発揮している。その上、わたしのことを超がつくほど溺愛してくれており、とんでもなく優しいので、わたしはゼリックが大好きだ。


「準備できたよ」

「うん、可愛い! 僕の妹は最高に可愛いよ」


 ゼリックはわたしを見つめ、ギュッと力強く抱きしめてくれる。

 今日は二人でママの実家に遊びに行く予定だ。ママの両親は、あのママの両親なだけあって、わたしをあっという間に受け入れてくれた。今ではゼリック同様、本物の孫としてわたしを扱ってくれている。しかも、会うたびにドレスやおもちゃを買い与えてくれる上、甘くて美味しいお菓子を振る舞ってくれるので、わたしにとってお気に入りの場所だった。


「お兄様、到着するまでの間、絵本を読んでください!」

「いいよ。リビーは絵本が大好きだね」


 馬車の中でわたしはゼリックに絵本を差し出す。
 少しでも早く言語能力を身につけるために、ゼリックの協力が必要不可欠だ。まずは基礎を身につけなければ新聞や歴史書を読み解くことなんて到底できない。
 ゼリックが音読するのに合わせて、わたしは絵本に書かれた文字を目で追う。


「これが『あ』ですか?」

「そうだよ。リビーは賢いね」


 ゼリックがよしよしとわたしを撫でる。
 前世の経験を踏まえたら本当はもう少し賢くなきゃいけないんだけど、ゼリックが褒めてくれると素直に嬉しい。復讐なんて忘れて、このままちびっこライフを満喫するのも悪くないと思えてしまうほどに――。


(って、それじゃダメなんだって)


 ブルブルと頭を横に振り、わたしは静かに前を向いた。


「いらっしゃい、二人とも。大きくなったわね」


 屋敷に着くと、ママの両親が満面の笑みでわたしたちを出迎えてくれる。


「お久しぶりです。おじい様、おばあ様」


 侍女たちに習った淑女の礼をすると、二人(とゼリック)は感激してくれた。


「うちの孫は天才なんじゃないか?」

「だよね! リビーは本当にすごいんだ!」

「将来は王太子妃も夢じゃないかもしれないわね」


 三人は手を取り合ってわたしを褒める。この程度なら幼児のお遊戯の範疇だから、さすがのわたしでもできるのだ。内心でドヤッていたわたしは、ふとあることに気づいた。


「ねえお祖母様、王太子妃って?」


 パパは家にいてもお城や国のことをちっとも話そうとしない。家庭に仕事を持ち込まないのはいい父親の証だと思うけど、復讐につながる情報を求めているわたしとしては結構困っていたのだ。


(王太子って確か……)

「王太子は王子様のことだよ。絵本に出てきただろう?」


 ゼリックがそう教えてくれる。


「それじゃあ、王太子妃って、王子様のお嫁さんのことをいうの?」

「そうだよ。よくわかったね」


 今度はおじい様が褒めてくれた。


「王子様は今何歳?」

「え? 確か……五歳だったかな」

「五歳? それじゃあわたしの二歳上だね」


 言いながら、ドキドキと心臓が高鳴っていく。


(これだわ)


 わたしが復讐を果たすためには、王太子を利用するのが一番だ。もしも彼の妃になれたなら、食事の際に王や妃へ薬を盛るチャンスができるし、不意打ちをすることだって十分に可能だ。使用人として城に潜り込むっていう道もあるけど、一番復讐の成功確率が高いのは王太子妃になることだと思う。


「リビー、王子様と結婚したい!」

「ダメだよ!」


 と、ゼリックが身を乗り出す。彼はわたしを抱きしめると、ブンブンと首を横に振った。


「どうして?」

「だって、リビーと結婚するのは僕だもん」

「「まぁ……!」」

(うわあああ)


 ゼリックは曇りなき眼でこちらをじっと見つめていた。純粋すぎて本当に怖い。しかも、ゼリックとわたしは本当は血がつながっていないので、しようと思えば結婚できちゃうっていうのがなんとも言えず照れくさかった。


(パパもママも、わたしが赤ん坊時代のことを覚えているなんて夢にも思っていないだろうけど)


 二人はわたしを実子として扱っているし、生涯出自を明かしはしないだろう。……というか怖くてできないと思う。パパはママにすらわたしの正体を知らせていないはずだし。


「んもう、二人とも可愛いんだから」


 おじい様とおばあ様がニコニコと笑っている。今はまだ子供だから、冗談だと思われているし笑い話にされてしまう。

 だけどわたしはめちゃくちゃ本気だ。今、わたしの進むべき道が決まったと思う。

 わたしはいつかきっと、王太子妃になってみせる。まずはその候補になれるよう、頑張らなきゃだ。わたしは密かに拳をギュッと握るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...